「編集者」という役割から逸脱する高木さんの役割
「そもそも高木さんは『和樂』においてどんな役割を担ってるんですか?」
「僕、実は、今は雑誌『和樂』の編集長ではなくて。ウェブと、商品開発と、コンサルティングの担当になってますね」
「商品開発やコンサルティングというのは、本来は、編集者の役割ではないですよね。むしろそこからどれだけ逸脱するかを楽しんでいる方なのかな?って想像したんですけど」
「極端に言えば女性誌みたいな雑誌って、『広告の枠をこれだけ売れば収益が立つからオッケー』という世界だったんですけど。今はそれだけだと立ち行かないことが多くなってきているんです」
「雑誌業界全体の売上が落ちてるっていう話」
「だからさらに、読んでくれる方々を巻き込んでいく場も一緒につくらなきゃいけないんですね」
「なるほど。場づくりまでやるのが編集者の仕事になってる」
「最近だと、日本経済新聞社と『浮世絵2020』というプロジェクトを立ち上げて。そこに参加くださる方々や企業を募っています。あとは、カップヌードル入れをつくったときも、たまたま同時期に京都国立博物館で国宝展をやることが決定したんです」
「たまたまの引き寄せがすごい」
「それで、じゃあ小学館でも国宝プロジェクトをやろうということで『ニッポンの国宝100』というウィークリーブックをつくり始めました。これは日清食品やJR東海が国宝応援団に参加して盛り上がったので、売上的にもいい形になっていきました」
※ウィークリーブック=小学館の週間の雑誌
「つまり、商品を開発して、展示会等のプロジェクトをつくって、セットで企業に協賛してもらったりして売上をつくっていくっていう形なんですね」
「うん。たぶん、2020年は浮世絵が盛り上がると思うんですけど。全国47都道府県と浮世絵のコラボグッズをつくりたいなと考えていて、今は、スポンサードしてくれる企業を探している段階です」
「聞けば聞くほど編集者という仕事から逸脱していますね(笑)」
「…僕が最近やっていることは、出版の仕事ではなくなってきていますね…」
「うんうん」
「出版の仕事ではないことをやっているから、『なんでこんなことをやっているんだ』って思っている人もいるでしょうし。そういう意味では、2日に一度は心が折れてます(笑)」
「月15回。めちゃくちゃ折れてる!(笑)」
心が折れすぎて、めちゃくちゃ笑っている高木さん
「雑誌というメディアとしてだけ考えると、やらなくていいことをやっているので、どういうふうにモチベーションをつくっていくかというのは…なかなかハードなんです」
「勝手なイメージなんですけど、出版業界自体が、本業以外をやることを好まないという印象もあります」
「そうなんですよね。でも、最近はみなさんやっぱりそれじゃダメだっていうことに、気づき始めてますよ。外資系も、そうやって多角的な事業の走らせ方をしてるし」
インフォメーションからメッセージを発信するべき時代に
「今回、このジモコロ編集長シリーズをやる上で、ジモコロ編集部としては、『最近、雑誌、めちゃくちゃ気合い入ってない?』みたいな仮説がありまして」
「はい」
「そもそも徹底的につくり込まれることが前提の雑誌という媒体が、今、ウェブが出てきて変わらきゃいけないタイミングで、時代に合わせて変化しているんじゃないかなと」
「紙の編集者ってずっと意識してると思うんですけど。自分たちがつくっていたものって、ウェブが今のように広がる前は、『インフォメーション』だったわけです」
「情報だったと」
「高級なインフォメーションなのか、意味のないインフォメーションなのか、いろいろあったとは思うんですけど、インフォメーションであることには変わらなかった」
「今はどうなっているんですか?」
「今はそれが、メッセージになりつつあって。『情報じゃなくて、メッセージを売っていかなきゃ』というところに、みんなだんだん、思い至り始めていると思います」
「ほうほう」
「どんないい情報だろうと基本的には無料に近づいていくときに、『じゃあ何が売れるんだ?』と考えると、メッセージなんじゃないかって考えている人が多いんです」
「高木さんにとっては、そのうちのひとつが異種格闘技だったりとか」
「はい。一方で『和樂web』では、現状は割とその真逆のことをやっています。ウェブって『メッセージ性』をものすごく伝えにくいメディアですよね」
「よく言われるのは、雑誌のようにパッケージで見せられるわけじゃないから、記事とかページのひとつひとつでインパクトを出していくしかないっていう」
「『和樂』の話をすると、今は過渡期なんだと思います。紙とウェブ、どちらも見れるディレクターが必要なんですけど。今はまだウェブの基礎を育てなくてはいけない段階なので、僕がウェブを担当する形になっていますね」
「高木さんの考える『紙とウェブの違い』って何かありますか?」
「これは『メッセージ性』にも通じるんですけど、ウェブメディアは見てくれる方が、基本的にはすごく受動的ですよね」
「はい」
「でも雑誌を読む行為は能動的」
「雑誌は、受動的に読むってことがありえないですもんね」
「そうそう。本屋に行って、本や雑誌を買うってことがまず能動的ですよね。さらにページをめくることも能動的」
「たしかに。雑誌を読むことって、情報の摂取の仕方としてウェブと全然違いますよね。咀嚼回数が多いというか」
「受動性が高まると、ディティールがすっ飛ばされるんです。だから、みんなあらすじしか追わないようになる」
「ウェブ記事は、見出しと太字の箇所だけで意味が通じるようにしろ、みたいなことよく言いますね」
「その受動的なものが、どこかから能動的になるポイントがあるんじゃないかな…ということを今考えています。探している最中ではあるんですけど」
「結論はまだ出てないと」
「はい。ただ、受動的な入り口としては、ウェブはいいんですよね。だからこそ『日本文化の入り口マガジン』である『和樂』としては、どんなことができるんだろうと、模索し始めたところですね」
尊敬する編集者、芝田暁
「最後にちょっと聞きたかったことなんですけど。尊敬する編集者さんっていますか?」
「います。芝田暁(しばた あきら)さんという方で。大月書店、徳間書店、幻冬舎で書籍編集者をしていた方で。僕はその方に編集のすべてを教えてもらいました」
「今は何をしている方なんですか?」
「その後、ポプラ社を経て、今は朝日新聞出版にいます。僕が、芝田さんが編集された本で一番好きなのが、梁石日(ヤン ソギル)さんの『血と骨』なんですけど。一度、新宿のスナックで芝田さんと梁さんとご一緒させていただいたことがあります」
「すごい機会ですね」
「芝田さんなんて当時まだ35、6歳でしたけど。ふたりともハードボイルドで、カッコよかったですよ。両切りのピース(タバコの銘柄)をコンコン、ってやって。その傍らでは、梁さんがカラオケで軍歌を歌っていて(笑)」
「魂を燃やしてる感じ」
「そうですね。芝田さんとお付き合いさせてもらうようになって、スナックでの姿とかを見て、『これまで上っ面でやってたな』って思いましたね。自分は真の意味で編集にはなれないので、じゃあ自分が雑誌でできることってなんだろう、と考えたときに、自分の頭の中を雑誌に詰め込んで、読者の方に受け取ってもらうことだって思ったんです」
さいごに
プロレスとアントニオ猪木に影響を受け、「異種格闘技路線」を雑誌に取り込み、編集に留まらず商品開発やコンサルティングの仕事まで、自分の肩書きの幅を飛び越えてきた高木さん。
最後に、尊敬する編集者である芝田暁さんとのお話を聞いて、『和樂』の企画と編集の真髄をちょっとだけわかった気持ちになりました。自分をさらけ出して、頭の中を、つくるモノに詰め込む。
高木さんは、自分の腹を割って、その中身を雑誌に詰め込んでる。棺に縄文土器、孫の手…その頭の中は、掘れば掘るほど、興味深い…。
ゆえに…もっと高木さんの頭の中をもっと伝えたい!
けど、ヤバい話が多すぎる…。
冒頭で触れた
・エンディングというテーマはライフワーク
・父と祖父が蒸発
には、辿り着けませんでした…。
というわけで、話が盛り上がりすぎてインタビューが2時間を超えちゃったこともあり、続きは後編で。
明日公開予定の後編では、高木さんの半生を通して、その死生観に迫ります!
あなたのシェアを助ける! 編集部おすすめ文言3選
・「歌舞伎vs世界のエンタメ」特集は、アントニオ猪木の「環状八号線理論」に通ずる
・雑誌業界の変化とともに、読んでくれる方々を巻き込んでいく場も一緒につくらなきゃいけない
・これからの雑誌は『情報じゃなくてメッセージを売っていかなきゃ』と、みんなだんだん思い至り始めている