衝突、変化、そして未来へ

1935年に日本政府によって萬華に建てられた「新富市場」は、1950年から60年代にかけて全盛期を迎えましたが、人々の生活習慣の変化によって90年代以降はほぼ休止状態に。そして、2006年に古跡に指定されてリノベーションされ、現在は「U-mkt(新富町文化市場)」という名で、都市の文化的開発を行う忠泰建築芸術文化財団法人によって管理・運営されてきました。

 

 

U-mktのミッションは、新富市場の歴史や、隣接する東三水市場で培われた文化を未来へ引き継いでいくこと。そのために、広くまちづくりの視点を持って様々な取り組みを行っています。

 

すでに8年目となったそんなU-mktの取り組みは、伝統的市場にどんな萌芽を生み出しているのでしょうか?

 

U-mktのプロジェクトをリードしてきたディレクターの洪宜玲(イーリン)を招いて話を伺います。

 

忠泰建築芸術文化財団法人 ディレクター 洪宜玲

 

「U-mktで毎年新富市場が培ってきた『食』や市場の歴史に関する展示会や、料理教室などのワークショップなど、隣接する東三水市場と連携する形で様々なプロジェクトに長年この場所で取り組んできましたよね。そうした経験を経てイーリンは今、『市場』はどのようなものだと感じていますか?」

「今の社会においても『市場』はコミュニティの形成や維持に、欠かせないものではないかと感じ始めていますよ。以前はそんな風に感じていなかったんですが」

「Brianと同じ意見!それはどういった体験で変化したんでしょうか」

「U-mktのプロジェクトに参加して以降、私は週に一度のペースで市場で買い物をしています。今では行きなれた市場のはずなのに、いつも新しい知り合いが増えるんです。こんなこと、他の場所ではなかなかない。不思議ですよね」

 

「それは友達や知り合いができるのとは少し違った感覚ですか?」

「距離感は近すぎない、でもお店の人が私のことをちゃんと覚えてくれている。そうすると、知らないうちにこの街で暮らす安心感が生まれてくるんです」

「それでも最初に市場に訪問するのはちょっと勇気がいるじゃないですか。全く市場を訪れたことがない人に対して、U-mktではどういうアプローチでそのきっかけを提供していますか?」

「そうですね。市場で演劇をやったり、アーティストを呼んで住民と一緒に仕事をしたりいろいろです。とにかく、どのようなアプローチなら日常と非日常の空間が混ざり合うかを実験しています。でも実は、若い世代に『来てもらう』きっかけをつくるのと同じくらい、市場の出店者にも働きかけを行っていくことが大切だと考えていて」

 

Photo credits to 忠泰建築文化藝術基金會(JFAA)

 

「どういうことでしょうか」

「例えば出店者を対象に、商品の見せ方や、SNSの使い方をテーマとしたワークショップを開催したことがあります。出店者は高齢の方が多いので、自然とお客さんも高齢の方が増えます。だから、今の時代に沿った、新しいサービス提供の仕方を勉強する機会をつくることが、市場を利用するためのハードルを下げるのではないかと思うんです」

 

Photo credits to 忠泰建築文化藝術基金會(JFAA)

 

「なるほど、きっかけづくりも大切だけど、まずは時代にあわせて『市場のことも変えられることは変えていこう』ということですね」

「そうです。きっかけづくりと、市場の出店者の変化。そのふたつが混ざり合う場として、昨年から若い世代のブランドと、市場の出店者が共存できる『有楽市』というマーケットイベントをスタートしました。世代を越えて、自然と交流する機会をつくりたくて」

 

Photo credits to 忠泰建築文化藝術基金會(JFAA)

 

「古いものと新しいものをゆるやかに融合させていくアプローチは、どちらかだけに『頑張れ』というものではなく互いに歩み寄る感じがいいですね!」

「新富町文化市場は市場の方と外部のつなぎ役を担っていますから。双方向に働きかけてグラデーションをつくることが私たちの役割です」

「今まで、僕はローカルをテーマとした刊行物やプロジェクトをたくさんやってきましたが、そういった地域社会との絆を作るのが一番難しいポイントだと感じています」

「はい、一筋縄ではいきません(笑)。時間をかけて行ってきました。でもその中に葛藤や出会いがあるからこそ、人は未来を考えるきっかけを得ることができるとも思うんですよね」

 

 

おわりに

実は20年以上も台北に住んでいる私ですら、「この街はこんなにも多くの顔を持っていたのか」と今回の取材の中で気が付かされました。普段、何気なく過ごしている街の中に、まだ訪れたことがない場所や、聞いたことがないストーリーがたくさん転がっていたからです。

 

取材を終えた今、どんな街にも「予期せぬサプライズがある」と確信しました。そう感じたのはやはり、連載のテーマを「市場」にしたからというのが大きいのだと思います。

 

市場が昔から地域や人々の生活を支えてきたことは、ここまで記事を読んでくれた方には確実に伝わっているはずです。そうしたエリアを深く知るということは、集積された営みに触れていくことにほかなりません。

 

またそうした営みを求めて、一緒に台湾の知らないエリアを覗きに行きましょう!

 

次は台北から来るまで約1時間半、おそらくあまり観光では訪れることがなさそうな新竹を訪問します。

 

「強風」が有名な街、若者の移住によって文化が生まれつつあるあちらの市場にはどんなストーリーがあるのか今からワクワクしています!

 

編集:堤大樹/くいしん
撮影:堤大樹
イラスト:小林ラン

 

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