パン屋の生き残りは、お店の外でどう売るかにかかっている

と、ここまで父にいろいろ話を聞いてきて「景気のいい時代だった、大変な時期もあったけどなんとかやってこれた」ことはわかりました。だけど「なんでパン屋の収入だけでやっていけたのか?」という、根本的な疑問は解消されていないことに気づいたのです。

 

『ぼんぱん』の数字を誰よりも見てきたのは、父ではなく母。ということで、後日もうすこし突っ込んだ話をお母さんに聞いてみたのです。

 

「パン屋の仕事が大変なことも、うちは大変な時期こそあれどそれなりにやってこれたこともわかったんだけど、肝心の『なんでやってこれたか?』の部分がお父さんの話ではわからなかったの。お母さん教えてくれない?」

「そうねえ。店舗の売り上げだけでやりくりできたら最高なんだろうけど、それだけでやっていけるお店は少ないんじゃないかな」

「どういうこと?」

「たとえばうちのお店だと、地元の高校の購買、市役所の売店、大きな病院や会社にパンを売りに行ってるでしょ。そうやって外販(会社などを訪問して商品を売る「外交販売」のこと)に行ったり、保育園や近隣のホテルからの大口注文を受けてきたりしたから、なんとかやってこれたのよ」

「店売りだけで完結してるわけじゃないんだね!」

「うちが外販を始めたのは、二店舗目の売り上げがすごく悪かったからだけどね〜。外で売り上げをつくるしかなかったのよ」

「そういう背景があったのかぁ」

 

「すべてのパン屋さんがそうではないと思うけど、催事だけ出るパン屋さんとかもあるし、近隣の飲食店にパンを卸してるお店は多いんじゃないかな」

「へえ〜。ちなみに、パン屋って儲かるの……?」

「売り上げの3割が手元に残るくらいかなぁ。お店の家賃、毎日配達で走り回る車2台分のガソリン代とか維持費とか、人件費とか……電気代だけで毎月15〜6万かかるのよ?」

「ひえぇ〜! 電気代16万…!!」

 

「お父さんとお母さんだけじゃ外販も配達も対応できないからね。人を雇うとそれだけ人件費はかかるけど、外での売り上げって大事だからね。だから人を雇い続けてるし、外販もできる限りは続けてるのよ」

 

「毎日朝から晩まで働いて、唯一の休みは日曜日だけ。それも夕方には仕込みに行かなきゃいけなくて……嫌になることはなかったの?」

「そりゃあ大変だったけど、『家を持つ』って目標があったから頑張れたのよ。あんたたちが小さい頃は、日曜日にみんなで遊びに行くのがストレス解消になってたし。40〜50代までは全然平気だったよ! 50代後半からは体力的にキツくなってきて、『とりあえず借金返すまではがんばろう』と思ってやってきたかな」

「夫婦揃って借金が原動力だったんかい(笑)。ぶっちゃけさ、お父さんが脱サラしてパン屋やるって言い出した時はどう思ったの?」

「結局働くのは自分(お父さん)じゃない。だから、嫌なことでも我慢してやって、とは言えないよね。自分の好きなことをして稼ぐんならなんでもいいよって言ったかなぁ」

 

さいごに

とっても身近で、だからこそ不思議だったパン屋の経営のことや、身近すぎて当たり前に思っていたことにも、その裏には両親の努力や経営判断があったことなど、話を聞いて初めて知る事実がたくさんありました。

 

最近フリーランスになったわたしに対して「インターネットのことはよくわからないけど、やってることはものづくりでしょう? 取材して、記事をつくって、お客さんに届けて、対価をもらう。お父さんもものづくりが好きだから、あなたがおなじものづくりの仕事をしていることを誇りに思ってるよ」と、言ってくれた父。

 

高校を卒業したら札幌に進学したいと言った時も、東京で編集者になると言った時も、会社を辞めてフリーランスになると言った時も、父は「自分の思うようにやりなさい」と背中を押してくれました。

それはきっと、自分自身がやりたいことのために努力し、道をつくってきたからなんだろうなと思います。

 

……と、そんな話をしていたら父が財布をゴソゴソしだし、ボロッボロの紙切れをだしてきました。

 

みなさん、これがなんだかわかりますか?

 

20年以上前にわたしが贈った「お守り」だそうです。

「いつか大人になったわたしに見せてあげよう」と、ずーっとお財布の中にしまってあったのだとか。

父からの思いもよらぬサプライズはなんだか照れくさかったけれど、あの頃からずーっと、私たちのために朝から晩までパンを焼いてくれていたのだと思うと、胸にこみ上げるものがありました。

 

「ボンパンのしごとちょーがんばってね」って書いてある。「ちょーがんばってね」ってなんだ

 

最後の最後、父のサプライズにすべてを持っていかれた感じで終わりましたが、みなさんもぜひ機会があればご両親の仕事について聞いてみてください。

 

わたしは今回の取材を通じて、改めて親からたくさんの影響をうけて今の自分が形成されていることを実感するいい機会になりました。

 

わたしたち姉妹のために必死で働いて育ててくれた両親のこと、とってもとっても誇りに思います。

 

 

最後に、お知らせです!!

 

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写真:小林直博

 

 

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