紙に信用を載せると、お金になる?

森一貴さん……1991年、山形県生まれ。鯖江市の「ゆるい移住」プロジェクトを機に、2015年に鯖江市へ移住。工芸の祭典「RENEW」元事務局長や、探究型学習塾「ハルキャンパス」元塾長を務めるなど、教育やまちづくり、デザイン領域のプロジェクトに関わっている。

 

さて、ここから話し相手がチェンジ。鯖江を中心に活動する森さんの案内で、『紙の神様』を祀るという大瀧(おおたき)神社へ向かいます。

 

「和紙、どうでした? おもしろいですよね」

「おもしろいですね〜。とっても歴史と由緒が詰まってて……」

「大瀧神社さんの歴史もすごいですよ。毎年『神と紙のまつり』というのをやってるんですが、2、3年前に1300回目だったらしくて。つまり、少なくとも1300年前には神社があって、和紙の技術もあったと」

「1300年前というと……奈良時代? 遠い目になっちゃうなあ」

「さ、着きましたよ」

 

「木が大きい〜!」

「聖地なので、木も切られず残ってるんですね。鳥居をくぐると、なんだか空気が変わるんです。ここに祀られている神様を、僕たちは『川上御前(かわかみごぜん)』と呼んでます」

「その方が紙の神様?」

「ええ、伝説によると、ある日美しい女の人が来て、『田畑の少ないこの里は清らかな水に恵まれているから、紙漉きをして生計をたてよ』と、和紙の技術を教えてくれた。そのまま帰ろうとするので名前を尋ねると『私はただ、川の上のほうから来ただけのものですから』と言ったそうなんです」

「謙虚だ〜。それで川上御前。いったい何者だったのか気になりますねえ」

「渡来人だったんじゃないか、とも言われてますね。大陸から紙の製法を伝えたと。あ、本殿もかっこよくないですか?」

 

「ほんとだ。なんか、5段変形したラスボスみたいになってません? できる限りの屋根をつけてる。やたら豪華……そしてカッコいい……」

 

「あれ、あのてっぺんの家紋、なんか見覚えがあるような?」

「よく気付きましたね! あれは江戸幕府の家紋です。もう一種類、下にもありますよ」

 

「これは……?」

「『桐紋』といって、日本政府の紋章ですね。皇室で家紋として使われてる紋章でもあります」

「江戸幕府に、日本政府と皇室の紋章!!! やんごとなきマークばかりじゃないですか。なぜこんなところに?」

「国にとって、『紙』はとっても大事な存在だからですよ」

「紙が大事……」

「だんごさんがさっき興奮してたやつですよ」

「!」

 

「お金…???」

 

「そもそも、言ってしまえば『ただの紙』であるお札が、これだけ価値を持ってるって不思議な話じゃないですか

「ほんとですよ! ただの紙のために、僕らは毎日働いて……」

「かつての江戸幕府も、明治政府も、いまの日本政府も、国を治めるところは皆、お金を発行しています。地域通貨やビットコインみたいな新しいお金もありますけど、やっぱり国のお金である『円』が一番強いじゃないですか」

「『円』は日本国内、どんな店でも使えますしね。海外でも両替できますし」

「なんで海外で両替できるかというと、日本という国の信用があるから。つまり、ただの紙に国の信用を載せると、『お金』として価値を持つ……と言えますよね。1万円札も、『この紙は1万円の価値があります』と国が言ってて、みんなが信用してるからなわけで」

「たしかに!? なんとなくわかります。紙に信用を載せると、お金になる」

「ちゃんと勉強してる人が見たらツッコミどころ満載だと思うので、超超ざっくりの説明ですけど!(笑) 」

 

なんか難しい話になってきたな!と思った人のために、わかりやすい公式を貼りますね。最低限、これさえ理解してもらえれば大丈夫です

 

「で、超ざっくりの説明を続けると、国は『お金』を発行してるから、強いわけじゃないですか」

「これだけ僕らが求めてあくせく働いてる『お金』の発行元ですもんね……」

「かつての幕府や明治政府は『全国統一の紙幣(=お金)』を発行することで、権力を示したとも言えるわけです。つまり、お金は国をコントロールする手段でもある」

「……つながってきました。そのお金に使われる和紙をつくってる土地は、国にとってめちゃくちゃ重要ですね」

「そうそう。産地としてもそうだし、そんな土地で『紙の神様』を祀る神社も重要になりますよね」

「神社が立派であるほど、その和紙を使ったお金の威光も高まりそう……」

「そういうわけで、この大瀧神社も幕府や政府がお金を出して、こんなに立派になってるんです」

「彫刻もすごすぎますもんね。できる限り細工をほどこしてやろうという熱を感じる……」

 

「ペーパーレス化が進んでるとはいえ、出産届も婚姻届も雇用契約書もまだまだ紙じゃないですか。国の問題が起きたときも、紙の記録が残っているかどうかが問題になったりする」

「ましてや昔なんかは、いろんな約束や証拠を残す手段が『紙』しかなかったわけで」

「お金だけじゃなく、いろんなところで紙に信用を乗せて社会がまわってるんだなあ……」

「その通り。おもしろいっすね〜」

 

「そりゃ、昔の人も『神は紙なり』って言いたくなりますね…………」

 

まとめ 

和紙からはじまり、「国と紙」の関係にまで思いを馳せる壮大な取材になりました。紙って大事なんだなあ。

 

工芸館の村田さんはこんな風にも言っていました。真っ白いきれいな紙を使いたい人は洋紙でもいい。でも、そうじゃない和紙の魅力が知られてないのはもったいない、と。

 

和紙はお札に使われるくらい丈夫で、洋紙にはない風合いと手触り、そしてさまざまな美術工芸紙もあります。すぐれものの「和紙」について、もっと普段の生活で意識して、無理なく取り入れていけるといいですね。

 

ジモコロでは過去にこんな記事もあるので、よかったらどうぞ!

 

そして最後に……後半で登場した「森さん」に取材した記事も、ジモコロで公開されています。こちらもぜひご覧ください!

 

取材協力:卯立の工芸館(福井県越前市新在家町9-21-2)

https://www.echizenwashi.jp/udatsu/

 

編集:くいしん
撮影:小林直博
参考書籍:『越前和紙を知ろう』(発行:卯立の工芸館)、『図説 神と紙の里の未来学』(発行:晃洋書房)