こんにちは、ライターの友光だんごです。皆さん、最近「魚」を食べましたか?

刺身にお寿司、天ぷらに煮魚……魚はわれわれの食事に欠かせない存在ですよね。

 

しかし「2048年には海から食用魚がいなくなる」という驚きの説があることをご存知でしょうか。

 

これは2006年にアメリカの科学雑誌『サイエンス』に発表された論文によるもの。

このままの規模で魚の乱獲と水質汚染が進んだ場合、2048年には食用可能な魚介類のほとんどが絶滅してしまう…という内容です。

 

10年以上前の論文ですが、日本でも最近「ウナギの絶滅」が話題になったばかり。あながち極論でもないようです。

 

さらに「漁師の高齢化・担い手不足」など、漁業関連で不安な話題ばかり耳にするように思います。

 

なんだか海、大変なことになっているのでは……?

 

そう感じていたところ、海の問題に取り組む漁師集団「フィッシャーマン・ジャパン」と出会いました

彼らの姿は、いわゆる「漁師」のイメージとは一味も二味も違います。

 

カッコよくて、稼げて、革新的な「新3K」を目指し、次世代に続く未来の水産業を目指す彼らの活動は実にユニーク!

漁師が海から電話でモーニングコールをかけてくれる「フィッシャーマンコール」はテレビや雑誌などでも取り上げられ、大きな話題を呼びました。

 

しわくちゃの老人になっても美味しい魚を食べ続けたい僕としては、海の未来が気になって仕方がありません。

 

そこで日本の海をめぐる問題や未来の漁業などに関する疑問を、フィッシャーマン・ジャパン事務局長の長谷川琢也さんに聞いてきました!

 

話を聞いた人:長谷川琢也(はせがわ・たくや)さん

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ヤフー株式会社勤務。東日本大震災後、被災地の農産物や加工食品等をネットで販売する「復興デパートメント」の立ち上げを自ら企画提案し実現。2012年には家族とともに石巻に移住したのをきっかけに、「フィッシャーマン・ジャパン」の活動を開始し、事務局長をつとめる。

 

 

日本人は魚を食べなくなっている?

「こんにちは! 魚が将来食べられなくなるかもって本当ですか?」

「世界的に人口増加している上に、魚を食べる人も増えています。一方で乱獲や温暖化など色んな理由で魚の数が減っています。このままいくと、その可能性はありますね」

「なんと……」

「ただ、日本では別の問題も深刻で。だんごさんは普段、魚をどのくらい食べてますか?

「えっと、魚は好きで外食ではわりと食べてると思うんですけど、家では圧倒的に肉が多いですね」

 

「え、魚好きなのに家で食べないんすか? なんで?」

 

「いや……魚を調理した後のまな板や鍋が生臭くなったり……ウロコや骨をとる下処理も面倒臭い……から……すみません」

 

「あ、全然怒ってないですよ!そういう日本人、増えてるんですよ。実は『日本人の魚離れ』が進んでいて

「このまま海に投げ捨てられるのかと思いました…ん、魚離れ?」

 

出典:水産庁「水産白書」より

 

「まず、日本人1人当たりの魚の消費量は、2001年の40.2kgをピークに、2013年には27.0kgまで落ちちゃってます」

「え、12年で約70%に!」

「最近では、スーパーでも魚売り場だけが赤字になるって話も聞きます。そもそも、昔の日本は漁業の生産量が世界一の漁業大国だったんですよ」

「島国で、海に囲まれてますからねえ」

「それなのに、魚の消費量だけじゃなく自給率も漁師の数も右肩下がりになっています。1964年に113%あった自給率は、2013年には60%まで落ちてます」

「約半分に……それに4割も魚を輸入してるんだ」

 

出典:水産庁「水産白書」より

 

「漁師の数も、今は16万人。しかも高齢化が進んでて、今いる漁師の約4割が65歳以上です」

「1億2000万人いる日本で、漁師がたったの16万人! しかも高齢の方が多いってことはどんどん減っていく……」

 

「え、やばくないですか? 魚がいなくなる前に、魚を獲る人がいなくなっちゃう!

「そうなんすよ」

 

 

世界で漁業は「成長産業」

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出典:The State of World Fisheries and Aquaculture 2016 – FAO

 

「一方で、世界では漁業が成長産業と言われてます。魚を食べる人が増えている分、生産量を増やす取り組みがされてるんですね。上のグラフを見てください。世界における漁業生産量を示していて、青が養殖でオレンジが天然です」

「養殖の伸びがすごいですね!」

「人口増加による食糧危機を解決する方法として、養殖が注目されてるんですよ。それに海外のほうが『持続可能な漁業』への意識が高いです」

「じぞくかのう…?」

「魚介類(=水産資源)は、海中にいるときは誰のものでもなく、漁獲された瞬間に所有権が発生します。だから『早い者勝ち』で乱獲されがち。でも、自然に増える量を超えて獲りすぎれば、いつかは枯渇しますよね

「あーなるほど、節度を守って漁業をやりましょうってのが『持続可能な漁業』なんだ」

 

「魚の場合、例えば持続可能な漁業でとられた天然の海産物に与えられる『MSC(Marine Stewardship Council)』という国際認証があります。養殖だとまた別の名前で。海外ではこの国際認証付きの魚を買いましょうって流れになってるんですが、日本では全然知られてません」

「野菜でいう『無農薬』みたいなことですかね。魚でそんな基準があるのは初めて聞きました」

「ね、他の一次産業に比べても、漁業の問題って本当に知られてないんですよね」

 

 

漁師と消費者が遠くなったシステムを、根本から変えたい

「なんで日本の漁業はそんなに課題だらけなんでしょう?」

「一つは、良くも悪くもシステムができすぎちゃってるんですよね。漁師がとった魚がわれわれ消費者の口に入るまでに、漁協や魚市場など色んな人が関わっています。漁師は魚をとるだけで他の人がお金に変えてくれるいいシステムなんですけど、分業が進みすぎちゃったのが課題でもあって」

「分業ってそんなに問題ですか?」

漁師と消費者が遠くなっちゃったんですよ。一般の人が海のことを考える機会も減って、漁師もとった魚の価格決定権を持てなくなってしまった。やばい状況に気づいてる漁師もいるはずなんですが、構造が複雑になりすぎて漁師一人じゃ『何をどうすればいいのかわからない』ってのが現実だと思います」

 

「漁師一人一人じゃどうにもならないから、チームで取り組んで漁業を変えよう。漁師を『フィッシャーマン』という『カッコよくて、稼げて、革新的』な新しい職業にしよう!……そんな想いでフィッシャーマン・ジャパンは活動しています」

「具体的にはどんな活動を?」

「大きく『稼ぐこと』『担い手事業』『コミュニティづくり』の3本柱に分けられます」

 

「まず漁業を稼げる仕事にするために、販路の開拓や魚の価格を上げることに取り組んでいます。それから地元と連携して、新たな漁師(担い手)を増やす。そして担い手が地元で長く働けるよう、コミュニティづくりも手伝っていますね」

「活動を始めて約3年で、手応えはありますか?」

「そうっすね、担い手事業でいうと、2016年から現在までに16人が新たに漁師になりました。インターネットでうちの情報を知って、応募してくれる人は多いです」

 

担い手の一人、三浦大輝さん(写真右)。大阪出身の23歳で、牡蠣漁師の佐藤一さん(写真左)の元で2017年から働き始めた

 

「外から人を呼ぶだけじゃなくて、地元の水産高校と組んで、漁師体験の授業も行なっています。あとは企業と連携して、石巻のイオンに直売所を作ったり、西友と組んで国際認証を受けた魚の販売を始めたりもしてますね」

「活動の幅が広いですね……長谷川さんも相当忙しいのでは?」

「そうっすね、ヤフーの仕事もあるんで

「え、ヤフーってYahoo! JAPANの???? 長谷川さん、ヤフー社員なんですか?」

「そうっすよ。震災の時にボランティアで宮城に来たのをきっかけにフィッシャーマン・ジャパンの活動を始めたんです」

 

「フィッシャーマン・ジャパンの仕事は副業申請してます

「副業の規模、大きすぎません?」

 

 

「神経〆」で魚の熟成肉が生まれる⁈

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好きな漁師を選んで、海の幸の直送や調理、仕事見学などの体験を購入できるECサイト『海のヒットマン』

 

「フィッシャーマン・ジャパンさんのビジュアルイメージやサービスって、確かに今までの漁師のイメージがガラッと変わりますよね。この間始まった『海のヒットマン』は漁師の皆さんが『必殺仕事人』みたいになってて笑っちゃいました」

「や、漁師ってめちゃくちゃ技持ってるんですよ。『神経〆(しんけいじめ)』って知ってます?」

「なんですかそのプロレス技みたいなの」

「魚を人間でいう脳死状態みたいにする技なんですけど。ざっくりいうと、鮮度が落ちずに長く保存できるうえ、熟成されて美味しくなることもあるんですよ」

「え、熟成肉みたいな? 魚でそんなことあるんですか?」

「マグロ漁とかでは昔から行われてたんですけど、他の魚種では最近になって少しずつ導入され始めました。これって、離島や僻地の漁業にすごい可能性が生まれることで。輸送に時間のかかる離島や僻地でも、神経〆なら、日数がかかることがメリットにもなるってことですから」

「なるほど、地理的な弱点が弱点じゃなくなる! 熟成された魚食べてみたいな…めちゃくちゃウマそう…」

 

福岡県北九州市にある藍島で取り組む「藍の鰆」。一本釣りで釣れた鰆に船上で血抜き・神経〆の処理を行うため、抜群の鮮度のまま市場へ。従来の2〜3倍の値段でのブランディングに取り組んでいる

 

「漁師ってめちゃくちゃ可能性のある職業なんですよ。海外では稼いでる漁師さんもたくさんいますし。あの、『なりたい職業ランキング』ってあるじゃないですか」

「ああ、最近Youtuberが上位になって話題になってた」

「残念なことに、漁師はランキングに入ってないんですよね。それでフィッシャーマン・ジャパン立ち上げの年だったかな、20位くらいに『シャーマン』が入ってて

「え、霊媒師とかのシャーマン? なぜ??」

 

「いや、僕もわからないですけど」

「そりゃそうか」

「とにかくそれで急にうちのメンバーのスイッチが入ったんですよ。『なんでシャーマンが入ってて漁師も水産加工業も入ってないんだ!! いつかフィッシャーマンをランクインさせよう!!!』と。ほら、フィッシャーマンとシャーマンってちょっと似てるじゃないですか」

「そういう問題かな?」

 

 

消費者たちの『知らない』を変えたい

「宮城で始めたプロジェクトが、こんな風に全国から注目してもらえるのはすごくありがたくて。きっと自分たちのノウハウが日本全体の課題に生きるはず、と考えて『ジャパン』の名前を背負ったので」

「『フィッシャーマン東北』ではなく…」

「はい。ようやく『フィッシャーマン・ジャパン』の名に恥じない状態になってきました。ちゃんと稼いでビジネスにしようとも言ってきて、やっと年商で1億数千万円レベルにまでなりました。仲間も増えて、地元の若い子も雇用できてる。この勢いを絶やさず行きたいなと」

「これからはどんな風に考えてますか?」

「最終的には地元だけでまわるようにしたいです。漁師や漁協職員にスーパーマンが現れれば、うちみたいな中間団体はいらなくなるはずなので。という思いはありつつ、漁業でこんな働き方があるんだ!って新しい挑戦はどんどんしていきます」

 

「あとはやっぱり、一番変わって欲しいのは消費者。自分も含めてですけど。課題を『知らない』消費者もそうだし、『どんどんとっちゃえ』って漁師のマインドも変えていく。漁師や消費者の意識と、制度の両方が変わらないとなかなか難しいので」

「制度っていうのは、国の側の話でしょうか」

「そうっすね、漁業先進国と言われてるノルウェーでは、国が制度を変えることで儲かる漁業に切り替えられたんです。いきなり制度を変えるのは難しいですから、僕は現場に元気を与えて、少しでもこの国の漁業を底上げしていくつもりです」

 

 

 

おわりに

東京に戻ったあと、フィッシャーマン・ジャパンが運営し、漁師直送の魚介類が食べられる居酒屋「魚谷屋」へ行きました。

地酒の「日高見」とともにいただいた石巻の牡蠣はメチャクチャ美味しかったです。

 

この記事が、より深く海の問題について知るきっかけになれば嬉しいです。でも、まずはシンプルに『食べて応援』から初めてみてもいいと思います。

 

公式ショップ『海のヒットマン』のページから、フィッシャーマン・ジャパンのメンバーが獲った新鮮な海産物が購入できます。

美味しいものを食べて、未来の海も応援できる。ぜひ一度、フィッシャーマンたちの情熱と誇りが詰まった味を体験してみていただけると嬉しいです。

 

それではまたー!

 

写真:藤原 慶(Instagram