どこへ行こうと切り離せないレペゼンの本質

阿部「地元をレペゼンするってことについて、もう少し聞きたいんですけど、例えば今暮らしている街をレペゼンするって、口にするのにけっこう勇気がいるような気がして」

※レペゼン=representの略。ヒップホップ用語で「〜を代表する」という意味で多用される。晋平太さんの場合は「東村山レペゼン」となる。

晋平太「確かに、地元をレペゼンするっていうのは勇気がいることですけど、自分の活動を通して東村山を知る人もゼロではないですから。その時点で、レペゼンですよね。もっと言えば、本当はみんなレペゼンなんですよ

阿部「『本当はみんなレペゼン』……というのは?」

晋平太「なんて言うのかな、『お前がどこの出身で、何をしていようとも、お前がナメられたら、お前の地元がナメられるのと一緒だから』っていう。例えば、日本人が海外へ行ってハレンチな行為をして、現地の人に嫌われたら、それは日本がハレンチな国だと思われるのと一緒だよっていう」

阿部「あぁ、レペゼンというのを口にするかしないかに関わらず」

晋平太「常に誰しもがレペゼンしてるわけですよ。地元だったり、会社だったり、国だったりを。僕が何かやらかせば、『ラッパーってやつは』ってことになるわけだから、そういう意味ではラッパーをレペゼンしているわけだし。地元から出て行けば『東村山のやつなんでしょ』、『狭山の出身なんでしょ』ってなるから、それはもうレペゼンしてることになるんですよ」

阿部「確かにそうですね」

晋平太「だから、地元とか、自分のことに、誇りを持とうよって思いますね。最近は外でライブをすると、『東村山なんですよね』『僕も東村山で!』とか言われることが増えてきたから、余計に。そういうのもあって、今は地元で起きてることをもっと歌にできたらいいなって考えてます」

 

晋平太「日本全国、いろんな街に地元をレペゼンしてるラッパーがいるけど、ラッパーに欠けてるのは社会性だと思うんですよ」

阿部「社会性ですか」

晋平太「世の中に迎合するという意味ではなく、各地のラッパーがちゃんと社会性をもって、地域に受け入れられて、地元をレペゼンするようになったらいいなと思ってて。ラッパーが、世の中でそういう存在になれば、みんなの生き方は変わると思うんです。そういうラッパーの人は本当にかっこいいですし、僕自身も、そうなりたいなって」

柿次郎「それめっちゃいいっすね。土地だけでなく、社会をちゃんと背負っていくラッパー」

晋平太「若者とかヒップホップ好きとか、ストリートにいる人だけじゃなくて、商店街のおじちゃんとかおばちゃんとかも巻き込めるような。もう一段階上の、影響力を持ったラッパーになりたいんです、僕は」

柿次郎「その辺りって、日本のヒップホップシーンはまだまだ未成熟というか。超かっこいいファーストアルバムを出して、27、8歳で辞めちゃうラッパーってたくさんいるじゃないですか。めちゃくちゃ売れて音楽だけで食えるようになるか、食えなくて辞めていくか、その中間で生きるモデルが少ないなと思ってて」

晋平太「確かにそうですね」

柿次郎「そのひとつとして、地域に根ざしたラッパーの在り方っていうのは可能性があると思うんですよ。ストリートだけじゃなく、広い世代に受け入れられるラッパー。それはまさにリーダーの役割ですね。市議会議員とかにも通じるところがある」

晋平太「ほんと、そうなんですよね。だから、ラッパーは自分たちのことを理解してもらう必要もあるし、社会を理解する必要もある。

例えば、地元にひとつしかないクラブが、『朝方うるせー』とか『ゴミを捨てていく』とかで街の人から嫌われちゃったら、もったいないじゃないですか。だから、僕らみたいな人間は、そういうところの橋渡しをしなきゃいけないなって思って。そうすれば、ヒップホップにとっても、もっと良い未来が待ってるんじゃないかなって」

 

晋平太「ヒップホップって、疎外感を抱えているからやる音楽なのかもしれないけど、ずっと先まで疎外され続ける道を選ぶんじゃなくて、地域や社会と共存していけるっていう存在になればいいなって思うんですよね」

阿部「お互いを許したり、認めたりしながら」

晋平太「そうそう」

阿部「そこの橋渡しをする役割は、ちゃんと現場で遊んで大人になった人にしかできないですよね。きっと」

晋平太「そう! それをやってる最初の世代が僕らのちょっと上くらいの人たちで、そうやって育まれた場所から新しいスターが出てきたりするといいなって。そういう風に、カルチャーとしてちゃんと循環していけば、20代でアルバムを1枚出して終わっちゃうんじゃなくて、地に足つけてヒップホップをやれる方法が生まれるんじゃないかなと思ってます」

阿部「そういうヒップホップの在り方を生み出せるような土壌を耕してる感じがしますね、今の晋平太さんは」

柿次郎「やっぱ、土っすね」

阿部「出た、バガボンド!」

晋平太「(笑)」

 

匿名性へのカウンターとなった剥き出しのMCバトル

柿次郎「ヒップホップ的なカルチャーって、インターネットと相性がいいなと思ってて。フリースタイルダンジョンがなんであんなに人気になったのかなって考えたときに、匿名性のカルチャーがすごく増えている世の中にあって、MCバトルってMC名があるにしてもほぼ生身じゃないですか。

自分をむき出しにして放つ言葉っていうのが、今の時代に響いたんじゃないかなと。僕の周りでは、ネット界隈の人たちほど、反応が強かった気がするんですよね」

阿部「あー、匿名性の高いネットに対するカウンターになっていたというか」

晋平太僕はヒップホップのことを自己肯定音楽だと思っています。辛いことや嫌なことがあっても、自分を肯定することで救われることがある。どこで何をしている人であろうと、生きていく上ではそういうマインドが必要だと思ってるんです。だけど、今はみんな自己肯定感が超低いじゃないですか。ネットを見てても、それが1番問題だよなと思ってて」

 

晋平太「どこに住んでるとか、何の仕事をしてるとかではなく、自分で自分を好きになれないっていうのは危ういよなって。だけど、ヒップホップは、どんな自分でも救える可能性を持ってると思うんですよ」

阿部「肯定感の低さっていうのは、人に対してだけじゃなくて、住んでいる街に対しても言えることかもしれないですね。地方では、『自分の地元には何もない』みたいなことを言う人も少なくないですし」

晋平太自分とか、地元のストーリーを語らないから、肯定感が低くなると思うんですよ。ヒップホップって、基本的には自分のストーリーを語っていくもので、それが聞いた人にとっても特別なものになったりするんです。だから、自分のことでも、地元のことでも、外に出て行って話すっていうのは、自己肯定感を高めるためにもすごく重要だと思ってて」

阿部「なるほど。誰かに語らないことには、肯定も否定もされようがないですからね」

 

晋平太「お祭りなんかは、地元のストーリーを凝縮したもので、それを語り継いでいくためのものだと思うんです。そういう意味では、ラップも近いものがある。口頭伝承文化なんですよ、どっちも。だから、ラップを音頭にすれば、歌い継がれていくと思うし。そういう価値のあるラップを作りたいですね」

阿部「地元の人たちと一緒に作った『東村山ラップ音頭』は、今度のお祭りで発表されるんですよね」

晋平太「そうです。曲が完成したら、みんなで振付けを考えて、踊って、ビデオ撮って、見てもらって、そこから広げていきたいなと思っています」

阿部「それはヒップホップのフィールドで晋平太さんがやってきたことに近いんじゃないですか? 曲を作って、フライヤーを作れる人や、ビデオを作れる人を巻き込んで、ライブで披露して、そこから外に広げてくみたいな」

晋平太「確かに、そうかもしれない。それを街ぐるみでやるみたいな感じですね、今回は。みんなが楽しめるものになったら嬉しいなと思ってやってます」

阿部「楽しみですね! 今日はヒップホップに留まらず、晋平太さんの地元に対する想いが聞けて楽しかったです! ありがとうございました!」

晋平太「こちらこそ、ありがとうございました! 今度は地元を案内するので、一杯やりましょう!」

阿部「わーい!」

柿次郎「それは最高ですね!是非!」

 

おわりに

地元を誇ることの難しさは、そこに絶対的な価値基準が存在しないことがひとつの要因なのではないでしょうか?

 

確かに、世の中の誰もが納得するような評価は存在しません。しかし、個々人の中には絶対的な価値基準が存在し得ると思います。

 

だから、「誰もが認めるナンバー1の地域」が存在しないように、「誰がなんと言おうと、自分の地元は最高だ!」という個人の意見を否定することは誰にもできないはずです。

 

「常に誰しもがレペゼンしてるわけですよ。地元だったり、会社だったり、国だったりを」という晋平太さんの話を聞きながら、そんなことを思いました。

 

ラッパーの言葉には、決して生き方と切り離すことができない扱い難さと、だからこそ伴う強靭さがあります。

彼らにとっての言葉とは生き様と同義であり、それを紡いでいくのがヒップホップという音楽なのではないでしょうか。

 

「ヒップホップは自分のストーリーを語っていくもの」と語ってくれた晋平太さんが、これからどんな音楽を聞かせてくれるのか、地元を愛する者のひとりとしてとても楽しみです。

 

写真:小林直博

 

 

【晋平太さん出演のテレビ番組告知】

晋平太さんはもちろん、沖縄のフィメールラッパー・Awichも出演する地方創生×HIPHOP番組『レペゼンLOCAL Vol.3』が2018年12月25日〜29日にかけてJNN系列10局で放送されます。地域によって放送日時が異なるので詳しくは下記HPをチェック。ジモコロ取材の様子も放送される予定です…!

http://www.hbc.co.jp/tv/represent3/