こんにちは! ライターの社領エミです。

 

みなさん、おじいちゃんおばあちゃんになったら、どこでどういう生活を送りたいか……考えたことはありますか?

 

自宅でヘルパーさんのお世話になるのかなぁ。

それとも介護施設に入って、同じ年代の方々と暮らすのかな。

 

私は、そのくらいのぼんやりとしたイメージなら想像がつきます。しかし、自分の祖母が晩年を施設で寂しそうに過ごしていたという記憶もあって、老後について特にポジティブな感情を持っているわけでもありません。

 

 

ところが、そんな中!

 

夜な夜な近所の人が集まり、老若男女が戯れまくる一風変わった介護施設がある、という噂を聞きつけまして……!


▲こんなの……!?

 

え~!? なにそれ、気になる! そんなパリピな施設があるの……!?

マジだとしたら、めっちゃ入りたいんだけど……!

 

 

というわけで、早速やってまいりました!

一路、兵庫県神戸市の中心部から電車で10分、長田区にある六間道(ろっけんみち)へ!

 


▲JR新長田駅から少し歩いた場所にある、どことなく懐かしい雰囲気の商店街”六間道”。こちらのすぐ横っちょに……

 


▲6階建ての立派な建物が!

こちらが今回訪れる施設、「はっぴーの家 ろっけん」です!

 

 

早速、施設のオーナーの首藤さんにお話をお伺いしたいと思います。

いやしかし、施設に入って驚きました……

 

おじいちゃんおばあちゃんがくつろいでいるスペースの横では……

 

近所の人がノマドしてたり、

 

施設と関係ないイベントの打ち合わせをしてたり、

 

子供がゴロゴロしていたり……。

介護施設に全く関係なさそうな人がいっぱいいる……!?

「ま、マジでいろんな人が集まっとる〜! 本当に介護施設ですよね!?」

「はい。『はっぴーの家 ろっけん』(以下、はっぴーの家)は、1階がリビング、2~6階におじいちゃん・おばあちゃんが住むための個室がある介護付きシェアハウスです。分類としては、『サービス付高齢者向け住宅※』っていうんですけど」

※高齢者の居住の安定を確保することを目的とした賃貸等の住まいのこと。

「関係なさそうな人が結構いますが、いつもこんな感じなんですか?」

「そうですね、常にこんな感じですね。今は……半分くらい施設外の人ですね」

「だ、大丈夫なんですかコレ~!? 怒られないの!?」

「法律上はOKです!」

週に200人もの人々が訪れる介護施設!?

「しかし不思議だなぁ。介護施設に若い人が集まるなんてなかなか信じられない…… みんな、何のためにここに来てるんですか? もしかして取材のために人集めを……!?」

「いや、そんなわけないですよ!(笑) そうだなぁ。なぜわざわざこの場所に来るのかというと、ここにコミュニティを作って、みんなが来たくなるような空間にしたというのが大きいと思いますね」

 

 

そもそもここ はっぴーの家は、建設前から近隣に住む方々の「こんな場所が欲しい!」という声を集めに集めて考案された施設だそう。
最終的におよそ100名の方を巻き込んで出来上がった「はっぴーの家 ろっけん」は、2016年12月に晴れてオープン。

 

 

「エンタメが欲しい」「パーティーしたい」「酒場が欲しい」など、近隣の方の様々な願いを叶えるべく、はっぴーの家は ハロウィンパーティー、クリスマスパーティー、とにかくカニを食べるパーティー、子供たちでお菓子の家をつくるイベント、時には著名人の講演会……などなど、様々なイベントを盛りだくさんに繰り返しました。

 

そうするうち、日頃からここに訪れる人がだんだんと増え……

 

昼間は子供たちが遊び、

 

 

夜はみんなで飲み交わし、

 

 

噂を聞きつけて、遠方からやってくるお客さんも増え……

 

いまや、週に200人もの人が訪れる施設になったのでした。

 

「どういうことー!?」

「みんな、どこからか僕たちの話を聞きつけて遊びに来てくれるんです。日本全国はもちろん、海外からも来てくれたりしますよ」

 


▲ある日訪れたバイオリニストのお姉さんは、「はっぴーで楽しい時を過ごしたお礼に」と特別にコンサートを開いてくれたそう。なにそれ、めっちゃ素敵やん……。

 

なぜコミュニティスペースを作ろうと思ったの?


▲取材の隣で子供が宿題を始めた

「そもそも首藤さんは、どうして『コミュニティ』を作ろうと思われたんですか?」

「自分の過去の家庭環境が大きいかなぁ」

「家庭環境?」

「小さい頃、祖父が事業をしてた関係で、ものすごい賑やかな社宅に住んでたんですよ。シェアハウスみたいにリビングが共有の。で、みんなが色んな人を連れ込むから、家に見ず知らずのおっちゃんが居るのが普通だったし、ブラジル人15人と同居してたこともあったりして」

「ブラジル人……!?」

「おじいちゃんが、『どうせやったら地球の反対側のやつと暮らしたい!』って急にブラジル人を15人くらい連れて来たんです。そいつらめちゃめちゃ自由な奴らで、夜中までワーワー言いながらビリヤードするわ、近所の路地でシュラスコ焼きだすわ、ものすっごい迷惑で……」

「無茶苦茶すぎるでしょ〜!」

「でもそれが、子供ながらにすごく楽しかったんです。まずそういう土壌が僕にはあって」

 

 

「で、大人になって家族みんなが別々に暮らしだしてからしばらく経って。僕が結婚するってなった時に、『みんなで住める最後の機会だから』ってことで、祖父母、母親、僕の家族、僕の妹家族……総勢15人で同居を始めたんですよ」

「へー! また、めちゃめちゃ大所帯ですね!」

「うん。その暮らしもすごく良くて。

当時の我が家は、おじいちゃんおばあちゃんは認知症、僕は若くして子供がいて、妹は大学行きながら子供を育てていて……言ったら、社会的弱者が集まってる状態だったんです。

でも、そんな僕らが集まったら、不思議と暮らしが成り立った。 おじいちゃんとおばあちゃんも、子供がいることで認知症の症状が良い感じになったし。僕らも家族が居るから子育てしやすいし、妹も子連れながら無事に大学を卒業できて。

『それなら、子育てをしたい層と高齢者を巻き込む事をしたい』と思ったんです。それが原点かな」

 

 

くつろぐ入居者さんをはじめとし、ゲームや宿題をしにくる子供、ノマドをしにくる大人、お喋りがしたい人、何となくここに来たい人……はっぴーの家のリビングは、それぞれがそれぞれの目的で自然体にいられる不思議な場所として機能しています。

 

また、はっぴーの家には特に「子育て世帯」が集まることが多いそう。子供が遊べて、母親も休めて、おじいちゃんおばあちゃんも喜ぶ、まさに理想的な関係性! 夜には近隣の家庭でみんなまとめて夜ご飯を作ることもあるらしく、その時は一世帯500円くらいで夕食を済ませられちゃうんだとか。

私のような『実家から離れて暮らしていて、これから子育てしていきたい勢』にとっては、近所の人とこうして集まれる場所があるのはめちゃめちゃ羨ましいなぁ。

 


▲はっぴーの家はあえて看板を出していません。場所の役割を限定せず、みんなにとって何物でもあるためなんだそう

 

介護の本質は「暮らし」にある。はっぴーの家流、お年寄りへの接し方

「なるほどなぁ。『高齢者のための介護施設』を目的に作られたわけじゃなかったんですね」

「そう。もともと『コミュニティスペース』を作りたかっただけ。うち、介護施設やってるつもりは全然ないですからね。

うちは『みなし医療機関』の認定を取ってるから、要介護の方の受け容れもできるし、手術以外の医療はお看取りまで全部できる。けどそれは、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らすのに必要だから。そのためだけ」

 


▲シェアハウスであるはっぴーの家にとって、介護は完全に後付け。はっぴーの家は、介護やサービスを受けることが目的ではなく、みんなで暮らす平等な空間なのです。

「しかし……水を差すようですが、入居者さんやそのご家族で、他人がいたり、小さい子供がいるのを不安に思う方はいらっしゃらないんですか? 『怪我のリスクはないのか』とか」

『うちは守られる施設ではない』というのは、入居者さんとそのご家族には全部説明していますね。怪我をするリスクがあることに、了承を得た人にだけ入って頂いてます。

何故かというと、僕が70歳になって施設に住まなければならなくなった時、絶対にその方がいいから。
転倒リスクを恐れて車椅子に座ることを促され、無理やりベッドに繋がれて守られる施設で10年生きるか、たとえ家族がいなくても、子ども達が遊び多世代が賑やかに出入りするリビングで自由に最期を過ごすか。僕は、圧倒的に後者がいい。
もしそれで怪我をしても僕は文句を言わないです、そのためにここがあるんですもん」

「わ、私もそっちの方がいい! 静かな施設より、賑やかな施設がいい〜!」

「ね! しかも、これだけ賑やかだけど、不思議と衝突事故が起こったりはしてないんです。しいて言えば、子どもと高齢者のテレビの取り合いくらいかな。

社領さん、そもそも『介護の本質』って何だと思いますか?」

「本質? 一般的な介護といえば、免許を持った介護士さんが、お年寄りの入浴や車椅子に乗るのをお手伝いする……って感じですよね?」

「もちろんそれも大切なことです。でも、僕は介護の免許を持ってないんです」

「えー! そ、そうなんですか!」

「僕は、介護の本質は『暮らし』であり、その人のその後の人生をどうデザインするかだと思っているから。車椅子の移乗やお風呂のサポートは、生きてる中で1割くらいでしょう。代表である僕は、『暮らし』という本筋を見失わず、共感するプロの方を増やすことが仕事なんです」

 

はっぴーの家では、お年寄りへの接し方も、他の施設とは少し違います。

 

例えば、「レビー小体型認知症」という幻覚が見えるタイプの認知症になったおばあちゃんがいました。

普通の施設では、白くて刺激のない部屋で穏やかな暮らしを提供しますが、はっぴーの家では……

 

 

パーティーを行いました。

 

「どういうこと!?(笑)」

「人間は、自分が認知症だと気付いた瞬間に自己肯定感が落ちる。『こんだけ人間がいるんやから、幻覚がいてもいなくても、どっちでもいいやん!』という雰囲気を作りたかったんです」

 

 

時には、おばあちゃんの特技が大活躍する場面もあります。
作業が大好きな『星ばぁ』には、施設に来るお母さんたちが「幼稚園で使う子供の備品に名前を書いてほしい」と頼みに来ることが多いんだとか。星ばぁも喜んで引き受けるそうです。

「一度、ある講演会の二次会をうちでやった時、おばあちゃんが泣いたことがあって。

どうしたのかと思って聞いたら、『若い子が夢を語ってるのが嬉しい、私がそこにいられて嬉しい』……って、嬉し泣きしてくれたんですよ。やっててよかった、と思いましたね」

「私が想像する介護施設では、考えられない光景です……」

「おばあちゃんの幸せを考えた時、おばあちゃん視点で考えると頭打ちするんです。

だから僕は、総量を増やしたい。おばあちゃんのことを考えるのを一回やめて、おばあちゃんと関わる人を増やすんです。その上でみんなが居心地いい空間を考えたら、結果的におばあちゃんに与えるハッピーはもっと増えるはずだから

 


▲この2人、まるで家族みたいですが血縁関係はないそう。多世代に家族みたいに関われる人がいるって、年齢に関わらずとても幸せなことなんじゃないだろうか……。

 

入居フロアの壁紙は、お年寄りが元気になる「真っ赤」!

さて突然ですが、なんと本日の夜はお誕生日パーティーがここで行われるんだとか!

オーナー自らがパーティーのお誘いに入居者さんたちを尋ねるとのことでしたので、私も付いていくついでに、施設を案内いただくことに。

 

「2~6階は入居者さんのフロアになってます。現在は20人入居されていて、8割が認知症の方ですね」

 

「おお! 壁は真っ白じゃないんですね」

「はい、壁紙はフロアごとに変えてるんです。入居者さんが階を間違えにくくなるので」

 


▲こちらは4階フロア。壁紙が真っ赤!?

 

「赤色って、興奮するから介護に使っちゃダメな色じゃなかったですっけ!?(笑)」

「むしろ元気を出してもらおうと思って(笑)。入居者さんも明るい雰囲気を喜んでくれてるみたいですよ。

各部屋もすべて壁紙が違うんです。この部屋とか……」

 

は、派手すぎるー! 全面インコー!?」

「これも、入居者さんが自分の部屋を間違えないようにするため……っていうのもあるし、新しく入居される時に、色んなテイストの中から気に入った部屋を選んでもらえたら楽しいかなと思って。

施設に遊びを入れておくことで、来てくれたご家族さんの滞在時間も延びるしね」

 

 

というわけで、今夜のパーティーのお誘いに、入居者の新宮領(しんぐうりょう)さんのお部屋にやってきました。

 

新宮領さんのお部屋の壁紙は、ヒョウ柄の壁紙! に、キティちゃんだらけ!

 

「またここも派手ですねぇ!」

「新宮領さん、めちゃめちゃキティちゃんが好きなんです。

新宮領さん、今夜7時から下でパーティーをするので、よかったらぜひ来てくださいね」

「ええ、ぜひ行きます!」

「新宮領さん、はっぴーの家の住み心地はどうですか?」

「すごく楽しいですね! 去年夫を亡くしてからここに住んでるんだけど、毎日が面白くて。こんな風にうちに人がいて、毎日いろんな人の顔が見られることが嬉しいです」

 

 

その後も、入居者さんのお部屋を訪れます。こちらのヒョウ柄が似合う方は、ビールが大好きな明るいお父さん。

パーティーのお誘いには、即「はい、社長さん! ぜひ行きますよ!」と明るいお返事でした。

「なんだか、入居者さんとかなり距離が近いなぁ……。他にはどんな方が住まれてるんですか?」

「うち、日常の様子やイベントのレポートをいつもSNSで発信してるんですが、それを見た方が入居希望して下さることがほとんどなんです。なので基本的に、子供やコミュニケーションが好きな方が多いかな。

うちに来るために、わざわざ石川県からご家族ごとこっちに引っ越された方もいるんですよ」

「マジか! 確かに特殊な場所だけど……すごいなー!」

「いまは、月に一人ずつに絞って入居して頂いてますね。朱に交われば赤くなるというか(笑)、その方がはっぴーの家の雰囲気に馴染んでもらいやすいと思うので」

 

賑やかすぎるお誕生日パーティーが始まった

そんなわけで夜になり、お誕生日パーティーが始まります!
夕方から続々と人が集まり続けたはっぴーの家は……

 

あっという間にこんな感じに……!

「ま、マジでこんなに人が集まるのかー!」

「そうですね。週に一度は、だいたいこんな感じですよ」

 

 

キッチンで作業をしているのは、市内に住む若者たち。普段はシェフとして働いている男の子がリーダーシップをとり、パーティー料理をさっさか作っていきます。

 

 

食事の運搬をお手伝い!パスタ大好き〜!

 

 

お腹いっぱい料理を食べ、時にはお酒も飲みながら、みんなでワイワイお喋り。学校のことから子育てのこと、施設のこと……多世代が集まるからこそ、あらゆる話題が飛び交います。

そうして盛り上がったところで、

 

部屋が暗くなり、この日の主役のためにケーキが運び込まれました!

 

 

この日は、はっぴーの家に通う20歳の男の子と、入居者さんのお孫さんである2歳の男の子のお誕生日でした。ケーキのろうそくにひと吹きして、お誕生日おめでとう!

 

……いや、おじいちゃんおばあちゃん含め、めちゃくちゃ賑やかな空間です。

老若男女に関わらず、みんな心からパーティーを楽しんでらっしゃいます。本当に、いつもこんな感じなの……!?

 

そこで、イベントやパーティーにはいつも参加しているらしいはっぴーの家の介護士さん、かおりんさんにお話を聞いてみることに。

 

 

かおりんさんは、はっぴーの家の介護チームのリーダー。

以前は市内の別の介護施設で働いていましたが、飲み屋のマスターの紹介がきっかけで、はっぴーの家をオープンからお手伝いすることになったんだとか。

「かおりんさん、はっぴーの家で働きはじめてどうですか? だいぶ感覚が麻痺してきたんですが、このあたりの施設ってどこもこんな感じなんですかね……?」

「いやいや、前してた介護の仕事とは全っ然違います! こんなに近隣から人が集まってくることなんて無かったですよ!」

「やっぱりそうなんだ!」

「入居者さんの表情も豊かですね。外から人が関わることで、こんなに笑顔が増えるなんて思ってなかったです。

あと、前働いてたところは介護の資格ありきで求人してたんですが、ここは違うんです。『資格はないけど、ここで働きたいです!』って働きはじめて、後から資格を取る人が全然多いかな」

「えっ、そうなの!? それって大丈夫なんですか?」

「全く問題ないですよ。むしろ、はっぴーの家と入居者さんとの関わり方を気に入った人が入ってくれるので、みんな目線が同じというか。スタッフ側の雰囲気も良いんです。

ここで働き始めて、生活も変わりましたね。居心地がいいからパーティーにも全然参加するし、お休みの日もどうでもいい用事をしにここに来ちゃう!(笑)」

 

そんなかおりんさんは、はっぴーの家で働くことで初めて子供の可愛さに気づき、なんと今お腹に子供がいるそうな……。マ、マジか〜! 人の人生変えちゃってる!

 

そんなこんなで、夜10時!

入居者さんもお休みのお時間ということで、一同はそろそろ解散することに。

 

 

最後は、めちゃめちゃ声が良いおじいちゃんのアカペラカラオケで〆となりました。なんだかみんな……楽しそうで何よりです。

どうしてこんなにエネルギッシュにコミュニティを作っているの?

「いやぁ、ありがとうございました! 今日は本当に、マジですごいの一言しかないです……。どんどん人を巻き込んで大きな家族ができていく、その様子を目の前にしてめちゃめちゃ圧倒されました……!

いろんな方にお話を聞く中で、はっぴーの家は『首藤さんの人との距離感』とか『巻き込み力』が大きく機能しているんだなと実感したんですが、正直、首藤さんのここまでしてコミュニティを作るエネルギーってどこから来ているんでしょうか?」

「うーん。それ、めちゃくちゃ自分のエゴなんですよね……

「エゴ!? 首藤さんの?」

「はい。自分に子供ができた時、『僕ら若い人間が子供に何を教えるねん』って結構悩んだことがあって。そんな中で、”自分が成長した瞬間は、人に会って話をした時だけだ” とふと気付いたんです。

だからここを作った。だって、自分の子供が週に200人も大人に会えるって最高じゃないですか? 一番の原動力は『最高の子育てがしたい』、そこですね」

「めちゃくちゃ自分のエゴだー! なのに、ものすごい人が集まりましたね!」

「ただ自分にとって良い空間を、隣の人に見える範囲で作っていたら、こうなってくれた感じですね。今も、結局みんなのためにやってるつもりはあまり無いなぁ。

あと、そやなぁ……。僕の、六間道に対する思いもあるんかも」

「思い?」

「これ、1990年くらいかな? すぐそこの駅前の商店街なんですけど」

 

「わー、すごい!人だらけ!」

「でしょう。こんな賑やかな中で僕は育ったんです。

このあたりは本当に町の人全体の距離感が近くて、長屋的なコミュニティが盛んだったんですよ。町内なら誰がどの人の子供かみんな知ってるし、『ちょっと醤油貸して』って気軽に言えるくらいの家族みたいな近所付き合いがあった」

「近所付き合いが”あった”……? 過去形ですか?」

「1995年の阪神淡路大震災で、このあたり一帯が消失しちゃったんです」

 


▲1995年1月17日に起こった阪神淡路大震災。震源地のほど近くにある長田区では、住宅が密集していたために大規模な火災が起きました。(写真提供:神戸市)

「そっか……この辺り、一番火災の被害が大きかったところですよね」

「そう。商店街も、みんなの家も、ほとんど焼けてなくなってしまって。震災後、このへんの人口は半分以下に減ったんですよ。

そのあと、駅前商店街の跡地に人口を取り戻すための大きなマンションが建設されたんですけど、いざ建っても全然誰も戻ってこなくて……」

「長屋的なコミュニティがあったからこそ、みんなここに住んでたってこと……?」

「そういうことですね。そこを取り戻すことをせずに、核家族向けにとりあえず区切られた新ピカのでっかいマンションを建てて、って。そりゃ誰も戻ってこないですよ。

僕は、その薄っぺらい再開発に対してずっと憤りを感じていて。だからこそ今、『人の繋がり』ってところに光を見出して、はっぴーの家を作っていってるのかもしれないですね」

 

はっぴーの家は、町の形に合わせて増え続ける?

「最後になりますが、私、将来こんな施設に住みたいです……! いつか、はっぴーの家が近所にもできたら嬉しいなと思うんですが、その可能性ってありますか?」

「可能性はありますが、場所によって形態は全然かわってくると思いますね。はっぴーの家自体はうちの会社で2つ運営してるんですが、どちらも全然コンセプトが違うんです。ここ六間道のはっぴーの家は、色んな家庭環境の人や、外国人も沢山いて、多様性のある六間道だからこそ成り立ってるので」

「なるほど、形は違えどできる可能性はあるんですね。これから首藤さんは、はっぴーの家をどんどん増やしていくんでしょうか?」

「そうやなぁ。僕がどんどん全国に作るのは現実的に無理だと思ってます。ただ、新しい市場を作ってる実感はある。なのでみんなに真似してもらえるように、うちのノウハウを発信していこうと思ってて」

「へえ、ノウハウ!」

「そう。だから今、そういったWEBサイトを作ってます。これから全国的にこういう場所が増えたらいいなと」

「では最後に。はっぴーの家ができて1年半、まだまだはっぴーの家のコミュニティは発展すると思いますが、首藤さん自身の目標はありますか?」

「そうやなぁ。はっぴーの家だけでなく、六間道の『町全体のデザイン』をしたいですね。

子育て、介護、日常を豊かにできる仕組みを作って、どんどん町の価値を上げて、六間道をもっと面白い場所にしたい。そして移住者を増やして、六間道がこれまで以上に活気あふれる町になればと、そう思っています」

「首藤さん、今日は本当にありがとうございました!」

 

すごいもんを見た

みなさん、「はっぴーの家 ろっけん」はいかがでしたでしょうか!
私はもう、はちゃめちゃに圧倒されております……。

 

この記事をご覧の方の中には、身内が介護施設にお世話になったという方もいらっしゃると思います。

その方たちに伝えたい。なんかもうここ、概念から違いますよねー!? ねー!?

 

子育て世帯の暮らしの問題。高齢者の暮らしの問題。

私たちはついつい分けて考えがちですが、まとめることでこんなに良い循環が生まれるなんて。私の介護に対する認識では想像もつかない場所でした。

 

今回のお話をお伺いする中で、私に深く突き刺さった首藤さんの言葉があります。

 

 

「今のコミュニティが言う「大家族」って、若い人だけで盛り上がってるでしょう。実は僕、あれが一番嫌いなんです。

人口の一番少ない世代だけで何を盛り上がってるねん、と! まちづくりしたいなら、その地域にいる一番困っている層も巻き込むことで意味があるもんになるんちゃうか、僕は常々そう思ってますね」

 

首藤さんは、はっぴーの家のほかに、高齢者の独居を食事の提供や見回りで手助けするサービスをこの近隣で行っているそうです。

私たちは皆、いずれは高齢者になります。ともすれば忘れがちで、なんとなく現実味のないことですが、首藤さんは自分ごととして、真っ直ぐ目を背けずにその事実を見つめている気がしました。

 

私は、こういう介護の形がもっと増えてほしいと思います。
制度や決まり、地域の問題で難しいこともあるかもしれない。けれど、こういった関係性を望んでいる人が私以外にももっと居て、いつかここが「介護のスタンダード」になればいいなと、そう思ったのでした。

 

というわけで、社領エミでした!
みなさんも新長田に訪れたら、ぜひはっぴーの家にフラッと行ってみてくださ〜い!