みなさん、初めまして。札幌でゲストハウス「やすべえ」をやっているカワイと申します。ジモコロ編集長の柿次郎さんに声をかけていただいて、寄稿することになりました。これは、僕が10年前にバックパッカーで世界を旅している過程で出会った「バナナ農場の体験」の話です。
日本で普段、手にするバナナは恵まれすぎている
日本人にもお馴染みのこのバナナ。一本50円ほどで手に入り、朝食はもちろん、ランニング前、遠足のおやつなど、日常的などのシーンでも活躍する素晴らしい果物です。しかし、ちょっと考えてみてください。みなさんはこのバナナが一体どのような工程を経て、自分の手元に届いているのかご存知でしょうか?
今回は、海外のバナナ農園から食卓にあがるまでの知られざる「バナナ収穫ルート」と「バナナ農園の仕事」をご紹介します!
まずは初級編。
そもそも、バナナってどのように生えているのかご存知でしょうか?
実は……
ドンッ!!
バナナってこんな状態で育っているのです。どうでしょう。この迫力。まるでひとつの生命体のようです。それではオーストラリア北部にあるバナナ農園にをご紹介しましょう。僕はここで1ヶ月間働いていました。
このようにバナナの木が永遠と真っ直ぐ生え続けているのがバナナ農園の実態。バナナストリートですね。ドンキーコングが数百体生息していてもおかしくありません。
あたりを見回しても、バナナの木しかありません。バナナだけで飽きないのかよ!ってレベルなんですが、後ろを振り返ってみると……
呆れるほどのバナナがあります。なんだこれ。
そうです。遠くに見える緑色の軍勢すべてがバナナなんです。このバナナ農園はものすごく広くて、例えば4月にA地点で収穫したら、次は7月にB地点で収穫、1月にC地点で収穫……と場所を移動しながら収穫作業を進めます。
そして4月にまた同じA地点に戻ると収穫できる状態のバナナが育っている効率の良さ! そう、この農場の規模感は一年中バナナを収穫するために最適な仕様となっています。スーパーマリオブラザーズのノコノコも画面少し戻ったら復活していたので、アレと同じ原理なのかもしれません。
知られざるバナナの収穫方法
次に、バナナの収穫方法をご紹介します。Amazonの倉庫みたいに全自動で収穫されたら便利なんですが、僕がこの農場で働いていたときは超アナログかつ、人の手がないと成立しない仕組みでした。たぶん現在も変わらないでしょう。
バナナストリートのカラフルな袋の一つひとつの中に…
あの巨大なバナナの束が育っています。一応、保護はしてるんですね。ちなみに、このカラフルな袋にも意味があり、例えば今年は赤色を収穫、来年は青色を収穫みたいな感じで分けてるそうです。飢餓状態のドンキーコングに耳打ちしたいような豆知識ですね。
バナナの収穫は2人1組で行います。まず1人がこのバナナ袋の下に行き、バナナを肩に担いでセット完了。もう一人の鉈を持った人が、このバナナ袋の上部をカット。木から切り離された巨大なバナナの塊を肩に乗せて運びます。
そして、トラクターに乗った人がやってきて……
どっせ〜い!!
バナナをトラクターのコンテナに次々積み込んでいくわけです。あの巨大な塊をコンテナに積み替えるだけでも、相当な重労働だと察していただけますでしょうか? ちなみに僕は当時体重60kgぐらい。元々、海上自衛隊で5年間コックをしていた経歴もあり、体力に多少の自信はあったんですが、ここでの労働は自衛隊の比ではありません。
だって担ぐバナナの大きさはこれですからね?
ちなみにこのバナナの塊の重さは…
・小さめのサイズ=約40kg(中1男子の平均体重)
・中くらいのサイズ=約60kg(高2男子の平均体重)
・大きいサイズ=約80kg以上(イチローの体重)
こんな重いものを気温40℃、湿度99%のサウナみたいなジャングルでひたすら運び続けるわけです。仕事とはいえ、軽い拷問レベル。ここで、そんな地獄の仕事を一緒にやっていた宿敵(とも)を紹介させてください。
●チームリーダー「ルーカス」
このバナナ運びチームのリーダー『ルーカス』。身長185cm、90kg。オランダ人のルーカスがなぜオーストラリアでバナナ運びの仕事をしているのか? その謎は最後まで分かりませんでした。とにかく笑顔を見せない男でした。マジで笑わない。ターミネーターみたいに、ひたすら真顔でバナナを運ぶ男だったので「バナナネーター」と心の中で呼んでいました。
●サモアの怪人「ケンプ」
こちらのゴツい方は、サモアの怪人『ケンプ』さんです。通称“モンスターケンプ”。あの巨大なバナナを右肩にひとつ、左肩にひとつ乗せて(計100kg以上)、タバコを吸いながら鼻歌まじりで歩くという怪力っぷり。まさに規格外のモンスターです。エメリヤーエンコ・ヒョードルに勝てる見込みが唯一ある外国人の可能性も。
気になる重労働の賃金は?
ところで、この地獄のようなバナナ運び、一体いくらのお給料が出るか気になりませんか? 当時の体験に基づく情報ではありますが…
日当で約2万円、1ヶ月間で約40万円は稼げました
とはいえ、このバナナ運びは完全歩合制。バナナを運んだら運んだ分だけ稼げるお仕事になっています。この手のファームの給与体系は、チームコントラクト(チーム歩合制)とパーソンコントラクト(個人歩合制)というものがあり、バナナは一人でさばける仕事ではないためチームコントラクト制が基本。
5人1組でチームを組んだら、全員で協力しつつバナナコンテナを一杯に埋めます。1コンテナ=10,000円としたら、1人分の分前は2,000円。ざっくり1時間で3コンテナはやっていたので、時給6,000円だったかなと記憶しています。
もちろん、ファームによってチームの人数も違いますし、1コンテナ当たりの金額もまちまち。前述のモンスターケンプを要するチームは心強さもあいまって相当士気が高くて、めちゃめちゃ熱量高く仕事に取り組んでいました。当然、ケンプの稼ぎ方は尋常じゃなかったですね。詳しい金額は分かりませんが…。
ちなみに寝床では、ワラビーと同居していました。
バナナ工場の出荷までの様子をお届け!
次にこの収穫されたバナナを加工するバナナ工場(通称:ファクトリー)を紹介します。先ほどのインフレ気味のバナナを乗せたコンテナが、トラクターに揺られてファクトリーへ。
まずは、バナナの塊を頑丈そうなチェーンにドシドシ吊るしていきます。
上のチェーンはレーンで繋がっていて
食肉工場の豚肉さんのようにバナナが移動する仕組み。
まず意思のないバナナが向かった先は「洗浄セクション」。水の高圧力噴射で汚れをキレイに落としていきます。
次に右上のスギちゃんのような格好した人、もしくはスギちゃん本人かもしれない人が専用のナイフでバナナを小分けにして、水槽に流していきます。ここでようやく普段日本で目にするバナナの状態に近づくわけですね。
どんぶらこっこ、どんぶらこっこ…おばあさんが見つけたのは桃ではなくバナナだったようです。しかし、まだまだ青いバナナですね。
水槽を経てベルトコンベヤーに進みます。
ここで1箱毎にぴったり10kgを測って、ダンボールに梱包していきます。
あ、なんか見たことのある箱!!
この状態でようやく世界中に運ばれる「完成形」となるんですね。
いかがでしたでしょうか? これがバナナ収穫の一連の流れです。当時はお金に困っていたこともあり、この仕事に流れ着いたんですが、本音を言えば初日が終わった時点で「辞めたい!絶対に無理!死ぬ!」と心が折れていました。
でも辞めませんでした。というか辞めるわけにはいかなくて。現地の外国人に「どうせジャップは1日でリタイアだろ? HAHAHA!」と思われそうな雰囲気が充満していたんですよ。そんなの悔しいじゃないですか。結果、「日本代表としてナメられてたまるか!」と気合・根性だけで何とか続けることができました。
バナナ農園ならではの特典も
ちなみに労働時間は結構しっかりしていて基本的に8時〜17時まで。お昼休みもおやつタイムもあって、土日はゆっくり休めます。
さらにバナナ農園で働いていると“ならではの特典”がたまにあります。商品として出荷できないバナナを無料でもらえるのです!
たとえば、こちら。
双子バナナです。
なかなか見ないですよね? こういう形のバナナは商品にならないので捨ててしまうので農園から無料でもらえます。この双子バナナちゃん、中身はすっからかんかな?と思いきや…
このように、ずっしり、ぎっしり入ってます。
というわけで、みなさんもバナナを食べるときは、「バナナ農場で重労働している人たちがいるんだな…」と思い出してください。おしつけがましいのは重々承知ですが、見た目もキレイかつ、すごく甘くて美味しいバナナを食べられることに感謝して食べましょう。
それでは、さようなら! 札幌でお会いしましょう!
※ゲスト寄稿してくれる専門家募集!
ジモコロでは、今回の寄稿記事のように“専門性に特化した記事”を増やしていく予定です。例えば「アスパラ農家の息子が教えるアスパラの育て方」「海苔生産者にしか分からない苦労」「全国にアピールするゲストハウスの運営方法」など、当事者目線の一次情報であれば、ライター経験がなくてもOK! お気軽にご連絡ください。
寄稿ライター:カワイ
札幌市内になる「ゲストハウスやすべえ」のオーナー。全てのゲスト様に居心地の良い空間と落ち着ける雰囲気作りを提供し、併設しているカフェでは珈琲豆を厳選し全て自家焙煎にこだわっております。今日も最高の一杯をご用意して皆様とお会いできることを楽しみにしております。店舗HPはこちら。