こんにちは、ライターのナカノです。

私ごとですが、最近「お店の店長」という肩書きがつきました。

 

ライターと二足のわらじで、お店づくりを1から行うことに。

しかし店長経験はおろか、お店をつくることだってはじめて。すべてが手探り状態の毎日を過ごしています。

 

不安を抱え悶々としていた折に、やばいお店の存在を知りました。

 

それが鹿児島県内で3店舗展開するご当地巨大スーパー『A-Z』です。

 

・取扱い商品数40万品超

・24時間、365日営業

・敷地面積17万平方メートル(東京ドーム3.6個分)

・売り場面積約1.6万平方メートル(コストコとほぼ同じ)

 

でかい! 長い! 多い !

の三拍子が見事に揃っているスーパー。

 

ちなみに同規模の大型スーパー『コストコ』の商品数は3700〜3800品。この数字を見て、A-Zがどれだけ豊富な品揃えか伝わるのではないでしょうか。数百円の小さな部品からウン千万円する鍾乳石(購入者が気になる)まで取り揃えているというんだから驚きです。

しかし、A-Zのすごさはその規模感では収まりきりません!

 

ちょっとハチャメチャ過ぎませんか……?


しかし、業績は右肩あがり、売上規模は270億円を超えるそう。

規模は違えどきっと店づくりのヒントが得られるのでは? そんな期待を抱き、A-Zを訪ねてみることにしました。

 

そして今回は、鹿児島県出身・在住のウェブ制作会社『Lucky Brothers & co.』代表、下津曲くん(しもつくん/写真左)に同行いただきました!

「実家が『A-Zはやと店』の近くにあるので、小さい頃から家族でお世話になっています!」

「こんな大きなお店が近くにあるなんて羨ましい!」

 

 

店内を見てみよう!

まずは『A-Z あくね店(以下、A-Z)』の店長・福吉さんの案内で、店内を回ってみることに。福吉さんは高校卒業後にA-Zに入社、30年近く店舗に寄り添ってきた生粋のエーゼッターです!

 

店内商品はこんな感じで分類されています。

思いつく限り全ての商品ジャンルは網羅されている!

 

「地元の人から『迷子になるくらい広い』と聞いていたのですが、確かにとても広いですね!」

「そうでしょう。このあくね店の売り場面積は1万8000平方メートル。これでも3店舗内で一番小規模なんですよ」

「えっ! このサイズで?」

 

あくね店の2倍の売り場面積をもつ『A-Zはやと店』。
その大きさゆえ、鹿児島空港を発着する飛行機の窓から確認できるんだとか。屋上部分のソーラーパネルが豪快すぎる!

 

「あれ、彼岸が近いわけでもないのに妙に仏花が多い!」

「鹿児島県民は他県に比べてお墓参りの回数が多いんですよ! 『先祖を敬う気持ちが強い風土だから』や、『桜島の灰から守るため』など諸説あるみたいですね。家庭によっては毎週末にお墓参りをするみたいなので、切り花は売れ筋商品だと思いますよ」

知らなかった!」

 

「うわー! この棚はカラフルなパッケージが並んでますね! もしや、全て醤油ですか?」

「そうです、こちらには約260種類の醤油が並んでいます! 鹿児島県内でつくられている醤油は全種類取り揃えているんですよ」

 

九州地方の醤油は甘口がスタンダード。「極あまくち」なんて醤油もあるんだ!

 

「ご覧いただいてわかるかと思いますが、当店の魅力のひとつは品揃えのよさにあります。食品においては、地元でつくられたものを積極的に取り扱うようにしています。農家さんから、規格外野菜を買い取って販売することもありますね」

 

鹿児島県産の野菜が目立ちます!

「なるほど! 自分の住んでいる地域でつくられた野菜は安心しますよね」

「メーカー品であっても、なるべく地元のメーカーがつくっている商品を取り揃えるよう心がけています」

 

見慣れないパッケージのジュースは大分県の食品メーカーがつくっているもの。

 

これぞ鹿児島! 焼酎の量り売りも。

 

他にも店内には、様々な商品が所狭しと並んでいます。

インドの民族衣装「サリー」や、

 

ホームセンターでも見かけないようなサイズの照明、

 

外に目を向けると軽トラックがズラリ!

 

ぐるっと店内を半周(一周は到底まわりきれなかった)したところで、なんと社長にお話を伺えることに! この規模の店舗を20年以上経営し続けているなんて、お会いする前から頭があがらない……。

 

社長登場!

「こんにちは、はるばるようこそ鹿児島へ!」

「うわー! お会いできて嬉しいです!」

「社長の著書である『利益第二主義』を読ませていただき、社長の考え方にとても感動しました。お会いできて光栄です!」

 

嬉しさのあまり拝んでしまった!

 

話を聞いた人:牧尾英二 さん

株式会社マキオ 代表取締役社長。1941年、鹿児島県阿久根市生まれ。地元の高校卒業後、富士精密工業(現在の日産自動車)に就職し、長きに渡りエンジニアとして活躍した。1985年に株式会社マキオを創業。現在に至る。

 

 

なによりお客さんのためになることを

「色々お聞きしていきたいのですが、社長はなぜA-Zを開業したのですか?

「元はといえば、弟のつくったホームセンターの立て直しがきっかけです。私自身は高校を出てから長年、車の設計に携わっていたんですよ。だから望んで小売を始めたというより、やらざるを得ない状況だったという方が正しいかもしれないね」

 

牧尾社長は手が大きい!かつて空手の全国選手権で優勝経験もあるんだとか。

 

「車のエンジニアから小売業!全く畑違いの仕事をされていたんですね」

「経営の立て直しをしていく中で、阿久根市には大型店をつくる必要性を感じたんです。A-Z開店当時の人口は2万7千人で、そのうちの40%が高齢者。気軽に足を運んでいただき、ワンストップで買い物ができる便利な場所があればいいなと思いました」

「そんなに使命感を持って……!」

 

「正直初めは嫌でしたよ。自分ではずっと自動車に携わっていたいと思っていたから(笑)。ただ任されたからには、天職だと思ってやらねば! と自分を奮い立たせていました」

「モチベーションを保てるのがすごいです!」

「理屈ではわかるのですが、なかなかこの規模の店舗を人口の少ない地域で経営していくことは難しそうです……」

「もちろん最初はあらゆる方面から大反対されましたよ(笑)。まず金融機関からお金を借りられない。経営コンサルタントに相談しても、『商圏人口が10万人規模じゃないとホームセンターは無理だ』だなんて一蹴されましたから」

「まったく規模感が見合ってなかったんですね」

「さらに、24時間営業の大型小売店は国内で前例がありませんでした。法的にも苦労しましたし、周囲の目は厳しかったです。それでも私はやってみないとわからないと思ったんです」

 

※1974年に制定された「大規模小売店舗法(大店法)」によって、A-Z出店当時、大型店の出店に規制がかけられていたそう(現在は大店法は廃止され、2000年より大規模小売店舗立地法〈新大店法〉が施行されている)

 

「コンビニならまだしも、こんなに大きな規模で24時間営業なんてむちゃくちゃすぎる…

「やりとげることができたのは、私たちが素人集団だったからかもしれないね。赤字脱却のためには、周りと同じことをやってもだめだと思ったんです。素人だったからこそ、従来の常識にとらわれない選択ができたのでしょう」

 

A-Zの全売上の4割は、夜7時から朝8時までの時間帯が占めているのだそう。
深夜まで営業している飲食店や、早朝の工事現場ではたらく人にとって、必要な商品がいつでも手にはいるのはありがたい。

 

バイヤー不在。買い付けは売場責任者の仕事

「例えば、A-Zではどんな常識破りの仕組みがあるのですか?」

「わかりやすい例だと、バイヤーの役割を各売場のスタッフが担っているね

「えっ、売場のスタッフが買い付けを?」

「そう、データを見ているだけじゃ真のニーズはわからない。もちろん商品はPOSで管理しているけど、お客さんと話す中で仕入れを決定することが大切です」

 

確かに、A-Zではスタッフとお客さんが談笑する光景をよく目にする。


今、背筋がピッと伸びました。五感をフル稼働させることが大切なんですね

「だからスタッフには『とにかく売場に出ろ』と口を酸っぱくして伝えています」

「現場第一主義……!」

 

今やA-Zの売りとなっている自動車の販売も、はじめはお客さんの声から。車の販売を始めたことで車検の需要が生まれ、車の購入から給油、車検までA-Z内で完結するように!

 

「A-Zは、いかにお客様に喜んでいただけるかだけを考えています」

「でもこれだけの規模のお店をつくるって相当な博打ですよね……」

 

「11億円借りました(笑)」

 

「ええっ、11億円!? お金を借りることに恐怖はなかったんですか? 私なんて25万円借りてビクビクしているのに……」

「元々私は0から裸でスタートしたから、なぁんにも怖くなかった。ある意味自由奔放というか。ただ建設途中で融資を断られちゃった時は困っちゃったな(笑)」

「自由のレベルが違いすぎる」

「ちなみに3号店をつくるときには37億円借りました」

「失神しちゃう……」

 

あくね店では現在総勢300名を超えるスタッフを雇用。実に阿久根市人口の1.5%がA-Zで働いていることに。めちゃくちゃ雇用を生んでいる……。

 

できない・やれないは、ない

「今まで沢山お客さんの声を聞き続けてきた中で、この要望だけは聞けなかったということはありますか?」

 

「ないですね」

 

「ないんだ」
「『できません』『ありません』ということは言わないようにしています。すぐさま、希望する商品が取り寄せ可能かどうかを調べて対応。今の世の中はインターネットで大抵のものは買えますが、きちんと店内で完結させて信頼関係を築いていくことが大切なんです
「なるほど! 信頼関係が結果として売上にも繋がっていくんですね」

 

60歳以上の方と身体障がい者に発行している『AZカード』は好評のサービス。毎回買い物金額の5%を現金でのキャッシュバックを行います。孫のためにキャッシュバック金額を貯めて、貯まった金額でおもちゃを買うシニア層が多いんだとか。新たな貯金のあり方!

 

「その通りです。最近レジを無人化するスーパーが増えていますが、当店では考えていないんですよ。レジはお客様と最も触れ合う時間が長い場所。省くことはできないですね」

「コミュニケーションの総数が大切なのですね」

「ちなみにA-Zはマニュアルもなければ売上目標も立てない。事業計画だってないんだ。ただ、お客様の要望に応え続けるだけだからね」

「簡単に聞こえるけど一番難しい……」

 

任せることで知恵を養う

「私は現場に立ちつづける環境が、今後の教育にも繋がると思っていてね」

「教育ですか?」

「極端な話、不良と呼ばれる子たちだってA-Zで働くと責任者になれるんだ。福吉くんだって、かつては不良だったからね(笑)」

 

「えぇ、実は……。恥ずかしながら、若い頃はヤンチャをしておりまして……(笑)」

「店長までのぼりつめたサクセスストーリーだ!」

「基本的に教育というのは、その人が持ち合わせていないものを育ててあげるところにあると思っていてね」

「詳しく教えてください!」

 

「たまに学校の先生が来て『どうしてうちの学校にいた出来の悪い子がA-Zに勤めるようになってから活躍できるようになったんですか!?』なんて聞いてくる。それは生徒のことを信用できていない証拠。とにかく全て任せちゃえばいい

「任せる力!」

 

A-Zはトップが下からスタッフを支える仕組みで成り立っている。
各売場の責任者が小さな商店の店主のような存在なので、管理職もいない。

 

「今の教育は教科書から得た知識がベースになっているけど、これから必要になってくるのは知恵教育じゃないかな。周りが誘導するのではなく、ポンと現場に置いて自分で考えさせること」

「なるほど……」

 

「もし全てを任せた上で失敗したら、上の人間が責任をとればいいだけさ」

「かっこいい……」

 

2018年春より牧尾社長がスタートした新事業『こどもおとな園』では、まさに新しい教育のあり方を体現しています。幼児からシニアまでの三世代が、生活体験を通じて「生きる知恵」を身につけていくのだとか。

 

「商売も雇用も生んで、ターゲットも広くて。本当に影響力がすごすぎます……」

「そうそう、私は今76歳なんですが、そろそろこの店を誰かに譲ろうかと考えていてね」

「え! 社長、引退されるんですか!?」

 

「よろしければ、ナカノさんがAZを継ぎませんか?」

 

「さすがに荷が重すぎます!!」

 

おわりに

鹿児島県民に愛されるA-Zが、とてつもないスーパーだということが伝わったでしょうか。

「地域の皆様へ喜ばれるサービスを提供し続けます」

牧尾社長が掲げたA-Zの企業理念の一部です。シンプルな言葉ですが、実際に行動に移しやりきるのは至難の業。

 

しかし、信念を持ってやり続けている牧尾社長は、まさに「利益第二主義」を貫き通す経営者だと実感しました。

そして「地域のため」の一言では収まりきらないほどの、人間愛の深さを感じます!

 

社長! 私、社長の背中を追ってがんばります!

 

(おわり)