『MYST』を作ったのはどんな人? Cyanのこと
というわけでここからは、制作したCyanのことや、販売当時のことなどを伺っていきます。
「『MYST』を作ったのは、先ほどから名前が出ているCyan(サイアン)という会社なんですよね?」
「はい。Cyanはアメリカのゲーム開発会社で、ランド・ミラーとロビン・ミラーという兄弟が、メインで作っています」
「世界的にかなり売れたゲームと聞いていますが……」
「はい。たしか全世界で1,200万本とかだったかな。ムチャクチャ売れたハズです」
「じゃあCyanという会社は、摩天楼を見おろすビルの最上階に居を構え、社員数千人を擁する巨大企業なんでしょうね」
「いえまったく。最初はお金が無くて、『MYST』も家の横のガレージで作ってたそうです。未だに従業員は数十人単位の、インディーズメーカーですね。彼らのオフィスには何度も行っていますが……」
「社屋はワシントン州・ミードにあって、こんな感じです」
「田舎のハンバーグ屋じゃん」
「ただ、風景は本当に素晴らしいんですよね。私は何度も訪れてますが、『MYST』の世界観そのものという感じですよ」
オフィス近くにある公園。MYSTっぽい……!
「ゲーム好きなら誰もが知っているメーカーなのに、なぜいまだにインディーズなんでしょうか。1,200万本も売れた『MYST』の利益はどこにいったの?」
「まず彼らは……あまりお金に執着しないというか、こだわってゲームを作るということに心血を注ぐタイプで」
「そんな気はしました」
「だから開発期間がものすごく長い! そこに利益を注ぎ込んじゃうんですよね……」
「本当にこだわりが強い会社なんですね。働いてるのも変わり者ばかりなんでしょうか?」
「いえいえ、普通にとても良い人たちでしたよ。兄・ランドは神父の資格を持っていて、働いてる人もクリスチャンが多いです。だからゲームの中にも直接的な暴力が描かれてないでしょ?」
「そう言われれば……!」
「ちなみに、兄・ランドは『MYST』に”アトラス”役として出演してますよ」
『MYST』の最重要キャラ、アトラス(ランド・ミラー氏)
「えー! ご本人がゲームに登場していたんですね! 俳優かと思ってました」
「最初の『MYST』は、かなり身内を使っていますね。弟・ロビンは“シーラス”役だし、“アクナー”役も社内の人間です。『MYST』以降はちゃんと俳優を雇ったみたいですが」
(左)シーラスことロビン・ミラー氏 (右)めちゃ悪そうなアクナー
「あの悪そうな“アクナー”が社内にいるって、ちょっと怖いですね」
「実際会ってみると、普通に良い人なので大丈夫ですよ」
「仕事中にしつこく青いページを要求されるのかと思っちゃいました」
サンソフトとCyanの出会い~『MYST』制作秘話
「どんなきっかけで、アメリカのゲームである『MYST』を、日本で発売しようと思ったんですか? 私にとっては大好きなゲームですが、あんなに説明不足のゲーム、売るのはかなり勇気が要ったのでは」
「実はCyanとは『MYST』以前から付き合いがありまして。PCエンジン(1987年にNECから発売された家庭用ゲーム機)の、『The Manhole』というゲームがきっかけなんです」
「PCエンジンは持ってなかったんで、そのゲームは知りませんでした」
「『The Manhole』は、『MYST』に似たテイストのゲームです。当時、弊社のゲーム開発部門のトップが、『The Manhole』を気に入って、制作者に会ってみたいということで、アメリカまで行ったんです」
「ガレージでゲーム作ってる頃ですよね」
「意気投合して話をするうち、彼らが『次はCGを使ったゲームを作りたい』と構想を語ってくれて」
「それが……『MYST』だったんですね!?」
「その通りです! で、その場で投資することを決めました」
「え! まだゲーム自体は全然できてない段階ですよね? そこで投資を決めちゃったんですか? 勇気ありすぎません?」
「私もそう思いますが、担当者はピンとくるものがあったんでしょうね。その後、開発期間が延び延びになったりしたんですが、彼らを信用して、完成するまで一切口出ししなかったらしいです」
「後々1,200万本もの大ヒットになるわけですから、その担当の方、先見の明がすごいですね」
「ええ、のちに専務、社長になりました」
「出資をしていざ『MYST』が出来たわけですよね。完成品を見た当時のサンソフトのみなさんはどういう反応でしたか?」
「『これはおもしろい!』って素直に言ったのは少数派でした」
「ええっ?! 拍手喝采じゃなかったんですか?」
「やはりヒントや誘導がないという点が引っかかって、『これはゲームとしては異質すぎるんじゃないか?』『理解されないのでは』という懸念がありました」
「清水さん個人としては、どう感じました?」
「私も『なんだこれ?!』と戸惑った一人です。ただ、深くプレイするとハマる感覚があったし、おもしろいゲームだという確信はありました。その確信は社内の人間の多くが持っていて、最終的に行こう!となったようです」
「営業からは『もうちょっとクリアへの道がわかりやすいようにしたら?』という意見も出ました。日本人って、どうしても『ゲームはクリアするもの』という意識があるんですよね」
「え、当然クリアはしたいですけど」
「Cyanの考え方は、まず『MYST』の世界を散策して、雰囲気を楽しんで欲しい、と。楽しむ過程でクリアもできたら良いよね~くらいのスタンスなんです。だから、あからさまな誘導や、わかりやすいヒントを必要だと考えてないんですよね」
「あんなに謎がゴロゴロある島、気になって雰囲気を楽しんでる場合じゃないと思いますけどね……」
「でも、実際売り出してみたら見事大当たりしたわけですから、難しいのが『正解』だったってことですよね」
「そうですね。最初に出したのはセガサターン版でしたが、ローンチソフト(ハードの発売に合わせて売られるソフトのこと)だったのもあって、かなり売れましたね」
「そうか……記憶にあるのは翌年に出たプレステ版だけど、そういえば最初はサターン版でしたね。具体的にはどのくらい売れたんでしょう?」
「サターン版だけでたしか20万本くらいだったと思います」
「今とは時代が違うとはいえ、20万本はすごい!! しかもあんな難しいゲームが!」
『いっき』から『MYST』へ…サンソフトの歩み
「サンソフトと言えば、ファミコンの『いっき』のイメージでした。『MYST』はまったくテイストが違うゲームだったから、当時は驚きました」
「あれもある意味伝説的なゲームでしたね。メチャメチャ難しかった」
農民がカマを片手に忍者や悪代官と戦う時代劇アクションゲーム。難易度の高さで有名。
「『いっき』ってクソゲーと言われてますよね。でも実はゲームセンターで稼働していたアーケード版では、二人プレイができたり、敵の出現モーションがあったり、小判を取るレーダーマップがあったりと、親切な仕様だったんですよ」
「何それ!? そんなのあったら僕でもクリアできたかも!」
「ところが、ファミコンにするときに容量の都合で仕方なくそれらを削ったんです。そしたらものすごく理不尽な難易度のゲームになってしまったんですよね……。申し訳ない」
「そんな経緯があったとは」
「最近、ニンテンドースイッチで『アーケード版いっき』が出たばかりなので、よければやってみてください」
「あとサンソフトさんだと、『ナゾラーランド』がめちゃ好きだったな」
「私は『アトランチスの謎』と『スーパーアラビアン』やってました」
(左)ナゾラーランド (中)アトランチスの謎 (右)スーパーアラビアン
「隠れた名作『バトルフォーミュラ』とか、『デッドゾーン』とか。ゲーセンで『ルート16』もやったなぁ」
「うちの社員より詳しい……?」
「今はどういったものをメインに作られてるんですか?」
「コンシューマー版がメインですが、他にはスマホアプリなんかもやっていて、実は『MYST』もiPhoneアプリで出てるんですよ」
¥600
「パズル」カテゴリで19位
レビュー評価|5点満点中4.4(どちらも2018年5月現在)
「iPhone版は画質が綺麗になって、さらに! ヒントが見れるようになっています!」
「それは初心者にも優しいですね」
「ヒントはレベルに合わせて段階的に見ることができるので、できるだけ自力で解きたい人も、十分に楽しめますよ」
「僕みたいに再チャレンジしたい人や、新たに始めてみたいって人は、まずアプリからやってみるといいかもですね」
「わざわざプレステを引っぱり出さなくても、綺麗な画質とヒント付きで『MYST』をプレイできるなら、600円は安いと思います」
「あと実は、アメリカではCyanの最新作『Obduction』が発売になっています。『MYST』の流れを受け継いだアドベンチャーゲームなので、『MYST』ファンは必見ですね」
「早く日本にも来てほしいー! 今年は『MYST』25周年だし、何かとCyanが話題になりそうですね。ところで、さっきから気になってたんですが……そこに置いてある本って、ひょっとして……?」
「あぁ、これですか。『MYST』が完成した時に、Cyanから記念にもらったものですね。ゲーム中に出てくるCGのモデルになった、いわば実物です。取材ということで一応持ってきました」
「うわー良いなぁ! ちょっと触ってみていいですか?」
「おぉ……憧れの『MYST』の本……けっこうズッシリきますね!」
「25年の歳月の重みがありますからね」
「どれどれ、中身は……?」
(パラッ)
「あっ……」
(パサッ……)
まとめ
というわけで今回はサンソフトさんを訪れて、伝説のゲーム『MYST』について聞いてきました。とことんこだわって作られたゲームだったこと、それを勇気をもって販売したこと、だからこその伝説だったんだなぁと、再認識することができました。
「25周年アニバーサリーコレクション」、楽しみですね!
私も本から抜け出せたらプレイしてみます。
ではさようなら。
(おわり)