「YouTube放送作家」という新しい職業を世に広め、霜降り明星、かが屋、チーム”小藪フットジュニア”など、様々な人気芸人のYouTubeコンテンツに携わる作家・白武ときおさん。

新世代のお笑い芸人たちとともにエンタメコンテンツを開拓する人物として、業界でも注目を集めています。

 

そんな彼によるコラム連載がジモコロでスタート! これからのYouTubeやエンタメコンテンツがどうなっていくのか? ぞんぶんに語っていただきます。

 

第一回のテーマは「大YouTube作家時代がやってくる!」。芸能人が続々と参戦し始めた「YouTube戦国時代」の現状や、今だからこそ見つかる若手放送作家の「チャンス」についてなど、エンタメ好き必見の放談をご覧あれ。

 

【コラムに書かれた内容を、ちょこっとだけネタバレ!】

・「ニッチなトライができる」から、大物芸能人もYouTubeに参戦

・「質より量を出す」セオリーのために、スタッフが足りない

・「出演者への理解」が、良いYouTubeコンテンツを生む

・戦国時代にうまく乗り、「才能が活きるチャンネル」を探す

 

 

話を聞いた人:白武ときお

1990年京都府生まれの放送作家。テレビ番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 笑ってはいけないシリーズ』『霜降りミキXIT』、『霜降り明星のあてみなげ』を手がけるほか、YouTubeチャンネル「しもふりチューブ」「みんなのかが屋」「Aマッソのゲラニチョビ」などを担当。

 

大物芸能人の参戦で、YouTubeは戦国時代に

こんにちは。放送作家の白武ときおです。普段はテレビ番組の企画や構成を考えたりするほか、芸人さんたちが個人で取り組む「YouTubeチャンネル」のお手伝いをする、「YouTube放送作家」としても活動しています。

 

テレビやラジオ、YouTubeなど様々な現場を越境しながら働くうちに、「自分はいまエンタメ業界の大きな転換期を見ているんだな」と思うようになりました。

 

ここでは、これから来る……というより、一部ではすでにはじまっている「YouTube作家時代」についてお話します。

 

YouTubeは日夜新しいコンテンツや取り組みが更新される、変化の激しい市場です。最近の大きな変化といえば、多くの大物芸能人が参戦するようになったこと。とんねるずの石橋さんや、今田耕司さん、東野幸治さん……など、TVバラエティで活躍されているすごい方たちが、チャンネルを開設しはじめました。

 

とんねるずの石橋貴明さんが始めた「貴ちゃんねるず」。開始から1ヶ月余りで登録者数100万人を突破

 

「コロナ禍によって通常のバラエティ収録がなくなり、時間に余裕ができた」というのも1つの理由ですが、それ以上にYouTubeには「オリジナルでニッチなことができる」というメリットがあるんです。

 

たとえば僕の担当している「しもふりチューブ」では、霜降り明星のふたりが本当に好きなものについて語る放送回があります。

 

せいやさんが大好きな漫画作品『NARUTO』について語るだけの放送回

 

バラエティ番組では成立しないような企画もYouTubeの短い動画なら成り立つし、ファンにとっては「テレビでは見られない一面」を見るきっかけになる。本人たちからしても、やったことのないチャレンジができるというモチベーションがあるんだと思います。

 

少し前まで「YouTubeは素人がやるもの」と思っている人も多かったですが、今では時代が違います。コロナ禍で「オンラインコンテンツに投げ銭をする(=対価を支払う)」という考え方が浸透したこともあり、テレビで活躍してきたプロフェッショナルたちにとっても、YouTubeは”生業になる”という認識が当たり前になってきました。

 

これまで自分の企画力を武器に戦ってきたYouTuberたちにとっては、もともと知名度のある芸能人たちが市場に入ってきたことにより、戦い方を考え直している時期かもしれません。コンテンツの多すぎる今、「何に時間を使うのか」の奪い合い状態です。

 

一方で、僕個人としては今の状況を楽しんでいます。60年続いたテレビのビジネスモデルが変わっていくのも、面白いバラエティを作り上げてきたスター選手たちがYouTubeという土俵で何をするのかも楽しみです。

 

「YouTubeのセオリー」をやるには、スタッフが足りない

こうなると必要になってくるのは、「YouTube番組を制作・運営できるスタッフ」です。これまではテレビ番組の制作経験があるスタッフさんたちが、仲のいい芸能人のチャンネル運営を手伝う……という形が主流でしたが、それでは圧倒的に人員が足りなくなっていく。

 

なぜなら、YouTubeチャンネルの成長のための王道の戦略が「接触頻度を高めること」にあるから。「そろそろあのチャンネルも、新しい動画が上がっている頃かな?」と思ってもらえるくらい、「視聴習慣ができる」ことが、チャンネルの生き残る秘訣です。

 

そのためには1日1本とか、数日に1本とか、高い頻度で新作動画を公開していく方が視聴者はついてきやすい。

 

最近では、人気Youtuber「水溜りボンド」さんが「毎日投稿を終了する」ことを大がかりなコラボ動画の形で発表し、話題に

 

これを実際にやろうとすると、多くの時間と労力がかかります。ネタを出す人も必要だし、撮影した動画にYouTube的な編集を加えられる「編集マン」も必要。とてもじゃないけれど、テレビの仕事をしながら制作スタッフたちが回しきれる量ではない。既に、オンライン動画コンテンツをメインに請け負う制作スタジオもあります。

 

YouTubeのプレイヤーが増えれば増えるほど、「放送作家」という立ち位置にも空席が生まれます。テレビの放送作家になりたい人にとっても、このYouTube戦国時代は、ファーストキャリアを作る大きなチャンスなんです。

 

YouTubeの現場では「豊富な制作経験」よりも「若い感性」や「労働力」が必要とされています。ここでいう「若い感性」とは、YouTubeやSNSのノリと作法を心得ている、ということ。動画の編集さえできれば、有名人のYouTubeを手伝える可能性もあるといっていいでしょう。

 

YouTube放送作家の能力とチャンス

僕は、YouTube作家にとってもっとも大切なのは「タッグを組む出演者のことを、ちゃんと理解していること」だと思います。

 

チャンネルが個人のコンテンツになる以上、その人本人が熱量を持って取り組んでいないと、視聴者にはバレてしまいます。やらされている企画だと、ファンも喜んでくれない。だからこそ、演者本人の熱がある企画を考え、本人発案の企画は熱があるのでその分面白くなります。

 

「見る(視聴者)・出る(出演者)・作る(制作チーム)」の三方良しであることが、いいコンテンツの条件。その条件が揃っていれば、企画をする理由が「本人がやりたいから」だけでもいい。

 

テレビと圧倒的に違うところは、トライアンドエラーがしやすいこと。スポンサーがいないので、結果が出なくてもいい。やってみたいことをやって、滑っても何も問題はない。チャンネルは「自分たちが勝手にやっているだけ」なので、自由なんです。

 

即興でコントを作るのが得意な芸人”かが屋”は、自らのチャンネルで、視聴者からもらったコメントを元にコントを作る企画を実行した

 

この自由さは出演者にとっても大きなメリットですが、同時に放送作家たちにとっても大きなメリットです。放送作家は原則として複数の番組を並行して担当する者ですが、番組と作家との相性もあります。

 

YouTubeにおいても、1つのチャンネルに注力するだけでなく、いろんな芸人・芸能人のチャンネルを手伝ってみることで、作家としての自分の才能を活かせるチャンネルを探すこともできます。ある意味、無限に仕事を増やすことができるし、その中から自分にあった仕事を選び取っていくことができるのも、YouTube放送作家というジャンルのよさでもあります。

 

若手の放送作家や、エンタメ業界を目指していく人々にとって、これからは「YouTube放送作家」からキャリアをスタートさせる、登竜門的な場所になっていくのかもしれません。

 

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構成:いぬいはやと