「日々酩酊、これぞ至高」、人呼んでふつかよいのタカハシと申します。

突然ですが、12月と言えば? そう、忘年会シーズン! 何かと理由をつけては酒が飲める最高な季節です。

 

いつも楽しくてついつい飲み過ぎてしまうのですが、ここは1年の締めくくり。清く、正しく、美しく飲みたいもの。

 

それに最適な酒が「熱燗」との噂を聞きつけたのですが、いや、めちゃくちゃ酔っちゃうイメージがあるんですが……。

そもそも、熱燗を上手に嗜むコツってあるの……?

 

そんな疑問を解決すべく、西荻窪にある熱燗専門店『カントニクス』さんにやってきました。なんでも、店名の由来でもある「燗(=熱燗)」と「肉」の絶品ペアリングが楽しめるようなのです。き、気になる〜!

 

さっそくですが、『カントニクス』でオーナーを務める渡辺良子(わたなべ・りょうこ)さんに話を聞いてみましょう。

 

食べれば食べるほど美味しい?! 熱燗の魅力

「お酒大好き女子3人で参りました、本日はよろしくお願いします!」

「カメラマンの飯本貴子です! グルメも、お酒も大好きです」

「編集のきむらです。家ではあまり飲まないのですが、外に出てお酒を飲むことが多いです」

 

「ふふふ、皆さんにぴったりの日本酒をご用意してますよ」

 

初心者には、ベーシックな味わいの『大地』や少し甘めの『夜の帝王』。玄人には旨味成分がぎゅっと濃縮された『竹鶴』をオススメしているのだとか

 

「うわあ、見ているだけで胸が高鳴る眺め……!」

「私は毎日、熱燗を飲んでます。飽きないんですよね」

「毎日! そこまで渡辺さんを虜にする熱燗の魅力って何なのでしょう?」

「食事がより美味しくなるところですかね。熱燗って『食中酒』なので、食べ物と合わせて飲むのが前提なんですよ」

「えっ、知らなかったです。てっきり食後にゆっくり飲むものかと……」

「和洋中、ジャンルを問わず合いますよ。試してみますか?」

「うわー、ぜひぜひ! オススメ、教えてください!」

「まずは生ハムですかね」

 

ハム専用のスライサーで極薄切りにしていく

 

「生ハムといえばワインを合わせるイメージが強くて、熱燗って正直想像つかないです……! どういった日本酒が合うんですか?」

「生ハムは旨味成分が多いので、日本酒も負けないくらい旨味が多いものがいいですね。辛口の中にも、少し甘みが感じられるものが特に一押しです」

 

お、お、おいしそう〜! 生ハムの後ろに写っているのはイタリア・エミリア地方のモデナで「ニョッコ」と呼ばれる薄い揚げパン

 

「では早速! まず生ハムを口に含んで……」

 

「さ、熱燗を口に含んでみてください」

 

「むほぁっ?!?! 何ですかこれ! うっま!!!! 生ハムの脂が熱燗の熱で溶け出して、口の中全部おいしい」

「至福ですよね。もう、ワイン飲めなくなっちゃうんじゃないかな」

 

楽しくてしょうがない

 

「もっとペアリング知りたいです! 他にこれは意外と合う!って組み合わせはありますか?」

「カレーですね」

カレーと日本酒……????

 

鶏団子にお米をまぶしたものがカントニクス流

 

カメラマンの飯本さんもペアリングに挑戦

 

至福〜!!!

 

きむらさんもこの表情

 

「これも日本酒が合いますね!」

「意外な組み合わせですが感動しました。おいしい〜!」

「カレーもうちの人気メニューなんですよ」

 

まるで乳酸飲料のような味わいの日本酒『どぶ』と羊のカルパッチョ

 

「3杯目の『どぶ』は、にごり酒なんですね」

「これはマトン肉を合わせます

「羊のカルパッチョ……どエロい肉……!」

「きむらさんが早くもフィーバーしてる。いただきま〜す」

 

またまたペアリングしていきますよ!

 

「わあ、肉厚なマトン肉……。噛むたびにやさしく口の中で溶けてゆきます。香り高いクミンの風味もたまりませんね」

「まろやかで口当たりが良いどぶろく、とても合います。酸味の中にひそむほのかな甘みが絶妙……」

 

「嗚呼、モンゴルを感じる………………ちょっと遠くにいってました」

「羊と乳酸飲料の相性がとても良いので、熱燗も近しい味わいのものを選びました」

 

水は絶対! 飲みすぎを防止する、熱燗の豆知識

メニューを見ているだけでよだれが出そう

 

「ここまでペアリングを楽しんできて、自然と『このお燗にはどんな食べ物が合うんだろう?』と考えてしまう私がいました。いつもついつい飲みすぎてしまうのですが、ゆっくり嗜めるのも熱燗の魅力ですね」

「実はアルコールの吸収って、お酒が体内(肝臓)で温められて、体温に近くなってから始まるんです」

「ほほう、体温に近い温度」

「最初から温かい熱燗であれば、時間をおかずに吸収されていくので飲んだら飲んだ分だけ、酔っていく。つまり、熱燗のほうが酔いのペースがわかりやすいんです」

「ふむふむ」

「逆に冷たいお酒は、体温と同じになるまで時間がかかります。そのため、アルコールが吸収されて酔いがまわるまでにも時間差が生じてしまうんです。それがついつい飲みすぎてしまう原因の一つだと思います」

「なるほど! 飲みやすいからと調子にのって冷酒をすいすい飲んでしまい、後から一気に酔いが回るのはそういうわけだったんですね……」

「あと熱燗は体内(肝臓)で温める必要がないので、体への負担も少ないですよ」

「おおお、大事な知識!」

「飲みすぎないためにも、お酒と同量のお水を飲むのは大切です。それがゆっくり長く楽しめるコツなので、ぜひ試してみてくださいね」

 

お水……大事だ……

 

「ちろり」と「平杯」を用意! 自宅でもできる簡単熱燗の作り方

「ここまで美味しい熱燗を飲むと、自宅でも挑戦してみたくなります……! お家で手軽に熱燗をつくる方法はありますか?」

「もちろん。ぜひ用意いただきたい道具をご紹介します」

 

「『ちろり』という酒を温めるのに使用する筒型の容器があるんです。これをお湯を張った鍋に入れて、強火で温め、沸騰する少し前に出していただくのがオススメです」

「ちろりの材質は何が良いのでしょうか?」

「安く手に入るのはアルミ製ですが、熱伝導率のよい錫(すず)製がおすすめです。カントニクスでも錫のものを使っていますね」

「なるほど。ちなみに、電子レンジでお酒を温めるのはありですか?」

「電子レンジは、自然につくったお酒に対して電気の力で温めるという真逆のアプローチをとるので、あまりオススメしていません。手軽にチャレンジするなら『ティファール燗』がいいですね」

「ティファール燗?」

「ちろりをティファールのケトルに入れて温める方法です」

 

ティファールのケトルにちろりをセットし、ケトルのスイッチを入れたら温度計を入れる。好みの温度に達したら完成

 

「へえ〜、ティファールはうちにもあるので簡単にできそうです。温度はどのくらいに設定するのがいいんでしょう?」

「八代亜紀さんのヒット曲『舟唄』に「お酒はぬるめの燗がいい」という一節がありますが、カントニクスでは熱燗の温度を60度以上に設定し、『とびきり燗』でも風味が飛ばない日本酒を選んでいます」

 

※熱燗は温度によって、さまざまな名称がついている。約30℃が「日向燗(ひなたかん)」、約35℃が「人肌燗」、約40℃が「ぬる燗」、約45℃が「上燗(じょうかん)」、約50℃が「熱燗(あつかん)」、55℃以上が「とびきり燗」

 

「とびきり燗だと、かなり熱めですね!」

「誰がどのような温度で温めるかによって、味わいもまったく異なるんです。熟練の人が湯煎でじっくりつけた燗酒は本当に美味しいんですよ」

「人や温度によっても味わいが変わる熱燗、奥が深い。ちなみに酒器のオススメはありますか?」

 

「カントニクスでは、口径が大きく開いた形状の『平杯』を使用しています」

「ぐい呑ではない理由ってあるのでしょうか?」

 

「ぐい呑は、その名の通り『ぐいっと』首を動かさないと飲めず、舌の真ん中あたりまでしか味が通らないんです」

「ほほう」

「それに対し、平杯は首を動かさなくてもお酒が入ってくる。さらに、舌に当たる面積が広いので、舌全体で味を感じながら飲めるんです」

「なるほど。お酒をゆっくり、しっかり味わうのにも適しているんですね」

 

「純米100%」は悪だった? 熱燗の歴史

「ところで、熱燗にぴったりな日本酒ってあるのでしょうか?」

「カントニクスでは純米100%のお酒を使っています。これは戦前のつくりの日本酒なんですよ」

「戦前、戦後で何か違いが?」

「はい。戦前は純米100%のお酒をつくっていましたが、太平洋戦争後は米不足になったため、政府から『お米を使うのは贅沢だ、薄めて造れ』というお達しが出たんです。醸造した日本酒に2倍の醸造アルコールを足し、3倍の量の酒を造ることから『三増酒(さんぞうしゅ)』と呼ばれました」

「純米100%=悪だった時代があるんですね」

「そうですね。日本酒は温度が上がるとどうしても甘く感じてしまうんです。なので私は、糖分を残さずキレのある味が残るような『完全発酵』で造られた純米100%のお酒が熱燗向きだと思いますね」

 

悪い酒はない。熱燗は、料理をもっと楽しくするもの

「渡辺さんから熱燗愛がひしひしと伝わってきますが、そこまで好きになるのにきっかけがあったんですか?」

「京都にある日本酒バー『たかはし』で出会った熱燗が美味しくて、衝撃を受けたんです。東京のおすすめのお店を聞いて、吉祥寺の熱燗専門店『カイ燗』(※現在は閉店中)を知り、そこで働き始めてからはどんどんのめり込んでいきましたね」

「吉祥寺にも熱燗専門店があったんですね」

「カイ燗のお客さんが影響を受けてお店を始めているケースも多いです。この近隣にある熱燗のお店の元祖的な存在ですね。他のお店も気になるなら、この冊子をぜひ」

 

「『御酒燗帖(ごしゅかんちょう)』?」

「うちが発起人になって作った、『御朱印帳』の燗酒屋バージョンですね。関東20店舗の燗酒屋が参加していて、持っていくとオリジナルのスタンプを押してもらえるんですよ」

「え〜楽しい! 熱燗めぐりが捗りそうです」

「カント二クスでは月に1度、満月の日に照明を落として熱燗を楽しむ『満月燗』というイベントも開催していますよ。満月の日にはワインが美味しくなるという昔からの言い伝えがあって、それにならって日本酒でも始めてみました」

「ロマンチック! 燗酒愛を感じます。おなじお酒好きとして聞きたいのですが、渡辺さんにとって、燗酒における『良いお酒』って何ですか?」

「私は『悪いお酒』ってないと思っているんですね。人が真心を込めてつくっているものなので、すべて飲み方次第じゃないかなと」

「飲み方……?」

「どんなに美味しいお酒でも、ただ酔いたいがためにハイペースで飲んでしまうのはお酒に対して失礼。どれだけ食事の時間が美味しく、楽しく、豊かになるかに思いを巡らせる、プラスアルファのものとして捉えてほしいんです」

「ぐさっ。さ、刺さる……」

「実際、本当に燗酒が好きな人はがぶがぶ飲まないんですよ。うちでお酒を飲んでべろべろになる方を見ると、そういうお酒ではないので無理はしないでいただきたいと思いますね。料理に合わせるのが、本来あるべき姿ではないかと感じています」

「たしかに。美味しいものを食べながら、お酒も楽しめる。グルメを突き詰めると最終的に熱燗に行き着くんだなと肌で感じました。本日はありがとうございました!」

 

まとめ

取材中、渡辺さんはこんな風に語ってくれました。

 

「お酒って、たくさん飲まなくてもいいのに『自分はまだ飲める!』とついつい飲んでしまいがちな方も多いように感じますが、本来は食事と合わせて幸せに楽しむものだと思っていて。なので、私が酒蔵の方から聞いた『酔うために飲むな、酒と戦うな』という言葉を伝えたいですね」

 

お酒好きな私には、非常に身にしみる言葉……!

「次はどの料理を合わせよう?」と、グルメの世界も広がる熱燗の世界。私も、さらにずぶずぶと浸かってしまいそうです。

 

それにしても、美味しすぎて悶絶! 燗酒の夜は、まだまだ続きそうです。

 

【おしらせ】1月19日(日)にカントニクスにて、ちろりで燗酒をつける調理体験レッスンを開催! 渡辺さんから直接、燗酒の魅力を聞いたり、ペアリングを体験したりするチャンスです。詳しくは以下のURLをチェック!

☆シェフスキル「チロリで燗酒をつける!」

https://chefskill.jp/events/-4aG63gSN5P

※定員:先着10名様。申込期限:1/12(日)13:59まで

 

取材協力:カントニクス 公式FBページ
撮影:飯本貴子