最近では、映像や音楽、パフォーマンスなどにより、新しい視点で仏教・神道の世界を表現しているお坊さんが増えています。

多くの人を惹き付ける、魅力あるコンテンツをもつ若手僧侶を表彰する宗教アワード、それが「次世代僧侶オブザイヤー」です。

 

審査員はこちらの5名。右端の方はTwitterのハッシュタグ「#僧衣でできるもん」で話題となった、真宗興正派善照寺 21代目住職・三原貴嗣さんです。

 

 

 

三原さんは「次世代僧侶オブザイヤー」の開催意義について、次のように語りました。

「宗教者自身が生きざまを見せることは、とても大切です。なぜなら、絵や音楽、大道芸など得意なことを披露し、イキイキとしている姿を見せることが、多くの人生へ希望を与えることに繋がるからです。

伝統的な宗教者は、どうしても伝える側の理屈で発言してきたように思います。しかし今の時代、それではダメでしょう。人間の数だけ、悩みがあります。多様な表現のできる宗教者が、さまざまな形で教え伝えていく。それがあるべき姿ではないでしょうか」

 

「次世代僧侶オブザイヤー」にノミネートされたのは計8名。しかし、当日会場に来られたのは4名でした。折しも開催日は8月20日。

お盆前後はお坊さんも忙しいため、なかなか会場まで行くのは難しい、という方が多かったようです。

 

ではここから、当日登壇された4名のプレゼンテーションを紹介しましょう!

 

「御朱印アート/ライブペインティング」長谷川優さん(牛玉山観音寺)

「アートな御朱印」が人気の若手僧侶、現在28歳です。

 

ライブペインティングで、見事な絵を披露してくれました。しかも、描くのにかかった時間は7分半。めちゃくちゃカッコいい!

実は長谷川さん、講談社の漫画雑誌『イブニング』で新人賞準大賞を受賞した経歴もあるそう。納得の画力です…!

 

「ジャグリング・大道芸」三原俊亮さん(真宗興正派善照寺)

三原さんは、香川県丸亀市にある真宗興正派善照寺の副住職。学生の頃に独学でジャグリングを始め、パフォーマンス活動も行っている「お坊さん大道芸人」です。

 

この日もジャグリングを披露。5つのお手玉を見事に操っていました。ちなみにこの方も「#僧衣でできるもん」で再生回数116万回!

 

 

「境内アートギャラリー」髙橋正重さん(常陸国出雲大社)

茨城県笠間市にある常陸国出雲大社。その名の通り、島根県・出雲大社に由来する神社です。

 

こちらの神社では平成28年2月、境内に現代アートギャラリー「ギャラリー桜林」をオープン。「古い伝統文化や寺社仏閣も、当時の人から見れば新しいアートのひとつ。神社×アートの相乗効果を期待しています」と話していました。

 

「お寺の電気/TERA ENERGY」竹本了悟さん(浄土真宗本願寺派 慈光山西照寺)

竹本さんは2018年、4人の仲間とともに小売電気事業者「TERA Energy株式会社」を設立しました。なぜお寺が小売電気事業を?

「みなさん、電気ってどんな形で作られているのか、知っていますか? 私はこの事業ではじめて、電気の仕組みを知りました。お坊さんがビジネスをすることに対し、不審に思う人もいるかもしれません。しかし私は、お坊さんこそリアルな社会に触れることが大事だと痛感しています」(竹本さん)

 

TERA Energyでは電気料金の一部を「ほっと資産」として、社会貢献するお寺やNPO法人に寄付しているそうです。

 

いろんなお坊さんがいるんだな〜と感心しきりだったプレゼンテーション。さて、ステージはいよいよ結果発表に移ります。

 

次世代僧侶オブザイヤー2019グランプリを受賞したのは……

見事なライブペインティングを披露してくれた、「御朱印アート」の牛玉山観音寺・長谷川優さん!

授賞式の後、長谷川さんに話を聞くことができました。

 

漫画家のアシスタントから僧侶へ?

村中「グランプリおめでとうございます! プロフィールによると、以前は漫画の仕事をされていたそうですね」

長谷川「はい。大阪芸術大学を卒業してから東京に出てきて、2年ほど漫画家のアシスタントをやってました。でも連載が終わって、仕事がなくなっちゃったんです。それで実家の寺に戻って、御朱印を描き始めました」

 

長谷川さんの描いた御朱印。牛玉山観音寺Twitterより

 

村中「巷では『御朱印ブーム』ですが、その時すでにブームが?」

長谷川「そうですね。最初は、必要とされているのが嬉しかったんですよ。漫画家のアシスタントって、そんなに儲からないし、あくまで裏方ですからね」

村中「長谷川さんの御朱印は、最初から反響があったんでしょうか」

長谷川「徐々に、ですね。どなたかが僕の描いた御朱印をインスタグラムにアップしていて、それを見た朝日新聞さんが取材に来てくれたんです。そこから一気に広がりました」

 

朝日新聞から取材を受けた動画。御朱印を描く様子が見られる

 

村中「予約が殺到して、いまは受付をストップしているそうですね」

長谷川「はい、いまは描き置きしか対応できてなくて、人気の『三面御朱印』は新規受付を休止中です。というのも『全然予約ができない』というクレームの電話がたくさん入って、『じゃあ、お寺に来られた方全員、受け付けますよ』という日を設けたんですよ。そしたらお寺に2000人くらい来てしまって……

村中「すごい人気ですね!」

長谷川「なので、次は抽選にしようかなと思っています。今後の授与方法は、Twitterで最新情報をチェックしていただけたら」

村中「ちなみにSNSでエゴサーチとかしますか?」

長谷川「怖くてできないんです(笑)。でも、転売があるのでヤフオクとメルカリはチェックしてます。定価の倍以上で売られてたりしますから」

村中「御朱印の転売とは、罰当たりな感じがしますが……」

長谷川「直接『止めてください』とも言いにくくて。でも何かしら対策は考えないといけないですね」

 

カッコいい不動明王を描きたい

牛玉山観音寺ホームページより

 

村中「お寺での仕事は、どんなことをされているんですか?」

長谷川「護摩祈祷(ごまきとう)は月に1回やっています。あとは節分などお寺っぽい年間行事と、ほかのお寺のお手伝いとか。夏休みに『子ども寺子屋』で絵を教えたり、地域の祭りでライブペインティングをやったり、いろいろです」

村中「絵も描けるお坊さんだと、地元でも引っ張りだこでしょうね」

長谷川「最近びっくりしたのが、『結婚するから、新居に飾るための“守り本尊”を描いてほしい』という依頼。『結婚式のウェルカムボード用に絵を描いて欲しい』と頼まれることもあります。もちろん、すべてお寺の収益にしていますよ。といっても、いただくのは材料費+αくらいですけど」

村中「やっぱり絵を描くのが好きなんですね」

長谷川「でも、辛い時もありますよ。今日は仏教に詳しい方が大勢いたので、失敗したらツッコまれるんじゃないか、という怖さはありました」

村中「ツッコまれるというのは?」

長谷川「以前、知り合いのお坊さんに『これは不動明王じゃない』と言われたことがあるんですよ。『これをお不動さんっていっちゃうと、なんでもアリになっちゃうよね』と。『本当の不動明王を描かないといけない』という気持ちと、『みんなが求める、カッコいいお不動さんを描きたい』っていう気持ち、そのせめぎ合いがあるんです」

村中「なるほど、それはリアルな葛藤…!」

 

「引きこもり」から「お坊さん学校」へ

冒頭でも紹介した、ドリルを使って不動明王の手を描く長谷川さん

 

村中「そもそも、なぜお坊さんになろうと思ったんですか?」

長谷川実はむかし、引きこもりだったんですよ。高校もあんまり行かず不登校になり『人生、うまくいかないな』と悩んでいる時期があって。お坊さんの学校に入って修行に出ることで、自分が変わるきっかけになるかな、という思いがありました」

村中「そんな過去があったんですね。では引きこもり→お坊さん学校→大阪芸大→漫画家のアシスタント→実家のお寺に戻った、と。面白い経歴ですね」

長谷川「まあ、珍しいケースだと思います」

村中「いま長谷川さんはお寺の副住職を務めてらっしゃるそうですが、住職であるお父様は現在の活動についてどうおっしゃっているんですか?」

長谷川「たぶん父としては、もうちょっとお寺っぽい行事を増やしたいんだと思います。祈祷も月1回じゃなくて、毎日にするとか。ホームページをリニューアルしたり、お寺の仕組み自体を変えたり……父とはそんな話もしています。」

 

牛玉山観音寺ホームページより

 

村中「ちなみに絵を描く以外の趣味はありますか?」

長谷川「音楽が好きで、よくライブに行きます。友部正人さんとか」

村中「フォークですか。28歳なのに渋い!」

長谷川「だからまわりの若者と話が合わないんです(笑)。でも銀杏BOYZとかアニソンも聞きますよ

村中「アニソン! ちなみに誰が好きですか?」

長谷川「水樹奈々さんとか、田村ゆかりさんとか。王道ですね」

村中「お坊さんもアニソン聴くんですね」

長谷川「アニソン好きはまわりにも結構いますよ。お坊さんって、こういう話をする機会がないから、なかなか伝わらないのかもしれませんね。」

村中「お話を聞いて、うんと親しみが湧きました。長谷川さんは将来の夢ってありますか?」

長谷川いま、お寺にギャラリーを作っているんです。ただそこには、僕の描いた絵しか飾っていなくて。いずれ、いろんな作家さんの絵が飾れる美術館になればいいなと思っています。あと、やっぱり漫画は描きたいですね。今でもちょこちょこ描いているので」

村中「ちなみに、どんな内容なんですか?」

長谷川「僕の修業時代の話を漫画にしようかなと思っていて。リアル坊主が漫画を描いていたら、面白いかな、と

村中「面白そうですね! 楽しみにしています」

 

コンテストの出場者と審査員の皆さんで記念撮影

 

おわりに

実は筆者、このエンディング産業展が大好きで、取材するのは今回で3回目。別に葬祭関係者でも何でもないのですが、毎回新しい発見があって、めちゃくちゃ刺激的なイベントなんですよ。

 

お葬式とかお寺って、普段あまり接する機会がないかもしれません。でも自分の生き方、人生の終わらせ方を考えるいい機会だなと、いつも思います。そう、死について考えることは、生について考えることと同義なのです。

 

次回のエンディング産業展は、2020年11月18日~20日の3日間、東京ビッグサイト(青海展示棟)で開催される予定です。ご興味の湧いた方はぜひどうぞ。(来年も行きたい……)