編集部員は街にいる。生の情報こそが、ミーツの血肉

さあ、早々に会議室を飛び出してきたわけですが

「うん。こっちのほうが、楽でしょ。いつも通りで」

「ですね。ただ、松尾さんと街に繰り出すと、いろんな人に会うんですよね。……せっかくなので、話しかけられた人や店の人にバンバン出てもらって『ミーツ』のこと、そして松尾さんのことを聞いていきますね。この記事に説得力が出ますし、またとない機会ですから」

「やる気満々やなあ(笑)。さあ、そうこう言ってる間についたよ」

 

一軒目に来たのは「大衆酒場 ひらやま」。大阪のオフィス街から少し離れた北浜エリアに店を構える立ち飲み屋で、連日満タコ必至

 

「ここ『ひらやま』がある北浜エリアは、『ミーツ』で何度かフィーチャーしてるエリアですよね」

「さすが、話が早いなぁ〜! 北浜だけで取り上げたこともあれば、オフィス街として3エリア合同で取り上げたことも。あとは最近やとこのあたりに流れる『東横堀川』をテーマにしたり。ミーツとしても、プライベートでもお世話になりまくっているエリアやね」

「せっかくエリアの話になったので、『ミーツ』が作るエリア特集の話も聞ければなぁ、と」

「めっちゃ取材するやんか〜(笑)。わかった、エリア特集のハナシね」

 

2013年に発売された、北浜・淀屋橋の特集。表紙は「大衆酒場 ひらやま」。局所的なエリアにフィーチャーするのが『ミーツ』の代名詞だ

 

「僕ね、このエリア特集が、やっぱりすごいなと思うんですよ。『ミーツ』が特集した街に人が溢れる。そんな現象が、発売日の翌日から起こるんです。雑誌ってすげえ!って思わされることが、未だに街単位で起こるんやなって」

「ありがたい話やね。でも、“そのエリアがおもろい”っていうコロンブスの卵は、僕らじゃなくて、街の先輩が持ってるのよ。そういう人たちからタレコミが入ってきて、そのあとに僕らが実際に見に行く。で、特集をつくるといった感じ。だから、僕らよりも街にいる先輩がすごいんですよ」

「コロンブスの卵は、街の先輩に……?」

「せっかく『ひらやま』にいるので、このエリアを例にして話そうか。平山さんもちょっといいですか?」

 

「大衆酒場 ひらやま」の店主・平山さん。軽妙なトークと確かな技術を持ち合わせる、界隈きっての豪傑

 

「平山さんとの出会いは10年くらい前で、阿波座にある別のお店やったんやけどね。そのとき、すでに『ひらやま』は北浜の人気店で」

「そうやったね」

「ある日平山さんから『この辺、結構おもろなってるよ』ってネタをもらったことがあって。で、実際に来てみたら、新しい店も増えて、お客も多彩な顔ぶれで、かなり面白いことになってた。一通りハシゴしてこれはいけるなって思ったら、ここでインターネットの登場です

「インターネット使うんすね! めっちゃ意外でした」

「今はグルメサイトが充実しているから、実際にどのくらいのペースで店が増えているのかがデータでわかるんですよ。こればっかりは足で探すだけでなく、WEBも頼りにしていて。感覚を裏付けるファクトとして重要ですから。で、僕らがやるのは、軸となる場所や店、そして人の見極め。すべての条件が合致したら、晴れて特集の題材になる」

 

「平山さんは、どうして松尾さんに『このエリアがいい』ってお話されたんですか?」

「『ミーツ』が取材に来ると、喜ぶお客さんも店主連中も多いしなあ。それに、松尾くんは友達やから、信用してるってのもあるね。そういえば、松尾くん今プレオープン中のあそこ行った?

「まだなんですよ〜。オモロそうでした?この取材が終わったら寄ってみよかなと思ってまして」

「(酒場でネタ集め&会議が始まったゾ……!)」

 

人気店でバイト?!「ココと決めたら食らいつく」が、編集部のスタンス

続いて2軒目に訪れたお店は、カフェ&バー「escape LODGE and ESPRESSO」。界隈で一番人間が交差するお店ゆえ、おもろい人、かっこいい人と必ず出会える

 

「来ましたね。こちらも松尾さんが昔から通っているお店!」

「そうそう。とりあえず、オーナーの下地さんに話を……って、ぐっさんおるやん」

 

大阪は農林会館でセレクトショップ「山口ストアー」を営む、山口さん(通称:ぐっさん)。仕込んだワケじゃなく、本当にたまたまいてました

 

「読者の方はワケわからんくなると思うので、ここで一回ぐっさんの紹介を入れますね。山口さんは大阪でセレクトショップをやっていて、西のファッション業界では重鎮。松尾さんとも仲がいい街の先輩でもある。で、とにかく酒場に繰り出している。これで合ってますでしょうか」

「重鎮ってのはあれやけど、合ってるよ。大丈夫。二人はなにしてるの?」

「今日は取材なんですよ、僕の」

「せっかくなんで聞かせてください。ぐっさんにとって、『ミーツ』ってどんな存在ですか?」

「『ミーツ』はどやろ。取り上げてもらいたい雑誌やなって思うよ。ちょっとした憧れというか

「憧れですか」

「僕が大阪に出てきたときが30年前で、ちょうど『ミーツ』ができた年なんですよ。その当時から、今と同じか、それ以上に編集の人たちが街に出てきていたイメージがあってね。当時はまだ若かったから交れなかったけど、『ミーツ』や編集部のメンバーはかっこいい存在だったんだよね」

「ほぉ〜」

「そうですね。多分、今より街と密でしたね」

「それに松尾とは付き合いが長いし、公私ともに仲良くしているから、扱ってもらうなら松尾がつくる『ミーツ』がいいよね

「愛だなあ」

 

「エスカペ」に貼られた山口さんの結婚パーティーのボスター。個人の結婚式のポスターが酒場に貼られていることがまずおかしい。ちなみに、このパーティーの仕切りは松尾さんが務めたそう

 

「ちなみに、僕がまだ副編集長だった時代に、ここで週に1回バイトしていたんですよ

「副編集長がバイトとは、いかに……!」

「それこそぐっさんの結婚パーティーで『escape』のオーナー・下地さんと知り合って。当時このあたりが面白くなってきていたから、『僕、バイト、どうすか?』って聞いたんです。ここに潜り込めれば、特集のネタ探しにもいいかもという下心はもちろんありましたけどね」

「ここまでくると、貪欲がすぎる……!」

 

「escape」オーナーの下地さん。松尾さんの元雇い主ということになる。いよいよワケがわからなくなってきた

 

「最初は、『ミーツ』の人が働くってどうなんやろって思ったよ。でも、しつこいから松尾くんが

「酔うてたんでしょうね。めっちゃ言うた気がします」

「でもね、松尾くんは真面目やし、まっすぐやから。うちで働いて得るものがあるなら入れてみようって思ったんだよね。幸いうちの店は難しい料理を出すようなスタイルじゃないから、ビールとハイボールさえサーブできればいいよって」

「下地さんにとって、『ミーツ』や松尾さんはどういう存在なんですか?」

松尾くんはタフ。『ミーツ』はもっとタフ

「もっとなんかあるでしょう!!!!」

「はやとちりやなあ。新しいことにどんどん挑戦してるところがすごいってこと。こんなに街に出てきているのに、YouTubeをやったり、WEBメディアつくったり。雑誌やりながら何かをつくるって相当体力いると思うよ」

 

松尾さんがメインアクトを務める公式Youtubeチャンネル『Meets TV』のフライヤー。ショップカードのノリで、西の酒場に配されている

 

それは、街の人とか、仲間が言うてくれるんですよね。『こんなん、やりましょうよ』って。で、『じゃあやろか』ってなっているだけですよ」

 

 

「ウラなんばの特集がまさにそうでしたよね。ライターの松本賢志さんが『松尾くん、僕もうウラなんばに行きたくないねん』と、言った発言に松尾さんが食いついて」

 

企画タイトルは「だから私は、ウラなんばで飲みたくない」。前述の通り、好きすぎて、溺れちゃう。すると、帰れない。これは困った。そんな街への愛を企画へと昇華した

 

「せやね。あれほどウラなんばに抱かれてきた松本さんが、こう言うてるってことは『今、ウラなんばがスゴイから、イジれ』ってことやなと」

言われたことは必ず打ち返す。だから結局、『ミーツ』も松尾くんも信頼できる。たとえ間違ったことをしたとしても、まっすぐやから許せるというか。ただ、雨男やからうちの店に入る日が、いっつも雨でね。それだけが不満やったなあ。」

「それは、ほんまにすいませんでした!」

「下地さん、ぐっさんありがとうございました! そろそろ次に行ってきます」

 

雑誌のクオリティは、60点でいい

「ここまで、北浜エリアで2軒ハシゴして、お店の店主さんや街の人に『ミーツ』と松尾さんが愛されているんだな……と、改めて感じました」

「ありがたい話やね。でもこうやって毎日のように街とコミュニケーションをとっているから、情報が集まってくるんやろうな、と自分でも体感できましたよ。通い続けていないと、こうはいきませんからね」

 

「お世話になってます、ホント…」と遠い目をする編集長

関西って街は、街の酒場にかっこいい人たちが集まっているんですよね。だから、『ミーツ』が扱う題材や、登場人物が街とリンクしている。その、結果期待されるし、みんなで作っているグルーヴがあるというか」

「そうやね。それに、ミーツはね、60点でいいんですよ

「60点?」

「もちろん、今一番エッジィな部分を攻めてる雑誌やメディアは最高。ただ『ミーツ』のスタンスは、街の人や酒場の人を巻き込んで作るっていうもの。面白いものは、綺麗なものやキレキレのかっこいいものだけじゃない。当然偏りもあるから、そういう意味での60点」

「ほうほう」

「ただ、一緒に作る友達や先輩は、すごくかっこいいという自信がある。そうして生み出した60点の雑誌は、街という視点で見ると120点やから

「座布団100枚です」

 

『escapé LODGE and ESPRESSO』からほど近い燻製立ち飲み酒場『wapiti』のオーナー、秋谷夫妻にも会いにきました。お二人も、松尾さんとは大の仲よし

 

「そうだ、秋谷くんにも聞きたいことがあったんですよ。『ミーツ』ってどんな雑誌ですかね」

 「実は店を始める前に、『ミーツ』を丸めてポッケにねじ込んで、かたっぱしから載ってた店を回っていた時期があってさ」

「すごい、ちゃんと使ってますね(笑)」

「でさ、やっぱ載ってる店のどれもがいいのよ。インターネットで拾った情報だけで作ったらこうはいかないと思うんだよね。ちゃんと見ているなって」

「わかります」

「で、そうこうしているうちに、編集部のメンバーとも知り合ったり、自分が店をやりだしたり。関係性が深くなると、コイツら本気で街に抱かれてるんだなってことを知るんだよね」

「編集部のメンバーは、抱かれまくってますよね、街に」

「そう。だから『ミーツ』って信頼できるんだよなぁ。あ……! 松尾! 新店の名前が決まってさ! ロマンもまた紹介してな!」

「お! ようやくですね。結局どんな……」

「またも新情報が! 新店オープンの頃には、事態も落ち着いているといいですねえ……」

 

それでもミーツは街に寄り添い、ゴキゲンを探し続ける。

この取材は2020年の11月に行ったのですが、その後は皆さんもご存知の通り、新型コロナウイルスの影響で新たに緊急事態宣言が発令。さらにはまん延防止等重点措置が適用され、酒類の提供禁止に。国からの補償はあるものの、飲食店が営業困難となる事態に発展しています。

 

飲食店にとっても厳しい日々が続くなかで、ミーツはいま何を考えているのか? 取材から数ヶ月が経った2021年6月、改めてその思いを取材しました。

 

「改めまして、大変な事態になってきましたね。ミーツは街の人や飲食店を取材するメディアです。正直シンドイだろうなって」

「そうですね。正直シンドイです。以前の取材時点で、ミーツ史上初めての発行休止(2020年7月号と2020年9月号)を経験したり、初めてWEBマガジンを作ってみたり、Youtubeを始めたり、新たな挑戦をしてきたんですが、当時はまだ、飲食店は休業 or 時短営業の二択だった」

 

YouTubeチャンネルでは、特集で取材した店やご縁のあるお店たちを松尾編集長自ら語り、紹介してきた

 

「やってる店を取材したり、工夫次第で誌面がつくれそうな気はしますね。でも、ミーツは街とのコミュニケーションが大切な雑誌ですし、街のゴキゲンを察知したり、そのゴキゲンを誌面に落とし込む雑誌でもありますよね。その点を補填するのは難しそうだなって」

「たしかに、それはそうですね。でも幸い街の人とは繋がっているのでこまめに連絡を取り合っていたり、会いに行ったり、SNSをチェックしたりすることでなんとか途切れずにやれています。ただ、雑誌としての在り方を再定義しなければいけないタイミングなのだろうなって思います」

「雑誌としての在り方?」

「僕が編集長になったときに、コミュニティをギュッと凝縮することで濃いものを提供する、いわば本来的なミーツの誌面作りに立ち返ったんです」

「濃い街の雑誌へのシフトですね」

「もちろん、今でも無理をすればそのスタンスを突き通せるって思うんです。でも、街や人が疲弊しているのに、以前と変わらない"キブン"を街や読者さんに押し付けていないか?という疑問が湧いてきたんです。物理的に取材ができないからどうっていうより、これは心情的な話です」

「僕も街やその街にいる人に救われてきたくちなので、すごくわかります」

「ミーツは街や人にお世話になってきた雑誌。僕自身もそうです。だから、ミーツが見せる“ゴキゲン”を変えていっています。それこそ、飲まないページをつくってみたり、ランチ企画を差し込んだり、ファッション企画でガッツリ攻めてみたり、素敵に泊まれる施設を紹介したり、街の歴史を掘るページに厚みを持たせたり……」

 

京都のWEBメディア『ポmagazine』と協力し、街に溢れる"噂"だけで誌面を構成。新しいページ作りを試行錯誤している

 

「とにかく、今の状況に寄り添った“ゴキゲン”を見つけて伝える工夫をしています」

「今までのミーツにはないページ作りだ」

生活様式が変わったり、制限があることが悪いんじゃないんです。むしろそういうときこそ、みんながどうやったら楽しめるのか。そういう提案ができないか、と頭をめぐらして発信していくのが、僕らの仕事です。それこそ『ローカルの食材』の特集をやってみても面白いかもな。とかね。あとは、困ってることがあるお店さんや街の人たちのための企画とかね」

「変な言い方ですが、楽しそうですね。松尾さん」

「たしかに! そうかもしれへんなあ。あとは、今までのミーツは新しい情報を出すことが多かったんですが、こういった状況だと『終わりを伝えること』も大事だなと思っています。『平たく言うと、この店が閉まる。けれども、とてもいい店だった』と、記録しておくことは長らく街を見続けてきたミーツにしかできませんから」

「今後、街に今まで通りのゴキゲンが帰ってきたらどうしますか?」

「今までのミーツに戻るかもしれないし、そうじゃないかもしれない。その時になってみないとわかりません。ただ、個人的には心から嬉しいって思うでしょうね。だって、街や街の人がゴキゲンになるんですから」

「そうなったら、グラスが割れるまで乾杯しましょう。朝までじゃなくて、次の夜になるまで。宴です」

「せやね。それは絶対やろう」

 

まとめ

冒頭のリフレインになってしまいますが、雑誌不況の波は本当にすぐそこまで迫ってきています。

そんな時代に、雑誌『ミーツ』は“許される人格づくり”と“超巻き込み型の雑誌作り”で、僕らのような雑誌好きや街好きのハートを盗み続けてくれています。そして、それをつくる一人の編集長は街に、酒場に、人に、とにかく信用されていたことがわかりました。

 

たぶん、これってメディアすべてに言えることで、どこまで人を巻き込んで、どこまでメディアの人格を浸透させられるかってところが重要なんですよね。その結果が、誰かに勧めたくなるコンテンツを生む。と、いいますか……。

 

もしかすると、こうしたコンテンツのつくり方が、雑誌やメディアを明るい未来へと誘う小さな糸口なのかもしれません。

 

そして、こんな状況に置かれても、自分たちにできることはないのか。どうすれば街やその街にいる人がゴキゲンに過ごせるのか。と、前を見続けるミーツと編集長の松尾さんのスタンスに心から感動しました。

 

今回、編集長の松尾さんと回ったエリアは北浜の東脇を流れる「東横堀川」沿い。こんな時勢なので、遊びに来てほしいとは言えません。なので、まずは下記のリンクよりお買い求めください!で、いつかこの街で飲むぞ……!と、心を躍らせておいてください。

 

そして、この事態が落ち着いたら、遊びに来てみてください。本当に最高ですし、やっぱりこのグルーブは生で感じるべきですから。

 

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写真:竹田俊吾
編集:乾隼人