突然ですがクイズです!

 

 

これは筆者の顔写真なのですが、さて何をされているシーンでしょうか?

 

 

 

正解は……

 

 

 

 

ズブブブ……

 

 

「あ〜〜〜!! あれ!? これは入ってるの!? いや……、逆に出てるの!? どっち〜〜〜!!???」

 

 

「軽い痔ですね」

 

 

 

 

 

 

肛門科も痔もなんなのさ!

多分、日本初の「肛門に指を入れられている男の画像」から始まるWEB記事になってしまい、すいません。ライターのおおきちと申します。

 

冒頭で分かったかと思いますが、僕、10年ほど痔を患っているんですよ!

 

まあ、痒みが出たり、勢いよく便を出した後に拭くとトイレットペーパーに1mmくらいの血がつく程度軽い痔なんですけどネ……。

 

 

というかさ、そもそもってなんなのよ!? お医者様とはいえ肛門なんて見せづらいし、人にも話しづらいじゃない!!

 

痔について俺たちはよく知らなすぎるよ〜〜〜〜!!

 

 

「よし、聞こう!!! 肛門科の権威とされてる人に詳しく話を聞いて、学ぼう!!」

 

 

 

 

ということで今回訪れたのは、茨城県水戸市にあるみと肛門クリニック。病院名については「狙ってはいない」とのことでした。ホントに?

 

 

今回は、日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医の川﨑俊一先生に、

・痔ってどんな種類があるの?

・原因は?

・リモートが多くなってるから痔も増えている?

・痔人口ってどれくらいいるの?

・男女で痔になりやすい比率は違う?

などを聞いてみたいと思います。

 

話を聞いた人:川﨑俊一さん

川﨑胃腸科肛門科病院理事長・院長
日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医
1995年東京医科大学卒。遺伝子治療の研究で博士号を修得、東京医科大学茨城医療センター消化器外科、肛門専門病院での研修などを経て、2014年より現職に

 

▲診療と取材を同日に行いました

 

「本日はよろしくお願い致します! 先ほどは診察をありがとうございました」

「いえいえ。おおきちさんは慢性的ないぼ痔ですね。また、たまに血も出るということから、便が硬いと肛門が切れてしまう切れ痔も持っているかと思われます」

「ええっ、Wの痔? 僕、ダブ痔なんですか? 出血があったので切れ痔だという自覚はあったんですが……」

 

いぼ痔とは……

いぼ痔には2種類あり、大まかに言うと肛門内部にできる内痔核と、外にできる外痔核があります。

急性外痔核は肛門の外側に血まめができた状態。原因は便秘や下痢、アルコールや辛いものの摂り過ぎ、また長時間歩いたり座りっぱなしだとなることが多い。冷えやストレスも大敵。

かなり痛いが、出血は少ない

内痔核は痔の中で一番多く、便秘の人やトイレ時間が長い人、排便時のいきみが強い人などがなりやすい。また、妊娠や出産がきっかけで起こりやすくなるそう。

痛みはほとんどなく排便時に出血したり、肛門から脱出↓して気がつくケースが多い。

 

※内痔核は内部にだけとどまるのではなく、進行すると外に出てくる

 

切れ痔とは……

便秘などの硬い便を無理に出そうとして、その刺激で切れることが多い。便秘がちな女性に多く見られる。慢性的な下痢による炎症として起こることも。

排便時に激しい痛みと出血あり! 排便後もしばらく痛んだりする。

 

痔瘻(痔ろう)とは……

肛門内部に大腸菌などが感染して炎症し化膿する状態(肛門周囲膿瘍)を何度も繰り返し、最終的にトンネルのように貫通してしまった状態。

下痢やストレスなどによる免疫力の低下が原因になることも。また、肛門括約筋の強い男性は痔ろうになりやすい。

肛門の周囲の皮膚が腫れて痛む(熱が出ることもある)。膿が出る。治療は基本的に手術になる。

 

「自分がどういう痔なのかは、一度ちゃんと診察を受けたほうがいいですね。イボがあるからいぼ痔というのも思い込みで、実は切れ痔の“見張りイボ”という可能性もあります」

「見張りイボ?」

「肛門の切れた部分が(硬い便などにより)慢性的に刺激され、傷の先端の皮膚がイボ状に盛り上がったもののことです。この場合、イボっぽいものはあるけど切れ痔ということになりますね」

「ややこしいっ! もういぼ痔でもいいのでは?」

「対処法が違うんですよ。切れ痔は便秘をなんとかすれば切れなくなることも多いんです」

「ほぉ〜。僕の場合、10年くらい前からこういう状態で、他のお医者さんに診てもらったり、市販の軟膏薬を塗ったりはしているんですけど……」

「あ〜……」

 

「慢性のいぼ痔は”ほぼ治らない”と思った方がいいですよ」

 

「え!? マジですか? マジ・不治・いぼ痔ってことですか!?」

「軟膏は効くんですけど、痔そのものを治療するわけじゃなくて、かゆみ炎症といった症状を抑えてるだけ”なんです。対症療法って言うんですけど……」

いぼ痔本体にはノーダメージだったんですね……。この10年『治らね〜な〜……』と思いながら塗ってました……」

注…あくまで“慢性的な”いぼ痔の場合の話であり、急性のいぼ痔は時間経過で治ることもあるそうです!

「痒みは特に治りくいですよ。いぼ痔って症状がもっとヒドいと、いぼが肛門からポンッて外に飛び出しちゃう脱肛という症状になるんです。そういった場合は手術でいぼ自体を切除するんですけどね。軽い場合は対症療法です」

「じっくり付き合っていくしかないと……」

「あとね、いぼを切除すると言いましたけど、実はいぼって肛門を締める際のクッション代わりにもなるんですよ。ゴムパッキンと言えば分かりやすいかな? だから、ある程度のいぼはあった方もいいっていうのが私の見解です」

「ひえ〜〜、いぼ=悪という訳でもないのか! なんか複雑なんですね」

 

ちなみにいぼ痔は、日帰り手術で治せる場合もあるそうです。ただ、術後の排便は痛みを伴うので、便を柔らかくする薬必須だそう……。

 

▲実際の筆者のカルテ。いぼの位置と切れてる位置が示されている

 

「そういえばさっきの診察の際、肛門に指を入れる“触診”をして頂いたじゃないですか? やっぱり川﨑先生くらい手練れだと、指を入れただけでどんな症状か分かっちゃたりするんですか?」

 

▲触診の様子(リプレイ)

 

「そんな魔法みたいなことは出来ないですよ(笑)。触診は痔瘻の確認とか、痛みを感じるかを診ています。基本的に痔は目視で確認ですね」

「あら! 指の感触だけで患者の容態を把握できるゴッドフィンガー的なのを想像していました(笑)」

 

▲内視鏡も使用して腸をチェック

 

いや、この写真!! 診察の時は気付かなかったけど、こんな長い鉄の棒が俺のに入ってたのか!! 怖いよ!! 

 

 

 

「あ〜〜〜!! あれ!? これは入ってるの!? いや……、逆に出てるの!? どっち〜〜〜!!???」

 

(冒頭のこのセリフですが、肛門からアウトプットする経験はあっても、インプット経験はなかったので「あれ? 今、入れてるの? 出してるの?」と、不思議な感覚に陥ってしまってるという心理描写でした)

 

痔持ちの人口は約 1/○!?

「おおきちさん、痔持ちの人口ってどれくらいかご存知ですか?」

「え〜、どうでしょう? バラエティ番組で芸人がなったみたいな話は聞いたことありますけど、知り合いからは聞いたことないので……、50人に1人とかですか?」

「これがね、人間の1/3は痔だと言われているんですよ」

「ええ、そんなに!? なんでなんですか?」

「人間の構造上の問題なんですよ。二足歩行だと肛門が心臓よりも下に来るでしょ? だから、肛門がうっ血しやすくなります

「あと、椅子に座るのもうっ血の原因ですよね椅子に座るのは動物の中で人間だけじゃないですか。だから、痔は人間だけの病気とも言われているんですよ」

「えッ(絶句)……。ハッ、よく考えてみるとうんこを我慢しなきゃいけないのも人間だけだ……。痔って人類の進化の弊害でもあるんですね。それにしても1/3って……、あいつもあいつも痔かもしれないのか……」

 

 

▲世の中、意外と痔持ちだらけなんだって!

 

「勝手に痔=男性の病気みたいなイメージを持っちゃってるんですけど、男女で痔の発症率に差ってあるんですか?」

「男性は痔ろうになりやすい傾向はありますね」

「やはり痔は男の病気なのか……」

「いえ、切れ痔は圧倒的に女性に起こりやすい。女性の方は肛門の皮膚が弱いので切れやすいんです。特に生理前後は便秘にもなりやすくて便が固くなりますから」

「へぇ~!」

「また女性は妊娠や出産が原因で肛門がうっ血しやくなりますから。イメージだけで男の病気と思って油断しない方がいいですね」

「女性は男性よりオープンにしづらい雰囲気もあって辛そうですね……。皮膚が弱いと切れ痔、筋肉が強いと痔瘻。逃げ場がない……」

 

痔って何が原因なの?

「痔にならないよう、普段から気をつけるべき事はなんですかね?」

「とにかく座りっぱなしはよくないですね。だから、職業で言うと運転手さんは特に痔持ちが多いんですよ」

 

 

▲運転手は痔の三大悪条件を兼ね備えた仕事。休憩時間は外に出てください!

 

「そうか……、じゃあコロナの影響による在宅ワーク推進で肛門科にも患者さんは増えてそうですね」

「いや、それが実はあんまり影響ないんですよ。多分ね、オフィスより家の方がトイレに行きやすいのと、自宅だと頻繁に立ち上がってもOKなのが関係してるんだと思います」

「は〜! 確かにオフィスに居るほうが気を遣ってしまって動けないですもんね。へ〜!」

 

「痔って場所が場所だけに人に相談しにくいし、症状が出ても病院に行くのに躊躇してしまう厄介な病気思うんですよ。だから、先生なりの『こうなったらとにかく肛門科に行け!』みたいな目安を最後に教えていただけませんか?」

「そうですね。こんな感じではないでしょうか」

 

▲痔瘻は自覚症状すらなくなってしまうんだと! 一番厄介なやつじゃん!!

 

痔だと思って甘く見て、放置していたら直腸がんだったというケースもあるので、あくまで参考です。重症化する前に来てほしいですね」

「いい先生の探し方のコツみたいなのっていうのはあるんでしょうか?」

「肛門についてちゃんと専門的に学んでる先生がいいですよね。日本大腸肛門学会、もしくは日本臨床肛門病学会っていう学会に属している先生というのは、一種の判断材料にしてもいいかもしれません」

「女性は『恥ずかしいから女性の医師に診てもらいたい……』って人もいるでしょうから、所属医師一覧のページで女性医師を探すという方法もアリですね」

「確かに女性は男性に患部を見られるのを躊躇するケースがあります。が、肛門専門医ってそもそも女性医師が少ないんですよね……。決して恥ずかしいことではないので、男性医師にも頼ってくださいね」

 

肛門科はなぜ肛門科の道に進むのか

「川﨑先生は肛門の専門医ですよね? 最後に気になっていることがありまして……、お医者さんの中での肛門科の立ち位置ってどういう感じなんでしょうか?」

かなり少ないのは確かですね。外科学会の専門医は約20,000人、その中で消化器科が6,000人いるんです。この6,000人の中に『肛門”も”診れるよ』という先生がいらっしゃるんですけど、2Bと呼ばれる肛門の専門医でいうと2017年時点で350人しかいないんですよ!」

「少なッ! 確かにネットで肛門科を探してたら『消化器外科』の文字が併記されている病院が多いのが気になってました。そういうことだったのか!」

 

▲川﨑先生はもちろんその350人の内の1人

 

「では、なぜ川﨑先生はそのマイナーな肛門専門医を目指したんでしょうか? 失礼ですけど、肛門科のイメージって……、その〜……、なんというか……モゴモゴ、やっぱ、ちょっとユニークなものして捉えちゃうと言いますか……モゴモゴ……」

「あ〜(笑)、はいはいはい……」

 

「まあ、肛門科ってカッコいい・カッコ悪いで言うと、カッコ悪いに属しますよね〜(笑)」

 

「イヤイヤイヤ……。でも……、確かにそんなイメージ……ですッ!」

「私がなぜ肛門科になったかというと、元々は外科医としてとある病院に入局したんですよ。そしたら、そこの先生が比較的肛門の手術もする方だった。、なので色々教わりやすかったんです。で、教わっていくうちに『深いなぁ〜』って」

「肛門って、もちろん肛門という器官ではあるんですけど、皮膚でもあり、直腸でもあり、筋肉でもある、とても不思議な部分なんですよね。勉強をしてもしてもし足りなくて。かなり奥深い分野だったので興味を持ってしまったという感じですかね」

肛門は奥が深い、と……あっ! 『肛門は奥が深い』ってそういう意味じゃないですよ!」

「分かってます(笑)」

 

▲肛門を主語に話していると、そんな気がなくても度々”別の意味”がのっかってしまう

 

「あと、患者さんの喜んだ顔が見られるのも魅力ですかね。癌治療とかって再発もあり得るから、手術が終わってもすぐに喜べないんですよ。それで言うと肛門の手術はすぐ結果が分かるし、患者さんも感覚的に結果が分かる。笑顔をその場で見られるというのは医者冥利につきますね」

 

この話を聞くまで、僕は肛門のことを肛門としてしか見てなかった。当たり前なんですけどね。

そうか、皮膚・筋肉・直腸が合わさって肛門という器官なんだな……。外科知識も内科知識も消化器科知識も必要じゃんか! 果てしない!

 

「なんか、今回お話を伺って、痔をユニークなものとして消費する行為こそが、誰かが肛門科に行くのを躊躇させてる一因でもあるなと感じました。取材のキッカケがそれだったので自省しました……」

「まあ、確かにちょっと変なイメージはありますよね(笑)」

 

「肛門って直接的に命に関わる部分ではないんですよ。でも。毎日使う部分ですし、なによりQOLに関わる大事な器官なんですよね。この分野の医療は絶対なくなりませんし、絶対に必要な職業だと思っています! こういったWEB記事等をキッカケに、肛門科に行くのは当たり前で、全然恥ずかしがることじゃないというのを分かってもらいたいですね」

※QOL(Quality of Life)=「人生や生活の質」。生きる上での満足度をあらわす指標のひとつ。

「そうですね! この記事が公開されることで、誰かの肛門科へのハードルを下げられたらと思います!」

 

▲お忙しい中、ありがとうございました

 

ちなみに

取材の帰り道、バスの中で気付いたのですが……

 

診察の際、ズボンを脱いだのでチャック全開でした。みなさまも診察の際はお気を付けください。

 

こちらの記事が肛門科へのハードル下げ、もしくは受診後のチャックの閉め忘れ防止の啓蒙になれば幸いです。

 

ありがとうございました。

(おわり)