そして最後に、当事者である福島の水産関係者の方のお話を聞こうということで、いわき市小名浜のサンマの加工業「上野台豊商店」を営む上野臺 優(うえのだい・ゆたか)社長にお話を聞きました。

 

「率直に言って、処理水の海洋放出についてはどう思いますか?」

「処理水については、風評や悪い方の影響が考えられるので、できるならやめてほしいです。この10年、本当に苦労したんですよ。津波の被害ももちろんありましたし、原発の問題もあった。そうなると農業も漁業も、福島のものが売れなくなったんですよ」

「震災前から、かなり変化があったんでしょうか」

「元々、福島の海っていうのは親潮と黒潮がぶつかる所で、魚にとってのエサも豊富だし魚の種類も多いし、首都圏にも近くていい漁場だったんですよ。震災前は東京の業者さんから『巻網船のカツオをとにかく売ってくれ』っていうくらいには引き手あまただったのが、パタッと止まりました」

「そういうのに対して補償はないんですか?」

「補償もありました。しかし水産加工の皆さんは、風評で魚が売れない現実に、今までやってきた事を否定されたように感じて、頑張ろうという気持ちが削がれたと思います」

「若い後継者の方々はいるんですか?」

「今は試験操業と言って少しずつ魚を獲るようにはなってますが、それでも底引き漁なんかはピーク時の2割くらい。来月4月からは本格操業になりますので、水揚げはもう少し増えると思いますが。

なので『漁業やりたい!』っていう若者がもしいたとしても、そもそも船が出てないので修行も何もあったもんじゃないですからね。

「そうか、漁師さんが働く場所も減ってるのか……」

「『このままじゃ福島の漁業が終わる』と思って、なんとか福島の魚が安心・安全であることを証明しようと、福島で獲れた魚は全量放射線測定してるんですよ。ここまでやってるのは世界中で福島だけですし、そういう意味では福島の魚ほど安全なものはない、と胸を張って言えます

「この間、基準値を超える放射線が検出された魚が出た、というニュースがありましたね」

「あれも、逆に言えば福島でやってる検査が正常に機能している証拠なんです。検査してるからこそひっかかって、はじく事ができるわけですから。それでも、スーパーで例えば北海道産のサンマと、福島産のサンマが並んでたら消費者の人はなんとなく北海道を選んじゃうのではないでしょうか」

「『福島の魚を食べて応援!』みたいなものはあんまりないんですかね」

「もちろん、そうやって福島の魚を選んでくれる人もいますし、それを通じてファンになってくれる人もいます。『もっと応援して欲しい!』とは正直思いますが、いつまで経ってもそれで自立出来ないのはお恥ずかしい話なので。もっともっと福島の魚のよさをアピールする必要があるな、と思っています」

 

「ただ、悪い話だけではなくて、こういった問題が出てきたからこそ福島の漁業関係者がみんなで集まるような機会も増えましたし、農家の人や料理店の人ともコミュニケーションを取ってみんなでなんとかしよう、という機運も生まれたのでポジティブな面もあります」

「この記事を見てる人たちに言いたい事ってありますか?」

「とにかく、一度福島に遊びに来て、福島の魚を食べてください。今はコロナの影響もあってなかなか難しいですが、ECにも力を入れているので、お取り寄せでも美味しい物がたくさん買えますから。

これは別に『応援してください』という意味ではなく、『本当に美味しいから食べてください』という意味ですね。弊社の商品で言うとサンマのポーポー焼きなんかは子供たちにも喜んで食べて頂けると思います」

「なるほど! ありがとうございました!」

 

☆上野台豊商店のオンラインショップはこちら↓

https://www.onahamanosanma.jp/

「さんまのポーポー焼き」は、いわき市の郷土料理。さんまを水揚げ後24時間以内に加工し、旨味と鮮度をすり身に閉じ込めている。写真は「さんまのポーポーつみれ」

 

おわりに

というわけで福島第一原発に行ってきたのですが、なにより「行ってよかった!」と思いました。

世界中の教科書に載るであろう、人類の歴史にとって重大な出来事があった場所をこの目で見ることができたことは恐らく一生の記憶になる。

遠く離れた場所の出来事のようにとらえていたものを、目の前にありありと突き付けられた時の衝撃もよかった。

なすびさんが言った「東京の会社が作った東京の人のための施設」という言葉もよかった。

 

廃炉まで40年と簡単に言うけれども、40年だ。大学を卒業した新卒社員が廃炉の仕事に携わったとしても、60歳の定年までには終わらない計算になる。途方もない年月である。

 

そして、この福島第一原発に注ぎ込まれている資金だって途方もない。

僕らが見学した時に身に着けたマスクや靴下、手袋といったものは全て使い捨てだ。

凍土壁のシステムも汚染水を処理するプラントも、普通に考えて動かすだけでとんでもないコストがかかるだろうし、撤去した放射性物質を含むガレキも処理するのにこれまた莫大なお金がかかる。

 

1,000万円、2,000万円という金額は僕らにとってはもちろん大金だけど、この廃炉に向かうプロジェクトの途方もないスケール感からすると誤差の範囲くらいのものだ。

下手するとゼロが4つぐらい違う感覚かもなのかもしれない。

 

そしてこれだけのたくさんの人が働き、たくさんの資金と年月を投入したとしても「やっとスタート地点に戻せる」というものでしかない。

よく大規模な工事を請け負うゼネコンの人たちは「地図に残る仕事」なんて言うけれども、今この福島第一原発でやってるのは「地図から消す仕事」なのである。

それでも大切な大切な仕事である事は間違いないので、働いている方々に対しては敬意を表したいと思います。

 

そしてその上でやはり「どこか他人事」のように捉えていた過去の自分を反省すると共に、皆さんも一緒にこの問題について考えて欲しいなと思っております。

 

福島県産品についてはお取り寄せサイトなんかも充実していますので、この機会に皆さんも一度食べてみてはいかがでしょうか! 僕も今度から福島の魚を優先的に買おうと思います。

 

☆福島県産品が購入できるサイト

「ふくしまプライド」https://fukushima-pride.com/

「ふくしま市場」https://fukushima-ichiba.com/

「楽天 福島の魚」
https://search.rakuten.co.jp/search/mall/%E7%A6%8F%E5%B3%B6/100236/

「Ⅰ&U」https://iandu.shop-pro.jp/