どうも。工作系の記事を書いているライターのマンスーンです。
最近、世間では工場見学が流行っているらしいんですが、紹介される工場って大体が食品系だったりします。工作や機械が好きな僕にとっては食品よりも、誰も気にもかけてないような機械の小さなパーツを取り上げて欲しいんです。だって、どのように作られているのか気になりませんか?
というわけで今回、工場見学と無茶なお願いを兼ねて神奈川県にある海内工業株式会社にやってきました! タイトルの意味については後半で明らかになります!
創業60年の中小企業がすごい!
海内工業は精密板金加工を得意とする会社です。
板金加工は一枚の金属の板を様々な形に加工する方法なのですが、海内工業では精密板金加工と呼ばれる板金加工の中でもより精度を高めたもの、細部まで正確な寸法で作るとても技術力の高い加工をしているすごい会社なんです。
工場内はたくさんの機械が並んでいて機械好きとしては興奮しっぱなし。目に入るものすべてがかっこいい! 工場特有の「ウィーン! ガッシャン!」といった機械音もたまらないですね。
こちらは、工場内でも特に大きな機械が置いてあるスペース。巨大な機械を見るともう人には制御できないんじゃないかと考えて怖くなりますね。
写真の右側に置いてある機械はレーザーカッターなんですが、軽い気持ちで「いくらくらいするんですか?」と値段を聞いてみたところ…
「これはそこまでしないんですが、高いモノだと周辺機器含めて1億円以上する機械もあります」と言われて、思わず立ったまま気絶してしまいました。都内に一軒家が買える値段じゃないですか。
ちなみに左にいるのは今回とてもお世話になった海内工業の湊研太郎さんです。
ネジ穴を作る機械を操る職人さん。モノづくりをする男の背中はかっこいいですね。工場内は独特の緊張感のある空気が流れていたのですが、みなさんとても優しい方ばかりでした。
そんな職人さんに比べてめちゃくちゃ猫背のダサい背中の僕なんですがいつかは背中で語れる男になりたいものです。
これは金型に合わせて金属をプレスして加工する機械なんですが、なんと150トンの力がかかるそうです。『シティーハンター』で冴羽リョウが100トンのハンマーで殴られてましたがそれ以上の力…。料理の時ニンニクを潰すのに使ったら便利そうです。
ここで僕も曲げ加工を体験させてもらえることになりました。
下に凹みの金型、上に凸の金型を付けた機械の間に金属板を入れて挟むことによって金属板を曲げるという加工自体はとてもシンプルなんですが、 先程150トンのすごさを知ってしまった後なのでけっこう緊張しました。
湊さんに手取り足取り教えてもらい、最初はただの1枚の金属板だったのに段々と形になっていきます。今回はステンレスを使用したんですが、ステンレスってすごい硬い素材なんです。そんな人の力ではぜったいに曲げられないものが機械によってグニャっと曲がる瞬間の感覚がすごく気持ちいい!
あっという間に箱になりました。
完成したのはスマホを入れることのできるケースで中にスマホを入れてフタをすると、金属が電波を遮断して圏外になるそうです。電話に出たくなかったりLINEを受信したくない時に役立ちますね。
あとサイズ的にコロッケとか入れたら冷めなくて良さそうな感じがします。
特注で作ってもらおうかな。
箱と蓋には切れ目が入っていて、切れ目同士をはめ込むことよってスマホを立てられるスタンドにもなります。
湊さんに金属加工会社の話を聞いてみた
「海内工業さんでは具体的にどんなものを作っているんですか?」
「板金って聞くと車のボディのイメージですよね。板金について少し知ってるエンジニアさんとかでも筐体などのイメージを持ってると思うんです。でもうちは精密機器・機械の中身を作っているんですよね。たとえば媒体が搬送する部分であったり、センサーの取り付く部分とかです。そういった摺り合わせの精度が必要なパーツを主に作っています」
「たしかに金属の加工というと大きくて派手な感じのイメージをもっていました。でも、どうしてそういった精度が必要なパーツを作るようになったんですか?」
「背景として、他の会社があまりやりたがらないような手間がかかって難しい仕事ばかりをしていたんですよね。その結果、知らない間にどんどん技術力がついていったんです(笑)」
「なんですか、最後は影でコツコツやってた人がハッピーエンドになる昔話みたいな展開!」
湊さんが見せてくれた2/100mmの精度で作られた金属製の筒。
5つのサイズが違う筒が本当にピッタリとつながっているのに、スムーズに伸び縮みするというすごいもので、海内工業さんの加工精度の高さを実感しました。
「これは3Dプリンタのメーカーのストラタシスさんのデモ用に作ったロボットの中身です。東京大学の研究員の方と共同開発で作りました。技術サンプルなので無駄にフルチタン仕様です」
「うわー!かっこいい! ちなみにチタンってどんな特性があるんですか?」
「とにかく軽くて強い。あとは耐食性(※金属などが腐食しにくい性質)が優れていること、金属アレルギーが少ないので体にインプラントするものとして使われていることが多い素材ですね」
「何となくチタンはすごいっていう知識だけはあったのですが、そんなにすごい素材だったとは。やっぱり高いんですよね……?」
「このロボットは骨組みだけで40~50万円はします」
「(サイゼリヤのミラノ風ドリアが1672杯食べれるな…)ただパーツを作るだけじゃなくてロボットの骨組みだったりとけっこう変わった仕事もしているんですね」
「そういえばここに貼ってあるドラえもんのひみつ道具を実際に作るプロジェクトのポスターって、CMで見たことあるんですけど海内工業さんが関わっていたんですか?」
「はい、板金パーツの製造をしました。ポスターに映る右から3番目の女性が弊社の社長です。ほかにも、LUNAR DREAM CAPSULE PROJECTというポカリスエットを月面まで運ぶというプロジェクトに関わっていて、中身の部品などを製作しています」
「作ったものが宇宙にまで行くなんてすごい! 夢のある仕事ですね」
「工場としては工業製品のお仕事が8〜9割なのですが、僕の担当している仕事の一つとして、弊社の板金加工技術がどんなことに役に立つのかということに挑戦しています。その中で、新しい技術や広告系の仕事も手がけています。常に未来を見据えて航空宇宙・医療・ロボットなど、この先に伸びうるであろう分野について常に考えるようにしています」
「ほぼ無職の僕には立派すぎる考え方で、このまま溶けて消えたくなりました」
会議室には2025年までの未来年表が貼ってありました。やっぱり立派!
もう少し掘り下げて聞いてみた
「ぶっちゃけ金属加工は儲かるんですか?」
「いえ、ぜんぜんです。部品はひとつひとつが安いから大量に作らなければいけないんですよね。しかも最近は作る場所が国内ではなくどんどん海外になっていっているんです。だから先程のように、弊社としてどんな付加価値がつけられるのか?というのを考えて仕事をしていますね」
「やはりモノづくりの基盤は海外に流れているんですね。人件費の安さだったり工場の規模だったりが全然違いますし」
「中国などはとにかく何でもすぐ作っちゃえ!!っていう感じでスピードがすごいなと感じています。特に世界のスタートアップの会社が集まってる深センという場所は勢いがすごいですね」
「この前、実際深センに行った人のブログを読みましたけど、誰かが作れたんだから俺でもすぐに作れるみたいなモノづくりに対するスタンスが感じ取れましたし、あれぐらいのスピード感も必要になってくるのかもしれませんね」
「今って量産品はどんどん安くなっていっているじゃないですか? でも、欲しいものは安く手に入れたいけど売るものは高く売りたいっていう矛盾があると思うんです。例えば100円ショップは便利ですけど。100円で売って利益を出すために原価いくらにしているのか?とかを考えるとすごい大変だと思うんです。当たり前に買っているものでも、その商品の先には作っている人がいるっていうのを忘れちゃいけないですよね」
「すごい名言だ…」
「最近は、適正な価格でものを手に入れることはすごい大事だなと。安いものばかり買っているといつか自分に返ってきてしまうんじゃないかなと感じています」
「工作する時すぐに安い材料に頼るのやめます…」
斜めに開閉する名刺ケース。閉じた時のピッタリ感がすごくてとにかく精度が高さが際立っています。
「何か困っていたりすることってありますか?」
「やっぱり若い人がこの業界に入ってこないことですね。例えば大学を卒業して工学部の子とかが就職しようってなった時に町工場を選ぶって事はあんまりないですよね。どうしても大手メーカーを目指してしまう。もちろん待遇面などを考えると大手メーカーには勝てません。ただ実際に物を作ることができるのはもちろん、自分の作りたいものを作れるのが、この規模の会社の良いところかなと。大学で座学をちゃんと学んでいた人が現場に入れば、とてもいいものが出来るんじゃないかと感じています。実際弊社では、ロボットを作ったり、様々なプロジェクトを一緒にまわしてくれる人材を探していまして。ジモコロの読者さんで興味のある人がいたら連絡してほしいですね(笑)」
「なるほど。どうしても大手の会社に憧れてしまう部分ありますよね。大手に入ればその後転職の時に有利だとかそういう事を考えて就活している若者も多くいるらしいですしね。ちなみに湊さんはどうしてこの会社に入ったんですか?」
「高校まで長野県にいたんですが、卒業後は滋賀県で釣り専用のボートを売る仕事していました。それは1年でやめてしまったんですけども。その次は、お弁当屋さんなら食うものに困らないか?と思ってお弁当屋で働き始めました(笑)。そうしたら配達で知り合った板金屋さんにスカウトされて、そのまま7年間板金の仕事をしたんです。その環境下で今の社長とTwitterで知り合って、海内工業が面白そうだからって入社したんですよね」
「すごいおもしろい職歴! Twitterで知りあうとかめちゃくちゃ現代的だし…。ちなみに僕は一応理工学部卒なんですけど、就活をまったくしなかったために無職になってしまったんですけど海内工業さんに入れますか?」
「………。えーと、あとうちは精度が必要な加工をしているため、どうしても人の技術に依存する部分が多いのでどうしても属人的になってしまうのでデジタル化が遅れているっていうのも悩みですね。例えばまだこの業界はFAXが主流なんです。FAXは本当にもうやめて欲しいです」
この後、湊さんはずっと何故FAXが嫌なのかということ熱弁していました。
「夢のあるプロジェクトとかの話を聞いたあとに悪いんですけど、このサイト『ジモコロ』のコロって“コロッケ”っていう意味合いもあるんですが、例えばコロッケを入れるためのケースとかって作ることって可能ですか?」
「え、コロッケ…ケース?」
「コロッケって外で食べる時入ってる紙の袋だとすぐ冷たくなるし柔らかいから鞄とかにしまえないじゃないですか。だからケースがあればいいかなと思ったんですよね。何かフタがかっこよくシャキーンと開いて、できればチタンでイケてるやつ作りたいんですけど」
「こんな感じの」
せっかく真面目な話をしていたのに、いきなりコロッケ専用ケースを作って欲しいと言われて、湊さんは座ったまま半笑いで気絶してしまいました。おしっこも漏れていた気がします。
目覚めた湊さんに「お金ならちゃんとあります!(僕が出すわけではないけど)」と言ったところ真面目に話を聞いてくれてなんと本当に作ってくれることになりました!!
コロッケケース完成までの過程
コロッケケースと言ってもコロッケのサイズは千差万別。まずは近所でコロッケを買ってコロッケの平均サイズを調べることにしました。
精肉店やコンビニ、スーパーを巡ってコロッケを買い集めました。
そして導きだされたコロッケの平均サイズがこちら! 平均といっても、あくまでうちの近所の平均ですけどとりあえずこのサイズを湊さんに送って図面を書いてもらうことにしました。
あとコロッケは一度に6個食べるとすごい気持ち悪くなるので気をつけて下さい。
なんとなくのイメージ図がちゃんとした図面になっていてさすがプロ! 驚きつつも、こんなことに大真面目に付き合ってくれている海内工業さんにとても申し訳なくなりました。
それからメールや打ち合わせ等のやり取りなどを1ヶ月程続けてついに・・・
コロッケケースが完成!!
完成したコロッケケースを受け取ります。
あの適当な提案がちゃんと実物になっていることに感動しました。
そして加工精度の高さを誇る海内工業さんだけにフタの動きもばっちりで、動かすのが気持ちいい程です。出来上がったコロッケケースがあまりにも凄かったのでこれはちゃんと撮影しないといけないと思い、プロのカメラマンさんに物撮りを頼みました。
それでは完成したコロッケケースをご覧下さい。
ステンレス製のコロッケケースです。前面にはジモコロのロゴとイメージキャラクターであるコロ沢の絵がレーザー印刷されています。
R曲げ加工により綺麗な曲線を描く美しいフォルム。
随所に見え隠れする細かなこだわりと繊細さがあなたのコロッケを包み込む。
コロッケ界に新時代がやってきた。
こちらはチタン製コロッケケース。ステンレスと違いとにかく軽いのが特徴。値段は大体うまい棒8000本分、つまり約80000円とかなりの高級品です。正直、調子に乗りすぎました。
ワンランク上のコロッケを入れるならこれで決まりでしょう!
コロ沢のキーホルダーも作っていただきました。大きさは約5cmで鞄や鍵に付けるのにちょうどいいサイズになっています。小さいのに細かい部分まで再現されていてすごい。
時間がない忙しいビジネスマンにとってはコロッケもスマートに食べたいもの。
そんな時、このコロッケケースがあればもう安心です!
ズバーン!
胸ポケットからサッと取り出してフタを開ければ、すぐにコロッケを食べることが可能!
パクリ。
うむ、うまい。
ピピピピピピピピピピ!!!!!(携帯の着信)
「おっと取引先からの電話か」
食べかけのコロッケも安心して収納できます。
いやー、やっぱりコロッケケースを持ってる男は一味違いますね。
(俺、無職なんだけどな……)
〜完〜