田村さん自身、縁もゆかりもなかった遠野に魅力を感じて2016年に移り住んだ移住者。ホップ産業、ビール醸造、観光コンテンツの制作や発信など「遠野×ビール」がテーマのことなら多分ほとんどに関わっています。

 

今回の遠野ビアツアーズの企画も、田村さんがプロデューサーとして関わっているそう。

 

ご覧くださいこの骨太な笑顔。これが町の産業と未来を背負う者が背負いしオーラ……

 

「ビアツアーズ、すごく楽しかったです。日々あんなにビールを飲んでいるのに、ホップのことを全然知らなくて勉強になりましたし、ホップ畑を見るのもはじめてだったので、テンション上がりました」

「楽しんでもらえてよかったです! ビアツアーズは遠野が誇るホップ農業や地元産ビールのおいしさを知ってもらうだけでなく、楽しみながらも遠野ホップの未来をつくることができるイベントなんです」

「ど、どういうことですか……!?」

 

農家だけでは限界がある。ホップ栽培の難しさと生産地の課題

ちなみにツアーでビールをしこたま飲んでからインタビューしてます

 

「ツアーでも説明があったと思うんですが、そもそもホップって新規就農がめちゃくちゃ難しい農作物なんですよ」

「そこも知らなかったんです。もうちょっと詳しく教えてください」

「まず、ホップの栽培適例地は東北などの冷涼な土地で、国内では場所が限られます。また農業として栽培していくためには、5m以上の栽培棚を建てる必要がありますし、いまだ手作業も多く、非常に手間がかかる作物です。ホップ大国のドイツは機械効率化してるんですが、日本ではまだドイツのような水準に達していません

 

日本にホップが入ってきたのは明治期と言われている。現代的な本格栽培がはじまったのは1960年代。遠野では1963年に栽培がスタートした。東北と北海道が主な産地で、標高が高く涼しいなどの条件があるものの、近年では京都や九州などの西日本でも栽培がされている

 

「平面のX軸&Y軸を耕すだけでも大変なのに、5mのZ軸作業が必要な農作物……」

「さらに大変なのが、植え始めてから満足な収穫が見込めるくらいに成長するまで、3年ほどの期間がかかること。向こう数年はホップ栽培だけで暮らしていくのが難しいので、新規就農には大きなハードルがあるんです」

 

たわわにホップが実った畑。十分な収量がとれるまでに数年かかり、たくさんの労力がかかっている

 

「先輩農家さんたちの時代は、家族が多くて人手もありましたし、野菜やお米を育てながら一部でホップ栽培をする複合農業が中心だったから家計的にもなんとかなっていました。ただし、単身で移住してくることが多い新規就農の人たちは、栽培に慣れるまではホップ専業です」

「ふむふむ」

「先輩農家さんから技術を学ぶうちはどうしても収穫量が少ないですし、土地も借りて、機械を買って、アルバイトも自分で集めて……。相対的に栽培コストも高くなりがちです」

「それは大変だ……。畑を耕すのにもお金がかかりますもんね」

「でも、遠野はがんばっています。いま、遠野のホップ農家としては第三世代に差しかかろうとしているんです。遠野でホップ栽培を始めた先代から継ぎ、家業として地元の人がやっていた第二世代から、血縁関係がない新規就農者へとバトンが渡されている最中で。ここ5年間での遠野の新規就農者は12名もいます」

「おお、担い手が少しずつ増えている!」

「ホップの国内生産地はどこも次世代の担い手が不足しているので、これは大きな成果といえますね。ただ、新規就農者にとっての栽培・収益モデルが確立できていないので、離農してしまう人も出てきてしまっていて

「うーん、それだけ育てるのが大変なんですね……」

「ただやっぱり、ホップって魅力的なもので。栽培が開始された当時、ビールってまだまだ贅沢品だったので。手間がかかってもその原材料をつくることができるというのは、遠野の農家さんたちにとっては誇りだったんですよね」

「なるほど!」

「いまは昔ほど贅沢品ではなくなりましたけど、ビールって人を楽しませたりポジティブな気分にさせるものです。ホップを育て、それがビールになることで、人の生活を豊かにすることに繋がっていく。やりがいをもって栽培に取り組んでいる農家さんはとても多くて……」

 

「だからこそ、いま動かないとダメなんです!!!」

 

「(田村さんが一気にヒートアップした…!!!)」

「新規就農者の栽培モデルや収益構造の課題、農家の減少や機械の老朽化によって引き起こされる一人あたりの負担増……。諦めずにホップを育て続けてくれた二代目や、遠野でビール産業に関わりたいと思ってくれる三代目の若手だけでは解決できない課題になってしまっているんです。5年以内に、大きく栽培・収益化のモデルを変えないといけないと考えています」

「5年後!? すぐ先じゃないですか」

「高齢化による離農のピークや、ホップの加工用機械の老朽化という問題もあるので、遅くても5年以内には根本的に解決したいんですよ」

「なるほど……。現状の問題を解決しないままだと、新しい担い手ががんばってホップを育てたとしても、遠野のホップ産業が崩壊している可能性が……!?」

「そう、せっかく生産者のバトンが繋がって、新しい醸造所ができたり、ツアーが企画されたりしているのに。もう今すぐに動き出して、一刻もはやく栽培モデルや収益構造を変えて転換しなければ、遠野からホップ栽培がなくなってしまうリスクも感じています

「そうした状況を変えるために、田村さんたちは活動している?」

「そうなんです。現状の課題をクリアしていくには、農家だけでは限界がある。だからこそ、『ビールの里』構想が生まれました」

 

ただの生産地で終わらない。「地元×ビール×観光」による地域活性

BrewGood作成の資料より

 

「遠野市自体も、ホップ農家をめぐる現状には危機感を持っていて。2007年に遠野市とキリンビール、遠野ホップ農業協同組合が中心となって、生産者や企業と行政が連携して、遠野産ホップを活用した地域の活性化を目指す『TKプロジェクト』をスタートさせました」

「田村さんが遠野に移住してホップやビール産業に関わるようになったのはその後ですよね」

「はい、僕はもともと震災を機に東北へ関わるようになって。地方での起業を支援するプロデューサーとしてお誘いをいただいたのを機に、遠野へ移住したんです」

「田村さんが移住してきた当初、プロジェクトはどんな感じだったんですか?」

「官民が連携して頑張ってはいたんですが、まだまだ『ビールの里』が具現化されていなくて。そもそも遠野市内で地域のビールを楽しめる場所も少なかったですね。というのも、地域内外と連携を取りながら、長期スパンで俯瞰してプロジェクトを推進することができる遠野在住の民間のプレイヤーが不足していたんです。公務員や大企業の場合、部署異動や転勤があることもありますから」

「なるほど。腰を据えて街に関わるプレイヤーが必要だったんですね」

「僕が立ち上げた株式会社BrewGoodは、自分でホップを育てるわけでも、ビールを醸造するわけでもありません。総合プロデュース会社として、ビールにまつわるさまざまな事柄に入って『間を繋ぎ、農業の課題解決を含めて全体の計画を前に進める仕事』です。『遠野ホップ収穫祭』の拡大にも取り組んでいます」

 

ローカルベンチャー事業の一環で、田村さんも取締役として関わっている「遠野醸造」は2018年にオープン

 

2015年からはじまった、地元のビールと食を楽しむイベント「遠野ホップ収穫祭」

 

「忙しい現場の人たちの代わりに、僕が資料をつくって予算も取りに行くし、生産現場の課題を農家さんの代わりに記事にしたりもします」

「まさに何でも屋というか」

「株式会社BrewGoodのミッションは、農業やお酒を軸として社会を少しずつよくしていくことです。遠野では、ホップ栽培が持続可能になり、この土地がホップとビールの町として知られて、地域全体が盛り上がれば最高だなって思っていて」

「もはや顔3つとか腕6本くらいないと対応できなくないですか? 利他に特化した阿修羅……???」

「褒めかたのクセ(笑)! ありがたいですけど、BrewGoodだけがいいことをやっているんじゃないんです。みんながチームとして頑張っていることを知ってほしいですね。大変なのは生産現場だったり、そのビールを醸造して世に出してくれている人だったり、たくさんご尽力いただいている行政やKIRINの皆さんだったりするので」

「いろんな人たちが各現場の壁を乗り越えて、横のつながりでがんばっているんですね。そのバイタリティはどこからくるんでしょうか」

「なぜなら、日本産ホップを未来に繋げていくことを考えるとき、遠野が最後の砦とも言われているんです! 移住者も増えていて、栽培面積日本一の遠野ですら危ないんですから。遠野がこの危機を乗り越えることで、日本産ホップの未来は明るくなっていくと信じています」

 

応援者を増やして、過疎の抑止と産業の発展の両輪を動かす

「田村さんが関わりはじめて以降、『ビールの里』としての認知は拡大してきたんでしょうか?」

「そうですね、ここ2年はコロナ禍で開催ができていないんですが、2019年の遠野ホップ収穫祭は2日間で12000人の集客を記録しました。遠野市の人口が26000人弱なので、ものすごい人数が集まったことになります」

 

「でも、収穫祭の動員数が増えることがゴールではないんですよ。ビールの里構想で、ブリュワリー立ち上げたり、今回のツアーを磨き上げたり、いろんな地域での事業に取り組んでいるのは、遠野を応援して一緒に課題解決をしてくれる仲間を増やすためにやっていること」

「応援してくれる仲間」

観光コンテンツ盛り上げの先に目指しているのは、農業と地域の課題解決です。これは両輪で動かさないといけないこと。観光で来た方に仲間になってもらって、一緒に課題を解決していく。その中で、地域の新しい産業づくりをしていきたいと思っているんです」

 

BrewGood作成の資料より

 

「『農業と地域の課題解決は両輪』、めっちゃ真理だ……」

「そもそも地域課題や農業課題の解決を見ずに目先の観光だけ追っていても、つくり手は『な〜にが “ビールの里” だよ! 俺たち全然楽になってないんだけど!?』ってなるじゃないですか」

「ホップ農家の負の連鎖は止まらず、問題は先送りになっちゃいますもんね……」

「名産品を観光によって消費しちゃう構造ではなく、観光によって名産品やつくり手を保護して育てることをしていきたいですね。結果それは、町が寂れることも止めてくれる」

「地場産業が潤ってこそ『ビールの里プロジェクト』ってことですね」

「飲食物の産地の活性案といえば、単純な飲み食いだけのコンテンツが多くなっちゃいがちです。だからこそ、今回体験してもらったようなツアーを今後拡大したくて。ホップとビールをフックにして、町全体を知ってもらう。『ホップとビールを楽しむなら遠野だよね!』という認識にプラスして、地域そのものも応援してもらえたらなと」

「ちなみに、遠くてそんなに遠野に行けないって場合はどうすればいいですか?」

「その場合はぜひ、ふるさと納税をしてほしいですね。2019年から、遠野市へふるさと納税をする際、『ビールの里プロジェクト』に寄付先の指定ができるようになりました。『ビールの里プロジェクト』に指定され、集まった寄付金は、老朽化する施設や機械の修繕費用や、新規就農者のサポートなど、持続可能なホップ農業を実現していくために活用されます

「寄付が直接、遠野の産業を守るために使われるのは寄付しがいがある!」

「遠野産ホップを使ったビールを飲んでもらうのでも十分応援になります。少しでも、原材料を栽培している遠野のことを知って、気にかけてもらえたら嬉しいです」

 

いろいろ言いはしましたけど、やっぱり来てもらうことが一番いいです(笑)。いいとこなんですよ〜、遠野。町のサイズもコンパクトで、魅力的なプレイヤーはいて、毎日おいしいお酒と食べ物があって、ホップ畑をはじめとする田園風景もあって。一度来ればきっとファンになる町なんです」

「ファンになった結果、移住した上に地域振興にも関わる会社までつくっちゃった田村さんが言うと、めちゃくちゃ説得力ありますね……!」

 

町を知ること・町のビールを飲むことが遠野の未来を繋げていく

「応援者を増やしたい」と語ってくれた田村さん。

 

ふたつのビアツアーズに参加して、ビールを中心とした遠野の町のいろいろを見聞きしたことで、自分の中で遠かった・知らなかった土地が一気に馴染みのあるものへと変わってきたのは大きな発見でした。

 

遠野物語の土地としては比較的知られていますが、遠野って、たとえばエメラルドグリーンの海水浴場だとか、遊園地だとか、メジャーな寺社仏閣やお城だとか、そういったドでかい観光コンテンツがあるわけでないんですよね。

 

長らく町を支えてきたのは、ホップ生産をはじめとする一次産業。だからこそ「どこかに行きたいな」と観光ガイド本をめくる人たちの目には触れてこなかったのではないでしょうか。

 

単にホップの畑を見学して、おいしいビールを飲んで終わり……ではなく、身近なようでなにも知らなかったホップとは一体何なのかを知ること。

 

そしてビールをつくる人、ホップをつくる人、それを案内する人、それぞれの分野に移住者やUターン組がいて、全体で町を盛り上げていきたいと奮闘する「個人」に触れることができる旅だったのが印象的でした。これは応援したくなっちゃう。

 

「ビールの里」として多くの人に遠野を知ってもらおうとするこのツアーの取り組みは、町を未来へと繋げるための大きな変換点になる、そんな気がします。

 

……という語りは嘘ではないんですが、単に、おいしい牛乳ってスーパーでも楽しめますが、やっぱり牧場で飲む牛乳は格別においしいじゃないですか。ビールも同じです。

 

「生産地で飲むビールめちゃくちゃおいしいから、足伸ばしてでも来たらめっちゃいいよ!」突き詰めればそれだけ。おいしいたのしい気持ちいい、そんな体験の後に学はついてくるので、ぜひとも遠野に遊びにきてください。ちなみに私は11月半ばにふたたび遠野に行きます。

 

☆遠野ビアツアーズや遠野のスポット情報は、以下のサイトをご確認ください!

「TONO Japan Hop Country」

WEBサイト:https://japanhopcountry.com/

Instagram:https://www.instagram.com/japanhopcountry/