20年以上に渡って、函館市民の味覚を豊かにしてきた功績

「うちの社長はよく『初めての寿司は、美味しいものを食べてほしい』って言うんです」

「人生初の寿司ってことですか?」

「ええ。函太郎は『日本一うまい回転寿司になることで、日本食文化の継承と発展に貢献します』という理念を掲げているんです。『お寿司って、こんなに美味しいんだ』と知ってもらうことで、日本食の寿司の文化を継承していけたらなと。

だから、初めての寿司は美味しいものを食べてほしい。できれば、函太郎でデビューしてもらいたい、という想いです(笑)」

「たしかに第一印象の影響って大きいですよね。いきなり嫌いになっちゃう場合もあるから」

「そうなんです。反対に、最初から美味しいものに出会えると、好きになってもらえるじゃないですか」

 

「そういえば、うちの子も寿司デビューは函太郎でした。おかげでお寿司が大好きですね。『うまい寿司を提供することで、日本食文化の継承と発展に貢献する』という理念をまさに体現しているんだなと、今お話を伺いながら思いました」

「本当に、そうですよね。私自身も、そうやって知らず知らずのうちに函太郎のDNAが注入されていたんだなと思いました(笑)」

「気づいたら函太郎の理念が自分の中に浸透してた感じだよね(笑)。函太郎は、函館における寿司と人の関係性を間違いなく深めてるなぁ」

「ありがとうございます(笑)。函館の人って生魚にめちゃくちゃ厳しいじゃないですか。やっぱり、舌が肥えてると思うんですよ。お二人は、東京でお寿司を食べてガッカリしたことありません?」

 

「回転寿司でイカを食べて『消しゴムかな?』って思いました(笑)」

「私も、ネギトロを食べて『粘土みたい……』って思ったことがあります(笑)」

「それって、きっと僕が初めて函太郎の寿司を食べたときと真逆の体験なんですよ。そりゃあ、衝撃的すぎて移住したくもなりますって」

「(笑)」

「そう考えると、函太郎が20年以上に渡って地元で愛される店になったことで、寿司に対する函館市民の味覚レベルが底上げしたって可能性もありますよね」

「それはきっとある。私も寿司への感度は函太郎に育てられたって実感がありますもん」

「我々は、無意識のうちに函太郎に味覚を鍛えられていたのか。『函館人の味覚の父』じゃないですか、函太郎。もう、足向けて寝れないわ(笑)」

 

コミュニケーションとアドリブが上げる寿司の価値

「今日お聞きしたかったことのひとつに、『寿司の価値って、何によって決められるんだろう?』という疑問があったんです。
東京で何万円も出して食べる寿司と、東京で高いお金を払っても食べられないような函太郎の寿司があって、その価値の差って何によって生まれてるのかなって」

「それは、我々もずっと向き合っているテーマですね。結局のところ『うまい寿司って何?』っていう問いに辿り着くんですよ」

「考えれば考えるほど、寿司って不思議な食べ物じゃないですか。シャリとネタというシンプルな構成なのに、どこで食べても味が違うっていう」

「わかりやすい比較でいうと、江戸前寿司とはちょっと考え方が違うんですよね。

魚の鮮度が落ちてしまう環境下でも、いかに美味く食べるかを考えてきた江戸前のお寿司に対して、函太郎がやっているのは、いかに鮮度のいい魚を食べてもらうかってことなので。そこには地の利もあるし、鮮度を守るための工夫もたくさんしています」

 

100円寿司がエコノミークラスで、高級寿司といわれるものがファーストクラスだとするなら、函太郎が目指しているのはビジネスクラスの寿司なんです。 ハレの日の旅行だから、ちょっと奮発してビジネスクラスに乗るみたいな選択肢になれたらいいなと」

「ホームページにも『手の届く贅沢』というテーマが挙げられてますよね。それってまさに函太郎の立ち位置を示す表現だなと思いました」

「だから函太郎のライバルは、ほかの回転寿司店ではないんです。焼肉屋さんとか、ちょっといいイタリアンとか、ハレの日に行くところを競合店と捉えているんですよね

「たしかに! お正月とか、親戚が集まったりするときに食べるのは函太郎でした」

「そうそう、うちも。ハレの日に相応しい食べ物として選ばれるっていうのも、きっと函太郎の寿司ならではの価値なんでしょうね」

 

寿司の価値って、いかに満足のいく体験をしてもらうかってことでもあるんです。だから鮮度や技術だけではなく、店とお客さまとの関係性っていうのも重要だと思うんですよね」

「一般的なレストランって注文を聞いてから料理を作りますけど、回転寿司ではお客さんが何を求めているかの見立てが必要になります。

『お子さんが多いから、軍艦の皿を流そう』とか、『女性の方が多いからサーモンを入れようか』とか、そういうコントロールですね」

見立て力がある職人は、ちゃんとレーンから取ってもらえるようにお寿司を流せるんですよね。そうすると、カウンターの中で握る時間が減るから、売り上げの効率も上がるんです」

「今いるお客さんたちが、どういうネタを求めているかを見極めて、それに合わせたお寿司を提供してるってことですもんね。

それって、なんかDJみたいだなぁ。お客さんの様子を見ながら、フロアを盛り上げていくっていう(笑)」

「そうそう(笑)。本当にそんな感じです。 お客さんがいっぱいなら、どんどんレーンに流していくし、そろそろ箸を置いて食べ終わりそうなら5割くらいに落としていくとか」

「夜中はガンガン盛り上げて、明け方にはちょっとまったりした音楽をかける、まさにDJだ(笑)」

 

レーンという名のフロアを盛り上げる、DJ寿司職人

「前に、お客さんからお手紙をいただいたことがあります。

『2歳の娘と行ったときに、職人さんが食べやすいように小さく握ったお寿司を出してくれました。それをすごく嬉しそうに食べているのを見て、この子が初めて食べたお寿司が函太郎でよかったと思いました。また行きます』みたいな内容で」

「めちゃくちゃいい話……!」

「泣けちゃいますよね」

「寿司屋に人情噺があるのは最高だなぁ」

「いやぁ、ますます好きになってしまった。やっぱり、函太郎はただの美味しい回転寿司じゃないってことが、よーくわかりました」

「そうだね。こういう話を聞くと、きっと食べたときの味わいも変わってくるよなぁ」

 

取材を終えて

函館では広く知られていることですが、実は『函太郎』という店名は函館市民からの公募によってつけられました。

 

「函館を握る」という意気込みを掲げて、新しくオープンする寿司屋の店名を公募したところ、たくさんの応募があり、3名の方から『函太郎』という名前が届いたそうです。

そこには「函館を引っ張っていってくれるような、街で一番美味しいお寿司を提供する店になってほしい」という想いが込められていました。 函太郎は函館市民に見守られながら誕生し、街と共に歩んできた回転寿司なのです。

設立から20周年を迎えた2018年には、『函太郎』の名付け親である3名のうち、連絡がとれた1人のお客さんのところへ「ようやく二十歳になりました」と、ご挨拶に行ったそうです。 そういうお店が街にあるのは、函館出身者として、とても誇らしいなと思いました。

 

コロナウイルスの影響で、しばらく自由に移動ができない日々が続いていましたが、徐々に“旅のある日常”が戻りつつあります。

この数ヶ月間で、お取り寄せやテイクアウトなどの選択が充実してきました。しかし、お寿司に関しては、やっぱりお店で握りたてを食べるのが一番です。

想像してみてください。職人さんが目の前で握ってくれたお寿司を、口いっぱいに頬張るシーンを。

 

お寿司って、食べるのを想像するだけで幸せな気持ちになりません?

きっと、その想像を函太郎のお寿司は裏切りません。

 

函館に行かれる際には、ぜひ函太郎で“ここでしか食べられないお寿司”を食べてみてください!

 

 

撮影|原田啓介