「GARB DOMINGO(ガーブ・ドミンゴ)」は、国際通り裏にお店を構えて、2022年で14年目を迎えるお店です。

 

沖縄では珍しい美しい並木道がある通りに位置し、雰囲気抜群。今では「GARB DOMINGO」に行くために国際通り裏を歩く、という人もいるくらい人気のお店で、周辺にも素敵なお店がたくさん集まり、賑わいの中心となっています。

 

店主のひとり・藤田日菜子さんは、国際通り裏で生まれ育った方。デザイナーの旦那さまと一緒に、日本の別の場所で暮らしたり、海外を旅したりと、沖縄を離れた時期もありましたが、子育てをきっかけに帰郷。

 

この記事では、地元民として、また店主として、国際通り裏の盛り上がりについて思うところを伺いました。

 

「GARB DOMINGO」の名前の由来は、国際通り裏を流れる「ガーブ川」から。「GARB DOMINGO」の少し南側で、川は暗渠化(あんきょか)されていて、国際通り裏のお店の下を通って、また地上の川となります。そしてガーブ川は、美しい沖縄の海へと繋がります。

ドミンゴは、スペイン語で日曜日のこと。友人が描いてくれた絵の人物は、「ガーブおじさん」。彼が世界の旅をして、出会ったいいものをセレクトして販売するお店が、ここ、という裏のエピソードがあったりするんです。

 

藤田さんはお写真NGなので、お店の影のオーナー・ガーブおじさんを藤田さんだと思ってお読みください。

 

名前のない「幽霊通り」が、光って見えた

「『GARB DOMINGO』さんが、14年前にこの場所にお店を構えた経緯を教えてください」

「東京出身のデザイナーの夫が言うには、『この並木道だけが光って見えた』そうです。沖縄出身の私も、もともと並木道は好きでしたが、この通りで生まれ育ったので、どちらかというと普通の『いつもの通り』で」

「光って見えたの、わかる気がします。私も国際通り裏のエリアで、この並木道通りは一際特別な気がしていました。けど、それが『いつもの通り』だった藤田さんの人生もすごいです」

「ふふ。ただ、お向かいのエコショップ『がじゅまるガーデン』さんに買い物に来たときに、ハッと見上げたら、あまりにもツボにはまる建物がそこにあったというか」

「ツボにはまる建物が」

「当時、お店向けのいい物件を探していたので、『もうここしかない』というようなひらめきがあって。夫に『いい場所見つけた!』と連絡して、不動産屋さんに電話したら『ちょうど数日前に、賃貸の張り紙をしたばかりです』みたいなタイミングで。とんとん拍子でお店を開くことが決まりました」

「そういう流れだったんですね」

「でも、ふと周りを見渡したら、通りのシャッターは全部閉まっているし、今は人気の『壺屋 やちむん通り』のランドマーク的なホテル『ハイアット リージェンシー 那覇 沖縄』も当時はなかったし、近所のファミリーマートもなければ、本当に『がじゅまるガーデン』さん以外はなんにもなくて」

 

「そんな時代が……! 今とは全然違う景色でしょうね」

「それどころか、『GARB DOMINGO』のある通りだけ、浮島通り(国際通り裏のメインストリートのひとつのような存在)じゃないらしいとも知ったんです」

「ん? ここって、浮島通りじゃないんですか?」

「アーケードから縦に走っている角のお店は、『サンライズ商店街』のカテゴリーで、『サンライズ通り』を超えた向こうから国際通りまでが『浮島通り』なんです。でもなぜか、『GARB DOMINGO』の位置するこの並木道から、壺屋に出る100メートルくらいの通りだけ、何の通りでもなく、名前すらない」

「そうなんですか!?」

「私はそこの100メートルくらいの通りを『浮島通りのはじまり』って呼んでいるんですけど、そういう感じで呼ぶしかなくて」

 

横断歩道までが「浮島通り」。並木道の見える向こう側の通りが、「GARB DOMINGO」がある「名前のない通り」だ

 

「なんと、それは知らなかったです……。この通りは、名前のない通りだったんですね」

「とある人からは、『あんなところにお店構えて大丈夫?』って言われて。さらにもっとひどいことに、この辺りって『夜19時以降は誰も人が通らない幽霊通り』と呼ばれていたらしいんですよ(笑)。たしかに、本当に人がいないし、真っ暗だし、浮島通りにも入っていないし」

「幽霊通り……! 今はこんなにつねに人通りがあるし、『EIBUN』さんなど行列店も近所にあるくらいなのに」

 

14年を経て、変わった国際通り裏の文化度

「でも、今はものすごく人通りがありますよね。私も国際通り裏に来たら、『GARB DOMINGO』さんは必ず寄りたいと思いますし、ここを目当てに歩いてくる人も多いんじゃないか、という印象すらあります」

「そうだとしたら、ありがたいですね。私たちは、もともとまちづくりに興味があって沖縄に来てるんですよ。最初は、このシャッター全部開けるぞ!くらいの意気込みもあって。小さなお店ですけど、『GARB DOMINGO』をきっかけに、このシャッターが閉じている名もない通りを知ってもらって、足を運んでもらって、そこから自然発生的にお店が増えたら……と想像していました」

「14年経った今、まさにイメージが具現化していますね」

「とはいえ、最初は全然お客さまが来ない日もあって、夫のデザイナー業があるからやっていけた年もあったほど。地域の方や作家さんなど、いろいろな人に助けていただいて今日があります」

 

沖縄県名護市に拠点を置く「ENTRO glass studio」の、炭酸飲料のために生まれた折りグラス

 

「藤田さんたちからしたら、本当にうれしいことですよね」

「はい。シャッター街に最初に移転してきてくれたのが、お向かいの『カフェ プラヌラ』さん、それから『HiNN select&original』というお洋服屋さんや、『自然食とおやつ マナ』というヴィーガンカフェ、東京と沖縄の二拠点暮らしをされているオーナーさんが、週末の沖縄滞在中に開く花屋さん『Folklore』さんもそうですし、『LIQUID』さんや、『ブンコノブンコ』さんなどもとても素敵なお店です」

 

同じく沖縄県で活動する陶芸家・紺野乃芙子さんの「土に還る器」。「豚は鳴き声以外はすべて食べる」と言われるほど、豚の素材に親しんできた沖縄県。紺野さんはその豚の血を釉薬に用い、皿としての役目を終えた後、土に還る作品を作っている

 

「アンティークショップの『20世紀ハイツ』さんや、企画展をしてくださる『Luft shop』さん、ギャラリーの『あおみどりの木』さんや、『GARB DOMINGO』さんでも取り扱いがあるカフェ『soi』さんなど、この辺りは本当に魅力的なお店が集まっていますよね。記事に掲載させていただいた10選以外にも、ご紹介したかったお店がたくさんあります」

「こういう感じで、街が埋まっていくと楽しいですよね。国際通り裏に、そうやって長く時間を過ごせるお店が増えていくと、もっともっとカルチャーっぽくなっていくのかな、そうなっていくといいなーと思っています」

「単にセンスのよいものが集まっている、というわけでなく、それぞれの芯や想いを感じられる空間が集まっていますよね。もちろん昔ながらのお店も多くて」

「本当に、新旧入り乱れた尖ったお店がいっぱいあって、おもしろい場所だと思います」

 

国際通り裏は「生きている」

「そんな国際通り裏のおもしろさをぎゅっと凝縮しているのが、『GARB DOMINGO』さんのある『名も無い通り』な気がしています」

「ありがとうございます。でも、ぜひ『太平通り』も歩いてみてほしいです!」

「太平通り?」

 

「『サンライズ通り』を、さらに南に進んだアーケード通りです」

「太平通りって、どんな通りなんですか?」

「八百屋さんから始まる通りで、古くからのお弁当屋さんの近くに、『沖縄県産の全てにフューチャーしたドリンクの提案』がコンセプトの新しいバー『琉球ドリンクラボ』があったり、新しいホテル『LESTEL NAHA』ができたり。しかも、そのホテルのカフェで、お隣のローカルの八百屋さんのにんじんを3、4本使ったコールドプレスジュースが飲めたりもする感じで」

「へぇ……! あっ、『LESTEL NAHA』さんは行ったことがあります。そこが太平通りという名前なのですね。たしかに、新旧織り混ざる国際通り裏の中でもとくに奥まった立地で、ディープなんだけど洗練された雰囲気も感じられる、不思議な通りだった記憶があります」

 

「そうそう。おしゃれなお店に入って、『ここはどこ?』と思って振り返ったら、やっぱり国際通り裏の商店街だった、みたいな瞬間の連続というか。混沌とした中の整然だったり、整然と隣り合わせの混沌だったり」

「ふむふむ」

 

「私が子どもの頃は、頭に魚の入った桶を乗せた売り子さんがいたり、冷蔵庫もなく氷の上で生鮮品を売っているお店があったり、少し臭う魚屋さんがあったり、とか(笑)。たくさんの露店が出ていて、生活のあらゆるものがここで揃いました。当時の名残りを残したお店が今も息づいているかと思えば、突然流行りのお店が現れたり」

「たしかに、混沌としていますね」

 

「そういう、違和感を求めた楽しみ方が凝縮された通りが太平通りかなって、勝手に思っているんです。国際通り裏って、本当に『生きている町だな』って思います

「生きている町」

「『那覇の街歩きを楽しむ』というコンセプトで作られた『NAHA ARTMAP』という、周辺のお店のオーナーさんと協力しあって作っている那覇の街歩きマップがあるのですが、初代マップには、お店の情報だけじゃなくて、国際通り裏の余白というか、私たちがおもしろいと思うスポット情報も載せたんです」

「それ、街中で見つけたことがあります! 藤田さんが関わっていらっしゃったんですね」

「『この通りがおもしろい』とか、『こういう建築物がある』とか、『この壁の色がいい』とか、『この木はすごい!』とか。国際通り裏って、フォトジェニックなスポットを、自分で見つけていくような街なので。アートな感覚がある方だと、とくに楽しめると思いますね」

 

 

川と海は繋がっている。「GARB DOMINGO」の生き続ける在り方

「なるほど、ありがとうございます。最後に、『GARB DOMINGO』さんの今後の動き、みたいなものを教えていただいてもよいでしょうか?」

「そうですね。もともと、中継地点でありたい、と思って作ったお店なんです。何の中継地点かといったら、地元と観光客の中継地点であったり、旅の中継地点であったり、作家さん同士、作家さんとお客さんの中継地点など」

「最高ですね」

「本当に、『あいだ』という感じです。14年間、ある程度そういう意識でやってきて、最近になって『だいぶその役割を果たせたかな?』と」

「いろいろな人や物事を、つなげた瞬間、みたいなものをたくさん見てこられたのでしょうね」

「はい。ずっとこの辺りで暮らしている人が、お店で数十年ぶりに同級生と再会した瞬間や、地元の人が『週末に親戚が来るから』と器を求めてくださったりする時も、とても嬉しいですしね。
ただ、『中継地点を経た先は、自由にどうぞ』というスタンスだったので、最近はその先を描く時期がきたのかなと思っています。その先の展開といっても、大きく業態を変えるとかではなく、テーマとしてはやはり中継地点」

 

「じつは、かつては汚いドブ川と言われたガーブ川のあぶくから生まれたのが、『ガーブおじさん』という設定なんです。ドブの川の中から地上を見上げたら、隙間からキラキラした魚たちが見えて……これって、国際通り裏の市場のことなんですけど。それで、『じゃあ、ちょっと外の世界を旅してみよう!』みたいなストーリーをガーブおじさんの物語に込めています」

「ふむふむ」

「そして、彼の次の旅として、『川と海って繋がっているよね』という部分に入りたいなと。なので、次の展開のテーマは『水の循環』。『沖縄の海ってあんなにきれいなのに、どうして川はきれいじゃないんだろうね』という問いを追いたいんです」

「なんて壮大なテーマ……!」

「まだ全貌はお知らせできていないのですが、第一弾の取り組みとして、沖縄の離島の北大東島の『ドロマイト』という鉱物を使った石けんを作りました。詳しいことは、これからSNSなどでもお知らせしていけたらと思っています」

 

「街も生きているし、街のように『GARB DOMINGO』さんも変わり続けていらっしゃる……!  戦後復興の始まりが、このあたりでもありますもんね。沖縄のパワーの源のような場所でもあるのかもしれません。これからの展開も楽しみにしています。今日は、本当にありがとうございました」

 

 

おわりに

 

今回ご紹介した10選や、記事内でお名前が挙がった場所以外にも、たとえばコーヒーの「ヤマカスタンド」「たそかれ珈琲」「トックリキワタ珈琲店」、混ぜ麺の「まほろば」、セレクトショップの「march」「RENEMIA」「miyagiya」、完全予約制ビストロ「よっちゃん亭」や予約の取れない店「和洋葡 yoshi」など(エンドレス……!)、まだまだお伝えしきれない魅力にあふれる国際通り周辺エリア。

 

そのほかにも、冒頭で申し上げた通り、県内には盛り上がっているエリアがたっくさんあります。そもそも今回は本島・那覇のお話でしたが、沖縄には有人・無人含め離島が160あり、たとえば慶良間諸島や久高島、伊江島など本島の離島をはじめ、宮古島や石垣島、はたまた日本最南端の波照間島や、最西端の与那国島(これがまたすごい場所なんです)など、それぞれ違った表情があって、発見が尽きません。

 

南国に広がる、リゾートの沖縄以外の新しい魅力を探しに。その手始めとして、まずはこの夏、国際通り裏を歩いてみてくれたら嬉しいです。ではでは、南の島で待ってます〜。

 

編集:くいしん
撮影:伊佐知美
地図イラスト:おぐら

 

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