この記事はもうちっとだけ続くのじゃ

はい!というわけで記事冒頭で宣言した通り、実質もう1本分のボリュームに相当するインタビューコーナーが始まります。

今回は稚内市出身のプロスノーボーダー阿部迅市郎さん(18歳)に、地元にこだわり活動する理由についてお聞きしました! 地元目線もりもり!

 

 
 
 
 
 
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阿部 迅市郎(@jinichiro128)がシェアした投稿

 

「阿部さん今日はよろしくお願いします!(イケメンだ……!)」

「よろしくお願いします!」

「いきなりですけど、阿部さんから見て稚内ってどんな街ですか?」

「稚内は若い人が行くようなお店があまりなくて、街なかで友達と遭遇するってこともほとんどないんですよね

「それはちょっと寂しいですね。やっぱり若いときは目的がなくても集まれるような場所が大事」

「そうですね。あと稚内は風が強い日が多いですし、それであまり外を歩かないのもあるかもしれないです

「極寒の地に住む車に乗れない10代の実像……! そりゃ友だちにも出会えない。実は僕、今回石垣島から来たんですけど、寒暖差がすごくてびっくりしました」

「真冬の寒さはこんなもんじゃないですよ……!」

「たしかに真冬の過酷さはヤバそう。稚内で阿部さんがよく行くお店とか、好きなお店ってありますか?」

「チェーン店になっちゃうんですけど……」

「全然良いですよ!」

 

 

「スーパーの『西條』に入ってるミスドですかね(笑)。練習のあとによく行ったりします」

「ミスド! リアルで良い! 体動かした後の甘いものは最高の報酬ですもんね。もし稚内からミスドが無くなったら稚内を出ますか?」

 

「出ますね」

 

「えっ!やばいやばい!」

「冗談です(笑)」

 

稚内からでもプロになれる

「阿部さんは現在プロスノーボーダーとして稚内市を拠点に活動されてますが、スノーボードのほかにも何かお仕事はされているんですか?」

「今年高校を卒業して、この春からは市内にある親戚の工務店で働きながら冬シーズンに向けたトレーニングをしています。冬は遠征や大会がたくさんあるので、スノーボードだけやらせてもらうことになってます」

「シーズンワーカー的に働いてるんですね」

「そうですね。職場の理解もあってこういう働き方ができているのは、本当にありがたいです」

「工務店の仕事ってことは、将来的には大工としても食っていけたらいいなみたいな思いもあるんですか?」

「いや、やっぱりプロになったからにはスノーボード一本で生活できるようになりたいと思ってます!

「稚内を拠点にプロで食っていけたらめっちゃかっこいい! 大会に出るようになったり、プロを目指すようになったきっかけは何かありますか?」

「稚内には『SEAMORE(シーモア)』というスノーボードショップがあって、オーナーの木村さんが地元のスキー場で開催していたスノーボードスクールに参加したのがきっかけです。それからシーモアのスノーボードチームに入ることになりました」

 

阿部さんがスノーボードにハマるきっかけとなったお店『SEAMORE』。オーナーの木村亘さんは、地域の小学生向けのスノーボード教室やプロを目指す選手のチーム運営をしている

 

「もう地元にチームがあったんですね」

「そうですね。遠征とかもそのチームで動いてます」

「めっちゃ楽しそう!じゃあ阿部さんがスノーボードを始めたときにはもう稚内でもプロを目指せるような環境が整っていたんですか?」

「稚内にはスキー場が1つしかないですし、当時はスノーボード用のコースとかもなくて、正直はじめは環境が整っているとは言えなかったですね

「なるほど。それだと練習場所の確保とかも難しそう」

「そうなんです。でも、『SEAMORE』の木村さんたちがクラウドファンディングでお金を集めて自分たちでスキー場にコースを整備してくれたりして……

「大人たちの熱量がすごい…! たしかにそんな大人たちを見ていたら自分も本気でスノーボードを頑張ろうって思えそうですね!」

「そうなんです! あと、木村さんには稚内にいてもできることはたくさんあるということを教えてもらいました」

 

“木村さん「“稚内では無理”という言葉や、ここに生まれただけで負けみたいな考え方はすごく嫌なんです。それさえとっぱらえば、住んでいる場所に関係なく、なりたいものになれるんです」”
ローカルフレンズ滞在記アーカイブ記事から引用:NHK札幌放送局 | 初回放送! 宗谷のアドベンチャー

「木村さんの影響力…!」

「そうやって地元にこだわって選手を育ててきてくれた木村さんのおかげで自分もプロになれたので、頑張って強くなって大きい大会で結果を出して、木村さんに恩返しがしたいんです! だからこれからも稚内を拠点に活動していきます

 

「それを言い切れるのはすばらしいですね」

「やっぱり生まれ育った稚内が好きなんですよね」

「もし札幌や違う土地を拠点に活動していたら、阿部さんは地元の子どもたちにとって遠い存在になっていたかもしれないけれど、稚内を拠点に活動し続けていたら5年後10年後には阿部さんに憧れてプロスノーボーダーを目指す子どもたちが出てくるかもしれないですよね

「そうですね! そういう次世代の子たちにも、自分や他の選手を見て稚内からプロを目指そうって思ってもらえたら嬉しいです」

 

地元からも世界を目指せる環境をつくり、背中を押し続ける大人たちと、その大人たちを信じて夢を追いかける若者たち。

 

『ローカルフレンズ滞在記』を通してより深く「人」にスポットを当てたことで、地域で活動する方々を後押しすることにもつながっているんですね。

 

☆阿部さんのInstagram
https://www.instagram.com/jinichiro128/?hl=ja

 

『ローカルフレンズ滞在記』の阿部さん回も、ジモコロ記事上で特別公開!

 

NHKが挑む異常な試み『ローカルフレンズ滞在記』

改めて説明します。NHK北海道のディレクターが1ヶ月間地域に滞在しながら取材を行うという異色の番組『ローカルフレンズ滞在記』。

 

ここからはその滞在記の第一弾「宗谷編」を担当し、1ヶ月間(取材時で26泊目)の滞在を終えたばかりの越村ディレクターにお話をお聞きしました。

 

2泊3日でも結構疲れるのに、場当たり的な取材をたった一人で続けて、自ら撮影し、編集まで仕上げるの大変すぎません??

 

「今回1ヶ月滞在してみて、普段の番組づくりとはどんなところに違いがありましたか?」

「普段は報道番組の所属で、ニュースバリューを基準に番組をつくることが多いんですけど、今回はフラットな目線で地域の人や魅力を発掘していく取材ができたので楽しかったですね」

「新しい切り口や視点で取材できるのは新鮮だし楽しそうですね。とはいえ、取材も撮影も編集も全部一人でやるのは孤独じゃないですか? さっき昼間に見かけたときの背中が鬼気迫っていて……」

 

放送に向けて取材直後の素材を編集する越村Dの背中

 

「いや、むしろ…孤独というよりは『俺は自由だ!』って感じでした」

「あ、逆に??」

「普段の仕事ももちろん楽しいんですが、一人で集中して作業をするのが得意な方で。そもそもの番組づくりが根本的に違うため、全責任を負ってやりきる気持ちよさみたいなのがありましたね」

「あー、わかります。未開の地と言っては失礼ですけど、稚内・宗谷エリアを毎日情報仕入れながら探索するのはロールプレイングゲーム的なおもしろさがあるかも」

 

日本最北端の土地柄、さまざまな文化が入り混じっている。看板から伝わる情報量!

 

地域の大人と若者のつながり

日本最北端の地「宗谷岬」

 

「今回いろんな人に会ってお話を聞いてきたと思うんですけど、取材をしていてこの地域の風土的なものや気質みたいなものって何か感じましたか?」

「僕は神奈川県川崎市出身なんですけど、地元に対するアイデンティティや、地域の大人たちとのつながりをあまり感じたことがなくて」

「僕も大阪市出身なので、その気持ちわかります」

「取材を通じて尾崎さんのように地域のためとか、町のために頑張ろうという大人たちにたくさん出会って。そういう大人たちとのつながりのなかで育っている若い人たちがいることを知って、とても新鮮でした

「なんか羨ましいですよね!」

「現地で話を聞きながら、木村さんと阿部さんの関係性に出会えたのはホントに嬉しい体験でした」

 

「人口規模の多い土地で育つと、人の繋がりが見えづらいかもしれませんね。稚内・宗谷エリアは人が少ないからこそ、何かに取り組んでいる人が目につきやすいというか、つながりやすいっていうのがあるかもなーと」

「うんうん。そして、そのなかで大人たちの思いや意思が若い世代に受け継がれていることに対する驚きもありました」

「阿部さんのキラキラした笑顔と稚内でやっていくスタンスがまさにそうでしたね。地元をよりよくするための大人たちの思いが若い世代にしっかり影響を与えている」

「人を軸に取材を進めていくうちに自然と見えてきた……。これってジモコロにも通ずるところがありそうですね」

「いやー、そうなんですよ。いつも場当たり的な取材をしていて、人がどんどん繋がっていく取材の気持ちよさは癖になっちゃいますね」

「ローカルフレンズ滞在記の一発目の担当だったんですが、ひとつの形を見せることができてよかったです」

「とはいえ、今回のような”地域の人”を軸とした取材って、誰もが知っている共通認識の間口がないじゃないですか。ジモコロもいつも知られていないテーマから人のおもしろさを掘り下げて何とかやっていますが、時代的にも数値が出しづらくなってきているんですよね」

 

「ん〜、前回の『ローカルフレンズ出会い旅』のときは数値的な課題はありました。ただ今回からは番組サイト上で視聴者がコメントをできるシステムが導入されて、多くの視聴者からコメントが集まったんですよね」

 

 実際に集まったコメント(※画像を一部加工しています)

 

「ほほお。リアルタイムで番組を見ている人から届く声は、視聴率のような数値的な評価とはまたちょっと違った価値がありそうですね」

「そうなんです。どれくらいの人が見てくれたかみたいな数値的、量的な評価というよりも、質的な意味での結果が得られたことを大事にした方が良いんだろうなと思ってます

「おー! つまり『ローカルフレンズ』は進化していると?!」

「僕はその手応えがあります!」

「いい自信! ちなみに今回取材した稚内・宗谷エリアはまだまだ深掘りできそうですか?」

「もう1ヶ月取材したいぐらいですね(笑)」

「知れば知るほど、わからないことが増える状態だ。越村さんの体力やメンタル的にもまだまだ余裕な感じですか?」

「全然問題ないです。あと3ヶ月とか半年とか言われると厳しいかもしれないですけど…」

「定期的にはおうちに帰りたくなりますよね。僕もいま家を出て14日目なので、めっちゃわかります」

「みんなはちゃんとおうちに帰りましょう!」

 

 

最後に越村Dさんへ「次にまた一ヶ月、北海道に滞在するならどこの土地がいいですか?」と尋ねたら、満面の笑みと思い切りのよさで「また稚内・宗谷エリアがいいですね!」と答えてくれました。

 

ディレクターが1ヶ月間地域に滞在し、地元の人たちとの関係性をつくりながら取材を行う『ローカルフレンズ滞在記』の、ちょっと異常なスタイル。今回は北海道をテーマにNHK札幌放送局が無謀な企画に挑んでいますが、全国で同じ動きが起きればおもしろいなと取材を通して感じました。

 

ニュース・新聞を含めた情報の偏りは日本の東京⇔地方だけでなく、アメリカでもニュース砂漠問題として報じられています。だからこそ、非効率の先にある誰かの生活や価値観を伝え続けることが、ひとつのメディアの役割ではないでしょうか。

 

今回の稚内・宗谷エリアの記事にたまたま辿り着いた人が、尾崎さんやはらちゃん、阿部さん、越村さんの言葉と情報に触れて新たなローカルフレンズになってくれることを願っています! それではまた!

 

【今後の放送予定】

5月は「喜茂別エリア」にNHKの大隅ディレクターが1ヶ月滞在で取材中。地元を案内してくれるローカルフレンズは、カフェを営む加藤朝彦さんです。今後の放送予定は20日(木)・27日(木)。「ほっとニュース北海道」(総合・北海道ブロック)で放送します。

☆ウェブ記事「田舎道にメニューのない料理店」

☆4月の「稚内・宗谷エリア」の番組内容はこちらから

更に、6月は「弟子屈エリア」が舞台に! ローカルフレンズ・川上椋輔さんのもとに、平原ディレクターが滞在します。放送は6月3日(木)・10日(木)・17日(木)・24日(木)です。

※「ローカルフレンズ滞在記」の最新情報は公式HP / 公式Twitterから

 

1P目 取材執筆:徳谷柿次郎
2P目 取材構成:絹張蝦夷丸(TwitterInstagram
全体撮影:原田啓介(TwitterInstagram
ドライバー:原田啓介、絹張蝦夷丸

 

☆この記事はエリア特集「北海道大探索」の記事です。

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