こんにちは、ライターの倉沢学です。

僕はアクション映画が好きでよく見るんですが、特に好きなのはスタントや殺陣のシーン! 男性のパワフルなアクションも良いですが、女性のスピード感あるアクションも良いんですよねぇ……

 

でもケガがつきものの職業だし、『女性スタントマン』ってドレスを着たりヒールを履いたりといった『ならではの苦労』があるのでは?

 

というわけで今回は、アイドル級のルックスながら、激しいアクションをこなす女性スタントマン、伊澤彩織(いざわさおり)さんに話を伺ってみました。

 

……え?

 

「激しいアクションってどれくらい?」って?

 

 

これくらいです。激しすぎ!

日本だけでなく、世界でも活躍するスタントパフォーマーなのです。そんな伊澤さんに、

 

・カッコいいスタントを教えて!

・そもそもスタントってどういう仕事なの?

・女性スタントならではの「ここに注目!」ってポイントは?

 

といった疑問に答えてもらいました!

 

 

伊澤彩織(いざわさおり)

公式Twitter

スタントパフォーマー。映画『るろうに剣心 最終章 The Final』『キングダム』『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』などに参加。2021年7月30日には、アクション女優として主演を務める映画『ベイビーわるきゅーれ』がテアトル新宿ほかで公開される

 

 

カッコいいアクション講座

「アクションってそもそもどれだけ種類があるんでしょうか?」

「ものすごく大雑把に分けると、『立ち回りをやるアクション』か『ワイヤー、車、炎、水、爆破など特殊技術がいるアクション』の2種類かな。映像か舞台か、何の武器を持つか素手で戦うかでも変わるので、細かく数えたらものすごい数になりそうです」

「伊澤さんが得意な分野は?」

私が得意なのは……近接系のナイフかな

「殺し屋のセリフじゃん」

 

「鮮やか!!」

「剣だとこんな感じですね」

 

 

「カッコいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! 女性ならではのしなやかさがあって美しいな~~~~~!!」

「少しキレイ目に、日本刀の立ち回りだけじゃなく、中国武術の動きとかをミックスしてみました」

「たしかにちょっと中国っぽかった! 中国武術の経験が?」

「武術経験はキックボクシングをかじった程度ですね。殺陣はダンスの振り付けに近い感じでやってます。“実際の格闘技の動き”と、“アクションとして美しい・迫力がある動き”って違ったりするので」

 

実際の格闘技は動きを悟られないように、小さく、最短距離をコンパクトに動かす

 

アクションでは何をやっているかが観客にわかるように、大きく、派手に動かなきゃいけないこともある

 

「僕も剣のアクションがうまくなりたいんですが、殺陣をカッコよく見せるポイントってあるんでしょうか?」

「ありますよ! ではお教えしましょう!」

 

カッコよく刀で斬るポイント

というわけで刀で斬りつける時のポイントを教えてもらいました。大事なのは4点!

 

・刀は小指と薬指で持つイメージ(他の指は添える程度)

・縦の動きは左手で、横の動きは右手でコントロールする

・斬る時は腰を落とし、息を吐きながら一気に

・切り終わったあとも、切先が相手の方向に向いていると良い

 

教わりながらやってみましたが、手首がフニャフニャだったり体が開いてしまったり、まったくイメージ通りにできない!

 

本気の立ち回りだとこのスピード感! これは無理だ……

 

「はぁ~斬る動きひとつとっても、色んな要素があるんですねえ。パッとできるだろうと思ってたんですが、圧倒的に“刀を持つこと”に慣れてない」

「普段から持つようなものじゃないので、それは仕方ないですよ」

「伊澤さんはさすが『るろうに剣心』でスタントやっただけのことはある!」

 

うまい人の納刀は、「刀がそこに収まることが当たり前」に思えるのがすごい

 

カッコよく銃を構えるポイント

続いて教えてもらったのは、銃の構え方。ただ構えるだけだと思ってたら、意外と難しい!

 

刑事ドラマなどで見る、銃を斜めに構えるカップ&ソーサー(左手を受け皿のようにグリップ下部に添える持ち方)は、ちょっと昔の構え方。

 

現代の銃撃でよく使われるのはこの構え方。

・胸と腕で三角形を作る

・脚はやや内股で膝を曲げる

 

横から見るとこんな感じ。撃った時の反動を、肩甲骨で吸収するイメージ

 

素人がやるとこう。力が入りすぎて背中ピーーーーン!

再三「もうちょっと柔らかく」と言われましたが、なかなか難しい

 

「いや、やっぱり素人が道具を持って何かするって、無理だ。でもひょっとしたら……素手のアクションならイケるかも!?」

「そのやる気は良いですね。ではお教えしましょう!」

 

カッコよく見える素手のアクション

「じゃあまずは出来るだけ高く蹴ってみてください」

「人生で人をキックしたこと無いからなあ……」

 

やー!

 

「よっしゃー! どうですかーーーー!!!」

「……えっと……うん、カッコいい、んじゃないでしょうか」

「絶対マスクの下で笑ってるでしょ!」

「ギクッ」

「伊澤さんがやるとどんな感じですか?」

「私の場合、ハイキックは、こう!」

 

ビュオッ!

 

「打点 高~~~~~!」

「ポイントとしては、腰の回転と軸足ですね。

・(右足で)蹴る前に、軸足(左足)を相手にかかとを向けるくらいまで回す

・右手は上から下に引っ張ってくるイメージ

これできれいなフォームになると思います」

 

蹴りは無理ということで、他にも首の締め方とかを教わりまして……

 

この人、「加減」って言葉を知ってるのかな?と思うくらい首を絞められたりしました。

でもなんていうかとても……幸せでした。

 

「色々と教わりましたが、僕にアクションの才能がないことだけはわかりました。最後のチョークスリーパーもすごい力でしたね! やっぱり鍛えてるんですか?」

「こういう仕事なので筋肉はついちゃいますね。ほら」

 

「うおー! ケンカしても絶対勝てないな。ダイエットとは無縁のお仕事ですね」

「いやあ毎日ダイエットしてます、食べたら食べた分だけ太りますから。太っちゃったら細身の女優さんのスタントがやりにくいじゃないですか」

 

スタントマンの仕事はスタントだけじゃない!?

「では、僕の体力も限界なのでここからは落ち着いて話を聞いていきましょう。アクションとひとことで言っても、今の時代は色んなお仕事があるんですよね?」

「映画、ドラマ、CM、MV、近年はゲームのモーションキャプチャ(特殊な装置を付けてスタントマンが演技し、動きをゲームのキャラに反映させる)なんかも多いです」

「時代だな~。スタントマンの仕事というと、やっぱり殺陣やアクション、カースタントみたいなことがメインになってくるんですか?」

メインは『危険なシーンを役者さんの代わりにやる』ことですが、実はスタント以外の仕事も多いんですよね。むしろそっちの方が多いかもしれません」

「スタントマンが、スタント以外の仕事? どういうこと???」

「台本に『AとBが戦う』と一行書かれていたら、それを何分かのシーンにするため、アクションを作っていくのも仕事です。どういう場所で、何を武器にして戦うのか。見たことないファイトを作りたいからみんなここに時間をかけてます」

「アクションを考えたりもするんだ! まあそりゃあ、実際に体を動かせる人が考えたほうがいいよな……」

「アクションを作ったら、それを演じる役者さんに指導するのも仕事です。『左から攻撃するのでこっちにこうやって避けてください』みたいに教えたり、ご本人が出来るようにアクションを調節したり」

「スタントマンというのは、どこかに呼ばれたら剣で戦い、またどこかに呼ばれたら銃で戦い、みたいな派手な仕事だと思ってた!!」

「いやいや(笑)、地味な仕事のほうが多いですよ。役者さんの補助や、体のケアをすることもあります」

 

「補助??? ケア???」

「みなさんが想像する危険なシーンというと、『ボコボコに殴られる』とか、『ビルから飛び降りる』とかですよね。でも実際は、どんな小さな危険でも『危険は危険』なので、おろそかにはできないんです」

「小さな危険というと、例えばどのレベルですか?」

「例えば……そうですね、『山の中で子供が転ぶシーン』とかでも、スタントマンが指導したりサポートしたりしますね」

「えー!? その程度でも『危険』なの!?」

「その程度でも、変な転び方をして骨を折ったり、擦りむいたりすることがあるので」

「考えてみれば、いま急に『転んで!』って言われたら、僕も変な転び方をしてケガしちゃうかも」

 

役者さんの顔や体にケガをさせるわけにはいきませんから、転び方の指導をしたり、あとは、衣装の下にパッドを仕込んで、土を掘ってマットを埋めたりします」

「パッド! マット! 僕は素人なので『万が一』をまったく想定していなかったし、それに対する対処も想像がつきませんでした。確かに、プロのスタントマンが指導したりサポートする必要あるわ……」

「他にもモデルさんが高い所に立つ場合とかも、万が一のためにハーネス(人とワイヤーを繋ぐ器具)をつけて後ろから補助をしたり……スタントだけでなく、『現場の安全を作る』のが役目でもあります」

「スタントマンがやることってめちゃめちゃ多いですね」

「あとはワイヤーアクションの裏方なんかもスタントマンの仕事ですね。滑車があって、ハーネス付けて、反対側で人が3人ぐらいで人力で引っ張るんですけど、あれもみんなスタントマン」

「へぇぇぇ~! 大道具さんとかじゃないんだ」

「動きのタイミングをわかっていて、力加減を理解していないとできませんからね」

 

危険な仕事を続ける理由とは

「スタントマンのお仕事ってやっぱり危険なんですか? 大怪我とかしました?」

「私はあまり怪我してないんですよね。今まで一番大きいのは肋骨の骨折くらいかな」

「いや十分大怪我でしょ。普通の仕事で肋骨が折れるってほぼ無いんだから!」

「切り傷とか擦り傷もあんまり無くて。打ち身の痣とかはしょっちゅうですけどね」

 

ヒザには生々しい打ち身の痣が!

 

「うわ痛そう~~!! これ、伊澤さんの中では怪我に入らないんですか」

「どこからを怪我と言っていいのか、自分でも最近わからない……」

「感覚が違いすぎる。それほどまでに、怪我や危険と隣り合わせで仕事するって、どういう想いがあるんでしょうか」

「ある時期の私は、大学に通うのもやる気が出なくて、芸能事務所の養成所に入ったんですけど引っ込み思案な性格なのでうまくいかなくて……そんな中途半端な気持ちの時があったんですね」

「伊澤さんにもそんな時期があったんですね」

「そんな時期に、強くなりたいなあと思いキックボクシングのジムに通いはじめたら、それがなんか噂になってて(笑) 撮影現場になんでもいいから行きたいって言いふらしてたら、ミット持てる? って撮影現場に誘ってもらった。それがアクション部だったんです」

「そこからアクションやスタントをやるようになっていくわけですね」

「2016年に、私にアクションを教えてくれた師匠・田中清一さんが亡くなって……。人一倍アクションへの情熱がある人でしたから、その遺志を継ぎたいと思ったんです。で本格的にアクションの道に進んだわけですね」

「スタントマンというと、マッチョな男性のイメージですが、女性ならではの良さや見どころはありますか?」

「やはり筋力では男性の方が上ですから、女性スタントマンはしなやかで美しいアクションが良い部分だと思います。軽い分スピード感もありますし。ただ、私の場合は女性だけど男性みたいな動き方ってよく言われます(笑)」

 

 

 

「伊澤さんはしなやかさと力強さを併せ持ってますよね! 逆に女性スタントマンならではの苦労ってあるんでしょうか」

「あります! 衣装ですね。ひらひらしたドレスやハイヒールなど、およそ動きやすいとは言えない衣装でスタントすることがあって、すっごく難しいです」

「確かにそれは女性スタントマンならではの苦労ですね。ヒールで格闘とか、難しそう!!」

「映画用の衣装なので、それでも動きやすくは作ってくれてるんですけどね。俳優さんと同じものに見えるけど、ヒールは低く作られてるとか。それでもTシャツにスニーカーみたいなわけにはいかないですね」

「なるほど。では最後に、今後考えていることや目標はありますか?

「海外と比べると、日本はスタントマンの地位が低いので、少しでも向上させたいです。例えば今って、『スタントマンが何をやったか』というのは基本的には発信できないんです。スタントダブル(俳優の代わりに危険なシーンを演じること)をしても、スタントダブルしたって言えなかったり

「あぁ~、『あのアクションは俳優本人がやっていません』、と公言しちゃう形になっちゃうからかな」

「スタントダブルはあくまで身代わりですから、劇中では『どこにスタントが使われているのかわからない』のが正解なんですけど……『この作品でこれをやりました』って言えるのが当たり前になったら嬉しいですね

「日本でのスタントマンの地位、ぜひ変えて欲しいですね! 今日はありがとうございました!」

「ありがとうございました! ハイキックは練習を続けていればうまくなりますから、頑張ってくださいね

 

まとめ

本当に練習を続けていればうまくなるのか……?

 

強くてカッコいいスタントマンの伊澤さんでしたが、お茶目な女の子的側面もあって、とっても素敵なかたでした!

 

そんな伊澤さんがダブル主演を務める映画『ベイビーわるきゅーれ』がテアトル新宿ほかにて本日7月30日に公開されます! 女優&スタントマン・伊澤彩織の、凄まじいアクションをご堪能あれ~!

 

『ベイビーわるきゅーれ』公式サイト