「じゃあ、棺に入ります。すでに人生で初めての感情が生まれています。何を思えばいいのかわからないです」
「実は、棺に入ると長生きできるって言うんですよ。真面目な話、死ぬことを想像したらまだやり残したことがあって、がんばって生きるんじゃないかなと思います」
「死を想う…ということですね。ってことで、おじゃましま〜す」
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「甦った感がすごい。これは本当にすごい体験。めちゃくちゃいい体験でした。うわあ。生まれ変わった気持ちです」
無事に生還…。
当たり前ですが棺の中に入るのは初めて。暗くて、光がなくて、何も見えない世界。怖いかと思いきや…そんなことはまったくなく。
カプセルホテル?酸素カプセル?日焼けサロン? 狭くて暗い体を覆うような空間に入ったことはあっても、棺の中にいる感覚は、他のどれともまったく違っていました。
静かで、心が落ち着く世界。
誰にもジャマされない。
ただただ心と体が癒やされていく感覚…。
訪れる心の平穏…。
棺は経費で落ちる。葬儀に関するお金の知識
「疲れたでしょうから、お弁当食べてください」
「ええええ。いただいちゃっていいんですか?」
「どうぞどうぞ、ごゆっくり」
「しかもめちゃくちゃ豪華だし」
「動画でも見ながら」
「動画!?」
動画の「クオリティの高さ」と「テンションの高さ」に、シンプルに引くふたり。シンプルに
「棺屋としての共栄という名前はだんだん売れてきているところはあると思います。というのは、カプセル棺の普及が、東京はすごく早かったんですよ」
「カプセル棺?」
「棺が扉ではなくて、透明の窓になっているタイプのものなんです」
「へえ〜! 全国に棺をつくっている会社って、何社くらいあるんですか?」
「今は中国製が主流なんです。もともと日本に工場のある会社は10社あるかないかなのかな。でも、輸入になってからは一気にライバルが増えましたよ。日本に10社だったのが、今は県に10社はライバルができたくらい」
「さっき工場で豪華な装飾のある棺とかも見せてもらったんですけど、ああいうのっていくらくらいするんですか?」
「職人のつくる一枚の木から彫り出すものは、400万から」
「400万!? 亡くなった故人をおくるのに、それだけお金をかけたい人たちがいるってことですね」
「社葬などになると、葬儀代金なんかが経費として見てもらえるんですよ」
「なるほど…! そういうお金の流れがあるんですね。家族が亡くなって葬儀のときに、『棺はどうしますか?』って葬儀場の方が説明するってことですか?」
「葬儀場の担当の方が、棺や霊柩車、祭壇をセットで提案することが多いようですね」
高い技術力で葬儀の「ストーリー」を手助けする共栄
「共栄さんの棺と、他社の棺の一番の違いってなんなんでしょう?」
「『気持ちが入ってる』と自分たちでは思いますけど、それは目に見えないですからね。デザインが違うというのも大きいです。あと葬儀は、ストーリーがあってこそのものなんです」
「ストーリーがあってこそ?」
「たとえば、故人に親しい人がメッセージを入れられる棺をつくったんです」
「メッセージを入れる!」
「素朴な疑問ですけど、これって真似できないんですか?」
「デザインはある程度真似できちゃうところはあるんだけど。技術的につくりが難しいんです、そう簡単には真似できない」
「共栄さんの技術があってこそできるものなんですね。なぜ共栄さんはそんなに高い技術を持ってるんでしょう?」
「共栄はもともと、材木屋でした。だから家具職人たちの技術が、棺に活かされているんです」
「たとえ真似されたとしても、営業力が高いから、つくって、売るところまでできると」
「いいものを、営業のみんながしっかり売ってくれるから、共栄があるんです」
取材時には、営業本部長の福田さんも話を聞かせてくれた
「組織力も高い……。そうやって一生懸命つくって売ったものを、最終的にはすべて燃やすと考えるとなんかすごいですね……」
「うん。棺は、故人をお骨にするための道具なんですよ」
「葬儀のあと、代々手を合わせるご先祖様になるわけですもんね。倉庫にあるものを見させてもらうと家具を見てる感覚ですけど、葬儀会場で見たらまったく違う印象です」
「コストとバリューの違いといいますか。『燃やすもの』って考えるとコストに思えるけど、実際は『大切な人をおくるもの』なので、バリューのあるものをつくりたいですね」
「燃やすことで本当の役割を果たして、バリューを出せるという」
「葬儀って誰のためにあるんだろうとよく考えるんです。故人のためでもあるし、残された人のためでもあるし」
「残された人の気持ちが楽になるとか、両方ありますね」
「祖母の葬儀のときに『いい棺だね』って言ってもらえて『きちんとおくってあげられた!』と思ったんですよ。すごく気持ちが落ち着いて」
「それが葬儀の意味なんですね」
「はい。自分が祖母をおくって『葬儀ってこれなのかな?』って思ったんです。残された人の気持ちの整理のためでもある」
「初七日法要、四十九日法要も、気持ちに区切りをつけるためにあるんでしょう」
「亡くなったときはもちろんすごく悲しくて。で、そのあと納棺されて、火葬される。3回、心を整理するタイミングがあるんですよね。棺というのは、その間をつなぐものなんだと思います」
「なるほど。生と死の中間じゃないですけど、棺は、橋渡し的な役割を持っているんですね……」
さいごに
共栄のみなさんにお話を聞いていると何度も「仲間たちのおかげ」「お客様のおかげ」「みなさんのおかげ」という言葉が出てきました。
ひとりよがりに考えず、自立しながらも、自分の手柄とアピールせず、常に先人に感謝を伝える。
まさに、「一生悟るな。常に勉強しよう」という莫妄想の姿勢。
「ご先祖様に感謝する」みたいな気持ちを「古い」と言う人もいるかもしれませんが、棺や葬儀業界のことを知り、人が生きる上で大切なことを思い出すきっかけになりました。
取材協力=共栄 http://kyoei-casket.co.jp/
撮影=小林直博