ということで、食堂にやってきたのですが…
めちゃくちゃ山の上だーー!
二戸市・折爪岳(おりつめだけ)にある食堂「仙人の食卓」。仙人ひとりで、八戸の居酒屋をやりながら、この食堂も経営しています。
八戸から二戸・折爪岳までは車で1時間ほど。位置関係はこんな感じです
「よく来たね!待ってたよ」
「車で来たんですけど、 ほぼ山頂じゃないですか!!」
「この食堂がある折爪岳は標高が852m。空気が美味しくて良いところだ。昨日、『自然のもの食べて山の湧き水飲んでるから元気』って話をしたでしょ?その湧き水が、この食堂のすぐ下から湧き出てるものなんだけど、うんめえんだ~」
「へえ~、あとで汲んで帰ります」
石灰岩の間をクネクネ通ってきたこの水は、ミネラル豊富でとにかく美味い!この湧き水を求めて折爪岳に来る人も多いのだとか。
雲を消す!?エブリデイ迷彩服&子供は6人も!
「今日はいい天気だね。よくさ、青空に雲がプカプカ浮いてるでしょ?オラ、ああいう雲を消したことがある」
「雲を…消す!?!?」
「呼吸を整えた後に、ただ手のひらを空に向けるだけ。真ん中から外へ向かって、一瞬でバッと消えるんだよ。でも大きめの雲を消したとき、その場でガックシ膝が崩れてね。かなりエネルギーを使うから、ああこれはやっちゃいけないんだって思って今は封印してる」
「いくら仙人でも、本当かなあ」
「信じられねえべ、ガハハハッ!」
「仙人ってやっぱり謎ですよね。いったい何者なんですか?」
「え? この食堂と八戸の居酒屋の経営者」
「それは分かってますけどー!ツッコミどころが多すぎて。まずなんで迷彩服?」
「海でも山でも街中でも、いつでもこれ。迷彩が好きなの。好きすぎて、葬式とか結婚式でも着れる迷彩服ねえんだべか(ないのだろうか)と思ってくるわけだ!ガハハハッ」
「もはや憑りつかれてる」
「今日着てるのは娘が買ってくれたの。子供6人いるんだよ。一番下の子どもが中1で、孫の一番上が小6」
「子供と孫がひとつしか違わない。 仙人やりますね」
「6児のパパが5時に起きて食材調達ってな!店はオラひとりでやってて、基本的に平日は八戸の居酒屋、休日は山の食堂」
「そういえば、居酒屋も食堂も従業員は仙人ひとりだ」
「オラは海に潜って山にも入るから、両方できる人じゃないと使い物にならないの。どっちもできる人材ってのは、なかなか居ない!」
「こだわるからこそ、あえて一人なんですね」
採る喜び、食べてもらう喜び
「店に来るお客さんはみんな、料理が他と全然違うって言ってくれる。だから、食材の採りがいがあるってことだ」
「食材調達しながらお客さんの顔を思い浮かべたりしてるんだろうなあ。仙人のキャラクターだと、常連さんが多そうです」
「そうだね。お客さんも良いし、おかずも良いし、ガハハハッ!ここは明るい場所なんだ。…今日もアレやらないと!」
じゃーーん
「本物の味を食べて、たくさん笑って帰ってもらえたら嬉しいじゃない?」
「(ほんとにギター好きだな)お客さんが好きなんですね」
「お客さんの喜んだ顔を見て、オラも嬉しくなる。だから仕事を続けられるんだ。料理だけじゃなくコミュニケーションも大切だよ。新聞記事でオラが取り上げられたのを見て、ずっと前から来てみたかったって人も多いからね」
「八戸の居酒屋にも新聞記事がいっぱいありましたけど、ここにもたくさん貼られてますね。大きいキノコを発見したっていう記事がありますけど、キノコ好きなんですか?」
「うん。薬草、木の実、キノコとか山野草が好きなの。本は30冊以上持ってる。同じキノコでも、生えてる場所によって形とか違うんだよ。だからいろんな本を買って比較しないと」
「ふつうは1冊で用足りる気が…」
「見てるのが楽しくてさ。だからあくまでもね、好きでなきゃだめだ!好きでやってれば上手になる」
「なるほど〜」
「ちなみに、料理は全部オリジナル。自分で勉強した。子供の頃は地元の大人が山へ行くときに着いていって、どれが食べられるのか教えてもらったりしたんだよ。それに、自然界のものをどこかで食べたいと思っても、満足できる店は当時なかったから自分で作ろうって思ったんだ。何回も作って食べてみて失敗して、いまの形になっていった」
「濃いキャラの影に、すごい努力があるんですね。だから色んな人に支持されるのかあ」
大切な自然を守る「オラが教えていかないと」
折爪岳にいる守り神「オドデ様」に抱きつく仙人。かわいい
「キノコを採る場所とかって決まってるんですか?」
「うん。このキノコはあの山でよく採れるとか、ムラサキイ貝はあの海がいいとか。でも昔、自分のテリトリーでキノコを団体に採られたことがあった。りんご箱2つ分も」
※仙人が収穫する際は土地所有者の許可を得ています
「えーーー!」
「でもね、その人たちは食べられるキノコかどうかわからないで採っていたみたいでさ。普通に食べられるんだけど、有名じゃないキノコだから」
「それで仙人、どうしたんですか」
「そのキノコ食べられないよってウソをついてしまった」
「仙人っぽくない言動」
「2時間後くらいにその場所に戻ったら、りんご箱をひっくり返してキノコを捨てて帰ったあとでね。ラッキーと思ってさ!」
「そのまま持って帰ったとか?」
「ありがたく頂いた、ガハハハッ!ウソついて申し訳ないと思ったけど、その団体はゴミも散らかして帰って行ったから、山の幸を教えなくて良かったよ」
「自然を大切にしない人、最近多い気がします」
「そうだな、山に行くと死んでしまってる植物とかも多い。タラの芽ってあるでしょ? 最初の芽を採ったら、二回目に出てきた芽は採っちゃいけない。それを採るとタラの芽って死んじゃうの」
「そうなんですか!? じゃあ『生えてる分採っちゃおう~』って人がいたら……」
「そういう人が多いわけ。知識がないのに山に入ってる人」
「す、すみません…。最近は、あまり知識のないままキノコを採りに行って遭難死してしまうというニュースもよく見ますもんね」
「そう。知らないだろうけど、キノコ自体も進化してるんだよ?触るだけで皮膚がただれちゃうのもある。怖いんだ」
「安易に触ったり口にしたら危ないんですね」
山のエネルギーをもらいながら、深呼吸をする仙人。自然がよく似合う
「知識がないのに山に入ってる人が多いから、オラが教えていかないといけないなと思ったね。この場所に体験学習とかで小学生が来ることがあるんだけど、そのときは一緒に山歩きしながら山のことを皆さんに伝えてる。あとは、講演会で話したりね」
「講演会もされてるんですか」
「県内の村とか市から声がかかるんだ。来年の2月まで予約が入ってるよ」
「えええ! 店もやりながらだと忙しいのでは」
「オラが青森で一番忙しい男だ!なんてな、ガハハハッ!とにかく、一番の目的は自然の保護・維持。これからもこの自然を守っていくよ」
キノコと山菜だけで作った「幻の仙人カレー」
「仙人って変な人なのかなってドキドキしてたんですけど、結局凄い人でした。仙人の料理、また食べたいな~」
「腹減ったのが? この山でしか食べれない絶品メニューがあるから、食べていってよ」
「やったー!!」
「はい、仙人カレー」
「うわあおいしそう」
「仙人カレーが二人前だと二千人カレー、なんつって。ガハハハッ!どうぞ食べてみて」
「うま~い!!!」
「甘めのカレーだけど、甘すぎずスパイスも効いてる。とにかく味が深いです……なんだこれ」
「一般的なカレーと全然違うでしょ?オラの店はレベルが高いから、ガハハハッ!キノコだけで7種類くらい入ってるからね。具は全部、山のキノコと山菜」
「そんなに入ってるの!?」
「このカレーはね、綺麗な山の景色を見ながら食べるのが一番最高なんだ」
食堂の窓から見える景色。なんだか神々しい
「窓から見える景色もまた、カレーを美味しくする隠し味ってことですね」
「そう。だから八戸の居酒屋では出してない。ひと月食い続けても飽きねえって言う人もいるんだから!ガハハハッ」
「私も通っちゃいそうな勢いです。仙人の料理、全部おいしかった~~~お酒にも絶対合うなぁ」
そんでもって、車を運転してきたタカダは思いました。
「ビール飲みたいよおおお(涙)」
おわりに
山と海、そしてお客さんを愛している仙人。
「本物の味を知ってもらいたい!」とこだわり抜く姿は、とても素敵ですよね。
そのこだわりがあるからこそ、仙人の作る料理は「なるほど、これが本物か」と納得できるものばかり。一口食べると、ズキューーンと度肝を抜かれますよ。
食材の香り、食感、全てを活かした料理なんだ!と自信をもって提供しているのがヒシヒシと伝わってきました。
八戸にある居酒屋「雄艇(ゆうてい)」は不定休なので、来店するときは事前に電話確認するのがオススメ。
折爪岳の山頂付近にある食堂「仙人の食卓」は基本的に土日祝日営業ですが、団体での予約があれば平日でも対応可能とのことです!
※食堂「仙人の食卓」は4月後半~11月前半のみ営業しています
ちなみに今回、食堂の机にはこんなキノコが。
「それ、スルメの味がするキノコ」
「えー!本当に?」
「アタリメってわかる?それと味も匂いも同じ。そんなこと誰もスルメ(知るまい)ってな。ガハハハッ!」
「……今は全然スルメの匂いしてないですよ?」
「傘の部分を取って軸をオーブンで焼いてから醤油を少し垂らすと、あら不思議!これ食べてみて。うんめえど~」
スルメやないかーーーい!! 自然ってすごいな!
撮影:チャリンコ息子