こんにちは、ライターのナカノです。

私は今年の6月からライターと雇われ店長の二足のわらじを履いて活動しているのですが、店舗を運営する上で憧れているお店があるんです。

 

それが、長野県東御市にある『パンと雑貨の店 わざわざ』!

のんびりとした雰囲気とは裏腹に、圧倒的なスピード感で情報発信を行い、注目を集めているお店です。

 

お店の入り口からすでにセンスを感じるし、

 

ふんわり小麦が香るパンはとてもおいしそうだし、

 

花壇と売り場が同居している!?

 

いやー、本当になにからなにまでセンスの良いお店ですが、わざわざのすごさはそれだけじゃないんです。

 

・創業8年で年商200万円→1億7000万円に成長

・PR力やブランド力が評価され、ECサイトのコンテスト「カラーミーショップ大賞2018」で45,000店舗の頂点に輝いた

 

など、経営面でも輝かしい功績が。

オンラインの注文が多いだけでなく、休日には東京をはじめとする県外ナンバーの車がずらりと駐車場に並ぶほどの人気店なんです!

 

でも、この『わざわざ』を立ち上げた平田はる香さん、実はとても特徴的な人なんです。

まずはこのnoteの記事タイトルを見てください。

 

オーナーなのに「来ないでください。」ってすごくないですか!? そのほかのSNSを見ていても、歯に衣着せない発言がたくさん。毎日のように新しいアイデアが浮かんでいる様子も伝わってきます。

こんな圧倒的な発信力を持つカリスマ経営者と一緒に仕事をするのは相当大変そう…!

 

それに改めて考えてみると、著しい成長を続ける企業では現場の負担がとっても大きいはず。

もしや『わざわざ』にはトップの意向を現場に反映して、確実な遂行力で回している敏腕店長がいるのでは…?

 

 

そこで、今回はわざわざ店長のゴトウさん(写真右)に話をお聞きしてみることに!

 

実は平田さんのブログには、ゴトウさんをべた褒めする記事があるんです。

「ゴトウさんが長く働いてくれたことがきっかけで、私の経営に対する気持ちが変わっていきました。社員制度を整えたり、保険制度を考えたり、待遇を整えたり、頑張ってくれるゴトウさんに報いたいという気持ちで、正直これまで進んでこれた面があります。(出典:わざわざウェブページ内ブログ「ゴトウさん」)」

このように代表から全幅の信頼を置かれる店長のゴトウさん。

彼女はどのように現場を回し、オーナー(代表)やスタッフとどんな関係性を築いているのでしょうか?

その答えを知るべく、私は丘の上のパン屋さんに向かいました。

 

現場の感覚と経営的な視点のすり合わせを綿密に

今回は「一度わざわざに来てみたかった!」と東京から駆けつけた編集者のしんたくさん(写真右奥)も同行。話題のお店とあって人を惹き付ける力がすごい

 

「こんにちは! 今日はよろしくお願いします」

「いつも取材対応は代表の平田が担当しているので、ちゃんと答えられるかな……」

「どうか、いつも通りの雰囲気で…! 数々の発信を見ていて思ったのですが、平田さんと一緒に仕事するのって大変なんじゃないですか?」

「いや、平田と仕事するのは面白いことも多いんですけど、ただ…」

 

「すぐにどこかへ行っちゃうんですよ…」

 

「えっ、どこかへ行っちゃうとは…?」

「平田は気づいたらいなくなっていることが多いんです。すぐに決めなきゃいけないことも多いのに、『あとは勝手にやってー』と言って消えてしまって」

「なにそれすごい。では現場の判断はすべてゴトウさんが…?」

「はい。平田が店にいないので、基本的に重要なこと以外は事後報告です。もちろん決める前に平田に必ず相談したほうがいいことと、後で大丈夫なことの差別化はしていますけど」

「それで大丈夫なんだ……」

「当然、成功も失敗もあるので、二人で結果を見て反省会みたいなことはやりますよ」

「平田さんの発言見てると、反省会はすごく激しそうです。衝突も多いんじゃないですか?」

「うーん、どこまでが衝突なんですかね。周りから見ると激しい言い争いに見えるみたいですけど、お互いの意見をすり合わせていくという感覚に近いかも」

「ふむふむ」

現場だからこそわかることもあるけど、経営者として俯瞰して見ないとわからないこともあるじゃないですか。お互いわかってないことがあるので、その上でどちらがより良いのかというすり合わせですね」

「口調は激しいけど、喧嘩ではないと」

「そうですね。単純に『自分が嫌だからやりたくない』みたいなことは絶対にないですし、お互いに『わざわざのために』という前提の上で話しているから成立してるのかもしれませんね

「なるほど! ちなみに事後報告なのはどういう時なんですか?」

お店の配置やレイアウトに関しては、その日のインスピレーションで変えたりはします

「私は何回もお店にきてますけど、たしかに来るたびにレイアウトが変わってるかも」

『お店に来たからこそ味わえるもの』を生むためには、現場での直感が大事だと思ってます。あとは実店舗とオンラインショップの連動も意識していて。オンラインショップで『新入荷』になっている商品を、実店舗のわかりやすい場所に並べるようにしています」

「オンラインショップを見て、来店するお客さんもいますもんね。なるほど、それは現場にいるからこその感覚かも」

「逆にオンラインショップにない商品を『店舗限定』とアピールする場合もありますし、いろいろ試してはいますね」

 

事後報告でもOK!話を聞くことの重要性

「ではわざわざの実務面は、ほぼゴトウさんが支えているのでしょうか?」

「もちろん全体を見るようにしていますが、私がすべての仕事をできるわけじゃありませんから、仕事はできる限り分担してます。苦手なことに時間を割くよりも得意な人に振り分けた方が効率がいいし、得意なことを伸ばすことで自信も持てると思うんです

「それぞれの得意分野で力を発揮してもらうということですか?」

「そうですね。たとえば、平田は接客が本当に下手なんですよ

「すごくはっきり言いますね…!でもなんとなくわかるかもしれません」

「でしょう? 平田の接客を見ていて思わず『もう後ろに引っ込んでいていいから!』と言っちゃったこともあるくらいで(笑)。でも発信力の高さや、経営者として全体を見る力はすごいじゃないですか」

「そうですね」

「逆に私は実務はできても、発信はできないし、システムに関することも弱いので、他のスタッフに任せてしまうことが多いんです」

 

取材中に何度もひょこっと顔をのぞかせていたワカナンさんは、カメラマンからパン職人という異色のキャリア。わざわざではパンを焼きながら、商品撮影を担当しているそう

「でも、人に任せるのって大変じゃないですか?」

「大変ですよ。お店や仕事がうまく回っていない時って、コミュニケーション不足が原因なことが多いと思うんですよ。『あえて聞くほどのことでもないかな』の積み重なりで場が乱れてしまいますから」

「ほんとその通りですよね……」

「だから、わざわざではスタッフみんながお互いに質問しやすい空気になるように気をつけてます。『何度でも教えるし、嫌な顔なんてしないからどんどん聞いてほしい』って」

「それは下の人からするとありがたすぎます」

わからないことを不安なまま誤魔化してしまうのが一番よくないと思ってるんですよ。極端に言えば、『こうしてみたけれど、あってました?』という事後確認だけでもいいんです。そうしたらもっといい方法を提示できるかもしれないじゃないですか。でもやりっぱなしだと、そこで完結しちゃう」

「ただゴトウさんからすると、常に質問される状況って大変じゃないですか? バタバタしてる時とか……」

「内容にもよりますけど、忙しい時には私の状況を伝えますよ。『これ終わったら聞くから、もう一回言ってね』という感じで」

「私ならうっかり邪険に対応しちゃうかも……ちゃんと伝えるのは大事ですね」

「『ちゃんと伝える』のは、私がふだん店頭に立っているのも大きいかもしれないですね。お客さんの前に常にいるので、自然と細かい振る舞いに気をつけているのかもしれません」
「つねに『舞台上にいる』みたいな感覚なんですかね」
「そうですね。でもスタッフとの関係は難しいですよ。言いすぎてもいけないけど、気づくのを待っててもダメですし」
「人を育てるってことですもんね……」
「育てるなんて大仰なものではないですよ! どちらというと助けてもらう感じですね。自分ができないことをやってもらう。その上でルールを作る。お互い補いあうだけだと思いますね」

「なるほど!」

「だからアルバイトの人がお客さんとトラブルになりそうな時は、きちんと矢面に立ってあげる。それが役割分担だし、何よりそのスタッフも自発的に頑張ろう、となると思うんです」

「『北風と太陽』の話みたい」

「そうですね。だから『こうしちゃダメ』と伝えるよりも、いいことを褒めるようにしています。まあ褒めようと意識してるんじゃなくて、本当にいいと思った時に積極的に言うだけなんですけど」

「当たり前だけどコミュニケーションって大事なんだなぁ」

 


問題提起から改善までスピード感があることもわざわざの強み。例えば、8月から試験的に導入された「サマータイム制」。1週間前にスタッフ内で「営業開始前に駐車場が満車になり行列ができた」という声から開店時間を2時間早めました

 

「お客さんの立場になること」と「無理をしないこと」のバランス感覚

「いろいろお話を聞いて、『わざわざ』というお店の空気感の理由がわかったような気がします」

「よかったです。 親しみやすさがある場所にしたいなとは思ってるんですよ。『おしゃれだけど敷居が低い店』を目指していて。それこそ近所のおばちゃんが長靴でも来れるお店、みたいな」
「へええ」
「でも、たまに写真やウェブを見て、ちょっと洒落てるから緊張していらっしゃる方がいるんですよ」

 

「いやーほんとおしゃれですもんね」

「ところが店に入ったら『こんちはー!』ってゆるいテンションで私たちが迎えるので、ギャップがすごいみたいで(笑)」

「たしかにウェブから抱く印象と実際の店舗の雰囲気は違いますね。みなさん、とてもはつらつとしてますから」

 

センス満点な店内ですが、笑い声が飛び交う親しみやすい空間なのです

 

「常連のお客さんとの関係にも大切ですよね。やっぱり長く働いた分だけ、常連のお客様さんとの関係も築けますから」

「確かにお店に立つ醍醐味って、お客さんとのふれあいかもしれませんね」

「私にとっては毎週来る人も、毎月来る人も、1年に1回しか来ない人もみんな常連さんなんです。名前を忘れてしまっても、顔を見たら『あっ!』と気づくような人はみんな常連さん」

「それはお客さんもうれしい!」

『自分がお客さんだったら、どんな対応がうれしいか』は常に念頭にいれていますね」

「当たり前だけどなかなかできない部分だ〜!」

「例を挙げると、私は服屋で店員さんに付いて回られるのがめちゃくちゃ嫌なんですよ。『今はひとりで商品を吟味したいのに』みたいなことってありませんか?」

「ありますね! 買うものが明確になっていないと、わずらわしく感じてしまいます」

「だけど、質問しようと振り返った時に、ちょうどそこにいる店員さんって最高じゃないですか

「めちゃくちゃわかります」

「そういう感じで、いかに『自分が行きたい店』に近づけるかということに気をつけてます」
「どこまでもシンプルなんですね!」

 

ゴトウさんが力を入れているのは、コミュニケーションを大切にした接客。お客さんが「旅の途中の人なのか、近所の人なのか」はもちろん、その人が今どういう気分なのかによって、求める商品は違います。そのため、お客さんとの会話から糸口を探し、勧める商品を探しているそう

 

「でもね、その一方でお客さんの無理を聞きすぎないことも大切だと思うんです」

お客さんの立場になるけど、無理を聞きすぎない…? どういうことですか?」

「例えば、お客さんのほしい商品の在庫が店舗にないという時。うちはオンラインショップと店舗の在庫を別々に管理しているので、店舗にない商品がオンライン用の在庫にはある場合があるんです」

「ふむふむ」

「でもその時にすぐに取りに行ったりは絶対にしないんです。『取り置きしますよ』とか『送料ありでもいいなら送りますよ』という妥協案を示します」

「えっ、それはなんでですか?」

「うちは店舗とオンラインショップ用の倉庫が離れているので、誰かが店を離れなければいけないんです。暇な時は行けるかもしれないけど、店が混んでいる時は難しいですよね」

「たしかに」

「だから毎回できることじゃないんですけど、一度やってしまうと、いつでもできるものと思われてしまうんです。そこはお店のスタンスとして『そこはダメです』と決めないといけない」

「わー、バランスをとるのが大変そう!」

「難しいですよ。やりたい時もありますし。でもお客さんも『これはOK、これはNG』のラインが明確に決まってる方がわかりやすいと思うんですよ。こういうことを平田がWEBで積極的に発信するのも、役割分担なんでしょうね」

「あっ、あの『来ないでください』の記事のことですね」

 

「まあ、彼女は『自分で発信したい!』という人なので、役割分担とは思ってないかもしれませんけどね(笑)。私も店長だからと思って仕事をすることはないですし」
「そうなんですか?」
「店長になったことで、急にできる仕事が変わるわけではないですからね。肩書きは変わったけれど、今までのようにわざわざのために仕事をしているだけなんです」

 

バランスよく現場を回すナンバーツーの存在

最後にオーナーの平田さん(写真・左)と3人で撮影

 

というわけで、わざわざを支える店長・ゴトウさんに話を聞いてきました!

改めて、今回のお話の要点をまとめてみると……

 

 

こんな仕事の哲学をお聞きすることができました!

 

鉄砲玉のようなオーナーに振り回されている……?と思いきや、常に店頭に立ち、店長としてバリバリ現場を回す安定感を持つゴトウさん。さらに決断力、実行力のスピード感を持つ彼女は、わざわざを支える要です。

 

スタッフが気持ちよく働く空間は、お客さんから見ても一目瞭然。

取り扱う商品の品質・場の編集力はもちろん、関わるスタッフの雰囲気のよさもわざわざに人が集まる理由なのだと確信しました。

 

写真:小林直博