浴槽からこんにちは!ライターのロマンです。

 

突然ですが、みなさん。

銭湯、キメてますか?

 

ご覧の通り、僕はキメにキメ散らかしています。

伏見生まれ、高円寺育ち、大阪在住というゴキゲンな下町人生を歩んでいるせいか、ホンマにちびっ子時代から、銭湯と密接に育ちました。

 

気づけば「あそこは熱湯が45度以上あるからキマる」「水風呂が7度とかいうパンクな銭湯がある」「あそこの温泉銭湯、有馬の金泉と同じ泉質らしい」といった具合に、早い話、銭湯情報をディグっては、肩まで浸かる毎日を過ごす大人へと成長してしまったワケです。

 

とまあ、僕の銭湯話一旦このへんで切らしてください。マジで、銭湯のことを話し出すと、無限なので。

 

今回、なぜゴキゲンな熱湯から登場したのかと申しますと、マイ銭湯の朝日温泉の店主・田丸さんにおもしろい話を聞いたからなのです。

 

朝日温泉の二代目番頭・田丸さん。両親の大反対を受けるも実家の銭湯を継いだ熱き男。

 「いや〜。今日もいい湯でした」

「いつもありがとうね。そういえば、今度うちの銭湯の前に居酒屋作ろうと思ってて。また、遊びにきてや」

「儲かってはりますね〜。ヨッ!」

「いやあ、まだまだこれからやで。でも、これもナニワ工務店さんが作る『お金の湧くフロント』のおかげかもせーへんなあ」

「ん……? フロントって、ホテルの? ナニワ?」

「ちがうちがう。関西の銭湯はホテルみたいにフロントがあって、一休みできるソファがあるところが多いねんな。常連客同士で話したりくつろいだりする大事な場所なのよ」

 

朝日温泉のフロント。番台が広く、一休みできるソファスペースも併設。

「ああ、なるほど。でも、それと儲かることに何の関係性が?」

「このフロントも含めてうちを施工してくれたのが『ナニワ工務店』っていう銭湯専門の施工業者で、関西の銭湯好きからも一目置かれる存在やねん。銭湯が商売していけるのも、ナニワさんのおかげでもあるってワケ」

銭湯専門の施工業者……!? 考えてみたことなかったけど、言われてみればホンマっすね。風呂好きとしてはめちゃくちゃ気になる!」

「うちの近所に本社があるから、話聞きに行ってみたら? たぶん、おもろい話をいっぱい聞けると思うで」

「よし、ちょっと行ってきます!」

 

と、いうわけで、お金の湧くフロントを作る銭湯専門の施工業者、「ナニワ工務店」さんにお話を伺ってきました。

 

 

話を聞いた人:上村 英輔(かみむら えいすけ)

 大学卒業後にゼネコンに就職。同期入社だった、ナニワ工務店の先代社長の娘さんと、恋に落ちる。結婚を機に、ナニワ工務店へ転職。平成16年より二代目社長就任。

 

クリーンな設計で、お金の湧く銭湯を作り上げる

社長、今日はよろしくお願いします。いきなりすぎて、恐縮なんですが……」

 

「『お金の湧くフロント』って、一体なんなんですか」

「ホンマに、いきなりですね」

「朝日温泉の田丸さんが『ナニワ工務店が手掛ける銭湯は、商売繁盛する』と、おっしゃっていて」

「お金が湧くフロントですか……ずいぶん仰々しい説明ですが、田丸さんらしい例えですね(笑)。おそらくそれには銭湯を明るい場所にするという弊社が掲げているモットーが関係していると思います」

銭湯を明るい場所にする?」

「例えば、古くからある酒場の入り口を想像してみてください。まずは、暖簾があって、奥には磨りガラスだったり、そもそも扉にガラスすら付いていない木製の引き戸だったり。これって正直、入りづらくないですか?」

「たしかにはじめて訪れた店となると、ちょっと入りづらいかもしれません……」

「そう、銭湯もそれと同じ。閉鎖的な空間ってお客さんが入りづらいんですよ。朝日温泉はかなりわかりやすい例だと思うんですが、弊社で設計する銭湯は、基本的に外装を全面ガラス張りにしているんですね」

 

朝日温泉の外観。一面ガラス張りで、外から中の様子がひと目で分かる。

「たしかに外から光が入るから、フロントが明るいですね。それに、中にどんなお客さんがいるのかも見えます」

「そう、外から建物の中が見えることで心理的なハードルが下がって、お客さんが気軽に入りやすくなる。田丸さんが『お金の湧くフロント』と例えてくれた理由はここだと思います」

「なるほど〜! ちなみに、銭湯といったらやっぱりお風呂が大事な設備ですが、内装部分で『これぞ、ナニワ!』な、こだわりはあるのでしょうか」

「外装と同じように、すべての設備やデザインにおいて閉鎖感を排除するように徹底しています。例えば、照明を高い位置に置いて空間を明るくしたり、天井を高くして開放感を感じられるようにしたり。あとは、湯船に丸みをつけて柔らかさを演出したりなんてことも考えてますね」

 

朝日温泉は露天風呂やサウナといった設備がギュっと詰まっているのに関わらず、窮屈さを感じない

「こだわりがすごい……。どうしてそこまで徹底しているのでしょうか?」

「銭湯は『気持ちよくなるために来る場所』ですからね。僕たちは銭湯専門の施工会社として、そのための努力と工夫は惜しみません。それに人が集まれば、当然売上も上がる。その結果がひいては銭湯文化を守ることに繋がりますから」

「まっすぐな理由だ……。素敵ッス」

新築銭湯を一年で40軒!リアル・シムシティな昭和の銭湯づくり

 

80年代に作られた、会社パンフレット。ファッション雑誌のようなスタイリッシュな佇まい。

「そもそもナニワ工務店さんは、どうして銭湯専門の工務店になったんでしょうか?」

「それは当時の時代背景が関係しているんです。弊社が創業したのは今から66年前の昭和29年、当時はまだ浴室がついた住宅は珍しく、各市町村には必ず銭湯がありました。そのため、先代の家系も銭湯経営者が多かったそうです」

「ほえ〜!」

「大学で建築設計を学んでいた先代は、卒業後にツテや経験がないまま始めた自ら工務店を立ち上げました。ただ駆け出しがゆえに、設計・施工を任せてくれるようないい取引先になかなか出会えなかったようでして……」

「なるほどなあ。でも、仕方ない理由ではありますね」

「で、どうしたものかと悩んでいたとき、まずは身近な人たちからの依頼を受けようと、親族のツテで銭湯の修理や施工を請け負うようになりました。今でこそ銭湯も少なくなりましたが、当時は銭湯ブームの真っ只中。大阪府下だけでも2400軒はあったと言われていて、仕事は溢れんばかりあったそうです」

「2400軒!? 完全に湯ートピアですね」

「そう、完全な湯ートピア。銭湯ブームがピークを迎えていた1965年ごろ、弊社でも一年で約40軒ほどの新築工事を承ってました。なかには空き地に銭湯を建てて土地とセットで販売する建売式もあって、飛ぶように売れていたそうです

「一年で40軒って、単純計算でも一ヶ月に3軒ペースってことですよね。当時の銭湯人気が伺い知れます」

「当時の銭湯は今と比べて、設備もかなりシンプルな作りだったんです。風呂なしが当たり前の時代ですから、それでも十分に人が集まりました」

 

朝日温泉改修前の設計図。こちらも6〜70年代にナニワ工務店が建売で販売した銭湯のひとつ。

「それくらい銭湯はその土地にとって必要な施設だったと」

「さらにいえば、銭湯は未開の地に建てることが多かった。先ほども言った通り、当時、銭湯は市民にとって生活に重要なインフラでした。では、銭湯が建つとその土地はどうなりますかね?」

「どうなるんですか……?」

 

「銭湯を中心に人が集まるんです」

「ひ、人が集まる!?」

「『公衆浴場』というインフラが整うことで、そこが人の住める場所になるんですね。だから、銭湯が建ったらその周囲に家が建ち、集落となって発展していったそうです

「もはやシムシティですね。自分の作った銭湯をきっかけに人が集まるなんて、夢のある仕事だなぁ〜」

「そうですね。それこそ工務店が普段受ける商業施設やマンションのような大型の建物は、大手の設計事務所が間に入っていることが多く、個人経営の小さな工務店は自由が効かない場合がほとんどです

「まぁ、そうなりますよね」

「その反面、銭湯のオーナーは基本的に個人なので、僕らと直でやりとりするワケですよ。だから、攻めた設計も通しやすかった。建築屋にとっては、自由な設計ができるのってすごくやりがいのあることだったんです」

バブル崩壊と共にシフトした、銭湯保守という新たな筋

ナニワ工務店の当時の会社案内。ビジョンはもちろん、未来の公衆浴場のデザインにロマンを感じる。

「とはいえそんな時代も長くは続かないですよね。バブルが弾けるし、家庭にお風呂があることは当たり前になっていくし……」

「おっしゃる通り、僕が入社をした1980年後半ころでも、大阪府の銭湯は全盛期の2500軒から1200軒まで減っていました」

「それにも関わらず、なぜナニワ工務店はいまだに銭湯専門の施工会社として残り続けているのでしょうか?」

「当時銭湯を手掛けていた施工業者の多くは、他の業態にシフトしたり、廃業したり、この煽りに負けて次々と離れていきました。銭湯の数が減ったとはいえ、ライバル業者が減ったことで銭湯のメンテナンス依頼がグッと増えたんです」

「たしかに、頼む業者が減ると仕事が集中するっていうのは、理解できます」

「ウチは銭湯専門で一途にやってきた工務店ですから、他社と比べたら資材の選定や修理の技術には自信があります。イチから銭湯を作ることに比べたら利益率は下がりますが、メンテナンスは設計・施工より、手間や時間がかからない。結果として仕事が無くなることはなかったんです」

 

「ちなみに、いま何軒の銭湯を保守をしているのでしょうか」

「現在、大阪府の銭湯は400軒弱あるといわれていますが、そのうちの200軒を弊社が担当しています」

「ほぼ半分じゃないですか!」

「そうなりますね。昔は、銭湯を作って街を活性化させることが、ナニワ工務店の仕事でした。でも今は銭湯という文化を守るのが、僕らの役目になってきている。そこに優劣はなくて、今でも銭湯に関わる仕事ができているのって、とても誇らしいことだなと思うんです」

「銭湯を専門に一本気でやってきたからこその矜持ですね」

「そのぶん大変なことは増えましたけどね。銭湯は建物にとっての一番の天敵である『湿気』と常に共存する運命なので、老朽化は避けられない。配管がダメになった、ボイラーが壊れた、浴槽から水漏れが……となったら営業ができませんから、修理の依頼が深夜にあったとしても、その日のうちに全て手配して早朝から施工する、みたいな現場も少なくありません」

「僕たちが銭湯を楽しむ陰にはそういった人たちの努力があったんですね……。今は一から銭湯をつくったりすることはないんでしょうか?」

「そうですね、最近はなかなかそういう機会も減りましたね。でも先ほど話題に上がった朝日温泉さんは、2007年に総工費1億3000万円のリニューアル工事をさせてもらいましたよ」

「銭湯で1億3000万!」

「朝日温泉さんのように気合いの入ったオーナーさんからの依頼には、僕らも全力で応えたい。あーでもない、こーでもないと議論をしながら、図面を7回引き直しました(笑)。でも、結果としていい銭湯を作れたと思っています」

年々減り続ける、銭湯とその未来

「最近、銭湯が廃業するという話を耳にする機会が増えたような気がします。このまま減り続けていくと、いつか大好きな銭湯が無くなってしまうのではないかと不安で……」

「銭湯好きの方ならそうですよね。残念なことですが、数はこれからも減り続けるのはやむを得ません。ただこの先、完全に銭湯が無くなることはないと思います」

「それはなぜでしょうか?」

「銭湯は斜陽産業ですが、なにも無謀な商売じゃないんですよ。例えば飲食店だったら10人来たら10人分のコストがかかりますよね。でも銭湯はそれと違って、利用者数で原価コストにそこまで変動がないこれは他の業態にはなかなかないことです」

「『今日はお客さんが少ないから水量を少なめにしよう』とはいかないですもんね。とはいえ設備投資やメンテナンスにお金がかかるわけですよね? 500円ポッチのお金で回収できるのだろうかと毎回不安になるのですが……」

「もちろんどこの銭湯も血の滲むような努力をしてなんとか売上をつくっていることは間違いありません。でも理屈だけで言えば、銭湯はある一定のラインさえ超えれれば、利用者が増えれば増えるほど利益が上がる仕組みなんです。昔、銭湯経営ブームがあったのも、こういった背景が一つの理由でした」

「なるほど……!ちなみに当時は銭湯に1日何人くらい来ていたんですかね?」

「日に1000人、規模によっては2000人来るような銭湯がザラにあって。特別なことをしなくても、アホほど儲かったみたいです(笑)」

 

(笑顔が物語ってるな……)

「とはいえ人が増えたら儲かるということは、人が減ったらその分利益は落ちる厳しい世界です。そんな簡単な話ではありません。でも最近は、朝日温泉の田丸さんサウナの梅湯の湊さんなど、全国各地に若くて、ガッツのある銭湯経営者が増えました。そういうパワーのある銭湯には人が集まりますよね」

「彼らのような銭湯経営者が増えていけば、守っていける文化だと」

「そうですね。あとはやっぱり、僕たちのような『銭湯を裏で支える工務店』が倒れないことですね。その二者がいれば、銭湯文化はこれからも残っていけるはずです」

「くぅうう、シビれます! ちなみに、ナニワ工務店には、情熱のある若手はいるんでしょうか」

「実は昨年、20代のスタッフが入社しました。彼は筋金入りの銭湯好きでね。未来のナニワを背負ってもらうのは、彼になるかもしれません(笑)」

「いつかその彼が施工したお風呂に入れたら最高な展開ですね。めちゃくちゃ、楽しみにしてます。話が面白すぎて、ノボせそうになっちゃったなぁ」

銭湯の防人「ナニワ工務店」はロジカルで、情熱的なスーパー工務店だった

 

ナニワ工務店の創業から66年。銭湯ブームの後押しもあって、大阪府下に数多の銭湯を作ってきました。しかし、バブル崩壊後には銭湯ブームも過ぎ去り、今まで通りのスタイルで会社を続けるのは難しい時代に。

 

しかし、そんな逆風に負けず、作り手から守り手へとシフトすることで、今でも銭湯専門の工務店として第一線で活躍しています。

 

銭湯を存続させるには、情熱のある銭湯経営者や、銭湯好きが大切であると同時に、それを支える工務店の存在もまた、銭湯文化を守る上で重要なピース。

 

僕らとは別の角度で銭湯を守り愛するナニワ工務店の姿勢に、イチ風呂好きとしてハートを打たれまくりました。ナニワがなかったら、今よりもっと多くの銭湯が廃業していたかもしれません。

 

ちなみに僕は、この取材のあと、銭湯の設計施工にも興味が向いて「浴室のデザイン鑑賞」という新たな入浴時の楽しみが生まれました。銭湯を守る工務店さんに思いを馳せながら湯に浸かるって、かなりイイんですよね〜! 試してみてほしい!!

 

最後になりますが、ここまで記事を読んでくださった皆様に、熱く温冷申し上げます。

これからも僕らの愛する銭湯を、みんなの力で守り続けていきましょう!

 

それでは僕は今から、ひとっ風呂浴びてきます!

 

撮影:山元祐人