こんにちは、ライターの友光だんごです。これまでジモコロでは、日本全国で「地元に眠っている『実はスゴい人』」を何人も取材してきました。

 

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クワガタとタケノコで大稼ぎして、フェラーリを2台買っていたり、

 

公務員時代に52億円かけて、ど田舎に「宇宙科学博物館」を作ったり、

 

「自分の足が軽すぎるから」と、両足に2キロずつのダンベルを付けていたり………

 

そして同業者からよく聞かれるのが、「あんな人たち、どうやって見つけるの?」ということ。でも、彼らはむしろ眠ってなんかいなくて、今日もどこかで我が道を突き進んでいるんですよね。僕たちが存在に気づいていないだけで。

この記事を読んでいる皆さんの地元にも、きっとスーパーな人たちはいるはずです。

 

僕はジモコロ編集長の柿次郎とともに、先ほど紹介したような「スーパーおじさん」たちを何人も取材してきました。彼らの話を聞いていると、不思議と勇気づけられ、前を向くことができるんですよね。

こう変化の激しい時代だと、不安に襲われちゃうこともあるじゃないですか。そんな時、彼らの言葉が刺さるんです。

 

今回は、そんな「スーパーおじさん」とのエピソードを振り返りながら、

・地元に眠る「実はスゴい人」との出会い方とは?

・彼らの魅力は、一体どこにあるのか

・強烈なキャラの持ち主を、いかに取材するか

・強すぎる個性を、いかにわかりやすく、面白く記事に落とし込むか

などなど、編集者・ライター視点も交えながらお伝えしていきます!

 

【登場人物】

ジモコロ編集長。日本全国の「スーパーおじさん」を取材してきたが、「もっと変なおじさんを集めたい」「取材したい」と思っている。

ジモコロで記事を書いたり、編集したりしている。「スーパーおじさん」の強烈な取材体験に感化され、気づけばそんな記事ばかり書いていた

 

現場に行き続けると「ヤバい人」の情報が集まる

「………………」

「どうしたの、いきなり遠い目して」

「いやあ、今まで取材したスゴいエピソードを振り返ると、改めてよく出会えたなあと」

「偶然の出会いみたいなのが多いからね。山形の『マッドサイエンティスト農家』の山澤さんは、地元の人に『面白い人がいるから会ってみたら?』って言われたからだった」

「衝撃でしたね。こんな人いるの!!??と。立ち話するくらいのつもりでアポなしで行ったら、2時間くらい話が止まらなくて。しかも出てくるエピソードが大きいのなんの。個人で在来種野菜の保護に取り組んでたり、大企業の研究所に招かれてたり……」

 

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「こんな人いるんだ…!!!」と衝撃を受けながら話を聞く図

 

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日本で初めて化粧品製造業の資格を個人で取得した山澤さん。作ったオーガニック石けんは、上皇后さまも使ったそう

 

「『実はめちゃくちゃすごい人』の極みよね。あとでネットで検索して衝撃を受けたなあ。農業界ではめちゃくちゃ有名な方だけど、ジモコロみたいな一般のメディアにはあまり出ていなかったわけじゃない」

「柿次郎さんがジモコロ初期に取材した『タケノコ王』の風岡さんとの出会いも偶然じゃないですか。別の取材帰りに、道端の看板を見つけて店に入るという」

「看板になんか違和感を感じて入ったら、もうキャラといいエピソードといい、完全に仕上がってる風岡さんがいたからね(笑)。実際、ジモコロの記事きっかけで風岡さんはテレビにどんどん取り上げられていったし」

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柿次郎が違和感を感じた看板

 

その『違和感』をスルーしないの、大事ですね。通り過ぎてたら会えてないわけで。そこで『ローカルには面白いおじさんがたくさんいるのでは……?』って気づきがあったんですか?」

「そうね。今は『月曜から夜更かし』とか『激レアさんを連れてきた』みたいな面白い素人さんを取り上げるテレビも増えたけど、当時はそんなになくて。『ローカルという鉱脈を見つけた!!!』って感じたなあ。ジモコロも始めたばっかりだったし」

「その後も『偶然』に出会い続けられた理由ってあるんですかね。法則というか」

「やっぱり、現場にちゃんと行くのは大事なんじゃない? 風岡さんも山澤さんも、現地に行ってないと看板も見つけられてないし、紹介もされないはず」

「ネットで検索しても出てこないというか、知る前は検索しようがない人たちばかりですもんね。山形にヤバい農家さんがいるかも……なんて発想は出てこない」

「あと、実際に会うからこそあの『キャラの強さ』を認識できるよね。山澤さんが業界誌に出てる記事を見たら、なんかこう『シュッとした山澤さん』というか……こう、やっぱりキャラは抑えめになるじゃない」

「『きれいなジャイアン』みたいな(笑)。会って話したら『このキャラのスゴさまで伝えなくては!』と思うし、ジモコロの記事はそうなってますね。あと法則の話に戻すと、『人からの紹介』も実は多いような。能登半島で宇宙博物館を作った高野さんも、ジモコロで取材した別の方からの紹介でしたし」

 

「そうね、『スーパーおじさん』をひとり取材すると、だんだん情報が集まってくるようになってきた。『飛騨に来るなら、会ってほしい牛飼いの人がいて』『千葉にヤバい農家さんがいるんすよ!』とか」

「飛騨の熊崎光夫さんや、千葉の浅野悦男さんですね。浅野さんの記事で経緯を書いてますけど、だいたい本当ですから。やっぱり『タケノコ王』の記事とかが最初にあると、『ジモコロなら面白い記事を作ってくれるのでは?』みたいになるんですかね」

「あるんじゃない? 『ヤバいおじさんいますよ』みたいなタレコミ受けるメディア、冷静に考えたらなかなかヤバいけどね(笑)。でも、現地の人と関係性をコツコツ積み上げることは意識してた。そこから他のいろんな記事のネタに繋がってるし」

「とある取材が次の取材を生む、みたいな循環が生まれてますね」

「そう。そして出張ツアーに出て現地の人と遅くまで酒を飲み、翌朝ボロボロになる。楽しいけど体力的にはキツい取材のスパイラルからもう抜け出せない……助けてくれ〜!!!!」

「急に興奮しないでください」

 

【地元に眠る「実はスゴい人」との出会い方】

・まずは現地に足を運ぶ

・「あの看板、何?」のような、“ちょっとした違和感”を見逃さない

・地元の人との関係性を作ると、情報が入ってくる

・「面白い人いるよ」と聞いたら、とにかく会いにいく

 

「スーパーおじさん」に立ち向かう“呼吸”

「これまで取材してきた『スーパーおじさん』たちの共通点って、いわゆる『普通の道』とは少し外れているってことだと思う」

「化学肥料を使わず、有機肥料で『いい土』にこだわってきた光夫さんとか、既存の流通を通さずに直販ネットワークで野菜を売っていた浅野さんとか」

「『普通の道』から外れるのって、まず怖いし、絶対に批判とかも受けるわけじゃない。でも、彼らは世間に評価される前からずっと、自分が価値があると信じたことをやり続けてきた人たちでもあるんじゃないかなと」

「わかります。山澤さんが在来種の野菜を育て、タネを保存してる理由も『地球とか人の健康を良くしたいから』でしたよね。根っこにはめちゃくちゃ利他的な思想がある」

「下ネタ大好きで脱線しまくる話を聞いていったら、だんだんわかってくるわけじゃない。あ、この人スゴい人だ!と」

「よくわからなくても、とりあえず話を聞くのは大事かもしれませんね(笑)」

 

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山澤さんが「ポールダンスで乳首を上げる計画」を語る図

 

「こんな風に『仕上がってる』人から話を聞くのって、独特の取材術がありそうですね」

「この手の取材って、メディア露出がなくて事前に相手の情報が分からなかったり、現地の人に紹介してもらっていきなり会うパターンも多いから。余計に難易度が上がる」

「向こうからすれば、こちらは『よそから来た、なんかよくわからんやつ』じゃないですか。取材のはじめは警戒もされることもありますけど、インタビューで意識してることってありますか?」

「もう『めちゃくちゃリアクションする』ってことやね」

「シンプル!」

 

「とにかく心の底から面白いと思ってリアクションをする。『え〜〜〜〜!!』とか、間を作りつつ『それって……もしかして………?!』みたいに」

「それはやっぱり、関西人だから?」

「違うって! いや、それもあるかもしれんけど、『強引に話題を変えられる』って立派なテクニックやから。喋り慣れてる人って、ノってくると延々と話し続けたりするやん。そういう時に、話をこっちの行きたい本筋に引き戻せると」

「相手を喜ばせつつ、場の流れをコントロールすると。あと単純に、話を面白がって聞くほうが、相手も嬉しいですよね。実際、『僕はいま、めちゃくちゃ楽しんでます!』ってリアクションをしていくと、グッとギアを上げてくれることがあると思います」

「こっちが全力で面白がるからこそ、呼吸が合った瞬間に、心を開いてくれる。そして深い話も出てくると。だから『スーパーおじさん』から学ぶ取材術は『呼吸で合わせていく』ってことじゃない?」

「呼吸は大事ですね。『鬼滅の刃』の炭治郎が強敵の鬼に立ち向かうため、『全集中の呼吸』を身につけたように……」

「退治じゃなくて、仲良くなるためだけど(笑)」

「それこそ農業みたいな専門的な話でも、その道を極めた人の話は面白いじゃないですか。知らないことでも素直に聞くと、喜んで教えてくれますし」

「好奇心は大事よね。知らないことだからスルーするんじゃなくて。『面白そう!もっと教えてください!』って姿勢でいくと、相手もノって、どんどん話をしてくれる。飛騨の光夫さんへの取材は、一番懐に入れたパターンじゃない?」

「取材終わりに『おれはお前たちみたいなのを待っとったんや〜!』って言われた回ですね」

「取材終わりには一緒に飲んで、光夫さん行きつけのスナックまで連れて行ってもらえたし。まさに理想の取材だったと思うな」

 

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俳優みたいにかっこよかった光夫さん。厩舎でタバコを吸う姿もキマッている

 

【地元に眠る「実はスゴい人」の取材術(特に「おじさん」の場合)】

・一見よくわからない話でも、とりあえず聞き続けてみる

・心の底から大きいリアクションをする

・相手にペースを握られすぎないよう、会話のコントロールを意識

・面白がって話を聞き、相手をノせる

・相手に呼吸を合わせ、深い話を引き出す

・知らないことでも恥ずかしがらず、素直に聞く

 

ジモコロと「スーパーおじさん」の親和性の高さ

「僕の説もいいですか。ジモコロってメディアと『スーパーおじさん』は、実はとっても相性が良いと思うんです」

「ほほう。それはどういう意味?」

「例えば、めちゃくちゃキャラの濃い人をどう記事の中で料理するかの自由度が、ジモコロでは高いと思ってて。『タケノコ王』はまだしも、『マッドサイエンティスト農家』『ミネラルじいさん』なんてあだ名、なかなか付けないじゃないですか」

「だいたい名付け親は俺やね(笑)。思いついちゃうんだよなあ……」

「聞くたびにびっくりしてます(笑)。ちゃんと本人に許可はとりますし、特に山澤さんは『マッドサイエンティスト農家』を気に入って、自社のパンフレットでも使ってくれてましたね。あと、相手のキャラを再現するのに、こういう『会話形式』は最適だと思うんですよね」

「現場のリアクションや『なにそれ?』って気持ちも再現できるしね」

「顔アイコンを使ったり、写真やGIFを使った演出を入れたり。エピソードが強烈な分、文章だけじゃ対抗できないんですよね……文字に収まりきらない興奮を表現できる気がしてて」

 

 

GIFや画像を使った演出の例

「『面白い記事』を作りたい、ってのが一番にあるからね。ゲラゲラ笑える『面白い』だけじゃなくて、知的好奇心が満たされるのもそう。その点、純粋な疑問とか好奇心も全部、この『スーパーおじさん』たちにはぶつけられるんだよなあ」

「『スーパーの野菜と有機野菜って何が違うの?』とか『昔と今の農業や林業は何が違うの?』とか」

「いろんな取材をすればするほど疑問が深まるじゃない。そういうハテナを、スゴい人って全部受け止めてくれる。あと目線を低くするのは大事かもね。さっき『知らないことは素直に聞く』って言ったけど、読者が記事を読むときは、事前情報がない状態で読むわけじゃない」

「そうですね。専門用語を使いすぎないとか、深い話をそのまま書くのではなく、噛み砕いてわかりやすく、面白く翻訳することは意識してます」

「読者が置いてけぼりにならない工夫はめっちゃ気をつけてる。これだけ『おじさん』連呼してても、一応考えてますから……」

 

【地元に眠る「実はスゴい人」の記事の作り方】

・会話体は「キャラの濃さ」や「現場感」を再現しやすい

・文章だけで表現しきれない面白さを、画像やGIFを駆使して伝える

・「知らない」目線に合わせ、わかりやすさと面白さの両立を意識する

 

「すごい人」には光が当たってほしい

「『スーパーおじさん』を振り返ることはジモコロの振り返りでもありますよね。これから柿次郎さんがジモコロでやりたいことってあります?」

「まだ表には出てないけど、何年もずっと信念を持ちながら何かをやり続けている人を見つけること。これはやり続けたいよね。別に俺らが記事にしなくても、放っておいても大丈夫なわけだけど、やっぱりすごい人には光が当たって欲しいと思う」

「ジモコロの記事きっかけで他のメディアでとりあげられたりとか。飛騨牛の光夫さんも、うちの記事のあといくつか取材を受けてましたね」

「なにより地元の人に『あの人、こんなにすごい人だったんだ!』と感じて欲しくて。お節介かもしれないけど、ジモコロの記事を通じて、地元にポジティブな影響が生まれたら最高かなあ」

「地元の人に興味を持ってもらえるのは理想ですね」

 

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「あと、やっぱり若者かな。ジモコロが若者向けのメディアだからこそ、全国のすごい人たちを取り上げる意味があると思う。10代の子が山澤さんや光夫さんの記事を読んで、5年後でも10年後でも農業にチャレンジしてくれたら面白いやん」

「タネをまくみたいなことですね。僕自身、ジモコロの取材を通じて、いい意味で『こんな生き方ありなんだ!』と痛感することばかりだったんですよ。生きる道ってこんなにたくさんあるし、なんて自由なんだ、と」

「そうね。あと『やり続ける強さ』はめっちゃ感じる。自分のできること、信じることを貫いて、何十年と続ける。時代性とか社会の形とかに関係なく、たぶん『スーパーおじさん』たちはやり続けてたと思うんよね」

「人と違うことするのって、不安ですからね。それに都会より人が少ない分、ローカルは『志を同じくする仲間』も見つかりづらいわけじゃないですか。そんな中で、ひとりでずっと我が道を貫いてきた人の話は面白いし、なんか救われます」

「これは心から伝えたいけど、俺たちが取材してきた『スーパーおじさん』みたいな人たちって、どの土地にも絶対いるやん。ジモコロが会ってきたのも、ほんの一部。ローカルで頑張ってて心が折れそうな若者は、そんな人たちに会いに行ってほしいな」

「僕たちも取材を続けますけど、読者の人にも自分の地元で探してみてほしいですね。スゴい人は別に『おじさん』に限らないじゃないですか。多可町の藤原たか子さんとか」

「そうね。性別も年代も関係ない。今後はもっといろんな人を取材していきたいね」

「引き続き頑張りましょう!」

 

【『スーパーおじさん』記事リンク集】

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「金がないなら稼げ」元ヒモのマッドサイエンティスト農家が語る人類改造計画

マッドサイエンティスト農家の「愛と不安と植物」の話

「俺たち人間は退化しとる」飛騨のウシ飼いが語る”土と内臓”の話

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千葉で生まれた「ミネラルじいさん」の土掘り物語

 

構成:後藤なな