料理人として、与え続けること

「お弁当もレシピ公開も素敵な取り組みだと思います。でも正直、収益としては黒字とは限らないですよね?」

「まあ、そうっすね。たぶんいま、みんなお金のことを考えてると思うんすよ。でも、こんな時だからこそ『料理人として何を与えられるか』を考えたい。だって、このご時世に自分だけ稼ごうとしてるやつ、信用できないでしょ」

「とはいえ自分たちのお店も守らないと……」

「いやいや、それだけじゃダメなんです! 俺らの側から、いまみんなが必要としていることをギブ(give)し続けることが大事なんすよ

「ブレない……! それはなぜですか?」

長く残る店って、つまりは『愛されてる店』なんすよ。大勢の人に、『残したい』と思われる店です」

「戦略どうこうよりもお客さんから『あの店に残って欲しい』と思われることが大事、みたいなことですかね」

「ええ。それに自分たちが愛されたいなら、まず自分たちからお客さんを愛さなきゃ。結局、考えることは、いつでも『いま、お客さんを喜ばすためにどうするか』なんすよ

「自分の利益どうこうより、料理で人を喜ばせる……もしかして鳥羽さんって……」

「気づきました? 俺、めちゃくちゃいいヤツなんですよ

「(見た目は極悪海賊なのに……)」

 

鳥羽さんを取材したニュース動画も

 

「絶対やる」と決めること

「sio」のメンバーは取材時にも、テイクアウトのお弁当を作るべく粛々と働いていた

 

「『こんな時代だからこそ、ギブを与え続ける』という姿勢はすごいです。でも一方で、他の人を助けている余裕がない人もいると思うんです」

「それはそうっすよね。結局は、『どうありたいか』だけだと思います。俺は、店を潰さないことより『料理人として与え続ける』ことが大事なんで」

「鳥羽さんの中で、優先順位が決まってるんですね」

「ウチも『sio』『o/sio』『パーラー大箸』で合わせて25人もスタッフを雇用してます。だから、もちろん彼らの生活は絶対に守るし、責任もあります」

 

時折スタッフの方を振り返り、彼らに言い聞かせるように話す鳥羽さん

「でもやっぱり、この時代に思うのは、店はお客さんに哲学を伝えていくべきってことなんです。哲学のある店はカルチャーになるし、『1つのレストラン』って枠じゃなくなる。俺たちは『sio』という新しいジャンルを生むつもりでやってます」

「鳥羽さん、本当に精神も実務も強い人ですね……。なぜそんなに突き進めるんでしょう?」

「『絶対やる』って決めてるからじゃないですか? 今って、飲食店が何かを判断するのにリスクが多すぎて、『耐えられるかどうか』で判断することも多いと思うんです。でも、俺は『耐えられなくても、おれはやる』って決めてるだけです」

「なんだか、飲食店の人じゃない僕まで勇気をもらえました。この状況を乗り越えた先の目標って何かありますか?」

「ああ、『ファミレス』を作りたいんですよね

「ファミレス!?」

 

「俺は子どもがいるんですが、通ってる幼稚園のお母さんがたが『鳥羽さんのお父さんは料理人なんでしょう?』と興味を持ってくれて。でも『sio』だと2万円のコースで誘いづらい。ファミレスなら、いろんな世代の人にも来てもらいやすいと思って」

「確かに、2万円のコースより行きやすいですけど」

「まず海外で店を持って、大活躍して、それから日本でファミレスがやりたい。そんな人いないでしょ?」

「いないと思います。鳥羽さんはとにかく『たくさんの人を幸せにする』ことに懸けてるんですね」

「ずっと同じですよ。愛を持って『料理でどうやって喜ばせられるか』を考えてきた。コロナの前か後かは関係なく、毎日が試合なんすよ」

「そんな鳥羽さんは、今の時代にどう向き合えばいいと思いますか?」

「この時代に対して、何か結果を出した人なんてまだいないんじゃないですか? 少し先もわからない世の中で『これです』なんて言えない。ただ一つ言えるとしたら、『周りをしっかり愛せよ』ってだけですよ」

 

まとめ

見た目も豪気な「海賊シェフ」の不安は、店が潰れることではなく「店がなくても、料理人でいられるか」ということ。それはずっと前から続いていた、彼の悩みでもありました。

 

彼は今、テイクアウトやレシピ公開といった方法で「家でレストランを体験してもらう」ことを実現しはじめています。

 

先が見えず、誰もが余裕のない時代だからこそ、誰よりも愛とギブを与え続ける。

  
「コロナが終わった後の時代のために、今の時間をどう使えるかが一番大事だと思いますよ」

 

鳥羽さんの言葉は、人々への問いかけではありません。それは、周りはどうあれ「俺はやる」という宣言。その背中を追いかけられるのは、料理人だけではないはずです。

 

撮影:藤原 慶(HP