こんにちは、ライターの大坪ケムタです。

みなさん最近ギャグ漫画を読んでいますか?

赤塚不二夫や永井豪、『Dr.スランプ』に『伝染るんです。』、さらに『行け!稲中卓球部』等々、世代によって思い入れのあるギャグ漫画があることでしょう。

 

しかし最近、ギャグ漫画のヒット作が減っているような気がしませんか? もちろん笑えるマンガはたくさんあるんですが、それらは一話完結に代表されるようなギャグ漫画というより、物語要素が強いコメディ漫画が多いのではないでしょうか。

 

一体なぜ減ってしまったの……?

 

そんな中、昭和の少女漫画風タッチを活かしたギャグで大人気のマンガ家が存在します。

 

邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん (マーガレットコミックスDIGITAL)

『邦キチ!映子さん』

 

その名は服部昇大先生。

『日ペンの美子ちゃん』6代目作者であり、現在、女子高生がマニアックすぎる邦画をおすすめするギャグ漫画『邦キチ!映子さん』などを連載中です。

そんな服部先生に、現在のギャグ漫画事情について教えてもらいました!

 

なぜギャグ漫画のヒットは減ったのか?

都内にある先生の仕事場でお話を聞かせてもらいました!

 

「今日はよろしくお願いします! 最近のギャグ漫画事情について聞きにきました」

「よろしくお願いします!」

「さっそくですが質問させてください。最近ギャグ漫画のヒット作って少なくなってないですか?」

「はい。昔よりは少なくなってると思います」

『銀魂』とか、最近だと『僕の心のヤバいやつ』みたいな、メインの物語がちゃんとあって、その中にお笑い要素を入れたようなコメディ・ラブコメ作品のヒットは結構ありますよね? でもギャグそのものがメインになってる漫画って、なぜ減ったんでしょうか」

「ギャグがメインでもヒットしたものはあるんですが、近年だとバーンと大ヒットするのはスピンオフ作品だったりしましたよね。『中間管理録トネガワ』みたいなパロディギャグとか」

「あぁ、ストーリー漫画のスピンオフギャグというか。ただそういった作品は『トネガワ』でいえば『カイジ』みたいな感じで本編の物語ありきなので……厳密にギャグだけで成立しているかというと、捉え方が難しいかもですね」

「ひとことで言うと、オリジナルギャグ漫画が当たりにくくなっているってことかな。そもそもギャグ漫画って、ストーリー漫画と比べたら、基本的に“当たらない”ものですけど」

「えっ、そうなんだ!」

「仮に当たったとしても、単行本の部数はそれほど多くないらしくて。ストーリー漫画で当たった時の勢いには及ばない。部数も、そこからの影響力も、ぜんぜん違うみたいですね」

「たしかにストーリー漫画だと『続きが読みたい』という気持ちになるから部数が伸びそう。それにアニメ化や映画化・グッズ化なども、1話完結型のギャグ漫画だと難しそうですね」

 

『邦キチ!映子さん』より

 

「ギャグ漫画が雑誌アンケートで上位3位に入ることなんてほぼ無いんじゃないかなぁ。名前は言えませんが、けっこう人気で知名度もあるギャグ漫画が、実はアンケートでは下位だったりしますし」

「そんなことが……でも昔はアニメ化されてヒットしたギャグ漫画もけっこうあったじゃないですか」

「今は雑誌に余裕がないんですよね。編集側も載せるからにはアニメになったり映画になったりといったヒットを期待するのは当然で。『横展開が難しいギャグ漫画でわざわざ当てよう』って人は少ないのかなと」

「昔は『ストーリー漫画というのは真面目でお笑いゼロ』ってのが普通で、だからこそ雑誌にギャグオンリーの漫画を2~3作入れるって大事だったと思います。でも今やストーリー漫画でも必ずお笑いの要素が入ってるからなぁ……」

「『少年ジャンプ』くらいデカくて余裕のあるところだといいんですけど、雑誌の規模が小さくなるほど、ギャグの連載は冒険になっちゃう感じはしますね」

 

・ギャグ漫画はそもそも部数が伸びにくい

 └続きを読みたいとか物語の盛り上がりとかがない

・アニメ化や映画化・グッズ化などの展開もしにくい

 └ギャグ漫画を連載すること自体が冒険になっている

・ストーリー漫画にもギャグ要素が入っているのが普通になった

 └ギャグがメインである必要性が薄れてきた

 

ネット時代のギャグ漫画

これが服部先生の仕事机! 線画はアナログ作業で、仕上げはComicStudio、カラー作業はsaiを使用。

 

「ギャグ漫画はヒットしにくいそうですが、Twitterやpixivなど、WEBでバズる漫画にはギャグ漫画が多いのでは? というわけで、ネットにおけるギャグ漫画についてお聞かせください。服部先生も主戦場はWebですよね」

「デビュー作の『かおすキッチン』は、途中で本誌からwebに移籍して。それからずっとwebですね」

 

魔法の料理 かおすキッチン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

2007年に『ジャンプSQ』の『かおすキッチン』で商業連載連載デビューした服部先生。途中からweb版に移籍した。

 

「ストーリーマンガって『誰が読んでもおもしろい作品』ってのがあるんですけど、『誰が読んでもおもしろいギャグ漫画』ってのは、基本的には無いんです。好みが強く出るジャンルだから。なのに、雑誌だとその雑誌の読者しか読まないわけで、だからギャグで人気になるのは難しいんですね」

「なるほど、一方Webは……」

「webだと読んでくれる人の数、分母がぜんぜん違うんで『面白い』って言ってくれる人に届きやすいというのはありますね。あらゆる年代、性別の人が読んでくれる」

「雑誌と違って面白ければRTクリックひとつでどんどん拡散される、これも紙にない強みですよね」

「あと、Webだとギャグ漫画の持つ早く面白さが伝わる”という特性が有利に働きます」

「確かに! Webだと気軽にクリックしてサッと読むことが前提だから……前置きが必要なストーリー漫画より、いきなり読んでもおもしろいギャグのほうが有利なのかも」

『邦キチ!映子さん』より

 

「ということは、ギャグ漫画家の活路はWebにある!?」

「実際はそう簡単ではないですけどね。なぜなら、ギャグ漫画って描くハードルが低いですから、一般の人でもSNSとかで描けるじゃないですか。そして、読者にとってはプロの作品だろうと、素人の作品だろうと、面白ければどっちでもいい。そこと戦わなければいけないんですよね」

「プロだけに厳しい目で見られそうだし、怖いですね……。それに素人の人は“一生に一度、4コマ一本だけおもしろい作品が描けた”みたいな状況でも大丈夫ですが、プロは定期的におもしろい作品を描き続けなきゃ生きていけないわけで」

「だから、今ギャグマンガ家が専業で食うのは難しいと思います。兼業せずに『農業だけで食ってく』みたいな感じです」

 

買いたくなるギャグ漫画とは

今の漫画家にはデジタル機器は欠かせない。最近はwacomの液晶タブレットも導入して、一層のデジタル化も検討中だとか。

 

「ギャグマンガ家が専業で食うのは難しいとのことですが、服部先生はそれを成立させてるわけですよね」

「生き残り方はすごい考えましたし、ほんとに趣向を凝らしてきましたね。それでweb漫画いろいろやってみて、『やっぱりギャグだけでは、人は読んでも買わない』っていうのを痛感したんですよ」

「ツイッターとかで読んで、RTやいいねは押しても、単行本にお金は出さないと。ネットでバズッたけど売れない漫画とか結構聞きますよね」

「そうなんです。それで“買いたくなる理由”ってないかなって考えながら、たまたま『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』を描いてたんですが……」

「『美ー子ちゃん』は『日ペンの美子ちゃん』のフォーマットで日本語ラップの名曲を紹介していく漫画ですよね」

 

このマンガがすごい! comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん (このマンガがすごい!Comics)

『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』(宝島社より単行本発売中)

 

「『美ー子ちゃん』は、『日ペンの美子ちゃんがヒップホップのマニアックな話してたら面白いよね』ってだけで描いたんですけど、1000RTとかついてびっくりしました。この時に、“あること”に気づいたんです」

「買いたくなる理由が隠されていたってことですか? その“あること”とは!?」

「やっぱりみんな、『役に立つ話』が好きなんですよ」

「あぁ~なるほど! 『面白い』に並んで、それも拡散されるテーマではありますね」

「ネットにおいて“知識”というのは最大のコンテンツ。だから買いたくなる理由として、役に立つ話とか知識、そういう要素を加えるのが大事だなと思ったんですね。自分のweb漫画のやり方としても転換期になりました」

 

『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』より

 

「ギャグ漫画って、作者が面白いこと、突拍子もないボケを考えるものじゃないですか。でも『美ー子ちゃん』『映子さん』では、それまで漫画でやってた“ボケること”をやめたんですね」

「え、ギャグ漫画なのに!?」

「ボケの部分を、紹介するラップや映画といった作品に任せることにしたんです。『こんな変なこと言ってるラップがあるよ』『この映画にこんな変なシーンがあるよ』っていう紹介が、ボケにもなっているっていう」

 

『邦キチ!映子さん』より

 

「ボケというのは基本的にフィクションで突拍子もないものですから、『こいつ意味わかんないこと言ってるなあ』で終わっちゃうこともある。でも音楽や映画という事実として紹介すると『こんなのあるんだ、へえ~!』って反応になるんですよね」

「知識欲も満たされるってことなんでしょうね。映画だったら何億、何十億もかけた作品なわけですし、壮大なボケですよね」

「そして、それをSNSで拡散したりして、自分もその話に加わりたい!みたいな気持ちを呼び起こすのも重要みたいで」

 

6代目 日ペンの美子ちゃん

『6代目日ペンの美子ちゃん』(一迅社より単行本発売中)

 

『美ー子ちゃん』『映子さん』で成功した「ギャグ+知識欲」というwebならではの相性のよさ。さらに『日ペンの美子ちゃん』でもwebならではの成功の理由がありました。それは紙媒体では出来ない、時事ネタをはじめとしたスピード感です。

 

「『日ペンの美子ちゃん』では、時事ネタとか軽い政治ネタとかもやってらっしゃいますよね」

「週1連載が決まった時、ネタをどうするか考えて、思いついたのが時事ネタでした。紙だと描いてから発売されるまでラグがあるんですが、ネットならすぐに公開できる。良いんじゃないか?と思って、やってみたら評判になりました」

ネットならではのスピード感がありますよね。ただ時事ネタって炎上することもあるし、怖くないんですか?」

「毎回編集者にチェックはしてもらってますし、NGが出たこともそんなにないです。ただ、例の国のミサイルをネタにした時はダメでしたね(笑)。『ミサイルじゃなくて飛翔体でもダメですか?』って粘ったんですけど」

「わはは。先生の話を聞いていると、ギャグ漫画もまだまだ大丈夫っぽいですね」

「紙でもwebでも、笑いを届けるというギャグ漫画の本質は変わらない。その中で『読者の変化』を捉えることができれば……ただ最近、何かを紹介する漫画しか描いてないから(笑)。自分のオリジナルのギャグ漫画で売れたいというのはありますよ」

「先生のオリジナルギャグ漫画、今から楽しみにしてます! 今日はありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

 

まとめ

というわけで今回は服部昇大にネット時代のギャグ漫画家が生き残る方法を教えてもらいました。いつか描かれるだろうオリジナルギャグ漫画、楽しみですね。

そしてみなさん、読もう!ギャグ漫画!