「札幌ラーメンブーム」を生きた店に聞く
貴重な話を伺ったあとは、温故知新。今残る貴重な従来店のひとつ、千葉県市川市にある「札幌ラーメン どさん子 ニュー国分店」へお邪魔した。82歳で店を守る、時田公和さんが出迎えてくれた。豪快なトークが止まらない。
店自体は1971年からあり、オーナーが代わって3代目店長に就いた1979年から、42年続けた。
店主の時田さん。当時は味噌ラーメンが320円ほどで、現在は600円する
左のボードにあるのが従来のメニュー。当時ごはんものは一切出してはいけない本社の方針があったが、数年後に導入された。ここ20年は「個々人の裁量でメニューは何でもあり」になってきたという
札幌ラーメンブームのこと
辰井「札幌ラーメンブーム、やっぱりすごかったですか?」
時田「うん、最盛期に開店したお店なんか、開店にかかるお金は1年で回収しちゃったって。ウチが創業した1979年もまだ札幌ラーメンブームが続いていたね。本部の工場で味噌を練るのも間に合わなかったくらいだよ」
辰井「お客さんの数もすごかった?」
時田「ウチでさえ中に入りきらなくて、表で器を持って食べている方がいたしね」
辰井「そこまでして食べたかったのか……」
時田「閉店時間の1時30分に、看板の灯りを消してからもお客さんがどんどん入ってきて、2~4時くらいまで営業するのは当たり前だったよ」
辰井「かまわず入ってくる?」
時田「そのうち朝4~5時でゴルフに行く人が『まだやってるのか』と入ってくれた」
辰井「閉店時間が完全に無視されるほどの大繁盛だ」
時田「うん。このへんでもほかに『元祖札幌』や、『札幌ラーメン狸』『どさん娘』『えぞふじ』『(どさん子)大将』があったよ」
辰井「それほどまでに札幌ラーメン店が密集していたのか!」
店内のどこを見渡しても北海道の感じがするようにしており、かつてはマリモも置いていた
どさん子ラーメンの作り方
麺上げは深型の湯切りザルを使う店が増えたものの同店では平ザルを使う
辰井「『どさん子』さんって、スープは各店共通ですよね?」
時田「うん、スープに入れる基礎の材料はあるんだけど、みんなアレンジをしていて、味噌にも手を入れるんだ」
辰井「作り方の基本は2週間で覚えられても、その先は各々の腕が発揮されているわけですね」
時田「当初、具材はメンマととうもろこし、ネギ、もやしが基本だった。わかめは後年入るようになったね」
辰井「『どさん子』の味噌ラーメン像が変わったのか。歴史的な転換点を見たわけですね」
時田「あと、チャーシューを載せるところと載せないところがある」
辰井「ベースの味がありつつ、いろいろ味や具材が違うのはまた楽しいですね」
こちらがニュー国分店の味噌ラーメン(600円)。挽肉が入らないのと、おだやかでゴクゴク飲めるスープが特徴。まんまるい風味でどんどんいける味
こちらが中野店の味噌ラーメン(550円)。シャキッと炒められた香ばしい野菜としっかり濃い赤味噌によるスープが印象的
辰井「ちなみに、麺は昔と変わっていませんか?」
時田「麺は何度も変わった。以前はすごく太くて、ゆで上げるのに4分くらいかかったんだよ。だけど『省エネ』の考え方もあって細くなり、今は3分いかないくらいかな」
札幌ラーメンは太麺のイメージだが今の「どさん子」は中太程度。それほど待たずに食べられる
辰井「口あたりが良くて、スイスイ食べてしまいました。ここまで『どさん子』で札幌ラーメン店を続けてきて、いかがですか?」
時田「42年生活させてもらっていますから、感謝していますよ。でも『どさん子』の店がなくなっていくのはさみしいよね。ただ、残っている店も交流も何もないからな、一匹狼だから」
辰井「時田さんはお店を続けてくれますか?」
時田「うん、親子3代のお客さんが『まだやってるわ』って寄ってくれるし、生活を安定させられるくらいには稼げているからね。まだまだ続けられればと思うよ」