ラブホ居抜きのリサイクルショップ「カエル館」

「これこれ! こういうお店に来たかったんですよ! 浴室にナース服、脈絡のない陳列、謎の商品……まさにディープスポットじゃないですか」

「ここが僕のツイートで紹介していた、ラブホテルの居抜きのリサイクルショップ『カエル館』です」

「しかし、なんとも言えない怪しい雰囲気……」

「外観を見ると、元ラブホなのがわかりやすいですよ」

 

「よく見ると1階が駐車スペースだったんですね。部屋だけじゃなく、駐車スペースも売り場にしちゃってると」

「ここは、商品ラインナップがかなり雑多で謎なものも多いですね。例えば、個人の方が描いたらしき絵があったり

 

「5月人形と謎の絵が並んでる! 人形はともかく、絵は売れるんですかね……?」

「どうなんでしょうね。あ、これ見てください。前に見つけてびっくりした商品で」

 

あとで調べたところ、西郷輝彦さんは1960年代にデビューし、俳優・歌手として一世を風靡した方でした

 

「スクラップブック? こんなのも売ってるんだ、とは思いますけど……」

「この棚全部がそうなんですよ」

 

 

すごい量!!! 相当な西郷輝彦オタクの方じゃないですか。そして、なんでここで売られているんだ……いろいろと想像しちゃいますね」

「値付けも謎なんですよね。たまにすごく高いものもあったりして。このブラウン管テレビは5万円です」

 

た、高い!!!!! いや、もしかして珍しい型なのか?」

「レコードや音楽機材を見ても、基本的には安めの値付けに感じます。商品によっては『アンティークショップだったらもっと高い値段で売ってそうだな』と感じるものあったり」

「謎ですね……」

 

「わからないことが多すぎるので、店員さんに話を聞いてみようと思います」

「(さっきから思ってたけど、VIDEOさんの取材力がすごすぎないか)」

 

「ちゃんと『あぶない刑事』だったわよ!」

店員の古畑阿伊(ふるはた・あい)さんにお時間をいただきました

 

「お仕事中すみません。ここ、かなり変わった店ですね」

「そうなんです。社長がだいぶ変わった人で……(笑)」

「まず、どうして元ラブホテルの物件にしたんでしょう?」

たぶん、たまたまなんじゃないかなあ……。私は2年前のオープン時から働いてますけど、物件を決めたのは社長なので。夜は怖いですよ、お化けでも出そうで」

 

2階の廊下。夜にここを歩くのは怖そうだ

 

「置いてある商品もすごく雑多ですが、どうやって集めているんですか?」

「運営元は『松本メディカルサービス』という、廃品回収の会社なんです。医療廃棄物や産業廃棄物を回収したり、個人宅の遺品整理をしたり。回収したものを全て廃棄するのももったいないので、リサイクルできそうなものを並べて売っています

「仕入れが廃品回収だから、あれだけ雑多な商品が並ぶわけですね。あと気になったのが値付けの仕方で。どうにも基準がよくわからなかったんですが」

「値付けは……こう言っていいのかわからないですが、かなり大まかだと思います。担当するスタッフが、好きなものに高い値段をつけたり

「基準がわからないわけだ(笑)。じゃあ、2階に5万円のブラウン管テレビがありましたけど」

「あれは社長が値付けしました。たぶん、かっこいいから置いときたかったんじゃないかな。わかんないですけど。はじめは強気につけて、売れ残ったらだんだん下げていったりもします」

 

「回収のほうが会社の本業なので、どうしても全部をきっちりチェックして、きれいに並べるのが難しいんですよね。なので基本的には安めの値付けで。壊れている機械を買って帰って、直して使うみたいなお客さんも多いです」

「マニアからしたら、宝の山だと思います」

「でも、よく見つけましたね。ここは元ラブホテルだし、看板に『大人の宝さがし』なんて書いてあるし、地元でも知らない方も多くて」

 

「塩尻市に滞在していた友人が、『あそこにリサイクルショップがあったよ』って教えてくれたんです。僕、昔のビデオテープを集めていて。今どき、こんなに置いてる店はなかなかないですよ!」

「そうですか? 家で録画したビデオなんかも置いちゃってますけど(笑)。でも、意外と買っていかれる方も多いんですよね」

「『あぶない刑事』ってラベルに手書きのビデオとかがありましたね」

 

「お買い上げいただくとき『タイトルと中身が一緒か、わからないですよ』とはお伝えします。その方は次にいらしたとき、『ちゃんと「あぶない刑事」だったわよ!』って教えてくれました」

「牧歌的ー!!!!」

「!!」

「すみません、横で聞いてたんですが思わず声が出ちゃいました」

「いいエピソードじゃないですか。いやあ、いいお店に出合えました。また遊びにきますね」

「ほんと、見つけてくださってありがとうございます。楽しんでいってください」

 

VIDEOさんの戦利品。ラテンのレコードや古い料理本、中国の酒瓶、パンダの人形、何かが録画されている現像済み8mmフィルムなどを購入

 

リサイクルショップと「地元の風景」は同じ

「話を聞いて、ここの魅力がひとつわかった気がします。最近は中古レコードでもヤフオクやメルカリを見れば価格の相場はだいたいわかっちゃうので、ネットの情報を元に値付けをしてしまうと、どこも同じような店になっちゃうじゃないですか」

「品揃えも似てきちゃいますよね」

「僕は皆が同じだと面白くないと思っちゃうほうで。だから、売る人の主観が店の個性になると思うんですよ。ここもスタッフさんの主観が値付けや品揃えに大きく反映されてるから、面白くなってる」

 

「この商品の並びは、たぶんカエル館しかないですね」

「アンティークショップのようにハイセンスなものがセレクトされているわけではないけど、意外な値段設定にドキドキしながら掘り出し物を見つける楽しさはありますよね。これだけ雑多だと、客の側が『これ面白いな』『これは価値があるな』と思えないと、もはや何を見ていいのかわからないですし(笑)」

「試されてる感はありました! アンティークショップとは違って値段で価値がわからないので、本当に『自分がいかに面白がれるか』だなあと。……あれ?」

「どうしました?」

「なにか重要なことに気づいたような……。『自分がいかに面白がれるか』って、今日行った食堂S.Sやブラジルマートも同じじゃないですか?」

「はい、たぶんそういうことだと思います(笑)。もちろんカエル館はディープな雰囲気があって楽しいんですが、自分が価値を見出せればどんな場所でも十分面白がれる。面白がるコツって、いわゆるディープスポットを見つけられるかじゃなく、興味関心がない人がスルーしちゃう場所でも、自分がどれだけディープに楽しめるかだと思うんです」

「僕はその『興味関心がない人』だったのか……恥ずかしくなってきた……」

 

この雰囲気を見て、面白がるセンサーが働くかどうか

 

「この話って『地元の風景』にも言えると思うんです」

「どういうことですか?」

「地元って、ずっと住んでると慣れてしまって風景にも新鮮さを感じなくなりますよね。でも、看板に注目したりスルーしてた店にあえて入ったり、何かに興味を持ってみる。すると、何でもないと思ってた景色の情報量がどんどん増していくんです」

 

「あの看板のフォント面白いな、知らない国の言葉があるな……みたいな具合に。そうやって自分をアップデートしていけばいくらでも面白がれるという意味で、リサイクルショップも地元の風景も同じなんじゃないですかね」

「なるほど〜。でも、なんだか『自分をアップデートしていく』って難しそうにも聞こえちゃいました」

「別に、ささいなことでいいんですよ。実際、僕の知り合いで植物にハマった人が『街を歩くのが楽しくなった』と言っていて。興味がない人からしたら道端の何気ない雑草でも、その名前や特徴がわかるだけでひとつの景色から受け取ることのできる情報量が一気に増える。すると、歩き慣れた道にも新しい発見があると思うんです」

「何かに興味や関心を持つ、くらいでいいんですね」

「そうそう、自分の『好き』を増やしていけばいいんです」

「これまでも、興味さえ持てれば面白いスポットを、いくつもスルーしちゃってたのかもなあ。せっかく行ったからには、ハズレの店に行って失敗するの嫌じゃないですか」

たいして観光地でもない場所に行って収穫がなくても、何かしらで昇華しちゃえばいいんです。例えば僕なら、リサイクルショップでどんな役に立たないジャンク品を買ったとしても、監督するミュージックビデオに小道具として登場させれば自分のなかで買った言い訳ができちゃう」

「収穫がなくても、昇華しちゃえばいい!」

 

昔のアンテナにテンションの上がるVIDEOさん。聞けば『こういう古い機械をミュージックビデオの背景に置くとすごく映えるんです。映像系の美術さんには夢のような場所ですよ』とのこと

 

実際のリサイクルショップで撮影したVIDEOさんのMVを見ると、『すごく映える』のもうなずける。ちなみに「リサイクルショップでMVを撮るのが夢だった」そうで、ほんとに好きなんだなあ……

 

「僕も真似したいんですが、ミュージックビデオを作る予定がない場合はどうすればいいですかね?」

「写真を撮って、Instagramに上げるのも同じだと思いますよ。自分への言い訳になりさえすればいいわけですから。『インスタ映え』って揶揄もありますけど、最低限のマナーや敬意を忘れなければ、すごくいいアウトプットの方法なんじゃないですかね」

「インスタでいいんですかね」

「いいんです。何かしらの手段で自分を満足させられれば、ぜんぶ『いい思い出』になると思いますよ。知らないものや文化に触れると知識が増えて、次に違う場所へ行ったときの『面白がり力』も上がる……そうすれば、ハズレの店もなくなっちゃうんじゃないですかね」

「その境地を目指します。今日はありがとうございました!」

 

日本各地の街へ行くと、「うちの地元には何もない」という言葉を聞くこともしばしばあります。なかにはその言葉を繰り返し続けて、呪いのようになっていることも。

 

しかし、VIDEOさんの話は、そんな「何もないの呪い」を解くヒントが詰まっているように思いました。今はまだ見えていないだけで、見慣れた地元の風景にも、面白がれる余地はたくさんあるはずです。

 

☆VIDEOTAPEMUSICさんは近日中に新曲のリリースを予定。最新情報はSNSから
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