空き物件でお店を始めるときは「買う」or「借りる」?
「岡田さんは地下街でお店を運営してるんですか?」
「自分でお店を運営したい気持ちは、あまり無いんだ。最初から空き店舗を買って、オーナーになりたかったんだよね」
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岡田さんが店を運営している伏見地下街は1957年に登場した老舗地下街で、名古屋駅から1駅の「伏見駅」に直結。近年は気軽に立ち飲みが楽しめるスポットとしてなど、注目を集めている
「いきなりオーナーシップ! それは岡田さんがお金持ちだったから……?」
「いやいや。僕がお店を買った当時、名古屋駅の近くで立地はいいのに空き店舗が多いから、安く買えたんだ。6坪で◎◯万円くらい」
「え! 想像していたよりもよりも一桁安かったです」
「『買う』って言っても、中古物件とか意外と掘り出し物もあるんだよ」
「とはいえ、最初は『借りる』選択肢を考えたりはしなかったんですか?」
「いや、全然。だって、安く借りてお店をいくら盛り上げても、不動産の価値として考えると物件を貸しているオーナーのためにしかならないからね」
「バッサリいかれた……!」
「さっき大川原さんが言っていたように、お店に人がたくさん来ると不動産の価値もあがる。だから『安く物件をかりて、人が集まるお店をつくる』=『オーナーが所有している物件の価値を勝手に上げている』ってことだからね」
「たしかに。オーナーは嬉しいけど……」
「最初は『空き家だし、無料で貸すよ』とか『とりあえず、安い家賃でいいかな』とオーナーは思ってたかもしれない。でもお店が儲かってたら『家賃を上げてもいいんじゃないか』って考えが変わっちゃう可能性は大いにあるよね」
「オーナーとの関係性、めちゃくちゃ大事ですね」
「そうなんだよ。でも家賃以上に、オーナーシップを持つことのメリットはあるんだよ」
オーナーシップが地域を盛り上げる!?
「オーナーシップを持つことのメリット、詳しく教えてほしいです」
「物件を買ってオーナーシップを持つと、地域に人を集めることも自分の手柄にできる場合があるんだよ」
「地域に人を集めることが自分の手柄に?」
「そうそう。地域に人が集まる=地域の価値を上げること。近くの空いてる店舗に勝手にテナントを誘致したりすると、新たなお客さんがきて、その物件のまわりの価値も上げることにつながるんだ。僕の場合は協同組合に入って、勝手に地下街を盛り上げていったんだけど」
「協同組合ってなんですか?」
「マンションでいう『管理会社』みたいな感じかな。地下街全体のテナントなどの管理を、各物件のオーナーたちが集まってやっていて。僕はそこで専務理事をやってるんだ」
「偉い人なんじゃないですか」
「別に偉くはないけど、地下街通路全体を使ったイベントを主催できたりする。つまり、地下街全体のプロデュースみたいなことができるようになったんだ」
「シムシティみたい……そうか、物件を借りるだけだと組合には入れませもんね」
「そうだね。そして通行する人達に合わせたテナントを誘致した結果、地下街全体が賑わうようになったんだ。今では地下街にほとんど空き店舗も無くなって、物件の価値も10倍以上になった」
「つまり1000万円で買った物件が1億円に…!!!」
「そんなにしないけどね(笑)。人通りが多いけど、空き店舗も多い場所だからこそ、やりやすかった部分はあったんだ」
「でも、自分のお店のことだけを盛り上げようとは思わなかったんですか?」
「自分のお店だけだと、集客の限界があるんだよ。でも、魅力的なお店が沢山集まってたら、その分、沢山の人も集まってくるわけ。だから、自分の不動産の価値を上げるためにも、地域全体としての魅力をどう上げるかが重要なんだね」
「なるほど、その考えには気づきませんでした」
「岡田さんのすごいところは、協同組合みたいな年齢層も高くてめんどくさそうなところにも積極的に関わって、話し合いも仕切ったりしていること。地域との関係性をつくって結果を出すことが、空き店舗を活用する上で重要なんだよ」
「その地域に思い入れがあって、お店をやって人を集めたいなら、オーナーシップを持って地域に関わったほうが面白いよ!」
「覚悟や買うときのお金の壁が高すぎる気が……金無しチキンな自分でも、お店をはじめる上で、できることってあるんですか!?」
「まずは、物件のオーナーに会うことかな」
空き店舗を借りるときは「オーナー」に会え!
「もし物件が買えずに借りるとしても、オーナーに会っといた方がいいってことですか?」
「そうだね。将来的に物件を購入できる可能性があるから」
「とはいえ、お店を買うお金なんてないんですが」
「例えば、物件を借りることしかできなくても、オーナーにあって『買うことも検討してます!』って言っておいたり、『買ったら、いくらくらいですか?』って値段聞いておいたり、『買う姿勢』が重要なんだよ。その結果、譲ってもらえる場合もあるし」
「そんな交渉、不動産屋しかできないんじゃ…?」
「そんなことないよ。『今は売るつもりはない』と言われてしまうかもしれないけど、その意志をぶつけてみる価値があるんだよね」
「でも、オーナーってどうやったら会えるんですか?」
「不動産屋を介さなくても、物件の周りの人に聞いたりすれば、分かったりするかな」
「地道な作業…! でもそれが重要ってことですね」
「そうそう。あと、不動産屋を介す場合、契約書にも気をつけた方がいいよ」
「契約書!?あの、物件借りるときに、言われた通りにハンコ押すやつですよね」
「一般的に不動産屋は、物件という資産を持っているオーナーを一番大事にするんだよね。だから、契約書の力関係もオーナーに重きを置かれて、借りる側に不利になっている場合もあるんだ」
「なんと!!!知らなかった……」
「みんな、お店を始めるときに、不動産に対しての意識が低すぎるんじゃないかと感じてて。『安いから』とかで、空き物件をとりあえず借りちゃうことって、結構危ないと思うんだよね」
「安さだけでは飛びつかないようにします!」
一番大事なことは「なぜ、お店をやるのか」
「ちなみに大川原さんの『仮面屋おもて』の場合も、オーナーシップを持って、まわりの商店街を盛り上げてるんですよね?」
「違うよ。お店を借りてるだけ」
「え……! どうして買わないんですか?」
「僕の場合は、お店の立地よりも、商品をいかに届けるかの方が重要だからね」
「いやいやいや、今日の話だと、お店を買った方が不動産の価値が上がるし、いいのでは…?」
「場所に強い思い入れがあるわけじゃないんだよね….。だから、今のお店は気に入っているけど、最悪あの場所じゃなくても、仮面がほしい人に届けばいいと思ってる」
「『あの場所でお店をやる』ことよりも、『仮面を欲しい人に届ける』の方が、重要ってことですか?」
「そうそう。僕がやりたいのは、アーティストがつくっている仮面を、必要な人に届けたいだけだから」
「ということは、とにかく空き店舗を買ってオーナーシップを持てばいいってことではない!?」
「そうだよ!『売りたいものを、より多くの人に届けたい』というだけの人にとっては、わざわざ物件を買う必要も、借りる必要もないから。オンラインショップとかメルカリとか、売り方はいくらでもあるんだし」
「危ない、危ない。なんにも考えず借金して、とりあえず物件買って、オーナーシップを持とうかと思ってました」
「お店を持ちたい人は、『この場所でやりたい!盛り上げたい』っていう土地や空き店舗が見つかったら、物件を買って、オーナーシップを持つ。そんな順番でもいいんじゃないかな」
「まずは、目的を考えることが大事…?」
「そうなんだよ!ものを売りたいときに、『とりあえずお店を借りる』ではなくて、『どうやって売るのか』を考えることが大事。そこで、オーナーシップを持つという選択肢もあることを知ってほしかったんだ」
「めちゃくちゃ勉強になりました。ありがとうございます!」
おわりに
今回は、古民家や空き店舗といった遊休不動産を活用し、お店をはじめるときのポイントについて話を聞きました。
ポイントをまとめるとこんな感じです!
・オーナーとのトラブルなど、空き物件を借りることはリスクもある
・「人が集まるお店をつくる」=「不動産的価値を上げている」
・物件のオーナーシップを持つと、不動産の価値が上がることが、自分の利益になる
・地域を盛り上げ、人が集まるお店をつくると、結果的に不動産の価値も上がっていく
・物件や地域に思い入れがあるなら「買う」、売りたいものがあるだけなら「借りる」
などなど、今までハードルが高かった「物件を買う」という選択肢が、僕自身、今回のインタビューでぐっと身近になった気がします。
ただ一番印象に残ったことは、お店をやることは「目的」ではなく「手段」であるということです。
「誰に、何を、何のために売っていくのか」という根本的な部分について、考え続けることの大事さを実感しました。
この記事がお店をやりたいと考えている人たちの参考になれば幸いです。それではー!
【大川原さん、岡田さんが運営するお店はこちら】
・伏見地下街 https://fushimi-underground-mall.nagoya/
・仮面屋おもて http://kamenyaomote.com/
・うそのたばこ店 http://www.usonotobacco.com