話を伺ったのは江口泰史(えぐち・やすふみ)さん。不動産再生・開発・運用の仕事をする会社『Addit』の代表でもあり、筆者の飲み友達でもあります。

 

話を聞いた人:江口泰史さん

熊本県宇城市三角町出身。港町でスクスクと天真爛漫に育った4人兄弟の長男。映画配給会社『GAGA』に勤めた後、Uターンで熊本へ。2016年3月に不動産の再生・開発・運用をする会社『Addit』をスタート。

 

とにかく美味しいものに溢れる街、熊本

「江口さんと初めて出会ったのって、Uターンされたばかりのタイミングでしたよね!」

「そうそう。あの時ミニ子ちゃん(※江口さんによる筆者の呼び名)はまだ20代前半で、フリーペーパーの編集部にいたよね。いつもしんどいです!って顔してた(笑)」

「あの頃は、ですね…いまは元気です(笑)! でもお互い、美味しいものに対する嗅覚が半端なくて、最近では中華料理店でよくご飯をご一緒しますよね。私が今回選ばせていただいた10選、いかがですか?」

「ミニ子ちゃんらしいよね。トレンドと絶対的な美味しさとカレー。そして僕も通ってるワインショップ『Quruto』さん。2016年に『Quruto』が熊本に誕生したことによって、ナチュールワインっていう言語が熊本でも広まって、それをベースにした飲食店も続々できたよね。『peg』『トキワ』『バルール』『8-otto-』とかね」

「増えましたね〜」

「元々あった『瑠璃庵』『KIJIYA』もすごい進化したと思う。そしてどこも、ごはんが美味しいんだ」

「私、お酒が弱いんですけど、ナチュールワインってだけでなぜかぐいぐいいけるんですよね。ワインを飲んでるんじゃなくて、カルチャーをいただいてるような…」

「わかるわかる。同じスタンスで営業している飲食店同士、仲もいいし、コロナ渦でもみんな支え合ってる。常連もお店に食べに行くし、みんなが守ろうとしてるっていう風潮もいいよね」

「不思議なのが、全部『上通』と『並木坂』の界隈にお店が集まってるってことですよね」

「そう! 僕の食の好みに合うお店、なぜか全部上通や並木坂なんだよね。コロナ禍以降、下通り方面の飲食店に行かなくなっちゃった」

 

熊本市の街なかは下通に大型店やチェーン店、上通に個人店が多いよね。どうしても夜に賑わうのは下通で、上通は一歩通りを外れたところにいい店がずらっと並んでたり。そういう通りごとの特色も面白いなと思う」

「熊本市でいうと、最近駅前に大型商業施設の『アミュプラザ』が誕生しましたよね。行かれました?」

「仕事柄、気になるので5回くらい行ったかな。一言でいうと“雰囲気のいいショッピングモールができたな”という感じ」

「それって、街で生きてきて、街を愛する人にとっては、少し寂しさと街への誇りみたいなものを感じてるってことですよね。もちろん、ショッピングモールの便利さも大切なんですけど」

「そうだね(笑)。やっぱり人の顔がしっかり見えて、その土地ならではのストーリーがあって、多様性に富んだこの街が、みんな好きじゃん」

「福岡の田舎町から熊本市に出てきた時に、この街に圧倒された事を思い出しました」

「へえー! そうだったんだ」

「個性が溢れてて、賑やかで、ストリートスナップのカメラマンやサロンモデルを探す美容師が街なかのあちらこちらに立ってて、いい意味で皆がドヤ顔で歩いてて。当時は古着文化最盛期って感じで、結構はちゃめちゃなスタイルの人たちが楽しそうに闊歩してて。田舎者にとっては、ギラギラしたこの街がすごく刺激的に映ってましたね

 

古きよきものを生かし、新しい物を受け入れる。人生も仕事も同じ

「今回話を伺わせてもらってる『啄木鳥(きつつき)』さん。熊本市の喫茶店の中でも、大好きなんですよ。こんな場所の上にオフィスがあるなんて本当に羨ましい」

「いや〜、実は今年の4月から、僕のオフィスも啄木鳥も入ってるこのビル、『上通りスカイハイツエクセル』の管理組合の理事長になったんだよね」

「え、なんでですか?」

「元々このビルは、やがて50年になる古い分譲マンション。この建物が好きで、リノベーション物件を数件手がけて、その一角にオフィスをつくったんだよね。今では服屋や花屋も入って、全体的に理想の雰囲気になりつつある。全体にどうすればよくなるかな?と住民と話している流れで、高齢の前理事長と交代で理事長になっちゃった」

「でしたら、これからもっと楽しくなりますね! オールドビルの再生、わくわくします」

「社名も、古くて使われていない建物に価値を加え(added)、編集(edit)することで、人びとが再活用しやすいようにしていくという意味を込めて『added』+『edit』= 『Addit』なんだ。熊本市って城下町だから、古い建物が他の土地よりもすごく残ってる

「そうですよね。街を歩いてても実感しますもん」

そんな古い建物やどうしようもない土地を買って面白い建物を建てて、テナントを誘致したり。この場所ももっと楽しい場所にしていくよ」

 

「啄木鳥さんはどんな時に行きますか?」

「マンションの管理組合の理事会と、ちょっと息抜きしたい時。いつもはホットコーヒーだけなんだけど、たまに食べたくなるのよ、ここのホットサンド」

「シンプルでクラシカルですよね」

「安定感があるんだよね。ちょっと甘めのマヨネーズもコーヒーに合う。マスターが活けたカウンターの花を見ながらゆっくりコーヒーを飲む時間が最高。あとかぼちゃプリンも今日初めて食べたけど、すごい美味しいね」

 

「古い物を大切にしつつ、新しいものを受け入れる。江口さんと話していると、仕事も人生も同じなのかなと思います」

「街の話になると、つい輝かしい昔話をしがちだけど、今の熊本の街も十分輝いてるよね。20代で面白いことを頑張ってる人が最近目に入ってきてて、勝手に可能性を感じてる。変革期かなって思ってるんだ」

「めちゃめちゃわかります。私たちの時代とは少し違うけど、今は今で生きやすくなって、みんな輝いてるなって。時代もあって大切にしていたものがなくなったり、自分の趣向とは違うものが乱立したりしているけれど、それも受け入れていきたいなと思ってます」

「僕らの時代は『頑張るためのパスポート』を手に入れるために、下積みを一生懸命頑張ってた。でも今はすでにノーパスって感じで正直めちゃめちゃうらやましい(笑)」

「時代が変わって、知りたいことやノウハウがネット上にもたくさん落ちているし、能力の上がるスピードが格段に早く簡単になってますね」

「色々なハードルがある意味下がって、何にでも挑戦しやすい雰囲気になってるよね。未来は明るいかなって思うよ」

 

おわりに

熊本市は、2016年の熊本地震で大きな被害を受けました。

それまで好きだった店が今は無かったり、街の風景も変わってしまったりもしたけれど、街も人も、強く生きていくと決めた出来事だったかもしれません。少なくとも筆者はその一人です。

 

古きものも、新しいものも、まるごと素敵だなと思える場所です。

 

コロナ禍で、簡単に「遊びにきてね」とは言えないけど、色々な情勢が落ち着いた時には、美味しいものと文化に溢れた熊本市に遊びにきてくださいね。

 

 

※記事で紹介している情報は、すべて2021年7月末現在の内容です

 

〈「熊本市」観光スポットMAP〉