1ページ目でも登場したフォーハーツカフェのオーナー・大木貴之さんと五味醤油の6代目・五味仁くんは、どちらも甲府出身甲府在住。いちど県外に出て(五味くんにいたってはタイ帰り!)、甲府に戻ってきたおふたり。

 

五味くん曰く「ぼくは高校時代から先輩(大木さん)のお店に通ってましたからね」という、街の先輩後輩が語るリアルな甲府の今昔トークから、人口減少最前線のまちの未来を考えてみました。

 

とにかくなにもなかった20年前

「大木さんを紹介するなら、ツイッターのプロフィールがわかりやすいですね」

『都内PR会社→地元がシャッター街ヤバい。何とかしてやるわいと若気の至りで帰郷→FourHeartsCafe創業→誰も地元のワイン飲んでへん?ならばワイン飲める街にしたるわい→一般社団法人ワインツーリズム設立→ 北海道、岩手、山形でも展開→LOCALSTANDARD株式会社設立→社会インフラ構築、地域を再編集、お店展開』

「って書いてありますが、怒涛の20年な気がする……」

「今でこそ空き店舗もなくお店が入っていたり、Uターンや移住してきた人たちが新しいお店を始める気風があるけど、20年前の甲府中心部はシャッター街だったからね。山梨のワインだって誰も飲んでいなかったし、売っているところさえ、この辺りはなかった」

「ぼくも先輩のお店につくり手さんたちが集まっているイベントに行って、山梨のワインの存在を知った感じかな」

「ワインフェスね。当時県産ワインは『甘い』『薄い』などのマイナスイメージが強くて評価されていなかったんだけど、ワイナリーの生産者に出会ったらとてもいいワインをつくっていたんだよね。でもそのワインも売れていなかった」

「それはもったいない…!」

「だったらうちのお店からワインやつくり手さんたちを広めていこうと思って『br』という冊子を3号発刊して、都内の出版社にも送ったりしたかな。狙いは山梨のワインの高級感を打ち出し、今までのイメージをひっくり返すこと。生産者を店に招いてワインを振る舞るまうワインフェスを始めると、店に人が入れないくらい集まるようになったね」

 

「今でこそめずらしくないローカルメディアですが、その当時は東京が情報発信源で、ローカルから情報発信して人が集まるという事例はあまりなかった気がします。デザインや編集も洗練されていて、ぼくも当時東京で見て、びっくりしたなー」

「ワインフェスには、今となっては名だたるワイン醸造家の人たちが来てましたもんね。そのあと『ワインツーリズムやまなし』(※2008年初回で毎年開催)を始めたら、さらに県外からも人が来るようになったし」

「ワインツーリズムは、人口が減り続けるこの地方都市へワインを切り口に県外から人を呼び込んで、消費を介したコミュニケーションを誘発することを目的にしているからね」

 

ワインツーリズムやまなしでの一コマ

「そんなこんなで最初はうちでしか飲めなかった山梨のワインが、まわりのお店も扱いだして、今では70軒くらいは取扱店がこの辺りでもあるんじゃないかな。観光客も目に見えて増えたね。人の流れが変わると、もといたところが枯れていくんだけど」

「大木さんのパイオニア感がすごい。でも今まで自分のお店だけだったけど、ライバルが増えて大変じゃないですか?」

「 “地元産ワインを楽しめるエリア”を広めることが重要だったからね。これだけ消費の少ない街では自分のところだけで儲けようというより、街の活性化を目指すべき。その上で、どう会社を維持して持続させていくかが大事になってくる」

「なるほどー。甲府の街も規模は大きくないですもんね」

「そうそう。地方でやっていくには、10年、20年くらいをかけて自分たちなりのアイデンティティを含んだサービスをつくっていくしかないんだよね。ただ大変じゃないかどうかでいうと、とても大変だったかな(苦笑)」

 

地方都市の最前線、甲府CITY

「甲府の人口は増えてないのに、飲食店はだいぶ増えましたよね」

「どこかで誰かが『甲府はいいらしいよ』って言ってるみたいだよ。俺、正直ぜんぜんいいところなんて思わないけど」

「甲府で商売してるのに!」

「だからかもしれないけどね。東京から近い田舎って言う人もいるけど、東京の人が思い描く田舎ってのはもっと自然の多いところで、甲府みたいな小さな地方都市は入らないからね」

 

「20年やってみてわかったことは多くて、かいつまんで言うと、店を出す場所の順番を間違えたかな。いきなり地方都市で20年やっても、事業としてスケールしないんだから。コロナもあって振り出しに戻った感が半端ない。こんな状況では『甲府で商売いいよ』とはとても言えないよね」

「なんか、ほんとうにリアルな話になってきましたね(笑)」

「商売として考えると、これからは住む人を増やすなり観光客が便利に使える交通インフラを考えるなり、街をアップデートしないと難しいだろうね」

「何においても気配りがあって優しい街がいいですよね。五味くんのところは商売していて観光客もよく来る?」

 

「うちはみそづくりの体験ワークショップスペースがあって、コロナ前はお客さんの2〜3割は県外の人だったかな。わざわざ遠くからみそ作りに来るってすごいですよね。県外からの人はすぐ帰るわけではないので、甲府のお店もおすすめしまくっています」

「たとえばどんなお店を?」

「山梨のワインが飲みたいならフォーハーツ、ほうとうならうちの味噌を使ってくれている金峰(きんぷ)さんとか、その人の好みでいくつかレペゼン甲府しますね。そういえば接待の数で言えば、ぼくはかなりの数こなしていると思います」

 

五味さんと妹の洋子さん、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんでMCをつとめるラジオ番組『発酵兄妹のCOZYTALK』

 

「ラジオの番組を持っていて、県外のゲストさんがよく来てくれるので、いろいろなお店に連れていくと、次回甲府にその人が来た時に勝手にリピートしてくれていたりするんですよ」

「五味醤油のお店が、接待力の高い観光案内所のように機能しているね」

「よくうちの店でも接待してたよね。まあ楽しい飲食の街ではあったけど、コロナでそれも崩れつつあって、ここから街がどうなるかだね」

「大木さん的には次の一手とかは考えているんですか?」

「さっきも言ったけど社会インフラの整備だよね。もう観光客がワインを知りたくて来るというフェーズじゃなくて、来た人にどう便利にこの街を使ってもらうかというところだと思ってて。そうなると自治体と一緒にやらないとできないことが多いんだよね」

「民間だけで、できるレベルを超えてきてますね。もっと大きいインフラとかの話なので」

「山梨県の中で、僕たち以上に長いキャリアでワイン観光を実行している団体はないから、課題も多く見えている。だから、そこを改善していきたいんだけどね。もう人を多く呼ぼうとする時代は終わっているから、持続する街を作る仕組みがとても重要なはず

「土屋さんが紹介した記事のお店も微妙に徒歩だと大変な場所が多いから、やっぱり便利な交通網は必要ですね」

 

おわりに

甲府中心のアーケードを使って開催したBEEK主催の一箱古本市。空きスペースを活用することで、人の流れが生まれました。

 

街は人の数だけ見え方があると思います。地元だから、商売をしているから、住んでいるから、そして観光で来たから。

 

そんな甲府の街の印象は、一言では表しきれないのではないかと思います。
その表しきれない、言い切れない何かが気になって、また足を運びたくなるのかも。

 

目的はあってもなくても、優しく街が受け入れてくれると思います。

どこに行くにしても、僕らが旅に出る理由はたくさんあるのだから。遠方の方は、コロナが落ち着いたら遊びに来てくださいね。それでは、みなさんによい旅が訪れますように。