帽子を選びながら失礼します。ライターの友光だんごです。

とあるアウトドアショップに来ているのですが、ここがスゴくてですね……

 

スコーンと吹き抜けになった3階建てのフロアに商品がみっしり並んでいて……

 

アウトドアウェアの横には剥製のクマが構えてたり……

 

床からサボテンが生えてたり……

 

おしゃれなカフェスペースまで店内にあったり……。2〜3時間は平気でいられちゃいそうなくらい、とにかく盛りだくさんな店なんです。

 

おもちゃ箱をひっくり返したようなこのアウトドアショップ「パーヴェイヤーズ」ですが、見た目のインパクトだけじゃありません。

 

北は北海道、南は中国地方からお客さんが訪れInstagramアカウントのフォロワーは1万5千人。店内には約1万点の商品が並び、今年のGWの売り上げは前年比300%と、アウトドアファンを中心に注目を集めている店なんです。

 

その立地はというと、東京の渋谷や新宿ではなく「群馬の桐生(きりゅう)」に。

 

桐生……ってどこ? って思った人もいると思うんですが、高崎や前橋の東のほう、東京から電車で2時間半くらいのところです。

 

桐生はもともと繊維業で栄えた土地で、現在は人口10万人ほどが住んでいます。

「地方都市」までもいかない規模の地方の街に、なぜ東京でも珍しい規模のアウトドアショップがあるのでしょう……?

 

そのカギを握るのが、店のオーナーである小林宏明(こばやし・ひろあき)さん。

 

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

一番星ヴィレッジさん(@starvillage_official)がシェアした投稿

千葉にある人気のキャンプ場「一番星ヴィレッジ」を手がけたプロデューサーでもある小林さんは、3年前にパーヴェイヤーズをオープンしました。

 

パーヴェイヤーズがユニークなのは、規模や世界観ももちろんですが、何より「お客さんは、ほぼ地元以外の人」である点です。

 

小林さんが取り組むのは、桐生を拠点に、都会や他の土地をターゲットに商売をすること。そして、地方に点在するプレイヤーをつなぐ「ハブ」として店を機能させること。

 

ローカルに必要な「ハブ」としての店の役割について、小林さんに話を聞きました。

 

地元の人をターゲットにしていない

「今日はよろしくお願いします。小林さん、桐生と東京を行き来しながらお店をやってるんですよね」

「そうです、桐生に着いたのが深夜2時で。そのあと朝6時に起きて釣りに行ってきたばっかりだから、まだ眠くて……」

「アウトドアマン感ありますね。桐生は自然も多そうです」

「原生林みたいな山が残ってて、桐生川の源流のエリアは特に自然豊かなんですよね」

「ではアウトドアをする人も多いでしょうし、パーヴェイヤーズへ買い物に来るご近所さんも多いんじゃ……」

「いや、うちは地元向けにやってないので。実際の客層も、ほとんど桐生以外のお客さんです

「なんと」

「1階のシャッターは年に一度、桐生の祭りのときだけ開けるんですよね。だから、祭りの日だけ開く店だと思ってる地元の人もいるくらい」

 

パーヴェイヤーズの1階部分。外から店内が見えないつくりになっている

 

「それで大丈夫なんですか? 地元の人が全然こないローカルの店って……」

「十分やっていけてます。今年のGWはめちゃくちゃ人が来て、前年比300%の売り上げでしたし。そもそも、地元に全然プロモーションしてないんですよね」

「ずいぶん大胆な。ローカルにお店を出すなら、最初にチラシを配ったりしてご近所に宣伝するのが必須なイメージでした」

「人口で考えたら、桐生はたった10万人、かたや東京は900万人。だったら最初から東京を相手にするほうがいい。そう思って、うちは最初から東京の人をメインターゲットにしてます」

「大胆に聞こえますけど、数字で考えたらたしかに…」

「もちろん地方都市もターゲットですよ。群馬なら高崎、栃木なら宇都宮とか、その都道府県を代表する感度の高い土地が必ずあるので」

「ふむふむ」

「それに、うちで扱う商品は、海外のブランドや国内の職人さんが作ってて、情報感度の高い人が反応するものが多い。そういう感度の高い人って、やっぱり東京に多いわけじゃないですか」

「『文脈をわかってる人』というか。いまはネットもありますけど、都会の方が多いでしょうね」

「だから、東京を経由して情報を発信することを意識してます。桐生の情報を桐生で発信するんじゃなくて、東京を経由させる。すると、東京の次に地方都市、さらに田舎へ……と届いていくイメージです」

「つまり桐生を拠点に、東京に向けた店をやっていると」

「むしろ東京じゃできない店をローカルでやって、外の人に来てもらいたいと思っていて」

 

「東京じゃできない店」を作って、地方に人を呼ぶ

「東京じゃできない店……例えばこんなに薪を積む、とか?」

「それはどこでもできるでしょ。まずは店の規模かな。パーヴェイヤーズは元鉄工所の3階建ての建物なんですけど、最近、3階もショップスペースとしてオープンして」

 

3階には洋服や家具、植物などが並ぶ

 

テラススペースも3階に。親が店内も見ている間、子どもが遊ぶキッズスペースにも

 

「3階建てのこれだけ広い店舗、都内で借りようと思ったら賃料がえらいことになりそうですね」

「渋谷や新宿だとまずないし、あったとしても月数百万の世界じゃないかな。ここは月8万円ですから

「はち……安すぎません???」

「もちろん、オーナーさんの厚意とかもありますよ。だけどローカルのほうが家賃は安く済むし、物件も多いのは確か。で、家賃が高いと、売り上げもそれだけ出さないと店が回らない。そうやって追われちゃうのが嫌だったんです」

「利益を追求するのが嫌だった……」

「いや、利益は出したいですよ。そうじゃなくて、家賃とかのランニングコストのために、売ることを優先しなきゃいけなくなるのが嫌だったんです。『どんどん大きくならないと』って右肩上がりの思考が、面白いものを邪魔するんじゃないか、と思ってるので」

「その面白いものって何でしょう」

「例えば商品のストーリーかな。ものづくりをしてる人って、本当はストーリーをちゃんと伝えた上でものを売ってほしいはず。でも、その伝える時間が東京の店にはないんですよね」

「高いランニングコストのために、ストーリーを伝えるよりも売ることを優先せざるをえないから…?」

「そうそう。地方のほうが店のランニングコストは下がるから、ストーリーを伝える余裕ができる。それで東京と同じ売り上げが出れば、東京で店をやるより儲かりますよね」

「たしかに…」

 

「うちはそうやってしっかり利益を出して、スタッフにも還元してます。一般的なアウトドアショップの水準よりも月10万円くらい高く払ってますから」

「へえー! それはスタッフの方のやる気も違うでしょうね」

「パーヴェイヤーズはスタッフの接客の質にもこだわってるので、それに見合った額はちゃんと払います」

「なるほど……あ、この帽子気になるんでちょっと見ていいですか?」

「どうぞ、鏡あるから合わせてみてください」

「ありがとうございます…あ、すみません合わせていただいちゃって……いいですねこれ」

 

「いいでしょう。これは『ハロ コモディティ』って日本のブランドなんですけど、デザインはもちろん機能性もすごくて、実はここがメッシュになってて。だから頭が蒸れにくいし、サングラス用のグラスホルダーも付いてて……」

「へええ〜、面白い……というか小林さん、商品説明になると急にスイッチ入りましたね」

「こんな風に、接客では『ストーリーテラーであれ』とスタッフの皆んなへ常に言ってて。つまり、背景にある物語や良さをちゃんと伝えてね、と」

「聞いてると欲しくなっちゃいます。時間や余裕も必要ですから、ランニングコストを優先してたらできない接客ですね」

「やっぱり『これは必要な商品だ』と腑に落ちて買ってほしいですし。そういえば今月末、フェスに行くって言ってたよね? この帽子ちょうどいいと思うな…」

「……じゃあ買います!」

 

「勢いで言いましたけど、あとで本当に買いますね。なんか小林さんが言うなら間違いないだろう、って思っちゃいました」

「そんな風に、お客さんにとっての最高のコンシェルジュでありたいんです。特にアウトドアはジャンルが細分化されてるし、『何がほしいかわからない』みたいなお客さんも多い。そこで、その人に合った一番の商品をおすすめできる接客を、パーヴェイヤーズでは目指してて。一流ホテルマンみたいな接客、とも言ってるんですけど」

「一流ホテルマン。丁寧で物腰柔らかな…?」

「お客さんとの絶妙な距離感ですね。必要としてる人に、適切な情報を伝えられる。どれだけ店員が商品のストーリーを語れるかってすごく重要だと思っていて。うちも商品のセレクトにはこだわってますけど、今の時代、もはや『他にない商品』だけで勝負するのは不可能だと思う。これだけネットで何でも買える時代ですから」

「ああ、個人でも海外ブランドの商品を輸入できたり。だからこそ、商品を的確におすすめしてくれるコンシェルジュ的な店員さんってめちゃくちゃ需要ありますね」

「だから、パーヴェイヤーズの魅力はスタッフ、つまり接客の質だと思ってます」

「なるほど〜」

「東京は人も物も店も集まってるから、総合力で目的地になる。桐生は総合力では絶対に勝てないから、パーヴェイヤーズ自体が目的地になるような店づくりを心がけてます

 

地方にプレイヤーはいる。でも、ハブは少ない

「ジモコロで全国をまわってると、各土地ごとに必ずプレイヤーがいるんですよね。彼らの存在も『目的地』の理由にはなるのかなと。桐生はそのへんどうなんでしょう?」

「もちろん、桐生にもプレイヤーはいます。例えばジモコロで以前取材してた『HORIZON LABO』の岩野響くん。そのご両親の『リップル洋品店』にも、全国からお客さんがやって来ますね」

 

 

「ただ、彼らはコンパクトライフ志向だから、どちらかというと土地における『点』だと思ってて」

「点とは……?」

「店の規模が小さくて、本人たちもその規模を望んでいるというか。ローカルでものづくりをしたり、小さいカフェを開いたり、農業をやったりするような人は、『身の丈で生活をしたい』って志向が強い場合が多いと思うんですよね」

「ああ、自然の多い地方に移住するとか、自給自足するとか。さっき出た『右肩上がり』と逆のスタンスというか」

「そうですね。だから別に『外からお客さんがたくさん来てほしい!』と必ずしも思ってない場合も多いはず。だから発信しすぎないほうがよかったりもするわけで」

「コツコツ一家でパンを焼いてる店に、全国から人が詰めかけたらパンクしちゃいますもんね。それが『点』だと」

 

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

stcompany_kiryuさん(@stcompany_kiryu)がシェアした投稿

小林さんが桐生のプレイヤーに挙げる『st company』。洋服や雑貨のセレクトショップやギャラリーに、カフェが併設されている

 

自家焙煎のスペシャリティコーヒーが楽しめる桐生のカフェ『itoya coofee』

 

「パーヴェイヤーズは、そんなプレイヤーの人たちの『点』と『点』を線で結ぶ『ハブ』になれると思ってて。うちに来たお客さんに『リップル洋品店は行ったほうがいい』『itoya coffeeさん美味しいんでオススメです』って言ったり」

「パーヴェイヤーズに聞けば、桐生の面白い店を教えてもらえる、みたいな?」

「他にも桐生の情報を発信したり。そして東京と繋がってることで、桐生全体に人をまわす起点にもなれる。多種多様なお客さんが来ても対応できるだけの規模と強さがパーヴェイヤーズにはありますから。それがハブのイメージかなあ」

「なるほど、面白いですね。他の土地にもそんなハブはあったほうがいいし、面白い土地ってハブのお店があるところなのかもしれないって思いました」

「ハブの店は、まだまだ少ないですね。あと、コンパクトシティじゃないとハブは機能しないんじゃないかな。東京みたいに複雑で入り組んだ街で、ハブとして機能するのは難しいと思います」

「東京はややこしいですよね……10年くらい住んでますけど、いまだに渋谷駅の乗り換えでクラクラしちゃいますもん」

でも、東京の役割っていうのもあるんですよ」

 

ハブになる修業の場として、東京が必要

「今でこそ俺も桐生で店をやってますけど、元々は東京の音楽レーベルで働いたり、イベント企画の仕事をしてて。そこで揉まれたからこそ今があるというか、ハブになる修業として、東京では10年切磋琢磨したほうがいいと思ってます」

「修業ですか」

ハブにはある程度の『規模』が必要だから、それを回すには経験と体力が求められる。で、東京って死ぬほど情報にあふれてるから、そこで働いてると絶対に一度は自分を見失うじゃないですか。失敗して失敗して、もう駄目だって」

「あああ、ありますね……新卒で入った会社で、毎日死んだ目をしてた頃の記憶が……」

「でも、それでもひたすら波をくぐっていくと、なんとなくサーフィンできるようになってくるはず。自分のできることとか、やりたいこと、居心地のいい場所がわかってくるというか」

「そこまでは頑張れと」

「そうですね、東京でエラ呼吸できるようになるまでは、苦しくても潜り続けたほうがいい。その経験が地方で何かやるとき、絶対に活きる。うちのスタッフも、ほぼ全員が東京で揉まれたあと桐生に帰って来た人たち。俺の実感値としては、サーフィンできるようになるための時間が10年なんですよね」

 

「都会で揉まれろ、かあ……」

「東京じゃなくても、ロンドンでもニューヨークでもいいと思います。最先端の都会であれば。コロシアムみたいな場所ですからね、都会は」

「小林さんも東京での経験が、お店を作るときに活かされてるんですね」

「そうですね。より東京を意識するために、地方へ来たって言えるかもしれない。とはいえ、地方でやってくのは大変ですよ。家賃以外は意外と高かったりするし。まだ店も全然完成してないから」

「次は何をやりたいとかあるんですか?」

「ビール作ろうと思ってます。アウトドアといえばフランクフルトとビールでしょう」

「ここでビール飲めたら最高ですね」

「酒造免許とったり、最低限の環境整えるための投資は必要なんですけど。まあ、世の中の9割は金で解決できるので」

「ちなみにあとの1割って…?」

金で解決できないのは愛と健康かなあ。というのも、過去に大きな借金を負ったこともあって、お金の大切さも、力も、怖さも学んだんです。だからこそ、お金で買えない愛とか健康の大切さも強く意識するようになったし、どんな仕事でも、基本的にありがたく受けてます。仕事募集中です!」

「(急に宣伝…!) でも僕もフリーランスになって、仕事をもらえるありがたさは実感するようになりました」

「俺なんかを必要としてくれることに感謝しかないですよ。パーヴェイヤーズがやれてるのも、いろんな人の助けを借りながらですし。逆に言えば、金以外はなんとかなるんですよね。やればなんとかなるってのは本当ですから」

 

おわりに

パーヴェイヤーズに来て一番に思ったことは、「どうしてここに、こんな店が?」でした。

 

東京のほうを向きながら、あえて地方で店をやる。地方で人を呼べるだけの魅力を作り、目的地になる。そして、地元のハブになる。

そこまでの確固とした思いが、このパーヴェイヤーズを作っていました。

 

ローカルへ遊びに行った時は、「ハブ」の店を探してみると、土地にぐっと入り込むことができそうです。

僕もこの後、小林さんに教えてもらった桐生のスポットを巡りました。記事最後の画像ギャラリーで紹介しているので、ぜひ参考に桐生へ遊びに行ってみてください。

それではまたー!

 

取材協力:パーヴェイヤーズ

公式HPInstagram

☆取材時に小林さんが語っていた「ビールを作る」計画が、2021年に実現!現在「ファークライ ブルーイング」として展開中です。公式サイトはこちら

 

写真:藤原 慶(公式HP