人に弱みを見せられなくなったバトルサイボーグ時代

阿部「晋平太さんは、地元に戻ってきてからもMCバトルに出てるじゃないですか。地元に戻ってきてヒップホップが楽しいものになってからは、東京で孤軍奮闘していたときと比べて、自分から出てくる言葉も変わりました?」

晋平太すごく変わったと思いますね。今は、ダンスチームの子どもたちとか、ヒップホップのことを知らない地元のおじいちゃん、おばあちゃんとかも見てくれるようになったから、そこで僕がボロカス言われて何も言い返せずに負けてたら、その人たちが傷つくなって思うようになって……」

阿部「背負うものができたんですね」

 

晋平太「……ですね。そういう人たちは、僕が何を言ってるかをすごく聞いているので、〝何を言ってもいいわけじゃなくなった〟っていうのがあります。前は勝つために、韻をいっぱい踏めて、相手にダメージを与えられるなら何を言ってもいいと思ってた。だけど、今は勝つためでも思ってないことは言わないようになりました。本当のことを口にするように」

阿部「自分の戦いを見ている人が不特定多数ではなく、具体的に顔が思い浮かぶようになった結果、言葉に嘘偽りがなくなっていったと」

晋平太「そうですね。仲間だったり、いつも好きで来てくれる人だったり、そういう人が喜んでくれるようなことをしたくなったっていうんですかね。こんなこと言うと、かっこつけた感じになっちゃいますけど、近くにいる人からダッセーって思われないような人間になりたいなって」

柿次郎「あのぉ……、ちょっといいですか?」

 

柿次郎「ずっと話を聞きながら思ってたんですけど……、バガボンドみたいですね」

晋平太「バガボンド…? 僕は読んでないんですけど、どういうことっすか(笑)」

柿次郎「バガボンドの前半って、武蔵がずっと剣に囚われていて、ひたすらバトルを繰り返す日々なんですよ。自分の強さを誇示するために、強いやつを叩きのめす。結果、戦いの螺旋に落ちちゃうんですよね。後半では戦いに疲れた武蔵が、土をいじったりしはじめるんですけど……」

晋平太「僕は今、土いじりをやってる状態なんですかね(笑)」

柿次郎「いや、その変化がめっちゃおもしろいなと思って。僕、大阪から上京してから、地元愛がぜんぜん芽生えないんです。そういうのって山とか海とか目の前の自然を享受しているのかで形成される部分が強いと思っていたけど、狭山とか東村山とかがあるのって、関東平野じゃないですか。山とか海がない地域って、土地に対する愛着が生まれにくいんじゃないかなぁと

晋平太「あぁ、そうかもしれないですね」

柿次郎「しかも、東京に近いから、人も文化もそっちへ抜けて行っちゃうじゃないですか。そういう土地の特性が、晋平太さんのラッパーとしてのスタイルに全部繋がってるっていうのが面白いなって。地元には目もくれず、東京へ戦いに行くみたいな」

晋平太「言われてみれば、確かに」

柿次郎「それで地元に帰ってきてからは、地に足をつけたヒップホップの楽しさに気がついたのって完全に武蔵ですね、晋平太さんは」

晋平太「そうなんだ(笑)」

 

柿次郎「決めつけてすみません(笑)。あとMCバトルって、相手の嫌なところを突いていく戦いじゃないですか。それによって、言葉に囚われるってことはなかったんですか? 例えば、すべてが嫌なやつに見えるとか、人の良いところを見る能力が低下したとか」

晋平太「相手の嫌なところを突く能力はすごく磨いてたし、同時に自分が誰なのかとか、プライバシーの部分を隠すようにはなっていきましたね」

柿次郎「えー!おもしろい!」

阿部「人に弱みを見せないために?」

晋平太「ですね。ヒップホップって自己開示することで言葉に力が宿るところがあるんですけど、MCバトルをやってるとガードが超固くなるんですよ。だから、誰にも気を許せないし、下手こけないし、おもしろくない人間になっていきましたね

阿部「はー! 体がバトル用になってたんだ」

柿次郎「サイボーグじゃないですか! バトルサイボーグ!」

晋平太「(笑)。いや、でもマジでそうで、東京にいた頃は人に弱みを見せるのがどんどん下手になっていきましたね。だから、友達もできなかったし

柿次郎「ヒップホップの民俗学だ……」

晋平太「だけど、地元にいたときの僕は、そんなやつじゃなかったんですよ。もっと、ちょけたやつっていうか。別にケンカが強いわけでもないし、発言力があるわけでもないし、なんなら、すごくイジられキャラだったんです。それが地元じゃないところに出て行くと、絶対に隙を見せない人間になってたんですよね」

柿次郎「晋平太というラッパー像があって、そこに自分を合わせるみたいな」

晋平太「そうそう。それはなぜかというと、早く行きたかったんですよ。早くラッパーとして有名になりたかった、1秒でも早く

 

阿部「最近、晋平太さんのことを知った人たちって、〝熱い〟とか〝ストレート〟とか、相手をただ削るだけじゃなくて、認めながら戦うラッパーみたいなイメージを持ってると思うんですけど、それって地元に戻ってきてからの晋平太さんなんですね」

晋平太「日本各地でローカルの人たちと出会ってからですね」

柿次郎「そこがめっちゃいいですね。バトルにはまってガチガチのサイボーグになり、MCバトルで勝ち上がるものの満たされない気持ちが溜まり……。その後司会者として大会の運営側になって、全国を回った先で各地のローカルを知り、人間味を取り戻していったという。いやぁ、ジモコロの取材で僕が培った価値観と近すぎて鳥肌が立ちました」

晋平太いろんな経験を経て、『人間だったよな、俺』って思い出したんです。人間の心を取り戻したというか。まぁ、サイボーグとしては、なかなかの高性能でしたけどね(笑)」

柿次郎「サイボーグも認めちゃった(笑)」

 

ラッパーはローカルヒーローになれるのか?

柿次郎「高性能バトルサイボーグ期って、どれくらいあったんですか?」

晋平太「いや、でもね、保たなかったんですよね。それこそ、UMBで優勝した2010年から3年間くらいじゃないですかね。後半は心身ともにガタがきてましたから

柿次郎「僕ずっとUMB見てましたけど、そうだったんですね……」

晋平太「UMBは3連覇を目指してたんですけど、もう自分の性能が……。いや、性能って言ったら変ですけど(笑)」

阿部「サイボーグキャラが定着してる(笑)」

晋平太「もちろんスキルも大事なんだけど、MCバトルって人の感情が勝敗を決めるから、やっぱり好かれる人間じゃなきゃダメなんですよ

阿部「なるほど、そうか」

晋平太「人がついてきてくれるような人間にならない限りダメ。ラッパーってリーダーですから。その意識が著しく欠けてましたね」

阿部「地元に戻ってきて、ラップのスタイルや出てくる言葉も変わっていって、逆にバトルサイボーグだった時期のファンから嫌われたとか、敵を作ることになったみたいなことはなかったですか?」

晋平太「あると思いますよ。今の僕の姿を求めてないヒップホップ好きな人はめちゃくちゃいると思う。『お前、そんなんじゃなかったじゃん!』って言われたら、『確かに』って自分でも思います。でも、僕はですけど、今の自分の方が好きですね。それは間違いなく。生きてて楽しい

阿部「自分のために生きるという価値感。戦いの中で生きてきた晋平太さんの言葉だけに、重みがありますね」

 

柿次郎「『いつまで戦えばいいんだろう?』みたいな気持ちってあります? 2013年くらいからガタがきてたって話で、そこからはけっこう長いじゃないですか。フリースタイルダンジョンの出演も、その後ですし」

晋平太フリースタイルダンジョンは、自分がやってきたことのループなんで、『でたー!』みたいな感じでしたね(笑)

柿次郎「やっぱりバカボンドだ! 勝ちすぎて、戦いの螺旋から降りられなかったんですね(笑)」

晋平太「いやー、今はほぼ降りてますけどね。呼ばれれば行くし、やる意味のあることならやるけど、心持ちはぜんぜん違うというか」

 

晋平太「ただ、スタイルや言葉は変わったけど、スキルはちゃんと活きてて、MCバトルのときは人の弱点を探してたけど、街に対しても同じ目を向けると弱点とか、もっとこうしたらいいのにって部分が見えてくるんですよ。そういう観察力っていうのは、MCバトルで磨かれたものだと思いますね

阿部「勝つための観察じゃなくて、街をよくするための観察」

晋平太「いいところを探してあげて、そこを突けば喜んでくれるじゃんって」

柿次郎「それは上手く応用できましたか?」

晋平太「できたと思うし、嫌なところ見つけてザクって刺していたのを、いいところを見つけて褒めてあげたら喜んでもらえるし、それって自分も楽しいじゃないですか

柿次郎「なんか……」

 

柿次郎「ベイマックスみたいですね」

阿部「また例えた!冴えてるなー(笑)」

晋平太「ベイマックスも見てないからわからないけど(笑)」

柿次郎「晋平太さん、バトルしすぎですよ。めちゃくちゃいい映画です。今の晋平太さんに一番刺さると思います(笑)。改良によって戦闘兵器になっちゃったけど、もともとは人を癒す機能を持ったロボットだったみたいな。バトルサイボーグから、バガボンドを経て、ベイマックス」

阿部「そのまま今回の記事のタイトルになりそう(笑)」

晋平太「そこまで言われるなら観てみます(笑)」

 

嫁は市議会議員のフッドスター

柿次郎「一度地元を離れると、そこでの役割がなくなったりすることがあると思うんですけど、晋平太さんが地元に戻ってきて、人や街との関係を築いていく上で意識的にやってきたことってありますか?」

晋平太「僕、東村山で消防団に入ってるんですよ」

柿次郎「へー!超ローカルですね!」

晋平太「それで、地域のお祭りとかに駆り出されて、焼き鳥とかタコ焼きを作ったり、そういうのはやってますね。『これしか人こねーの?』みたいな規模感だったりするんだけど、誰かがやらないとなくなっちゃいますから。いつまでもおじいちゃんおばあちゃんに任せてる場合じゃないし。お祭りの文化をなくすのは簡単だけど、もう一回はじめるってなったら超大変ですからね

阿部「地元のお祭りで焼き鳥を売ってるラッパーって、かっこいいなぁ」

晋平太「地元をレペゼンして、地域に根ざした活動をしようと思ったのは、嫁の影響もあるんですよ。うちの嫁は、東村山の市議会議員をやってて

阿部「えー! 市議会議員?」

晋平太「それで、より強く街のことを考えるようになったっていうのもありますね」

阿部「市議会議員とラッパーの夫婦って、めちゃくちゃ面白いっすね!」

晋平太「それこそ、子どもからお年寄りまで全員を相手にする仕事だから、そういう嫁の姿を見ていることで、自分の考え方が変わった部分もありますね」

柿次郎「市議会議員って、ちょっとラッパーっぽいっすね。リーダーとしての役割とか」

晋平太「半端じゃないですよ。hoodstar(フッドスター)ですから(笑)。今、僕の中で一番かっこいいのはhoodstarだと思ってます」

※hoodstar(「地元」や「近所」を表すhood、と「ヒーロー」を意味する「star」を組み合わせた造語)

柿次郎「hoodstar(笑)。確かに! 考えてみたらローカルヒーローですもんね、市議会議員も、ラッパーも」

晋平太「ローカルヒーローとしてのラッパーっていうのは、今の自分の理想像です」

 

阿部「今のようなスタンスに変わってからは、以前とは悩みの種類も違ってくると思うんですけど、ローカルに根ざした活動ならではの大変さってありますか?」

晋平太小さい街で何かをやってると、〝許さざるを得ないこと〟がたくさんあるんですよ。旅人として別の街に行くときは、そこで音楽をやって、何か揉め事が起きたとしても、来年呼ばれるように頑張ればいいだけなんです。旅の恥はかき捨てじゃないけど。

だけど、地元の人たちは、そこで揉め事があったら収めなきゃいけないじゃないですか。その地元にずっといるわけだし、次の日からまた別のパーティもあるわけだから。気に入らねえなって言って、違う場所に行けばいいってわけじゃないんですよ、ローカルって

阿部「そこに日常があるわけですからね」

晋平太「そうなると、小さなことに目くじらを立ててたら続かないんです。だから、許す」

柿次郎「しょうがねぇってやつですね」

晋平太「それが、嫌だったり、煩わしいって思う人もいるだろうけど、僕はローカルの良いところだなと思ってて。失敗しても許してくれるところがあるって、すごくないですか? 下手こいても許してくれるっていうのは、僕にとってはすごいスゲー大きな驚きで。だからこそ、大きな下手こかないように気をつけていかなきゃいけないんですけど」

阿部「決して下手できないステージに立ってたから、余計に〝許される〟ことの有り難みを感じるのかもしれないですね」

晋平太MCバトルのステージは、ちょっと失敗したら死ぬくらいの場所でしたからね

柿次郎「特にフリースタイルダンジョンとか、あれをマスメディアでやるってエグいですよね」

晋平太かなりストレスフルでした

柿次郎「(笑)。あそこでズタズタに負けることで、ファンが今までかっこいいと思って聞いてた曲の響き方が変わるって可能性もあるじゃないですか。そういう覚悟を背負いながらやってるから、MCバトルは人を惹きつけるんだろうなぁ」

 

晋平太「MCバトルに関しても、許してくれる人や場所ができたというのは、戦うパワーになりましたね。やっぱり、地元の人にダサいとこ見せられないから頑張ろうって思うので」

阿部「あー。じゃあ、昔と今ではパワーの出どころが変わってるんですね」

晋平太「あぁ、そうかも。それに、『自分が、自分が』って思ってたときより、エネルギー量も大きくなったと思います」

 

誰もが「レペゼン」して生きている…その意味とは?