中小メーカーの宿命「ボツ」

辰井「実にいろんな商品がありますが、開発してから売るまでの流れはどんな感じですか?」

花岡「まず商品を企画してからメーカーの合意を取り付けて、そこから業者さんの事前注文をいただくんです。基本的には、そこで黒字になる注文数に達すれば約3ヶ月後に発売します」

辰井その数が足りなければ、ボツですか?」

花岡「はい」

辰井「販売前から競争ははじまっているんですね……」

 

ビーム社から11月に発売予定の「甘いマスク」。文字通りマスクに甘い食品が描かれたチャレンジングな商品

 

花岡「ただこれは、中小メーカーでもチャレンジができるような仕組みです。事前の告知段階で評判がよければ生産できますから。ちなみに大手は事前の注文数が少なくても基本的に発売中止はしません」

辰井「企業体力の為せるワザですね」

花岡「さらに設置業者さんにとっては、『売れる商品かどうか』を3ヶ月も前に判断して、選ぶリスクがあります

辰井「だから『鬼滅の刃』のような、確実に売れそうな商品に人気が集まるんですね」

花岡「はい。ただ『鬼滅の刃』といえど、人気が3ヶ月後も続く保証はありません。極力リスクを避けて注文しようとしても、予想が外れることは多々ありますから。一種のギャンブルです」

辰井「仕入れをする業者さんも『ガチャ』を回しているみたいですね」

花岡「まさに。売れても追加注文はむずかしいので、回すまで結果のわからない『ガチャ』と同じです」

 

グローバル&SNS時代のガチャガチャ

辰井「最近は実際の商品がミニチュアになったガチャガチャが増えていますが、なぜですか?」

花岡フィギュアを撮影する際の小物として買う人が多いんです。そして、その写真をSNSにアップする。『コップのフチ子さん』から、フィギュアと小物を組み合わせる楽しみ方が根付きました」

辰井「やっぱりSNSが出てくるわけですね。今や『こんなガチャガチャあった』でバズることも多いですから」

花岡メーカーが商品の開発段階で『これを開発しています』とSNSにあげて、反応が良かったものを商品化する流れも出ています」

辰井「ガチャガチャも完全にSNS時代突入ですね。ちなみに業界に新型コロナウイルスの影響はありましたか?」

花岡「売り上げは落ちましたね。たとえば数年前から空港ですごく人気だったんです。外国人観光客があまった硬貨でたくさん遊んでいくので。今や閑散としていますよ」

 

(画像はウィキメディア・コモンズより)

 

辰井「日本に来られないですからね……。外国の方にも人気なら、世界へ打って出る話はありますか?」

花岡「実はもうおもちゃメーカーさんはやっていまして、中国、韓国、アメリカ、ヨーロッパなどに展開しています

辰井「もう世界に飛び出していた……! 特に売れている国はどこですか?」

花岡「まだ日本ほどの規模ではありませんが、ジャパンカルチャーに敏感な韓国は、日本のアニメキャラクターものが売れています。あとは中国も主要の輸出先ですね」

 

電子マネー化で新たなビジネスチャンスも

辰井「このお仕事で、やっていてうれしかったことと、悔しかったことは何ですか?」

花岡「まず悔しかったことは、『お金が合う合わない』で妥協しなきゃいけないところ。うれしかったことは、商品をイチから企画して商品になったときです」

辰井「いろんな苦労を乗り越えて……」

花岡「注文が来なくて、ボツになった商品がたくさんありますから。やっと商品化できて、買ってくれた人たちに『ここが良かった』『シリーズ化してほしい』と励ましの手紙をいただくとき、やっていて良かったなと思いますね

辰井「手紙まで書くなんて、それほどに大好きな証拠ですからね」

花岡「小さいお子さんから、親御さんの世代まで。これだけ影響力があるんだからハンパなものは出せないと思いますし、反応があるのは楽しいですよね」

 

辰井「ガチャガチャ業界の方に話を聞けるのもなかなか無いので……逆に『花岡さんから伝えたいこと』を聞きたいです!」

花岡毎月250種類の新商品が出るので、目にしたときに商品は買ってほしいです。同じ種類の商品はなかなかないですし、すぐ販売終了するので

辰井「運命の恋人と同じですね。一期一会を逃したら、そのコとは二度と出会えない。最後に。今後もガチャガチャのお仕事を続けていきたいと思いますか」

花岡「はい。新しいビジネスチャンスも生まれますから、楽しみです。たとえば最近増えた『電子マネー対応の筐体』は、自由に金額が設定できるんですよ。つまり100円玉何枚とか、そういう値段の縛りがなくなると、商品のバリエーションがもっと豊かにできるんです」

辰井「100円刻みでコストを考えなくてもいいですからね」

花岡「ええ、面白くなります。いろんな方々に力を借りながら、あとの時代まで会社とガチャ文化を残していきたいですね」