海外での『SASUKE』と国民性
Nothing could stop @flexlabreck from getting that buzzer. pic.twitter.com/7Bpc5YW1ZG
— Ninja Warrior (@ninjawarrior) November 28, 2019
「現在は海外でも『SASUKE(ニンジャ・ウォリアー)』が制作・放映されてますよね」
「はい。今は世界で25カ国の製作実績があります」
「海外でも、先程おっしゃった“概念”や“物語”は変えないんですか?」
「変えません。『日本のアニメ映画でラピュタというのがあって、セットはそれにインスパイアされてます』って説明します。様々な国で作る時は、そういうコンセプトを共有してないと、めちゃめちゃなものになっちゃうんで」
「言葉も文化も違う国で『SASUKE』のクオリティを守るの、難しそう」
「例えばモンゴルで制作された時は、モンゴル人はぶら下がりが苦手だから、ぶら下がるアトラクションを減らしたいと言われましたね」
「モンゴルの人、ぶら下がるの苦手なんだ。しかもそれを自覚してるんだ」
「あと、モンゴル人は泳げないって言ってたな。海がないし、川も湖もめっちゃ冷たいから、水泳の授業がないらしくて。水泳のアトラクションはどうしたらいい?と聞かれました」
「なんと答えたんですか?」
「プールのアトラクションを別のものに入れ替えればいい。『SASUKE』は、番組丸ごとを売ってるわけじゃなくて、『そり立つ壁』はいくら、『クリフハンガー』はいくらという、アトラクション単位でのバラ売りだから」
「ええええ! まさかのバラ売り!」
「なので制作予算が低い国は、安いアトラクションが中心になってます。セットを組める場所が屋内だからスペースをとらないものだけ、とかね」
「じゃあ究極、そり立つ壁だけやって終わりという場合も?」
「いえ、それはダメなんです。ステージは3つないとダメ。概念があるから。『SASUKE』と名のつく番組として、一定のクオリティは守ってもらいます」
「しかしバラで売ってるのは考えもしなかったな~。一番安いのはどれなんですか?」
「『ジャイアントスイング』っていう、走って鉄棒みたいなのにつかまって着地するやつが安いですね。逆に、高価なのは『そり立つ壁』じゃないかな。やっぱり名物ですから、世界中どこの国でも絶対入ってますね」
「他に日本と海外で違いを感じる部分はありますか?」
「アメリカやヨーロッパは、ぶら下がって飛ぶアトラクションが多い。去年向こうのプロデューサーと話した時に、3rdステージに多く採用されている飛び移る系のアトラクションが、視聴率が上がると言っていました」
「へぇ~、国民性ってあるんだなぁ。派手だからかな」
「日本では例えばラグビーのタックルの要領で重いものを地味~に押して押して、脚の疲れがマックスになった頃、ちょうどそり立つ壁があってジャンプしなきゃいけない、みたいな構成なんですよ。緩急をつけたコンボになってる」
「はいはい、全体の流れを考えてるんですね」
「でもアメリカはとにかく全部派手なアトラクションにするのが好き。実際見てみると、それもおもしろいんですけどね」
「ちょっと気になってたんですが、日本の『SASUKE』は、世界レベルで見て難易度が高い方なんですか?」
「めっちゃめちゃ高いです」
「へぇ~、ふふふ。ちょっと誇り高い気分になりました」
「あなたはまったくの無関係ですけどね」
「あと海外でやる時に一番お金がかかるのが、安全対策。安全のためのマットをたくさん増やすんです。元々設置されていたよりも100枚近くマットを増やしたこともあります」
「そんなに増やす必要あります?」
「向こうのスタッフにも散々『まさかそんな所に落ちないだろう』って言われるんですが、本番になると見事にそこにドボーン、と」
「それは経験から来るものなんでしょうか?」
「20年ぐらいSASUKEも含めいろんな番組やらせてもらってますから。この設定なら何人中何人がクリアできて、中にはこんな場所に落ちる人も出てくるだろうなっていうのは、大体わかります」
「超能力レベルじゃないですか」
「『SASUKE』の名を冠する以上、クオリティ管理だけではなく、安全管理も徹底してもらわないとね」
オーディションに受かる方法
「自宅にセットを作ったり、個人で指導されたりする方もいらっしゃいますよね」
「はい。全国で7か所くらい、練習用の大きい自作セットを持ってる方がいますね。そこに選手や選手を目指してる人が集まって、合同トレーニングをやってます。僕らから口出しすることはありませんが」
「みんな熱量がハンパないな」
「自分でセットを作る選手は、テレビを観てスクショを撮って、鉄骨を組むんです。でも見に行ってみると、寸法が間違っていることも多いですね。『これで練習してもダメだろな~』と思いますが、公平を期すために言わないようにしてます」
「切ない……。出場選手のほとんどはオーディションで選ばれるんですよね? どんなことをやっているんですか?」
「毎年数千人単位で応募頂くんですが、まずは60人一組くらいで集まってもらって、腕立て伏せを100回やってもらいます」
「腕立て100回! それで基礎体力を見るんですね」
「いや、体力や筋力は二の次ですね。腕立て伏せって、限界が来た時の様子がものすごくおもしろいんですよ。顔も歪むし、腕もプルプルしてね」
「ドSの愉悦としてやらせてるってことですか?」
「違う違う! なぜやらせるかというと……以前、ある挑戦者が『そり立つ壁』に挑んだ時、一度目では届かなかったんですね。それで彼がどうしたかというと……」
「『SASUKE』は、一度失敗しても、残り時間がある限り挑戦できるんだから、何度もチャレンジしたんじゃないですか?」
「ところが、選手は心が折れて諦めてしまったんです。その時の残りは9秒あったんですが、カメラに両手で×印を出して、9秒間じっと立っていた。僕は、たとえ無理でもいいから、足掻いて挑戦する姿を見たい」
「腕立て100回も、諦めない心を持っているかを見てるってことですか」
「その通りです。だから、腕立てできたから合格、できなかったら不合格というわけではない。30回しかできないのなら、31回目をやってほしい。無様な姿を晒してでも挑戦しようという気持ちを見せてほしいんです」
「そこで取り繕って諦めたらダメだと」
「ですね。オーディションで大事なのは、あとは自己紹介の噛み具合かな。50人ぐらい並ばされた中での自己紹介って、やっぱり緊張するんですよ。『よ、よろしゃしゃす、しゃしゃーす!』ってなる。それが良い」
「ということは、普段から大勢の前で何かをすることに慣れてる『学校の先生』とかが有利なのかな」
「いやいや、そんなレベルじゃないですね。世界大会など、超大舞台の出場経験があるアスリートですら、SASUKEに来ると手が震えるらしいですから」
「聞いてるだけで緊張してきた」
「これも腕立てと同じで、流暢に自己紹介できるかどうかなんて、どうでもいいんです。緊張して噛み噛みになっても、一生懸命自分を伝えようとしてくれる……その人柄を見ています」
「他には何を見ているんでしょうか?」
「職業かな。SASUKEの出場枠は、一応100人100種類の職業と詠ってまして。絶対的なものではないんですけど……それぞれの職業の代表者として挑む!というのも、ひとつのコンセプトだから。『大学生』が10人いちゃ、さすがにダメ」
「基本、大学生として出場できるのは1人ってこと? 厳しい! 大学生でSASUKEに出たい人なんて山ほど居そうなのに」
「『スポーツトレーナー』という職業の人も、すごく多い。でも1人しか無理なんですよねぇ……」
「わかりました。これを読んでる皆さん、『SASUKE』に受かるには『腕立て伏せの必死さ』『人柄のわかる自己紹介』『唯一の職業』が重要です。今すぐ海に塩をまく仕事など、特殊な職業に転職しましょう」
SASUKEオールスターズとの関係とドラマ
「『SASUKE』といえば、常連選手たちがSASUKEオールスターズと呼ばれて、アイドル並みに人気になりましたよね」
「強力な選手ばかりが集まった、今でいう『アベンジャーズ』ですよね。ただ、彼らは番組側でグループを作ったのではなく、自分たちで勝手に集まったんですよね。だから、グループに入るのに何か基準があるわけじゃなくて」
「ふわ~っと集合しているんですね。オールスターズって、勝つことが絶対条件じゃないから、本当基準が難しいですよね。毎回『そり立つ壁』で脱落するけど、この人がいないと『SASUKE』らしくないよね、という選手もいますし」
「『SASUKE』は、オールスターズが抱えるドラマも見どころのひとつですよね」
「そうですね、ミスターSASUKE・山田勝己さんなんかは、仕事を辞めたり自宅にセットを組んだり、多くのドラマを持つ不世出の天才でしたね。『自分にはSASUKEしかないんです』って名言も残してくれた」
「その少し後に、漁師の長野さんが登場しましたね」
「長野さんは、中学卒業してから30代までずっと、ひと月の半分くらいを船の上で孤独に過ごして……もっと楽しいことはないかなってことでSASUKEに出場したんです。『半年に1回のSASUKEが自分の青春だ』と言ってくれました」
「長野さん、ストイックでカッコいいんだよなぁ」
「あと、ドラマと言えば最初に完全制覇を達成した、毛ガニの秋山さん。実は目が不自由なんですね。完全に見えないわけじゃないけど。彼との約束で、番組ではそのことを4年間伏せてきた」
「僕も、後から目が不自由だって知って驚きました」
「彼が完全制覇をした時に、僕は『目の話を公表したい』と伝えたんです。健常者でもできないことを、あなたは成し遂げた。それがどれほどの人に勇気を与えるか……君は言うべきだと。そうしたら『わかりました』と言ってくれて」
「公表したことで、反響はどうだったんですか?」
「大反響でした。目が不自由な人たちからも、たくさんのお便りを頂きました。僕は、目のことは4年間ずっと約束を守って黙っていた。その信頼関係があったから、公表させてくれたんだと思います」
「良い話だ」
「彼が引退する時、カメラに向かって泣きながら『乾さんは東京のおじちゃんです。こんなに良くしてもらってありがとうございました』っていうビデオメッセージをくれてね……」
「そのメッセージを見て乾さんも涙がこぼれました?」
「いや、『いらねえよ』って思いましたね」
「なんでだよ!」
「これで最後じゃないんだから、そんな感傷的になるなよって。だってその後も、もちろん今でも、時々連絡を取り合ってますから」
「ただの“制作者と出演者”という関係より、もっとずっと深い信頼があったんですね」
「『SASUKE』を作るっていうのは、アトラクションを作るだけじゃない。出演者ひとりひとりと向き合って関係を作っていく。でないと番組は長く続かないです」
「良い話ですね……。今日は色んな話を聞かせて頂いてありがとうございました!」
「『SASUKE』好きなのに、知らないことだらけで楽しかった。ありがとうございました!」
まとめ
お話を聞いて、『SASUKE』という番組が多くの人を魅了する理由がさらによくわかりました。さて、そんな『SASUKE』ですが、もちろん今年も特番として放映されます!
TBSテレビ「SASUKE 2019」(第37回大会)
2019年12月31日、19:00~23:55放送!
ラピュタを模した豪華なセットと、選手たちの熱いドラマを見逃すな~~!