こんにちは。ライターの井口エリです。御神輿ってきらびやかで、お祭りって感じがして……テンションが上がりますよねぇ。

 

でも考えてみて下さい。神輿って、お祭りの時とかで年1回くらいしか担がないもので、毎年買い替えるようなものでもないし。野暮な話だけど、神輿屋さんってどうやって生計を立てているのか謎すぎる。毎日御神輿だけを作っているの……?

 

というか、そもそも「神輿」自体が謎の物体すぎる。

 

だって素人には材質も、なにでできているのかすらわからないし、何のためにお祭りで担ぐのかということは知ってるようで知らない。自分、御神輿のこと全然知らなかったんだな……。

 

特に2020年は、人が集まることを避けてお祭りがほぼ中止になる状況でした。自分で野暮な質問だなあと思うのですが、神輿屋さん、大丈夫なの……?

 

日本には様々な文化を継承する職人さんたちがいますが、今回取材させていただく中台神輿もそのひとつ。「中台製作所」は、「御神輿」を専門とする神輿屋さんです!

 

中台製作所。神輿ミュージアムも併設しています

 

中台製作所にお邪魔して、まずはいろんな御神輿や制作現場を見せていただきます!

 

今は1軒となった「行徳神輿」の伝統を守る中台製作所

実は、中台製作所がある千葉県・行徳周辺は「行徳神輿」として知られる日本有数の神輿の産地なのです。

江戸時代、行徳は幕府直轄の塩田地域として栄えていました。また、江戸川で日本橋へ向かう水運があったため人や物の交流が盛んとなり、成田詣での出発地としても大いに賑わいました。

 

大正時代の塩田風景が展示されていました(中台制作所から徒歩5分程度の場所にある、行徳ふれあい伝承館に展示されています)

 

水運が発達して、仕事があり、腕のいい職人さんたちも集まってくる……。また、行徳は「行徳千軒、寺百軒」といわれたほど寺が多かったそうです。そこで栄えたのが神具や仏具、そして神輿づくりでした。

 

3Dで型を取る用に作られた鳳凰(普段は重量の問題で、こういう作り方はしないそう)

 

行徳で作られた神輿は塩と共に船で江戸に運ばれ、行徳は神輿の本場として知られるようになりました。

現在でも行徳の神輿は全国で使われていて、「全国の神輿の4割は行徳の神輿」だといわれています。行徳が神輿で有名なこと、実際に来るまで知らなかったな~~~!

 

ちょうど修繕中のお神輿も見せて頂きました。中台製作所では作業所の見学も承っています(要予約)

 

これは木工職人さんの作業現場。金ピカで煌びやかだから信じられないかもだけど、お神輿って木製なんですよね……

 

そう。御神輿って全部木でできてるんです……。屋根の曲がってる部分とかもぜーんぶ木なんです! 神輿づくりはまずは「どの木を使うか選ぶ」ということからはじまります。

 

御神輿に使う木材選びから木地加工までは、木地師(きじし)と呼ばれる職人さんの出番です!

 

御神輿をはじめ、細かい木工作業等を行うのでさまざまな大きさの鉋(かんな)が並んでいました

 

たくさんの道具を使い分けて、木地の形を整えていく木地師さん。使いやすいよう道具も自分で独自にカスタマイズをしているのだとか。鉋だけでこれだけの数あります!!!

 

中にはこんなに小さい鉋も! ミニチュアじゃんこんなの……(かわいい)

 

木地師のあとは漆を塗る工程、金箔押しという薄くのばした金を貼りつけていく工程、などを経て組み立てることで、私たちが普段目にするような御神輿になるのです!

 

いろんな工程を経て、私たちが目にする御神輿になるんですね……

 

かつてこの地には神輿を生業とする神輿屋が3軒ありましたが、そのうちの2軒である後藤神輿店と浅子神輿店は既に看板を下ろしてしまい、現在も行徳神輿を作り続けているのは「中台製作所」1軒のみ。

 

中台製作所は「先人より受け継がれた伝統文化を時代とともに進化させ、未来へとつながることを使命とする」を企業理念に掲げていている御神輿の製作所です。伝統的なイメージの強い御神輿を時代に合った形で進化させるとは一体……?

 

まずは普段中台製作所で使っている、御神輿のシミュレーションソフトを見せていただきました。御神輿の検討に訪れるお客様に、こうしてイメージを見える形で共有してあげるのだとか。

 

……なにこれすごい。めっちゃ動く。

 

元動画はこちら

 

御神輿の違いが、自分のような素人に分かるかどうか不安だったのですが、屋根の形、色、化粧綱の色など、御神輿を構成するさまざまな要素をCGのイメージで見せていただくと違いが分かります。伝統的なものだとばかり思っていたけど御神輿、進化してるんですねぇ……!

 

こういうアプローチがあるんだなと感心したところで、早速中台製作所社長の中台洋(なかだい・ひろし)さんにお話を伺っていきます。

 

御神輿作りのピークは「昭和30年代」

中台洋さん……千葉県立市川工業高建築科卒。1990年4月に愛知県内の仏具製造会社に就職後、1994年4月に父・実氏が社長を務めていた中台製作所に転職。2013年2月に社長に就任した。千葉県出身

 

「御神輿屋さんって、やっぱり普段は神輿を作るのがメインの業務になるんですか?」

「御神輿や神仏具を作ったりもするけど、現在メインの業務は『神輿の修繕』。御神輿自体は半永久的に使えるものだから、ある程度世に出回った時点で市場は飽和状態になっているんだよね」

「御神輿って半永久的に使えるものなんですね。知らなかったです」

「だけど、長く使っていると当然修繕やメンテナンスが必要で。御神輿は大体30年ぐらいのサイクルで修繕やメンテナンスが必要になるんだけど、修理時期を逃してしまったり、朽ち果てるまで使ってしまったりすると買い替えが必要になる」

「現在、新規の御神輿はどれくらい作られているんですか?」

「年間で数件だね。今まで、年間で新規の御神輿制作が0ということは無いよ」

 

「新しい御神輿って今も作られ続けているんですね!」

「神輿作り自体のピークは昭和30年ごろだと言われていて。というのも、東京大空襲の際に東京にあった多くの御神輿が焼けちゃったの。それで戦後復興のときに神社の建て直しやお祭りの復興をしようって話になり、たくさんの御神輿が作られた

「現存するものは戦後の頃作られたものが多いんですね。でもその頃作られた御神輿も、築60年とか……」

「とはいえ、現在は御神輿を作っているだけじゃなく、神輿関連ではない事業もやってるよ。その年にもよるけど、御神輿関連で7割、他が3割くらい」

「他というと、例えばどんなことを?」

「例えば、この応接室の机は弊社の木工職人が作ってるからね」

「えっ」

 

この机も、奥の壁にある看板もTシャツの入る木の枠も木工職人さんの手作りでした

 

「木工以外にも、うちは中に職人がいて技術やノウハウがあるから、技術を生かした様々な分野でできることをやっているのよ。一時期はテーマパークの装飾などを手掛けていたこともあるから」

「話を聞いてみて最初は意外でした。こういう伝統的な業界だと保守的な方が多いのかと勝手に思っていたのですが、中台社長は考え方が新しいというか、時代に合わせて進化しようとしている」

「もちろん保守的な人もいるけど、俺の場合、『守り』は延命治療をしているような状態じゃないかと思うんだよね。で、守りの先にあるものは『衰退』じゃないかと。俺たちも、今はいろんなことをやって攻めているから食べていられるけど、もしこれを諦めてしまったらと考えると怖いよね。まあ、俺は絶対諦めることはないけど!」

「社長の頼もしさ~~!!!」

 

本当はスゴイ御神輿!

そんな中台製作所の御神輿ですが、千葉の某有名テーマパークのお土産として置かれていたこともあるのだとか。

 

ミュージアムに同じものが置かれていました。子ども神輿よりずっと小さい、このサイズ感。

そのお値段、なんと約200万円! 

 

このサイズ感なら家に置けるのでは??? とフィギュア感覚で少し考えてしまった

 

お神輿にどれだけの職人の技術と手間がかかっているか知った今は、ここまで精巧に豪華につくられていて200万なら買いなのでは?とすら考えてしまいました。家に置く場所もないのに……!

 

ちなみに冒頭にも登場した、こちらの御神輿は3500万円(※非売品のため、もし依頼を受けて作った場合のイメージ価格)です。

こちらの高級神輿、ミュージアムで見られますよ!

 

値段の理由は大きさもそうですが、中台神輿の技術と贅を尽くした造りの高級神輿なのです。屋根部分の漆塗りの工程も、通常よりも大幅に増やしておりキラッキラでした!

 

か、か、かっこいい~!!!!

 

全体を見ても煌びやかです~! 敢えて自然の木目を活かした造りが素敵。

 

ちなみに個人でも御神輿は買えるそうで、特に外国の方が「中台製作所の技術」として購入する前例があるそうです。「俺んちマイ神輿あるんだ」って言えるぞ!!!!

あと購入だけではなく、御神輿はレンタルも可能なのだそうです。

 

御神輿はレンタルできるものもあります

 

念のため名は伏せておきますが、某飲料のCMや某アイドルのライブ、某有名テレビドラマなどで使われており、「普段私がテレビで目にしている御神輿は御社が!?」という感情が芽生えました。

レンタルの値段や期間など、詳細については中台製作所に直接お問い合わせください!

 

作業場の上階から神輿を下ろすためのエレベーター。こんなところも神輿風!

 

「御神輿」は「神社のミニチュア」?

「そもそもなんですけど、『御神輿』って知ってるようで知らないものだと思って……。御神輿ってどんなものなのでしょうか」

「簡単に言うと、鳥居があって斎垣(いがき:神社など、神聖な場所に巡らす垣のこと)があって、神社のミニチュアみたいなもの」

 

実際のお神輿のアップです。本当だ、鳥居があって斎垣がある……御神輿は聖域なんですね

 

「お祭りの際に、御神輿に神様に入って戴いて町を練り歩く。で、お祭りが終わると神社に戻っていただく。神輿に乗った神様に『この街がこんなに発展したぞ』というのを見せるとか、お参りできない人のところに神様自ら出向いていくためだという説もあるね」

神輿は神様の乗り物だし、神社のミニチュアみたいなものなんですね」

「もっと手前のこと言うと、『社会』って言葉自体、社(やしろ)にあつまる(会)って書く。そのものが今の世の中の構造を示しているんだよね」

「社会の語源は『社(やしろ)』から来てたんですね!」

「お祭りの話をすると、いわゆる昔の集落っていうのは、山があって、山の麓に集落があって、それで里を作って、里には祠を作る。そこで山の恵みや海の恵み、いろんな恵みを受けて生活をしているから、その恵み=『神様のおかげ』だとされてた」

「ふむふむ」

「なので、年に1度、集落に作った祠に神様に山から降りてきてもらって特別なお供えをして神様に感謝する。それが『お祭り』なの

「お祭りがどういうものかがわかりやすい……!」

お祭りは1年に1度、神様に1番近づける日とも言える。その大事な日に、神様に奉納するために相撲大会をしたり、神楽とか舞をしてきた。お祭りをして感謝をささげて、これからの1年間もお願いしますというのがお祭りの原点です。それが発展して、御神輿になった」

「話を聞くと、御神輿が豪勢な作りなのが分かる気がしますね」

 

御神輿で重要なのは「祭りの日」! 新規にせよ修繕にせよ、次のお祭りに間に合わせるスパンで作業を行う

 

神社の御神輿は『宮神輿』で、それとはほかに『町会神輿』というものがあります。東京の深川ではお祭りで御神輿がずらずらっと並んで渡御するけど、あれは町会神輿。人がいっぱいいるから、お祭りに参加するのに自分たちで神輿を買って、自分たちだけで担いだ。それが町内神輿の始まり」

「町会ごとの神輿は、祭りに参加するために自分たちで用意するんですね」

「あと氏神(うじがみ)って言ってその地域を守ってる神様が必ずいる。氏神に対して氏子(うじこ)町内とか氏子区域といって、子供が生まれたらお宮参り、お食い初め、成長したら七五三とかちゃんと節目節目で氏子地域の神様にお参りする、それぞれちゃんと意味のある神事なので」

「人生の節目にやる神事にはきちんと意味があるんですね」

「神事についても、なんでやるかということが今はあまり伝わってない気がする。でも本来の意味はなんだろうということが、少しでも今の世代の人に伝われば。だから俺は子供たちに、この地区だけでも郷土愛などを学んでもらおうと思い、学校に行って話をしたり逆に見学を受け入れたりしています」

 

学生時代の「文化祭」=大人にとっての「お祭り」?

地域の絆を深めるツールとして、祭りや神輿はすごく重要なんだということを伝えたいけど、なかなか難しいね。俺が思うお祭りがいい感じに盛り上がっていると思う地域って、良い意味での年功序列とかがあって地域経済がうまく回っている感じがする」

「“お祭りが地域を育てる”って、私がお会いした神社の神職さんも同じことを言ってました」

みんなも学生時代に文化祭とか体育祭とかしたと思うけど、学校行事って盛り上がるじゃない。出し物をやって、みんな熱くなってトラブルも起こったりもする。でもそういうのを乗り越えてクラスが仲良くなったりとか」

「確かに!」

「それと同じだよね、お祭りも。自分ぐらい年を重ねると、文化祭みたいな機会はそうない。子供の頃ってとりあえず集まってから何するって決めてたけど、大人は理由がないと集まらないから。俺は自分自身がそういう大人にならないようにしている。学校で話す時は子どもたちにも言ってるんだけど」

 

伝統を守るだけではなく、伝統文化を自ら積極的に発信もしている中台製作所。Instagramでも御神輿についての情報を発信しています。

 

そんな中台製作所では、20代の若い職人さんたちも活躍していました。

 

中台製作所には現在、ふたりの20代の職人さんがいます。ひとりはもともと幼少期からお祭りや神輿が身近にある環境で育ち、志すようになった職人さんで、もうひとりは元々物づくりが好きで、たまたま縁があって御神輿職人の道に進んだ職人さんでした。

それぞれ志すきっかけは違うけど、「御神輿職人」という選択肢があるって素敵ですね!

 

「最後にこれだけは聞いときたいな~と思うのですが、社長は御神輿を生業としていて、やっててよかったと思う時ってどんな時ですか?」

「やっぱりお客様から感謝された時だね。自分たちは仕事としてお金をもらって、そのうえ感謝までされる。仕事してて、これ以上の喜びあるかなと思うよ。だいたい御神輿って修繕にしろ新しく作る場合にしろ、お祭りが終わってから預かって、次のお祭りに間に合わせる。だから長く預かっているし、無事に納めた時には達成感もあるな」

 

御神輿は、自分にとって普段はお祭りの日以外目にする機会もなかなかなく、“知ってるようで知らない謎のもの”でした。ですが、こうしてそれぞれの職人さんの技術の結晶であることなどを知り、御神輿に込められた作り手の想いや掛けられた手間を知ることができ、御神輿そのものに興味を持つようになったし、好きになりました!

中台社長は、御神輿の見るべき点として「装飾や彫刻」を挙げてくださいました。

 

木目を生かした豪華な彫り物! これも先ほどの「3500万神輿」のアップです……!

 

彫刻がたくさんついていたり、彫刻が立体感のある厚みのあるものだとその分職人さんの手間暇がかかっているものなのだそうです。御神輿への自分の解像度が上がったところで、実際にお祭りで御神輿を見られる日が楽しみになりました。

 

早く、なんの不安もなくお祭りに参加できる日が早く来ますように……!

 

伝統継承~中台製作所~ 中台製作所の会社紹介動画。行徳神輿の歴史もわかりやすいです。

 

編集:鈴木梢