ライターの友光だんごです。なかなか外に出られない日々を、いかがお過ごしでしょうか。

僕はそれなりに楽しくやってます。Netflixを見て、積読していた本を消化して、最近会えてなかった友人とzoom飲みをして……。

 

だけど……ちょっとだけ物足りなさも感じるんです。

それは、たぶん「人と集まれない」ことが原因で。

 

同じ場所、同じ時間を誰かと共有することって、人間にすごく必要だったのでは? みんなで集まってワイワイしてる瞬間の、あの言語化できない「熱狂」みたいなものってなんだったんだろう。

 

そんななか、大きなニュースがひとつ届きました。「森、道、市場2020」の中止です。

「森、道、市場(以下、森道)」は毎年5月に愛知県蒲郡市で開催され、3日間で6万人以上の来場者を集めるイベント。

 

人気アーティストが集まる音楽フェスという側面もありますが、その本質的な魅力は別のところに。

 

それは「マーケット」。広大な敷地にはフードや雑貨のブースがずらりと並び、全国から集まった選りすぐりのお店たちは、なんと500店舗以上!

3〜4日前から現地入りして準備を始める店舗もあり、それぞれが一年間の成果を3日間に込める、まさに「大人の文化祭」とも呼べるイベントなんです。

 

ジモコロでは、過去に二度、森道を取材。それを機に2018年、2019年の森道で「ジモコロの家飲み」というブースを出店しました。

 

2日前から現地入りして準備をし、昼間はブースの店番、夜は出展者の人たちと酒盛り……毎年、会場で再会する知り合いも多く、今年も開催の日を楽しみにしていたんです。

 

「森、道、市場2019」でのジモコロブース。座って飲める「居酒屋」を開店しました

 

しかし、3月ごろから新型コロナ感染症が国内でも流行し始め、4/10、森道から「開催中止」の公式発表が。やはり…という落胆とともに、僕たちはもう一つのニュースに目を奪われました。

 

なんとイベントの代わりに、『森、道、市場をお茶の間で』と題した特別配信企画を行うそうなんです。

 

過去のジモコロ取材で「300人近くの出展者と『直接』やりとりしてる」など、数々の熱狂しすぎなエピソードを持つ森道の主催者・岩瀬貴己さん。今度は一体、どんなことをやる気なんでしょう…?

 

そして、中止に至る経緯と、日々変わり続けるフェスを取り巻く状況に、何を思うのか。その真意を探るべく、岩瀬さんに話を聞きました。

 

2020年はフェスが“消えた”年になる?

主催者の岩瀬貴己さんは愛知県在住。取材はオンラインで行いました

 

「開催中止が正式に決まって、とても残念です」

「そうですね。まあ、かなり早い段階から開催は難しいかもなと感じていたので、しょうがないかなと」

「あれ? 意外とあっさりされてますね。もしかして秋くらいに代替イベントができるとか?」

「いやいや。少なくとも僕が関わっている年内のイベントは、全て飛んじゃいました。来年の春でも厳しいかもって声すらありますね」

「来年も……」

「森道と同じく、今年5月に開催予定だった他のイベントの主催者たちとのグループがあって、情報を共有してるんです。この状況が続くと厳しいかもなと」

「そんなグループが」

「イベントの開催が危ぶまれた今年の2月あたりから、相談しあうためにSNSでつながっていて。実は3月上旬あたりまで、僕含めた主催者側はみんな望みを持ってたんですよ。5月までに収束するんじゃないかって。もちろん、早い段階で中止を決めたイベントもありましたけどね」

「僕も3月上旬は、まだ楽観的だったかもしれません。緊急事態宣言もまだでしたし」

「だけど状況が収束せず、むしろ、どんどん悪化していく。これは雲行きが怪しいぞ、となって、僕が中止を判断したのは3/31でしたね。フェスとしての公式発表は4/10だったんですけど、その間に各所との調整に動いてました」

 

「森道は他のフェスに比べても、岩瀬さん一人の責任の範囲が大きいじゃないですか。中止の判断をするとき、プレッシャーでお腹痛くなったりしませんでした?」

「意外とそうでもなかったです」

「え、タフすぎませんか? 心臓に毛が生えてる?」

「いやいや。早い段階から、他のイベント主催者たちと連絡を取っていたのはデカかったと思いますよ。同じ境遇の人と相談することで、絶望感が分散できた。持つべきものは仲間ですね」

 

コロナ禍にはイベント保険は適応されない

「とはいえ、お金周りの処理とか大変じゃないですか? チケットの返金作業とかがありますよね」

「あ〜、そうですね。4月後半は、もう毎日ずっと返金してました

「岩瀬さんが返金を……?」

「さすがに、ひとりじゃ無理ですよ。前はふたりでやってましたけど」

「え、前というと、4回目の森道市場が荒天で中止になったんでしたっけ」

「そうそう。当時はインターネットバンキングに入っていなかったので、スタッフが銀行に直接出向いて、チケットの返金料を振り込んでくれたんです。2000人分くらいだったかな

「2000件の振込を手動で! 主催者が300人近くの出店者と直接やりとりするイベントは、スタッフさんもすごい……」

 

森道の現場では、とにかく駆け回り、ひっきりなしにかかってくる電話に対応している岩瀬さん

 

「今回は流石に無理なので、振込代行業者にお願いしているんですけど、お客さんから届いた振込情報が正しいかの確認は必要なんですよね。その辺りは僕がリストなどを見ながらやっています。おかげさまで、いま金融機関コードに世の中で一番詳しい自信があります

「すごく局所的な日本一! そういえば前回の中止ではイベント保険のおかげで助かったと聞きましたが、今回の中止って保険は適応されるんですか?」

「まさか。コロナはイベント保険の適用範囲に含まれてないので、今回のケースは絶対に返ってこないです。そもそも1ヶ月前に入るものなので、今年はまだ加入してなかったんですけどね」

「保険が効かない……。じゃあ色んな支払いが大変なのでは? スタッフさんのギャラとかはどうだったんでしょう」

「森道って終わった瞬間に次の年の準備が始まるんです。なので運営事務局で働く人には、今年の作業分は支払ってますね」

「文字通り一年かけて作ってるのか……」

「ただ、とてもありがたいことに、会場となる遊園地や提携していたホテルのキャンセル料は無料にしていただいたんです。さらにスポンサーやアーティストの方々に中止の連絡をした際にも、暖かい反応でした」

 

「森、道、市場」は蒲郡市の遊園地「ラグナシア」を借りて運営している

 

「みなさん、苦しい状況なのに」

「地域のホテルに関しては、とても心配ですね。観光は、ほぼ壊滅的なので。あとは舞台監督や音響関係の方など、現場を担うフリーランスの皆さんも心配です。彼らはフェス以外ではテレビやコンサートの現場が主な仕事なんですけど、2月あたりからテレビの仕事もなくなって、今もその状態が続いているらしいんですよね」

「音楽とか現場関係の人は大変だ……」

「アーティストの方々も辛い状況のはずですけど、中止の際、ギャラに関して『寸志程度ですが今回はこれで』と申し出たら、多くの方々に辞退していただいて。非常に申し訳ない気持ちもありつつ、とてもありがたかったです」

「ずっと思ってたんですけど、みなさん優しすぎないですか?」

「そうなんですよね。粋な応援をしてくださっているので、こちらも応援し返したいという気持ちがあるんですよ

「応援合戦みたいになってる」

「ははは、まず募金でいただいたお金は、森道の中止で仕事がなくなったスタッフさんたちに還元したいと思ってますね。来年の仕事の前払いみたいな形を取ろうかなと」

 

「森、道、市場」のための募金を受け付けているほか、購入済みのチケットを払い戻しせず、チケット代をそのまま寄付することも可能

 

「あとは募金だけでなく、森道としても新しい動きをしようと思っているんですよ」

「おお!ずっと暗い話をしているのに、目がキラキラしてると思ってたんですよ。例の配信ですかね??」

 

森、道、市場の逆襲。新しいフェスの形とは?

「中止だけでは、みんな暗くなるだけなので何かしたい。すると、いまできることって配信だよなぁと。『オンライン上に森、道、市場を再現しよう』と考えてるんです」

「オンライン上に再現?」

「はい。こんな感じのことを考えています」

 

「たしかに音楽ライブもマーケットもあって、森道だ! でもこれ、いろんなアカウントから配信するってことですよね」

だって普通に配信するだけじゃ、森道じゃないでしょう? 出店者さんにも、お客さんにもできるだけ楽しんで欲しいじゃないですか」

「いやでも、いろんな人の希望を聞いて取りまとめるの、絶対大変じゃないですか」

「そりゃあめんどくさいけど。でもお祭りって、アホみたいなことをみんなが真剣にやる場所じゃないですか

「まあ、それはたしかに」

「森道がずっと目指してるのはそういう場所なんですよ。いい歳の大人たちが大真面目になって、本気で遊んでる。観に来る人だけじゃなくて、お店の人たちもね」

「ああ……。出店者の人たちの気合い、すごいですよね。木材を持ち込んで現場でブースを組み上げたり、売ってるもののクオリティも半端なく高かったり、『森道にかける熱』が本当に高い」

 

凄まじい作り込みをしている数々の店舗やイベントステージ

「あと、夜になってお客さんが引いた後、ブースに出店者が集まって飲み会になるのも好きなんです。出演してたミュージシャンが来て突然弾き語りが始まって、そこに出店者の人も参加してセッションになったり。『全力で遊ぶために、全力でやる』って感じなんですよね」

「その空気感をどうにか配信で再現したいんですよね。だから、いま配信のコンテンツを考えてるんですけど、ひと捻りしたくて」

「ほほう、ひと捻り」

「普通に店舗や商品の紹介をしても、いかにも広告って感じで面白くないじゃないですか。買ってくれる人はいるかもしれないけど、届くレンジが狭いというか」

「たしかに宣伝とわかると、冷めちゃうことはあるかもしれません」

 

「そこで、いま考えているのが大食い番組です」

 

「え???」

「森道に出店予定だった飲食ブースって結構な数があるんですけど、その全ての商品をスタッフひとりに食べてもらう企画をできないかなと」

「スタッフのなかにフードファイターの方が?」

「そういうフックがあるほうが面白いじゃないですか。体験型のほうがコンテンツとしても面白いし、何よりいろんな視聴者が参加しやすい気がするんです。あとはマネタイズ的な意味でも、こちらの方が盛り上がるなと思って」

「どういうことですか」

「ECの展開は行う予定なんですけど、やっぱり実際のフェスに比べると売り上げは確実に落ちてしまう。だけど、番組自体にお金を落としてもられば、売り上げ以外にも店舗の方々に渡せるお金が増える。だから、いわゆる投げ銭制度を活用できれば、と」

「商品を買ってもいいし、単純にお金を落としてもいいし、と」

「そうですね。いいコンテンツを作るのは大前提の上で、きちんとお金を生み出す仕組みも同時に考えなければいけない。そうじゃないと、絶対に続けられないですからね。あと『あつまれ どうぶつの森』で、森道の空間を再現できないかなあと

「流行りに乗っかってる!『森道島』みたいなのを作るってことですか」

「そうそう、たしかあのゲーム、人の作った島に遊びに行けるんでしょう? 森道島にお客さんが来たら、実際のお店のブースが並んでたら楽しいじゃないですか」

「たしかに面白そうですけど……たしか、1度に8人までしか遊びに来れなかったような」

「あ、本当に? じゃあ時間制限にするしかないか……まあ、配信企画はどれもギリギリまで調整してるので、大食いもどうぶつの森も実現するかわかんないんですけどね。ははは」

「ほんとに文化祭っぽい!」

 

リアルフェスには何者にも代えがたい重要性がある

「最近では、配信でめちゃくちゃ稼いでいる人もいるじゃないですか。フェスの配信も可能性ありそうですね」

「う〜ん。フェスって、関わっている人の数がめちゃくちゃ多いんですよね。アーティストはもちろん、裏方さんや出店者の人たちを考えると、数千人規模。全員にきちんとお金を行き渡らせるためには、既存の仕組みでは全然足りないんですよ」

「そうか。100万円稼いだところで、みんなで分けたら雀の涙だ」

「僕らは普段から別に赤字にならなきゃいいと思ってるんで、過度に稼ぐつもりはないけど、今のままじゃ確実にみんな赤字です。関わった人たちが誰も幸せにならないんですよ。もし来年も中止になったとしたら、森道の継続は正直、難しいです

「え…そうなんですか」

「僕ら自体の負担もそうですし、何より街が死んじゃいますからね。その頃まで長引いたとしたら、会場の遊園地や周辺のホテルの経営だって危うい。やっぱり会場となる場所、そして地元の街があってこそのイベントなので」

「地元の蒲郡には、森道の時期になるとすごい人が押し寄せますもんね」

イベントを行うことで街の経済が循環するんですよ。森道で考えると、まず公園や遊園地に施設使用料が入る。加えて地元の交通機関や宿泊施設などへの派生効果もありますからね」

「運営や出店者だけでなく、街の雇用も生んでいた……」

「街の雇用を生むなんて、ちょっと大げさですけどね。ただ、たくさんの人が集まって、ひとつのことを成し遂げるのってやっぱり楽しいし、スカッとしません? やっぱり一人でやっても面白くないんですよね。だから、正直リアルで集まりたい気持ちはめちゃくちゃありますよ」

 

「ビデオ通話は便利ですけど、会って話したいですねえ」

「仕事の仕組みがどんどんアップデートされていくのは、いいことなんですけどね。もっと変わっていけばいいと思うし。だけど、体験ってやっぱり何にも代えがたい。同じ時間、同じ場所に誰かと一緒にいることの楽しさは大事だと思うんです」

「飲み会やフェスで使うお金って、一見無駄に見えますけど、体験や感動とお金をきちんと交換してる感覚があります。できなくなって、そこの価値を実感しました」

「そうそう。配信で、その『熱狂』みたいなものを生み出すのってすごく難しい。だけど、どうせやるなら限られた枠組みの中で、最大限の体験みたいなものを生み出したいな、と」

「すごいですね、岩瀬さん。めげてない」

「正直、めちゃくちゃ高いハードルを食らいましたけどね。でもハードルって高ければ高いほど、いいじゃないですか」

「ミスチルみたいなことリアルに言う人、初めて見た。意外と熱血ですよね」

「めんどくせえなあって思うこともありますよ? でも自分で言っちゃったし、何よりハードルが上がれば上がるほど、コンテンツとしてどんどん良くなっていくのがわかるので。もっともっとアホなことをどんどんしていきたいですね」

 

おしらせ

ジモコロ編集部も「森、道、市場」のWEB配信に参加します!

配信日時は5/15(金)、5/16(土)の両日19〜20時を予定。

ジモコロの5周年に合わせ、「いま必要なローカルメディアの役割」などをテーマに、ゲストを呼んでトークする予定です。

 

ちなみに配信の番組表はこんな感じです。これは5/15(金)の1日分。すごいボリュームじゃないですか……?

その他の番組表や各番組のリンク先、有料番組の視聴方法は以下の公式ページにて紹介されています。ジモコロの配信URLもここからチェックを!

http://mori-michi-ichiba.info/n20200509/

 

当日はぜひご自宅から、森道の熱狂を体験してみてください。

それではまた!

 

と言いたいところなのですが……実はもうちょっとだけ続きがあるんです。

「大人の文化祭」を作り上げてきた出店者やスタッフの皆さんから、森、道、市場への熱い思いをメッセージにしてお送りいただきました。

気になる方は次のページをクリック!

 

森、道、市場を愛する皆さんからのメッセージ